2024年12月23日
独言居士の戯言(第370号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
令和6年の政治・経済を振り返る、石破政権波乱の政治の幕開け
れいわ6年も終わろうとしている。今年の政治・経済などを、思いつくままに振り返ってみたい。
民主政治における最大のイベントである衆議院の解散・総選挙が10月に実施され、直前の自民党総裁選挙で9人の候補者の中から決選投票の結果、5度目のチャレンジでようやく石破茂氏が選出された。総裁選の際に公言していた解散・総選挙前の予算委員会開催などをすっ飛ばし、一気呵成に衆議院の解散に打って出た。ところが、裏金議員が支部長を務める支部にまで2000万円の政治資金投入が投票日直前にすっぱ抜かれ、自民党は大敗北を喫し、同じく敗北した公明党と合わせても215議席と過半数233議席に到達できず、少数与党政権として第2次石破内閣はスタートせざるを得なくなった。
その後、総選挙で躍進した国民民主党との政策「連立」の道を選択し、いわゆる「103万円の壁」問題が浮上して年末を迎え、自公両党は103万円から20万円アップの123万円を提起するものの、178万円と75万円の引き上げを主張する国民民主党とは物別れとなって、来年度税制改革大綱には所得税の課税最低限を123万円に引き上げる事を決め、予算編成へと突入し今日に至っている。
「103万円の壁」の引き上げに向け、国民民主党との部分連立へ
その後の経過として、自民党は国民民主党とは課税最低限「123万円」については、今後の国会での論議の場での修正もあり得るとの含みを持たせており、来年の通常国会での予算成立に向け、国民民主党との政策協議が引き続き展開されていくようだ。少数与党としては当然のことなのかもしれない。問題は維新の会で、馬場代表が交代し、代表に再選された吉村大阪府知事の命を受けて共同代表となった前原氏は、教育無償化での自民党との協議の場の設置と引き換えに補正予算の賛成に回るなど、少数与党政権ながら石破政権は野党側を競合させることに今のところ成功しているわけで、国民民主党にとって与党側との部分「連合」という道も必ずしも確定した有利な立場でなくなりつつある。「イマだけ、カネだけ、自分だけ」という近視眼的なスローガンがよく似合う国民民主党の「手取り収入増」路線がどうなっていくのか、底の浅い政治路線の行く末に展望が広がりを持つことは無いわけで、百戦錬磨の自民党の掌の上で都合よく踊らされているのだろう。
自民党敗北の背景、裏金だけでなく国民の切羽詰まった生活苦も
ここで考えたいことは、一つにはなぜ自民党が支持率を低下させ、総選挙での大敗北に陥ったのか、という点である。確かに、「裏金」問題が大きく響いたことは間違いないし、その結果として裏金議員らが公認から外れたり、総選挙で敗退したりしたことは間違いない。だが、もう一つ見逃すことができないのは、やはりインフレが国民生活を圧迫し続けており、実質賃金はこの3年近く低下し続けていることを重視する必要があろう。そうした中で、とにかく今の生活を何とかして欲しい、という声が強まっており国民民主党が主張した「手取り収入増」という訴えが、生活苦に苦しむ人たちにとって「干天の慈雨」となって広がり始めているという現実があるのだろう。
「イマだけ」でも何とかして欲しい国民の声、企業の賃上げをどう引き出していけるのか
ある友人から「給付付き税額控除」という立憲民主党の政策は、個人の所得捕捉問題という難問があってなかなか日本では導入に時間がかかるのではないか、それよりも「食料品の消費税ゼロ」の方がわかりやすいという指摘などを受け、やはり「目先の生活苦」解消を求める声の強さにも配慮せざるを得ないのかもしれない。まさに「イマだけでも」何とかして欲しいという多くの国民の切実な声なのだろう。もちろん、減税による財政支出の削減や赤字国債の増発がもたらす「やがて来る国難」に警鐘を乱打し続けるべきことは言うまでもないが、税金や社会保険料を使った政府による「再分配」政策以前の、企業からの賃金収入という「一次分配」政策の問題にどう切り込んでいけば良いのか、難問が横たわっているようだ。最近では、企業の自社株買いに利益を大きく投入するなど一次配分の内、株主への分配が過度に増加している。こうした企業からどう再分配原資を賃上げに向けて調達していけるのか、コーポレートガバナンスの在り方を含めて、政府の知恵が求められているのだと思う。
「連合」会長発言の余りにも腰の引けた要求に唖然とさせられる
「一次分配」改善のためには、もちろん「春闘」で労働者の賃上げを重視しなければならないことは言うまでもない。ところが、来春闘での賃上げ目標について「連合」の芳野会長は、「4%の賃上げ」目標を掲げるとのことだ。組織労働者を中心にした賃上げだから4%なのかもしれないが、果たしてそんなレベルで日本の労働者全体の賃金引き上げがうまくいくのだろうか。既に、16%にまで低下している労働組合の組織率だが、正規労働者の数が減少しつつある時、その影響力の低下をどう引き上げていけるのか、圧倒的な未組織労働者の存在が日本の労働者の労働条件や権利の引き上げにとって「死錘」となって圧し掛かっているのかもしれない。
日本における企業別労働組合という現実が、「企業あっての雇用」となっており、それをどう「働く者の連帯」へと変えていけるのか、膨大な未組織労働者の存在と共に、国民生活の引き上げにとって難問となって迫ってくる。戦後労働組合ができたころは過半数を維持できていた組織率だが、小生が労働運動に参加した70年ころにはそれでも30%台だったが、今ではその半分にも達していない。「昔陸軍、今総評」といわれたことがウソのような「労働運動」の冬の時代なのだ。考えてみれば、政治的には野党側が一致すれば労働組合にとって政治的に有利な状況を迎えており、最低賃金の底上げを重視して欲しいと思う。4%の賃上げと同時に、芳野会長は来年の最低賃金「1.000円」への引き上げを提起されていたのだが、現実的な目標なのだろうが、あまりにも目標が低すぎないか、もう一度よく考えて欲しいと思うのは小生だけであるまい。
経団連会長人事、製造業から金融業へ主役が交代した日本経済
こんな事を書いているうちに、字数が過ぎてきた。今年の経済の出来事では何があったのだろうか。なかなか思い出せないのだが、経団連の十倉会長から次期会長に日本生命の筒井義信会長になるとの報道に接したことだろうか。やはり、第2次産業から第3次産業へと産業構造の転換を反映した人事であり、今後ともその流れは大きく変わらないだろう。そういえば、日銀の金融政策が正常化し、金利が付く経済へと転換し始めたことを受け、銀行をはじめとした金融関係企業が少し元気になっているのかもしれない。
日本国内での設備投資や賃上げの停滞、GDP停滞は当然なのだ
今の日本経済の中で、賃金水準が上がらず、設備投資も国内向けでは停滞し続けており、GDPが伸び悩んでいることは言うまでもない。政府だけでなく大企業レベルでも賃上げの重要性を声高く発信してはいるものの、多くの中小企業では大企業並みに追いつくことなく推移している。多くの国民はいざという時に備えて消費を節約し、結果として増え続けた国内貯蓄が行き場を失って株式市場や債券市場などへと流れているようで、株価の水準は一時4万円台に到達したものの、再び3万円台後半で大納会を終えるのだろう。投資信託なども「オルカン」といわれるグローバルなものが伸びており、国内経済の停滞がここでも色濃く反映されている。
数少ない外貨獲得産業の自動車産業よ、おまえまで前途多難とは
何とも元気を失った日本経済だが、元気のある大企業は国内市場を相手にしなくなり、国際的な視野で利益を拡大し始め、取り残されたその他の企業は人口の減少と高齢化の下で伸び悩む内需の下で、どうしてよいのか展望を持ち得ていないようだ。数少ない外貨の獲得できる日本のリーディング産業だった自動車業界も、トヨタグループに対抗できていたホンダも落ち込んだ日産や三菱を取り込んでも先行きの展望が開けないようで、自動車産業自体が成熟化してしまったのかもしれない。先端半導体分野の遅れを取り戻すべく、政府も北海道千歳市でのラピダス設立に巨額の資金拠出をしたり、台湾のTSMC工場の熊本誘致などに巨額の補助金支出を進めているが、果たして今後の世界的な市場の激流に上手く対応できるのかどうか、一発勝負に賭けるしかないのかもしれない。
日本経済の「円安」とは、日米金利差だけでなく国際競争力低下の反映ではないか
かくして日本経済の実力は、G7の先進国はもとより今や台湾や韓国といった中進国の後塵を拝するとこまで落ち込み始めており、その象徴として「円安」が進展している。1ドル160円に向けた円安が進行し始めているが、短期的には日米の金利差だけでなく、中長期的な国際競争力の低下が「円安」をもたらしているとみるべきだろう。ここはじっくりと日本経済の展望を考え抜いていくべき時なのかもしれない。