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労福協 活動レポート

2019年6月17日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第99号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

書評、細野祐二著『会計と犯罪―郵政不正から日産ゴーン事件まで』(2019年5月岩波書店刊)

「冤罪」事件は何故起こるのか、その根源に迫る歴史的名著だ

人は無実の罪を着せられ、無罪の根拠となる確実なアリバイがありながら、どんなに裁判で争っても負けてしまい「犯罪人」のレッテルを張られ、一度しかない人生を台無しにさせられることを何と言うのだろうか。私の乏しい語彙集には、「不条理」とでも言うしか言葉が見つからないのだが、そうした「冤罪」に遭遇した者にとっては、言葉では言い尽くせない怒り、無念、非情さに精神を病んでしまう事もあるに違いない。

本書は、その怒り、無念、非情さを「犯罪会計学」にまで昇華させ、こうした「冤罪」をなくしていく為に何が必要なのか、自らのキャッツ事件と対比しつつ、2010年9月の厚労省村木厚子さん無罪判決を含む郵政三事件を主たる分析対象とし、日本の特捜検察を中心にした司法の問題点を鋭く告発した稀に見る優れた専門書であり、実に読みやすい啓蒙書でもある。さらに、昨年11月に勃発した日産カルロスゴーン事件をも分析対象とし、「犯罪会計学」の集大成と捉え、その行方如何によっては「特捜検察崩壊」の可能性にまで言及する警告の書でもある。一人でも多くの国民に、今こそ日本の異常な司法制度の根底的改革が、文明国として不可欠であることを是非とも知って欲しい。

「冤罪」に巻き込まれた公認会計士細野祐二氏の闘いの歩み

本書を著した細野祐二氏は、2004年3月公認会計士として監査していた株式会社キャッツ粉飾事件に巻き込まれ、190日間に及ぶ勾留を受け起訴され、地裁・高裁、さらには最高裁まで一貫して無罪を訴え続ける。犯罪の有力な理由を覆すに足る確実なアリバイがありながら、2010年6月最高裁で有罪が確定する。「金をもらって粉飾決算を指導する公認会計士」としての烙印を押されつつも、冤罪を晴らすべく今日まで闘ってきた稀有な闘士である。有罪確定と共に公認会計士の資格を剥奪され、執行猶予期間を終えて公認会計士の再資格付与を申請したものの、却下され今日に至っている。秘かに公認会計士協会長選挙に出馬し、協会の大改革を目論んでいたとのことだが、この道からの改革は断念させられる。

「冤罪」であることを何としても晴らしたい、だが「私には再審請求の道がない」と心からの悲痛な叫びが本書に出てくる。戦後再審請求が認められた事件は21件に過ぎない。その中には経済犯罪事件はない。DNA鑑定技術の向上による有罪から無罪への転換事例など、物証のある事件だけなのだ。

粉飾決算の実例を分析、日本における「犯罪会計学」のパイオニア

細野さんは、「これこそが粉飾決算だ」という多くの企業の事例を調査・分析・研究され、それらの多くは『公認会計士vs特捜検察』『法定会計学vs粉飾決算』『粉飾決算vs会計基準』(いずれも日経BP社刊)等一連の著作を世に問うていて、多くの関係者(なんと、中には当初カルロス・ゴーン事件担当弁護士だった大鶴元東京地検特捜部長も愛読書と公言)に読まれ影響を与え続けている。結果として、日本における「犯罪会計学」の唯一の専門家になったわけだ。その細野さんは、さらに「犯罪会計学」を極めたいとイギリスのロンドン大学大学院入学まで進むも、執行猶予中でビザが儘にならずあえなく断念。その前後も、「犯罪会計学」を極めるべく調査・研究を進めつつ、一方で多くのクライアントからの企業立て直し案件を頼まれ、一時的な仕事とはいえ、見事な経営再建者としての力量を発揮された実態が、本書の「Ⅰ『あの日』からの私」の各章に生き生きと描かれている。おそらく、本格的な企業経営を目指されていたとしても、優れた経営者として高く評価されたに違いない。

村木厚子さん無罪判決は「幸運」だけで勝ち取れたのか、
大阪地検特捜部の暴走の背景・根源に迫る本著書最大の核心=郵政不正事件

その細野さんの有罪が確定した2010年6月から僅か3か月後に、郵便不正事件に絡んだ厚労省村木厚子さんの無罪判決が勝ち取られている。特捜検察に逮捕・起訴されれば99,9%有罪になる中で無罪判決は驚きであった。村木厚子さん自身も、「私が無罪を勝ち取れたのは幸運だったから」と述べておられる。たしかに、村木裁判においては、村木さん個人の人柄や家族、職場の多くの同僚・友人といった村木さんが培ってこられた人間としての力が大きかったことも確かだが、担当した弘中弁護士事務所や管轄となった大阪地方裁判所の横田信之裁判長という稀有な裁判官の存在など、幸運に恵まれたことも確かだろう。

では、細野さんが有罪になったのは、偶々不運だったという事だけなのだろうか。細野さんは、大阪地検特捜部が引き起こし、画期的な村木無罪判決を勝ち取るだけでなく、のちに特捜検察を揺るがす大問題にまで引き起こした郵政三事件、即ち「郵政不正事件」「虚偽公文書事件」「証拠改竄事件」に注目する。そこには、今の日本で進められている特捜検察の、あまりにも時代錯誤で理不尽極まりない刑事司法の進め方や、裁判における「特信状況」と言われる驚きの戦時刑事特別法の特殊規定の残滓が、未だ現代に残る刑事訴訟法の存在、検察に対抗すべき弁護士の持つ構造的弱点の数々、さらには、司法に望む国民の意識の抱える問題にまで言及される。この郵政三事件を通じて、今日の特捜検察体制の持つ「構造的な冤罪を生み出す問題点」を抉り出し、最終的には特捜検察を解体しなければならない事を主張する。

カルロス・ゴーン事件こそ、特捜検察の行方を占うものと分析へ

そのためにも、昨年11月に突如として発生した日産・カルロスゴーン事件にも注目する。東京地検特捜部が特捜検察の汚名を挽回すべく引き起こした事件であり、ゴーン氏らは有価証券虚偽記載事件と特別背任罪で起訴されている。担当の主任弁護士は、先述した元東京地検特捜部長大鶴基成氏から、あの村木事件で無罪を勝ち取った弘中惇一郎氏へと交替し、事件は犯罪の事実そのものを真正面から争うガチンコ勝負が展開されつつある。この日産カルロスゴーン事件の帰趨は、文字通り特捜検察制度の行方を占う事件であり、細野さんの『会計犯罪学』の集大成になるものと分析に力が注がれている。

粉飾決算を生み出す公認会計士監査制度の弱点、利益相反の是正へ

もう一つ、なぜ粉飾決算が多発するのだろうか。細野さんは、公認会計士や監査法人は、会計士業務を実施する企業から支払われる報酬で賄われている事に、粉飾決算を誘因する構造的要因を見出している。そうした弱点を持つ公認会計士監査だけに監査の責任を負わせることに無理があるのであり、欧米では、多くの民間団体が財務諸表危険度分析を行っており、「監査法人を含む多元的な上場会社の財務諸表適性性監視体制」が社会全体として機能している事に注目。細野氏は、自分が進めてきた粉飾決算分析をアルゴリズム化しIT専門家に頼んでソフト開発に成功、1社でも100社でも20秒足らずで粉飾決算の危険度を示すことができる「フロードシューター」と名付けたシステムを創り上げ、既に分析作業が進められつつある。また、多くの民間人にフロードシューターの技術の講習を進めており、必ずや粉飾決算を失くしていくことができる時代になりつつあることも指摘しておこう。

日本に住む者として、是非とも手に取って読んでほしい一冊である。


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