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労福協 活動レポート

2019年2月3日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第81号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

通常国会が始まったが、野党の共闘よりも野党の対抗が気になる

先週28日から通常国会が始まった。国会が始まる前には、各政党・議員は会派届を提出する。それによって所属会派の人数がきまり、国会議員個々の様々な委員会配置や委員会の理事数など、国会での任務が決まるわけだ。国会での野党側にとって、野党第一会派が理事会などで与党側との委員会運営をリードする事になるし、何よりも代表質問の順位も決まってくる。まさに、数がモノをいう世界なのだ。それだけに野党側としては、野党第一会派の理事を確保する事が国会対策上極めて重要になる。

今度の国会開会の前に、国民民主党と自由党が合流する方向を打ち出し、結果として同一会派で折り合ったようだが、その結果、一時的に参議院での議員数で国民民主党が立憲民主党をうわまわることになった。だが、立憲民主党の方は、自由党と会派を組んでいた社民党と新たに会派を組んだことによって、参議院では国民民主党と立憲民主党とが議席数27人と同数になってしまった。実に激しいやり取りや駆け引きが裏側であったようだが、代表質問の順番はくじ引きとなり、国民民主党が先に質問することになったようだ。

いずれにせよ、安倍政権に対抗すべき野党側は、纏まるよりも対立する動きが目立つわけで、果たして統一自治体選挙から参議院選挙にむけてどんな戦いが実践できるのか、まことに怪しくなってきている。

中島岳志教授、小沢構想は「希望の党の二の舞」で失敗必至と指摘

こうした野党側の様々な動きについて論評されているのだが、リベラル保守の論客といわれる中島岳志東工大教授が、最新号の『週刊金曜日』(2月1日号)のコラム「風速計」において、「『希望の党』失敗の教訓」と題して、今回の国民民主党と自由党の合流話についてコメントしておられる。

今回の国民民主党と自由党の合流話は、昨年11月7日に行われた小沢一郎・橋本徹・前原誠司各氏の行った会談がその背景にあるとし、小沢氏の構想では橋本氏を担ぎ新党を結成し、参院選を闘うという選択肢があると見ている。

中島氏は「この構想は必ず失敗に終わる」と断言する。その理由は「希望の党の失敗」を見れば明らかだ、という。当時(2017年秋)の民進党はリスクの社会化(再配分・セーフティネットの強化)を打ち出し、価値観では選択的夫婦別姓やLGBT(性的少数者)の権利等、リベラルな姿勢を打ち出していたが、小池都知事はリスクの個人化(自己責任論)を志向し、価値観の問題ではパターナル(父権制的)な傾向を持ち、両者は真逆なタイプの組み合わせだったことを指摘する。つまり、希望の党の失敗の背景には、小池氏の「排除発言」もあったが本質的な問題はここにあったと見ている。

中島教授、安倍政権と対抗できるのは「リスクの社会化とリベラル価値」、野党側の結集軸を提起

今回の国民民主党と橋本氏との間にも同じ問題があり、もしその組み合わせが実現すれば「希望の党」の二の舞になり、「人気取りと数合わせのために野合した政党を国民が支持するとは思えない」と断言する。そして、野党が結束するのであれば、「リスクの社会化・リベラル」を軸にすべきであり、安倍内閣は「リスクの個人化・パターナル」という特徴を持っており、それに真っ向から対抗していくべきことを主張されている。

果たして「リスクの社会化」を主張する政党が、セーフティネット強化の為に不可欠な再分配(再配分ではない)をするための消費税や社会保険料の引き上げに反対しているなかでは、「リスクの社会化」は砂上の楼閣になってしまうのではないか。もう一度、民主党政権の失敗の反省をきちんとすべきではないか、と思えてならない。つまり、フィージビリティやサステナビリティを欠いた政策を打ち出すような無責任さを改めなければ、国民から信頼されないのだ。既に、民主党政権時代に責任ある立場にあった者に対して、一度傷ついた国民の記憶はなかなか薄れるモノではあるまい。

今後、野党側は選挙協力を進めて行くことになるのだろうが、参議院選挙における戦いの前にどのような共同した闘いができるのか、注目していきたい。

中前忠著『家計ファーストの経済学』(日本経済新聞出版社刊)を読んで

日本を代表する著名なエコノミストの一人である中前忠様から、著書が送られてきた。題して『家計ファーストの経済学』で、1月23日に日本経済新聞出版社から発刊されたものである。中前先生とは参議院議員に当選して以来、仙谷元官房長官のご紹介で先生の主催された学習会に出席させていただいたり、仙谷さんを慕う民主党の若手のメンバーも入れた学習会にも定期的に参加していただき、内外経済の動きについての問題提起を受けてきた。とりわけ、1997年の金融国会に於いて、仙谷さんを始めとする当時新進気鋭の若手政治家達が、銀行国有化を提起する際、実質的にその知恵袋が中前先生だったことはこの本の「まえがき」に述べておられる通りである。

中前先生は、亡くなられた仙谷元官房長官の経済政策指南役

昨年亡くなられた仙谷元官房長官は、もともと東大法学部出身の弁護士であり、決して経済の専門家ではなかったのだが、中前先生の薫陶を受けたこともあって、法律だけでなく経済の事もよく見通せる政治家として、官房長官の職責もこなすことができたと言えよう。私自身、国会での質問をする際には、中前先生の分析を求めて事務所にお邪魔する事が多く、すっかり《中前理論》の虜になった一人でもある。

中前先生のお話は、データが実に豊富で貴重なものだったが、経済界の人達が多く馳せ参じる人気のある勉強会も開催されていると聞く。特に、「日本経済新聞夕刊」のコラム「十字路」に定期的に投稿され、多くの中前ファンがおおよそ1カ月1回の短いコラムの行間を、食い入るように読む名物コラムとなっている。

特に、1980年代後半のバブルとその崩壊を予言された事は、伝説となって語り継がれている。私自身、1995年の参議院予算委員会で、「日本経済はデフレになっているのではないか」と、国会でバブル崩壊以降政治家として初めてデフレの問題を指摘させていただいたのは、何を隠そう中前先生からのデータに基づいた指摘があったからなのである。

「企業ファースト」から「家計ファースト」への転換が必要
(世界経済は3つのバブル崩壊へ、経済のグローバル化の終焉・ローカル化へ、消費する力が繁栄を左右へ)

この本は、そんな中前先生が渾身の力を込めて分析・提言されたものであり、読み始めたら一気に引き込まれてしまう魅力的な書となっている。内容については、「まえがき」に要約されていて、分かりやすく提起され極めて大胆な問題提起の書ともなっている。主として取り上げられているのは、世界経済の中心であるアメリカ、中国、そして日本であり、今後の日本経済への提言が「家計ファースト・マニフェスト」として提起されている。

以下、この書に於いてどんな中身が書かれているのか、本書のカバーに書かれた要約が実に簡潔で要領よく纏められているので、それを紹介しておきたい。

「1980年代以来、世界経済はマネー供給の拡大に依存し、企業収益を優先させることで経済全体の浮揚を図る『企業ファースト』で動いてきた。この政策は結局、所得格差を押し広げ、ポピュリズムの台頭を助長した。

しかし、金融正常化により長い間動いてきた歯車は遂に逆転する。世界の資産バブル、ITバブル、中国を筆頭とする新興国バブルの『トリプル・バブル』が崩壊、リーマン・ショックを上回る金融危機が生じる可能性が高い。マネー 依存経済が終わり、経済サービス化によってグローバル化時代が終焉し、経済のローカル化が進む。

これからは、消費する力が繁栄を左右する、地産地消の経済に移行していく。そこでは、消費が投資を促し、成長力を高める。バブル崩壊後には、『企業ファースト』から『家計ファースト』への転換が不可欠だ。それに成功すれば、日本は新たな成長への機会をつかむことができるだろう」

この本で、一番重要だと思ったのは、企業ファーストから家計ファーストへの転換であり、サプライサイドからデマンドサイドへの転換を強調されている事だろう。1980年ごろを境にそれまでのケインズ政策による再分配重視からサ新古典派によるプライサイド重視への転換を、今度は再び需要サイド重視にしなければならないとの指摘は、私自身の立場と全く同じであり、納得的である。

注目すべきは「第7章 家計ファースト宣言」の5項目だ

問題は、最後の「第7章 家計ファースト・マニフェストで指摘されている「家計ファースト宣言」の5項目である。

第一に、消費税を廃止する
第二に、貯蓄金利を引き上げる
第三に、円安ではなく、円高を促進する
第四に、これらの政策により、国内消費を拡大させ、企業の売り上げを伸ばし、賃金引き上げを進める
第五に、産業構造の転換に対応するために、「第二自衛隊」(仮称)を創設し、職業訓練を制度化する

議論を呼びそうな消費税廃止・法人付加価値税新設の論議

一つ一つの項目についての詳しい説明は本文を読んでほしいのだが、消費税の廃止という文言を読んだとき、最初は絶句してしまったのだが、代替財源として企業からの付加価値税として必要な財源を確保していくべきことを主張される。企業が果たしてそれをすんなりと受け入れることができるかどうか、「新税は悪税」とよく言われるわけで、平時にはフィージビリティについて大いに議論のあるところであろう。この提言は、バブルの崩壊後の事を想定されているようだ。その他税制に関しては、所得税の簡素化や女性の配偶者控除のあり方の改革など、今でも直ぐに改革できる指摘もある。

また、社会保障の効率化を指摘されているのだが、所得が上昇し始めれば高い医療費も公的保険でなくとも負担できるようになる、として実質的には混合診療の提案がされている点は、私自身は納得できなかった。今の国民皆保険制度が、国民の医療保険への公平なアクセスを保証することで、貧富の格差を乗り越えて国民的連帯感を形成するうえで大いに貢献していることを見逃してはなるまい。ポピュリズムの拡がりを阻止する大変重要なインフラ(社会的共通資本)となっているのだと思う。

時代は経済政策の大転換期か、安倍政権とは異なる政策の書

それにしても、時代は大きな転換期なのだろうか。中前先生の今回の著作の前に、デビッド・アトキンソン氏の『日本人の勝算』(東洋経済新報社刊)や、権丈善一慶應義塾大学教授の『ちょっと気になる政策思想』(勁草書房刊)など、需要サイドの経済学の重要性を指摘する著作が相次いで出版され、安倍政権の経済政策(アベノミクス)に対抗するものでありながら、多くの人達に読まれ始めているように思われる。1980年頃から始まって経済政策思想の大転換が、結局はバブルとバーストをもたらし、様々な格差を拡大して左右のポピュリズムを引き起こしたことの強く意識されているのだろう。これから、経済論壇でこうした転換の是非をめぐって、更なる論議がたたかわされることを期待したいものだ。

中前先生の著書、豊富で説得力あるデータと歴意的位置づけの明確さ

最後に、この書においても、何時もながら使われているデータが豊富であり、実に分かりやすく説得力に富んだものになっている事を指摘しておく必要があろう。特に、日本だけでなくアメリカや中国の実態を丁寧に分析されており、アメリカトランプ政権のしたたかさと同時に、中国経済の抱えている巨額の金融負債という爆弾が何時破裂するのか、その危険性を指摘されている。是非とも手に取ってその内容の一読をお勧めしたい。


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