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労福協 活動レポート

2018年11月5日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第69号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

消費税増税の国会論戦、野田元総理の的確な代表質問だが、民主党政権時代の公約違反で応酬する安倍総理、前途多難な時代へ

臨時国会がスタートし、各党の代表質問から予算委員会の審議に移ってきた。そうしたなかで、先月30日、無所属の会の野田元総理の代表質問に注目した。野田元総理は、主として来年10月に実施するとしている消費税の10%への引き上げについて追及していった。言うまでもなく、民主党政権時代の最後の総理として消費税の10%への引き上げを、自民・公明両党と合意して「社会保障・税一体改革」を進めてきた時の最高責任者でもある。

「三党合意」骨抜きにした安倍政権、憤懣やるかたない野田元総理

私自身、野田総理とは財務副大臣時代に共に藤井大臣を支える立場でご一緒させていただいたわけだが、一度下した決断を揺るぐことなく実現していった「三党合意」に向けた努力には、マニフェスト違反という問題はあるものの、率直に評価してきた。党内では、小沢グループを始め、消費税の引き上げに抵抗する勢力が多く、離党者も相次ぐ中での決断(離党者が増え、与党が衆院での過半数割れにまで追い込まれていた)であつた。そういう厳しい経過を知るだけに、10%への引き上げにむけて、2度にわたる増税延期や軽減税率の適用、さらには社会保障以外の分野にまで歳出を拡大させることに、腹立たしい思いを抱かれていたに違いない。

最初に、二度にわたる消費税の引き上げ延期について、野田元総理は「まさに政争の具にしたと同じだ。究極のポピュリズムだ」と厳しく批判をし、安倍自民党総裁時代の党首討論の場で解散・総選挙を決断した際の議員定数削減の約束を守らないで、参議院では定数増を進めたことも同時に指摘している。

何時まで言い続けられるのだろうか、民主党政権時代の公約違反?!

これに対して、安倍総理は増税延期について「国民に信を問うのは当然」「衆議院で13年に5減、17年に10減を実現した」と言い返す一幕もあったが、何とも噛み合わない一コマではあった。とくに、安倍総理から、民主党が消費増税を否定して、政権を獲ったら増税を決めたことに「むしろ、やらないと言ったことをやり、やると言ったことをやらない方が間違っている」と逆批判を浴びていた。2009年の政権交代時の公約違反は、やはり重くのしかかっているわけで、民主党時代の責任ある立場にあった政治家にとって、マイナスの印象がなかなか拭えないモノなのだと感ぜざるを得なかった。

こうした安倍総理の指摘に対して、日本財政の現実を改革していかなければ、いつかは財政破綻必至であることを堂々と指摘し、プライマリー黒字の実現を2025年以降に延期し、財政再建に向けた姿勢が後退している安倍政権の問題点こそ厳しく追及していくべきだろう。

野党(対抗政党)は、新しいリーダーと政策理念に裏打ちされた「持続可能性と実現可能性」ある政策体系を策定すべき時だ

今後、安倍政権に対する追及は進められていくのだろうが、こうしたやり取りだけが続く限り、国民の政治に対する信頼が強まることはなかなか難しい。野党として、どうしたら政権交代に向けて結束を強化できるのか、どういう日本を作り上げて行けるのか、ここは性根を据えて新しいリーダーや骨太な理念(政策思想)に裏打ちされた「持続可能性や実現可能性を持った政策づくり」をしっかりと進めて行く以外に道はない。

消費税率10%への引き上げをめぐる政府・与党の気になる動き

それにしても、消費税率10%への引き上げに向けて、景気対策と称してばら撒き策のオンパレードが展開されようとしている。政府・与党側は、中小小売店などでキャッシュレス決済をした買い物客へのポイント還元やプレミアム商品券の発行などを検討しているようだが、コストに見合った効果が本当に得られるのか、中小企業におけるキャッシュレスに対応したレジが準備されているのか、必要な財源措置はどのように手当てされるのか、多くの問題が指摘されている。

可処分所得の落ち込みには、賃上げが不可欠だ

景気対策であれば、労働者の可処分所得が低下し総需要が落ち込む事への対策が重要になる。その為には、マクロ的には賃上げが一番重要になるわけで、労働組合の賃上げの実現や、最低賃金の底上げこそが最大の景気対策になることは言うまでもない。

景気変動を加速・減速させない消費税率の緩やかな引き上げを

問題は、消費税率が2~3%も一気に引き上げられることによる景気変動が歪む事への対策が必要だ、という意見が出てくることだ。その点に関して、消費税率を1%ずつ1年ごとに引き上げて行く方策を取るべきではないか、という指摘を財務副大臣時代に財務省内部でしたことがある。3%や2%といった引き上げを一気に進めるために、高額な耐久消費財である家や自動車などを引き上げ前に買い急ぎ、引き上げ後に消費が落ち込むわけで、こうした景気循環を乱高下させないためである。現に、年金保険料などは2004年改革以降2017年まで、毎年保険料率(額)を引き上げてきた。リーマンショックの後でも、きちんと定期的に引き上げてきたわけで、消費税の引き上げも同じように進めて行けば良い。

残念なことに、主税当局の役人の方達は事業者の方たちが毎年レジのシステムを変えなければならなくなるので困難だ、というものだったと記憶している。でも、そんなことは何とでも対応できるわけで、景気変動対策としての消費税引き上げの方策として実現していくべきだ。

最大の問題は軽減税率の導入だ、租税特別措置の二の舞は必至

今度の消費税引き上げの一番の問題は、やはり軽減税率の導入問題であろう。食料品と新聞代が8%に据え置かれるわけだが、最大の問題は一度軽減税率が適用される商品が出てくれば、必ず次の改正の際には他の商品へと拡大される事は必至だろう。新聞の次は雑誌や本といった活字分野や、最近の情報機器などにも適用して欲しいという声が出てくるだろう。現に、日曜日の朝日新聞5面広告欄には「この国の未来のために、出版物に軽減税率を」と出ているのだ。

ちょうど高度成長期に、租税特別措置がシャウプ勧告後に雨後の竹の子のように拡大されていったことを知るにつけ、一度ダムに穴が空いたら最後、どんどん拡大して再び物品税の世界へと決壊していくことは目に見えている。自民党税制調査会の場で繰り広げられる、業界利益を代表する族議員(背後には関係省庁・関係業界のロビー活動)の政治的な動きをコントロールする力は、残念ながらどこにも存在しないのだ。

自民党税調、早々と金融所得増税を見送りへ、格差社会は拡がる

税の問題を実質的に決定してきた自民党税制調査会は、早々と金融所得に対する増税を見送る方針を固めたとの報道に接した。この問題は、個人の所得税が建前は総合課税による超過累進制となっており、所得金額が上がるごとに5%~45%へと税率が引き上がることになっている。その結果、1億円前後の所得での実効税率30%弱がピークとなる。おそらく大企業の経営幹部層の年間報酬のピークが、1億円前後に集中しているのだろう。ところが、1億円を超える所得階層では実効税率が下がり始め、何と100億円超の所得のある富裕層の実効税率は、20%を切るところにまで低下している。

その原因こそが、今回自民党税調が見送った金融所得の課税問題にある。金融所得が総合課税ではなく、一率20%の分離課税となっている事にあるのだ。株の配当やキャピタルゲインなど、主として高額資産・所得層が持つ株式や金融資産からの利益が低率であるために、こうした公平性から見て不可思議な事態がまかり通っているわけだ。

金融所得の総合課税化のために、マイナンバーによる名寄せを

われわれは、この金融所得の分離課税を止め総合課税に戻すべきだ、と主張してきたが、残念ながら経済界の抵抗を打ち破れずに今日までこうした制度が継続している。それでも、かつてバブル崩壊後のデフレ時代には20%ではなく10%であった時代もあり、ようやく20%に戻してきたが、少なくとも30%~40%の分離課税と総合課税のどちらかを選択制にするよう求めて行く必要がある。

格差社会が問題になっている中で、高額資産・所得層を優遇する税制が罷り通っている事に、公平性の観点からもっともっと批判の声を上げて行くべき時である。自民党税制調査会が、早々と増税を見送ることを固めたことに対して、国会の場での論戦の中で厳しく問題視していく必要があろう。株価対策として増税を見送ることのようだが、金融所得として株式だけでなく債券やREITさらには金利なども同じ考え方できちんと課税していく事の重要性を指摘しておきたい。最近あまり評判が良くないマイナンバー制度だが、この導入の目的の一つは、こうした金融資産・所得の情報を名寄せして総合課税にさせるためにも絶対に必要なインフラなのであり、厳しく対応して欲しい。

富裕層の海外資産情報55万口座情報を国税庁に届く、解明を!!

その点、富裕層の海外資産情報が国際的なCRS(Common Reporting Standard=共通報告基準)と呼ばれる仕組みを通じて、海外に住む日本人非居住者約55万件の口座情報を入手した、と国税庁は先月31日に公表した。タックス・ヘイブンからも情報が入ったようだが、どのような実態にあるのか、是非とも公平の観点から解明に努力して欲しい。今や、海外のタックス・ヘイブンだけでなく、一番の問題はロンドンのシティやニューヨーク・マンハッタンといったグローバルな金融センターにあるとも言われており、遅々として税逃れの実態が進んでいない中で、何とかその解明に向けての第一歩を歩んでほしいものだ。


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