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2015年12月14日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第14号)

元参議院議員 峰崎 直樹

(以下の内容は、小生が発刊しているメルマガ「チャランケ通信 第122号 12月14日発刊」から転載したものです。)

与党の来年度税制改正案、密室論議に見る権力維持の悪辣さ

来年度の税制改正が、肝腎の消費税の軽減税率導入問題における財源の裏付けのないままに、ようやく決着が付けられたようだ。当初12月10日には与党の税制改正大綱が決定される予定であったが、10日までに消費税の軽減税率の範囲を巡って調整がつかず、12日までずれ込んでしまったのだ。最終的な決着の中身の概要は、公明党が主張してきた生鮮食料品に加工食品(除くアルコール飲料・外食)が8%の軽減税率を10%の引き上げ時の2017年4月から実施することとなったのだが、与党内でどのように調整作業が進められたのか、情報公開されていないだけにマスコミの報道などから推測する以外にない。

そうした中で、朝日新聞12月13日朝刊の「時時刻刻」欄は、生々しい背後の動きを伝えている。まさに、参議院選挙での勝利を睨んだ安倍政権の動きが、国民の生活や日本の財政など、お構いなしに進められたことを示している。今、その報道を簡略化してみると、

朝日新聞13日付朝刊「時時刻刻」に見る創価学会の暗躍と官邸

迷走のきっかけは、それまでデッドロックに乗り上げていた自公両党から、軽減税率の代替策を求められていた財務省が提示した「還付案」に対する創価学会からの反発からだったようだ。未だ導入もされていないマイナンバーを使って食料品の税負担分が後から戻ってくるというしろもので、財務省は安倍総理のあらかじめの了承を取り付けたうえで、山口公明党代表には佐藤主税局長から説明をし、そのとき山口氏は謝意を述べたとのことだ。ところが、この案が公表されるや創価学会に衝撃が走り、9月10日朝、東京信濃町の創価学会本部で山口代表や井上幹事長らを前に、選挙を仕切る佐藤浩副会長が「これでは選挙にならない。参議院選挙区から新たに出す候補者は全部外す。負ける選挙はできない」と述べたと臨場感あふれ、かつ生々しい。

自民党税調の凋落、菅官房長官の税制調査会長人事への介入

かくして、還付案は消え、議論は振り出しに戻るのだが、この公明党の豹変ぶりに当時の自民党の税制調査会長であった野田毅氏は、「2年間かけて軽減税率は無理だと自公で決めたのに元に戻した。公明党は無責任だ」と批判、公明党内に「野田氏とは一緒にできない」と言う声が上がり、敏感に反応した菅官房長官は安倍総理に野田氏の更迭を提案する。10月9日、野田税制調査会長は更迭され後任には宮沢洋一氏が就くものの、官邸主導で軽減税率の流れが作られ、後は山口代表と安倍総理のトップ会談で公明党の言いなりの要求が通って行き、12日の合意となるわけだ。

このような露骨な選挙対策ともいえる税制改正は、国民生活の行方に大きく影響してくるわけで、果たして国民はこのような動きをどう判断するだろうか。克明に事態の流れを追う時間的余裕の無い一般有権者には、なかなか事の本質を捉えるのは難しいかもしれないが、少なくとも学者や専門家と言われる方たちは、この点に対する鋭い警鐘を乱打して欲しいものだ。

学者・専門家の気になるコメント、片山慶大教授と作家佐藤優氏

そうして中で、特に気になった専門家の意見についてコメントしてみたい。一人は、片山善博慶応大学教授である。片山氏は、朝日新聞と日経新聞の両方に談話や論評を短く載せておられるのだが、ちょっと気になったのは「両党の税制調査会や財務省が怠慢で、公約に載せていながら準備をしてこなかったことの責任」を指摘されている。だが、この間の動きを第2次安倍政権になって以降見てみると、両党の間で軽減税率問題がデッドロックに乗り上げ、下駄を財務省に預けて対案を出させたわけで、少し的外れのように思えてならない。また、「社会生活に不可欠な食料品や活字媒体に軽減税率を導入するのは国際標準の観点から大事だ」との指摘もされている点も気になる。はたして、軽減税率を導入している国々では、それがどのように受け止められているのか、少なくとも良いこととは思われていないのだ。それは、数年前に出された「マーリーズレポート」を見ても明らかであろう。やはり、軽減税率を止めて逆進性対策は社会保障の充実で進めて行くべきであろう。あるいは、給付つき税額控除の導入を進めても良いと思われる。

同じように、作家の佐藤優氏も軽減税率の採用について、活字媒体も含めて導入する事への賛意を示されている。(東京新聞12月11日「本音のコラム 軽減税率」)確かに、食料品も国民生活にとって重要であるし、民主主義を支える媒体である新聞や雑誌、図書なども重要な基礎的インフラであることは間違いない。ただ、それを言い出せば、では医療はどうか、教育はどうか、等と際限がなくなってしまう。それらは消費税の中で対処すべきものではなく、予算措置を含めた国や社会全体で公平に進めて行かなければならない課題ではなかろうか。すでに、新聞や活字媒体に対する軽減税率の適用が、自公両党で話し合われることになっているようだ。来年度以降も、次々に軽減税率にして欲しい業界筋の動きが激しくなっていく事だろう。この種の問題は、まさに「動的」に見ていく必要があるし、政治の力学も冷徹に見ておかねばなるまい。

何のための消費税増税だったのか、低所得者対策は社会保障充実で

このような様々な動きが出てくるに及んで、はたして何のための消費税の引き上げだったのだろうか、考えざるを得ない。今から3年前の民主党を含めた三党合意は何だったのか、実におかしな方向に税制が捻じ曲げられようとしていることは間違いない。軽減税率は低所得者対策だ、と公明党側は主張するのだが、専門家の誰一人として十分な低所得者対策になると考えている者はいないと言っていい。それならば、今5%から8%へと引き上げられた際に進められている低所得者への簡易な現金給付措置を継続する方がまだましである。もちろん、低所得者とは誰なのか、なかなか深刻な問題ではあるが、今の段階では地方税の非課税となる方であり、おおよそ年収が約80万円以下(資産保有額は見ていない)と見られている。この80万円以下の低所得層の本当の実態を、マイナンバー導入前だけにきちんと把握できていないわけで、今のところやむを得ない措置と言えよう。

本来であれば、三党合意の中でも指摘されている民主党提案の「給付つき税額控除」制度の方がより望ましいことは、先ほど述べたとおりである。その為には、低所得者層の方たちが税務署へ申告してもらう必要があるわけで、アメリカをはじめ世界の多くの国で実施している制度ではあるが、虚偽申請が多く問題があることも指摘されていることも指摘しておく必要がある。マイナンバー制度の導入によるより正確な所得申告情報把握の重要性が指摘されるところである。

インボイス無き複数税率、益税拡大、またもや消費税不信の増大へ

さらに、既に指摘してきたことであるが、複数税率を採用する場合どうしてもインボイスが必要になるにもかかわらず、その導入は平成33年度からということで、これまでも益税の存在が指摘されてきたわけだが、その規模と範囲がますます拡大していく事となる。消費税に対する国民の信頼が失われ、これからの消費税の引き上げによる増税がますます困難になることは必至であろう。日本の税制は、利益団体の圧力によって本来の姿を捻じ曲げられてしまうという根本的な問題を抱えているわけで、その点の改革こそ急務だと言えよう。少なくとも、まやかしのインボイスは許してはならないのだ。消費税の非課税業者は,インボイスの発行が出来なくなることを覚悟しておくべきであり、その実現を平成33年度と約束したことを忘れてはなるまい。

どこかで聞いた台詞「財源は財務省が何とかする」の無責任さ

それにしても、1兆円を超す財源をどのようにして捻出できるのか、たばこ税を引き上げてはどうかとか、外為特会の「埋蔵金」を取り崩してはどうか、さらにはアベノミクスで景気が良くなれば税収が増えるのでそれを当てればよい、等とまことに無責任極まりない議論が展開されている。1兆円を超す税収減を賄うには、さらなる消費税や所得税・法人税と言った基幹税の引き上げが必要になるほどの巨額なもので、その引上げどころか逆に法人税の引き下げすら進められている。来年度の法人税率を29,97%に下げることを決定し、その多くの財源は赤字法人も含めた企業からの外形課税の強化に求めている。儲かる企業の税率を下げ、赤字企業から増税で賄う事への批判もさることながら、外形課税とは圧倒的に人件費=賃金課税であり、賃上げを経済界に求めている安倍政権は、まことに一貫性の無い税制改正を進めようとしていることにも目を向けなければなるまい。

法人税の引き下げ、どうして優先順位が先になってくるのか

では一体、法人税の減税は何のために実施しようとしているのだろうか。日本の法人税率の表面税率は地方税を含めて30%を超え、世界的には高いと言われてきた。それを下げることによってグローバル化した企業からの投資を呼び込むという説もあるが、それこそ税の引き下げ競争に巻き込まれ、税収を失うことにより国民の負担が増えることに繋がるわけで、先進各国が取るべき政策とは言えない。ましてや財政赤字で予算の半分近くを賄っている日本に、減税できる余地はないはずだ。企業が利益を上げ、減税による内部留保を増やして設備投資の増加、雇用の増加、賃金水準の引き上げ、と言う好循環を狙ってきたのがアベノミクスだったわけだ。

アベノミクスの失敗、法人より国民を優先した政治に戻すべきだ

ところが、異次元の金融緩和によってもたらされた円安による企業利潤の増加までは行ったものの、内部留保するだけで設備投資の拡大には結びつかず、雇用では正規雇用は削減され非正規雇用が増加した結果、賃金総額は一向に増加することなく、大部分の企業では労働者の賃上げに結び付いていない。アベノミクスの失敗であり、円安による日本の消費者の購買力の低下こそが、もう一つの内需停滞の要因になっていることを見失ってはなるまい。

なるほど、法人が内部留保の増加となって、その分株式相場の上昇として株価に反映されていることはあるのかもしれない。ただ株価の上昇の恩典は、株式所有者に大きな恩典をもたらしているのであろうが、その保有層の多くは高額所得層に集中しているし、海外からのヘッジファンドなどもその利益を多く享受していることは間違いない。大多数の国民にとっては直接的な利益に結びついておらず、安倍総理は一体誰のためのアベノミクスになっているのか厳しく政策の是非が問われている。

来年の参議院選挙、どうしても自民・公明に勝たせてはならない

それにしても、来年の参議院選挙に向けて、補正予算では高齢者で低所得者に対して3,000億円の一回限りの給付金を支出するようだ。まさに露骨極まりない実質的な選挙買収策をとろうとしているとしか思えない。また、来年度予算においては、アメリカ駐留軍への思いやり予算を増額していく方針だという。日本の財政の現状からすれば、とても増やしていける条件は無いわけで、思い切って減額していく事こそ求められている。こんな政策をとろうとしている自民・公明政権に対して、心から怒りの声を上げていかなければならない。来年の参議院選挙は、まさにその怒りの声を上げていくべき時である。

(続く)


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