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2019年7月1日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第101号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

いよいよ参議院選挙、「人生100年時代、公的年金2000万円不足問題」は争点たりうるのか

G20サミットも終わり、いよいよ参議院選挙へと突入していく。何が参議院選挙の争点になるのか、前号では「消費税」の引き上げを進める与党側と、それに対して今引き上げるべきではないという立場から消費税の引き下げまで野党側は幅広いものの、10月からの政府・与党の増税には反対で一致しているようだ。どこまで参議院選挙で論戦が盛り上がるのか、まだ混とんとしていて良くわからない。

もう一つ、終盤国会で野党側とマスコミの一部を巻きこんだのが「公的年金だけでは人生100年時代には2,000万円不足する」という趣旨の金融庁の審議会の報告書問題だった。これに慌てふためいたのが、安倍総理だったことは容易に想像できる。12年に1度のいのしし年では、政権政党の自由民主党が参議院選挙で敗退し続けており、丁度12年前の2007年は安倍第一次政権の下で、ジンクス通り参議院選挙で大敗を喫している。その最大の要因が、「年金記録問題」だったことは、強く深く脳裏に刻み込まれていたことは想像に難くない。

安倍首相は「火消しに躍起」、国民は老後生活を考えるキッカケに

この金融庁の報告書が世に問題になるや、官邸から麻生財務大臣・金融担当大臣に「受け取り拒否」発言をさせ、問題がこれ以上拡散しないように封印をしてしまったわけだ。自分たち政権側が諮問をしていながら、出てきた報告書が選挙にマイナス(本当になるのかどうかは疑問)になると思ったら「なかったことにしてくれ」は無いだろう。国民は、かえってこうした態度を取る政府に対する不信を持つに違いなく、選挙にとっては間違いなく逆効果になったのではないか、とさえ思えてくる。この政権は、余りにも身勝手なやり方が目に付きすぎて、国民の不信を増幅させているように思えてならない。

ただ、こうした人生100年時代における老後の生活設計を考えている多くの高齢者予備軍の方達には、良き問題提起になったようで、朝日新聞の6月30日付のコラム『日曜に想う』欄で編集委員の大野博人氏が「リアリズムに背を向ける政治」に次のような視点を提起している。

「(前略) ・・2千万円という数字はもやもやした人々の不安に一つの輪郭を与えた。年金を補うお金はどれくらい必要か、そのために投資を選択するかどうか。報告書の『答え』が腑に落ちるにしろ落ちないにしろ、具体的に考えるきっかけにはなった」わけで、同じコラムの中で証券業界の人の話として、この金融庁審議会の報告書が出て以来「老後の資金についての講演会やセミナーにやってくる人が急増した」とのことだ。どうやら、これから老後の生活設計を考えている多くの普通の国民にとって、実にタイムリーな問題提起となったわけだ。

的確な提起、権丈善一教授、老後生活安定のコペルニクス的転回へ

この問題が大きな問題になる直前に、あたかも金融庁報告書が問題になることを予想していたかのような、実に的確な問題を提起されたのが権丈善一慶応義塾大学教授である。『週刊東洋経済』6月15日号の「50歳からのお金の教科書」特集の中のインタビュー記事「年金は破綻なんかしていない『わからず屋』は放っておこう」である。

インタビュー冒頭で、金融機関の営業現場では「公的年金が不安」が枕詞のように語られる中で、
―これからの時代に資産運用はどう位置づけられるのでしょうか―という問いに対して、権丈教授はずばり野球の投手起用法に例えて次のように明快に答える。

「これからは『先発』がワークロンガ―(継続就業)、「中継ぎ」がプライベートペンション(企業年金や民間生命保険会社の年金保険)、「抑え」がパブリックペンション」(公的年金)の『WPPの時代』になる」

Wとは、Work longer PはPrivate Pension 最後のPはPublic Pension
と言う整理で、
「これまでは民間金融機関は65歳で受給し始めた年金に上乗せする『先発完投型』を考えてきたわけだから、『先発・セットアップ・抑えの守護神』のWPPはコペルニクス的転回かな」と述べておられる。

公的年金増額にむけた支給年齢繰り下げは、魅力的な提案だ

民間の金融機関が年金不安を煽るのは、自分たちの金融商品を売る以上当たり前のこと、信用すると損するだけ。公的年金は確かに今の年齢と同じ年齢から受給し始めると年金の所得代替率(受給開始時の年金額の現役世代の手取り収入額に対する比率)は減るのだが、受給開始年齢を遅らせれば、年金額はもちろん、所得代替率も今より増やすことができる、として具体的な数字を例示されている。

20~60歳まで現役男子全体の平均標準報酬(月額42,8万円)で働いた場合、
65歳で受給し始めると年金額は月21,8万円 所得代替率62,7%(2014年)
30年後の2043年
20~60歳から65歳まで継続就業して受給すると
65歳から年金受給すると、月額25,6万円、
70歳まで受給開始を繰り下げると 月36,3万円、所得代替率75,4%
20~60歳から更に70歳まで継続就業すると
70歳からの年金額は、月37,4万円、所得代替率は77,6%になる

以上の数値はすべて物価調整済みの金額であることに注目

民間企業においては、年功序列制度や終身雇用制が崩れ始めているとされ、かつてのように定年まで働き、退職金を手にして公的年金に上乗せすればよかった時代ではなくなりつつあることは間違いない。それだけに、公的年金プラス退職金など金融資産運用で補完という「先発完投型」から、「WPP」の時代へと転換すべきことを主張されているわけだ。

人口減少高齢社会の下で、100年後も安定した年金制度の重要性

人口が減少する中で、どうしたら年金制度を安定化させることができるのか、2004年の年金制度大改革によって確定給付制から保険料の確定拠出制へと転換し、保険料拠出側の生産年齢人口の減少と年金保険を受給する高齢者人口の増加という現実の下で、所得代替率を100年後に50%を維持できるように5年に1回の財政検証していくことになったのだ。前回の財政検証の中で、今後年金水準が低下する事への取るべき対策の一つとして専門家から提起されたのが、受給開始年齢の繰り下げであった。もちろん、就業者でありながら厚生年金に入れない国民年金受給者の、厚生年金加入拡大も提起されている。今年の財政検証が参議院選挙後に出てくるようだが、再び年金制度をどう見直していくべきか、今後の大きな課題であろう。

民主党時代の年金破綻論への厳しい批判、「見放される存在」へ

権丈教授は、このインタビュー記事の後半では年金制度について政治家として取るべき態度として「年金は大丈夫です」と言い続け、「不安を煽る」民間・市場と対立するポジションでなければならないのに、2004年大改正時の民主党は「年金は壊れている」「年金は間違いなく破綻」「年金がこのままではボロボロになって、年をとってももらえなくなる」という批判を繰り広げていたことに言及。民主党政権時代にこうした発言をした政治家がいる限り「二度と政権交代が起こらない国」になったと大変厳しい。つまり権丈教授らから、『分からず屋』として放っておかれる存在になってしまったのだ。

こうした捉え方は、一部のテレビや専門家と称する人たちは別にして、かなり浸透しているようで、今回の公的年金不安を煽る政治家等の発言は大きく捉えられることなく選挙戦に突入し始めたようだ。むしろ、自民党内の若手の政治家の中には、冷静に社会保障全体を捉える人たちが存在しており、麻生大臣のように問題から逃げたり隠したりせず、堂々と論戦を進めて行くべきだ、という主張も出始めている。参議院選挙には出てくる今年の財政検証について、今後の年金制度の安定化に向けたさらなる改革の論議を開始するべき時に来ているようだ。

「年金は100年安心」提起の背景、坂口元厚労大臣の発言に注目

いまの公的年金について、「年金は100年安心」と言う言葉を初めて使ったのは公明党だった(政府側は一度も「100年安心」という言葉は使っていない)。その公明党から厚生労働大臣として2004年改革を主導した坂口力氏が、朝日新聞26日付の朝刊で「『2千万円不足』の衝撃、老後不安を解消する生き方とは」と言うテーマで、池田伸壹記者のインタビュー記事に応えた記事が掲載されている。

先ず、その言葉を提起した背景について次のように述べている。

「『年金100年安心プラン』という言葉は、私が初代厚生労働大臣として年金改革に取り組んでいた2003年に、総選挙向けに公明党が打ち出しました。

当時、年金制度がコロコロと変わっていて、これから年金の制度そのものは大丈夫なのか、崩壊するのではないか、といった不満と不安が出ていたのです。04年に抜本的な改革を行ったのは、100年後も年金制度そのものが安心できる存在にしなければ、という思いからでした」と、少子高齢化の進展の下で繰り広げられた、当時の年金をめぐる国民的な激しい攻防に終止符を打ちたいという思いだったわけだ。先に権丈教授が民主党有力政治家の言説を取り上げ、厳しく批判されたのはこの頃からであった。

少子・高齢時代、04年改革は年金制度100年安定、老後生活の柱へ

続いて、具体的には次のような改革を進めたことを強調される、
「日本の年金制度は、現役世代が払う保険料を高齢者に渡す『仕送り方式』です。ですから、少子高齢化で高齢者が増え、働く世代の人口が減れば、給付は減ってしまうのです。そこで、現役世代の負担が重くなり過ぎないよう保険料の上限を固定し、国庫補助を増やし、年金積立金を100年かけて一部取り崩すことなどを導入し、安定化させたのです。給付水準を調整して減らすことも在り得ます。100歳まで誰でも年金だけで十分生活できる給付が受けられるということをうたったわけではなく、100年後も公的年金が高齢者の生活の柱となるように、抜本的改革を行ったのです」。

かつて存在した与野党超党派の年金専門家ネットワークに言及

坂口元大臣は、公明党がまだ野党時代に当選した70年代ごろから、与野党を超えて専門家の議員と社会保障の勉強を繰り広げて来られたことを強調し、今それが途切れてしまったことを嘆いておられ、また今回の事態に際して、与党内の年金に詳しい議員から真っ先に厳しい批判の声が上がっていないことに警鐘を鳴らされている。今回の問題について、政治家がもっと自分の言葉でしっかりと国民に話しかけ、不安を払しょくする議論を主導する必要性を強調されている。

故今井澄、山本孝史両参議院議員、彼らを超える議員は出ていない

ただ先に述べたように、私には自民党内の若手議員の中には、年金はもちろん社会保障や財政の問題について、地に足が着いた議論をし始めた人たちがいることを知り、是非ともこれから頑張り続けて欲しいと思っている。今回の「2千万円不足問題」論議では、こうした与野党を超えた年金論議へと進む動きは出ていないわけで、「年金問題を政争の倶」としないような超党派の動きが出なかった事が残念でならない。私自身が記憶している事では、今井澄参議院議員や山本孝史参議院議員といった民主党の年金問題に精通している政治家達が、高山一橋大学教授らと超党派で年金制度の調査にスウェーデンを始めとするヨーロッパに出向いた事を思い出す。2004年改革の前だったと記憶する。その今井・山本両氏は既に鬼籍に入られ、野党側には彼らの水準を超えた政治家はほとんどいない。野党側は、政権交代を目指す以上、持続可能性と実現可能性をしっかりと持った社会保障改革について、超党派の議論に堪えうるような人材を創り上げるよう全力を挙げて欲しいものだ。ぜひとも、与野党での社会保障、とりわけ年金の問題についての超党派の動きが出てくることを強く期待したいと思う。


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