2015年12月8日
独言居士の戯言 (第13号)
元参議院議員 峰崎 直樹
いよいよ今年も後わずかとなった。師走を迎えて、心なしかあわただしく感ぜられる今日この頃であるが、現役時代ほどではない。それにしても、時間の経つのは早いもので、「正月や、もうすぐ来るぞ、大晦日」という句が、実感を持って迫ってくる今日この頃である。
6日のNHKスペシャル「介護危機! 衝撃の実態 急増する無届施設! 廃業ホテルも工場も・・・行き場の無い高齢者たち」を見て
今日問題にしたいのは、6日の夜9時からNHK総合テレビで放映された「NHKスペシャル」で、題して「介護危機!衝撃の実態 急増する無届施設!廃業ホテルも工場も‥…行き場のない高齢者たち」という現実である。最近のNHKの番組では、政治報道がまるで安倍政権の提灯持ちのような腑抜けた番組が多く、受信料を払いたく無くなってしまうように思っていたのだが、今回のようなドキュメンタリー番組は、よく実態に迫っており、考えさせられる良い番組だったと思う。
何と、無届施設が全国に1941か所もある現実、NHK調査
今の高齢者にとって、要介護になったとしても公的な施設が不十分なため、民間の施設に入らざるを得ないのが実態である。特別養護老人ホームは、今時点で50万人以上が待機していると言われ、とても待っていられない。そこで、民間の老人施設に入ろうとしても、入居の際の一時金や毎月の入所料が高いため、年金だけではとても入れないのが実際のところだろう。しかし、在宅ではとても介護できなくなると、無届の施設だが値段の安いこともあり、そうした無届施設が、NHKが調べただけでも全国に1941か所に上ったという。その一部についての実態を放映したのだが、もしかすると自分たちでもお世話になる可能性が大いにある、と思わずにはいられなかった。その例として、ある国家公務員であった高齢者本人が、癌と認知症で入院し月額25万円を超える年金があっても足りなくなり、配偶者が無届の施設に入居せざるを得なくなっていた。月額25万円といえば、公的年金の上限に近いわけで、普通はこれで安心できると思える水準と思われてきたのだが、一度大病すればなかなか大変なのだ。もちろん、貯蓄を一定程度しておく必要があることは言うまでもないのだが、なかなかそうしたライフプランをあらかじめ持つ人は、少ないのだろう。
もちろん、財源と人材不足の解決が求められているのだが・・・
介護保険制度が入ったのが2000年、保険制度がありながら十分な介護制度にはなっていないのが現実である。一つは、介護に従事する人材が、余りの労働条件の悪さに転職してしまい、せっかくの公的な介護施設がありながら、空きベットを作らざるを得なくなっている現実がある。人件費がもう少し賄えるだけの保険制度の充実には保険料や税の引き上げが必要なのだが、あまりの高齢化に追いつけずに、問題が放置されているのが現実である。所詮、社会保障とは財源の問題でもあるわけで、どう財源を創りだしていけるのか、今後の大きな基本的課題であることは間違いない。
自治体側は国民のニーズにどう答えるべきか、と言う立場を
ただ、財源ができるまで何もできないのか、考えてみる必要があるのでは、と思ったのだ。それは、かつて保育の世界においても無認可保育所が急増し、やがて認可保育所と同時に無認可保育所を認定保育所として公的サービスの中に組み入れて行った歴史があったことを思いだす。つまり、国民が必要としているサービスについて、どうしたらそのニーズに答えていけるのか、と言う観点から制度の柔軟な運用を図れないものか、と言うことである。無届の介護施設に対して、番組の中で登場した市役所関係者からは、制度の規則を盾に無届施設の改善を求めていて、施設の方もできるだけそれに応えようとしている姿が映し出されていた。なかなか良心的な施設管理者ではあったが、そうではない管理者も跋扈しているに違いないことも、番組では感じるシーンがあったことも触れておこう。ブラックな施設の摘発も必要である。
今の制度の中で公務員の方たちは、どうしても国の補助金や保険料を出す側に目を向けがちなのは理解できるのだが、本当に国民の立場に立ってどう制度の改善を進めて行けるのか、行政側も考えていく必要があるのではないか、と思えてならなかった。それが地方自治・住民自治というものではないのか、と思うがどうであろうか。もちろん、入居者の安全への配慮など、介護施設にとって不可欠な問題を整備する必要があることは間違いないのだが、余りにも杓子定規な運用には、改善の余地ありと見たがどうだろうか。そうでもしていかないと、高齢社会の現実は絶えず問題が先行していくのだ。
介護人材の確保に向けて、元気な高齢者の活用も
さらに、財源だけではなく、介護に従事する人材の問題においても、高齢者でまだ十分働ける条件のある方たちを、介護職場に従事してもらうことの努力をする必要もあると痛感する。65歳と言う年齢で定年制があることについて、そろそろ見直しをしてみる必要があろう。年金支給の基準年としての65歳と言うのは理解しつつも、支えられる側から支える側へと回ることの必要性・重要性は、いくら強調してもしすぎることはない。年金の受給開始年齢問題と並んで今後の大きな課題と言えよう。
そんなことを感じたNHKの特別番組であった。NHKは、引き続きどしどしこの種問題提起をして欲しいものだ。受信料が高くないと感ずる番組を作って欲しいのだ。
(続く)