2022年10月31日
独言居士の戯言(第265号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
岸田内閣支持率の低下、政権運営のお粗末さが目につく今日この頃
岸田内閣に対する国民の信頼が落ち込んでいる。最新の毎日新聞社の10月22~23日にかけて実施された世論調査によれば、岸田内閣の支持率は26%と9月の29%よりも低下し、危険ラインと言われる30%を2か月連続して割り込んでいる。時事通信社の調査でも27.4%と30%を割り込んでおり、これからの政局の行方に暗雲が立ちこみ始めてきたようだ。とりわけ旧統一教会と自民党との癒着ぶりに対する国民の不信は相当根強いものがあり、宗教法人に対する対応についての国会での岸田総理答弁が1晩で大転換してしまうなど、誰が見ても政権運営がうまく動いているようには見えない。
新しい資本主義を前面に立てた岸田政権は、参議院選挙で勝利し「黄金の3年間」のなかで、アベノミクスというまやかしの政策から離れて、地に足がついた政策を展開できると思っていただけに、この体たらくには期待外れでしかない。長く続き過ぎた安倍政権時代の与党側に貯まった錆が、今になって露呈し始めたのだろうか。
もっと相談して欲しい、と公明代表のいら立ち、野党側は今のところ立憲・維新の共闘がうまく展開へ
毎日新聞の29日付の政治欄では、「公明代表、首相にいら立ち」「旧統一教会対応『なぜ何も言ってこない』」という見出しで、与党内での首脳間での意思疎通がうまく行っていないことを露呈させている。そういえば、28日のTBS系のテレビ番組「報道1930」で、宗教法人法の改正問題について自民党と公明党の与党側と立憲民主党と日本維新の会の実務者協議のメンバーがそろって出席したわけだが、既に共同で法案を策定している野党側はうまくコラボレートさせているのに、与党側は野党側から攻め込まれるだけでしかなかった。特に公明党の出席者は精彩を欠いていたのがやけに目立っていた背景には、こんな事情があるのかもしれない。
政治とは人間のなせる業なのだろう、うまく行かないだろうと見ていた立憲と維新が、当初の予想以上に野党共闘がうまく機能しているだけに、与党側の今後の動向がやけに気になって仕方がなかった。
財政規律無視の大判振る舞い「総合経済対策」予算の策定へ
そうした劣勢を挽回すべく補正予算の編成が急ピッチで進められ、28日「総合経済対策」を決定した。物価高克服、経済再生実現のため、財政支出は39兆円(国の一般会計は29.4兆円)、事業規模で約72兆円と巨額である。政府の発表ではGDPを4.6%押し上げ、消費者物価を23年にかけて1.2%以上引き上げると目論んでいるとのこと。重点を置いたのはエネルギー対策とのことで、家庭の電気代やガス代、ガソリン価格を引き下げるため総額6兆円、平均的な家庭で23年前半に総額4万5000円の支援になるとのことだ。これらの予算に必要な財源の裏付けはなく、すべて赤字国債の発行に依存することになる。
イギリスのトラス政権崩壊劇から何も学んでいないのだろうか
こうした岸田内閣の動きを見ていると、つい先日までイギリスのトラス前首相の就任から辞任までの44日間の政変劇を思い出す。財源の裏付け無く巨額の経済対策を示したことにより、英国債や通貨ポンド更には株価の下落をもたらし、市場の混乱で政権を投げ出さざるを得なかったわけだ。ちなみにイギリスの財政赤字の対GDP比は90%台であり、日本のそれは230%を超えている。日本の方が深刻にもかかわらず、日銀のイールドカーブコントロールで10年国債でも0.25%以下の利率に指値オペを使って力づくで抑え込んでいるわけで、イギリスの市場メカニズムの方が正直に作動していることが示されたわけだ。
これから始まる予算委員会審議、論点満載の攻め処なのだが・・
財政規律無き日本の放漫財政は、もはや「制御不能なレベル」にまで落ち込み始めているわけで、これから始まる総合経済対策に関する予算委員会での審議において、財政規律の問題を中心に野党側はしっかりとした論戦を展開して欲しいものだ。依然として感染が続くコロナウィルス禍であるが、日本経済が完全雇用状態にある中で直近の経済指標が3%成長をしている時、かくも巨額の経済対策が必要なのかどうか、さらには使い道が明確でない予備費を4兆円近くも組み込んでいることの是非など、論点は満載である。
これだけ円安となった日銀の責任は、黒田総裁の鉄面皮答弁に唖然
もう一つの問題は、日銀のYCC(イールドカーブコントロール)政策の是非についても大いに論戦を戦わして欲しい。先週末の27~28日の日銀金融政策決定会合で、今まで通りの政策を進めていくことを政策委員全員一致で決定したとのこと。国会での黒田総裁の答弁からもあと2年は利上げすることはせず、今まで通りの政策を進めると述べていたわけで、予想通りの政策決定会合となったわけだ。
会合が終わった直後の黒田総裁の記者会見要旨をみても、これだけ円安によって海外から輸入する物資の価格が上昇している大きな要因になっているわけだが、黒田総裁は「背景にあるインフレ率の違いや利上げによる米経済の減速などはむしろドル安の要因だ。日米金利差だけに着目して最近の為替動向を説明することは一面的ではないかと思う」と記者の質問にあまり責任感を感ずることなく答えている。
日銀総裁まで労働者の賃上げ期待を経済政策として語る時代へ、金融政策でデフレ脱却できなかったことへの責任追及と切込みを
また、消費者物価が対前年同月比で3%を超えたことに対して、「輸入品価格が上昇している。年明け以降はこうした海外からの押し上げが薄れていく。消費者物価の中心的な見通しも今年度は3%程度になるものの、来年度以降は1%台半ばになると予想している。日銀としては賃金の上昇を伴う形で、物価目標を持続的・安定的に実現できるよう金融政策を行っていく」とこれまた平然とした態度で述べている。
それにしても、9年前に2%の物価目標に到達するべく金融緩和政策を展開したわけだが、インフレを抑制することに金融政策は有効だが、デフレからインフレへと物価を引き上げるには無力ではないのか、やや遅きに失した感はあるが、そのことを厳しく問うていくべき時に来ているのだと思う。経済政策としての貨幣数量説の誤りをアベノミクスは根底に抱えていたわけで、アメリカの経済学者であるバーナンキ氏やクルーグマン氏などは、こうした経済理論の間違いを根底に置いて政策議論をしている事こそ問題視していくべき時ではないだろうか。
【先週気になった情報について】
私の住んでいる札幌市は、2030年の冬季オリンピックを札幌市で開催することへ立候補している。市民の間での誘致への熱意は一部には根強いものがあるのだろうが、前回1972年の開催時とは打って変わって高齢社会に入り、それだけの世界的なイベントをやれる力はないように思える。
それ以上に問題なのは、昨年の東京オリンピックでの組織委員会内の汚職・腐敗の深刻さであり、その全貌は依然として不透明で未解明である。その問題を起こした日本が、きちんと問題を総括できていないことは大問題だろう。
そんな時、この度引退したスピードスケートの世界的なスター小平奈緒選手が、札幌誘致への参加を要望されたことを断ったと報ぜられるニュースに接した。まさに、一服の清涼剤であり、スポーツ関係者への警鐘でもある。以下の発言は、「日刊『ゲンダイ』デジタル版10月29日」からの引用である。
「スポーツの純粋な楽しさをもう一度考えたいので、今は札幌五輪に関していったん置いているところ。いろいろ問題を耳にする。五輪がスポーツをする人にとって必要なものであってほしい。それを利用されたくない」
聞くところによれば、来年4月の市長選挙には「誘致反対」を掲げた元札幌市の幹部職員だった人が立候補するとのこと。事実上の市民投票になるわけで、大いに議論が盛り上がることを期待したいものだ。最後は市民の判断で決断していくべきだ。