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労福協 活動レポート

2019年12月25日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第125号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

説明責任を全うしない安倍総理、予算委員会からは逃げられない

「桜を見る会」についての疑惑の解明は進まず、説明責任を全うしない安倍内閣の支持率は、大きく下がり続けて越年するようだ。だが、来年の通常国会が1月20日から始まるわけで、冒頭解散がなければ本会議の代表質問に続き、先ず補正予算の予算委員会での質疑、それが終わると来年度予算案の本格的な予算委員会での審議が入ってくる。この補正・本予算の審議は必ずテレビ中継されるわけで、どんな質疑応答になるのか、事によれば答弁に立ち往生して行き詰まり、解散・総選挙に打って出ることも在り得ると見るべきだろう。これとて、国民の支持率の動向いかんにかかっているわけで野党側の調査力・質問力が試されていると思う。

「桜を見る会」スキャンダル追及に向け、専門家からの情報収集を

この桜を見る会に関するスキャンダル解明に向けて、多くの専門家の方達が問題点について鋭く指摘され、追及する側にとって大きな支援となる貴重な材料が提供されている。そうした中でも『週刊エコノミスト』12月24日号の「闘論席」という固定欄で、古賀茂明氏が「公文書」なる物について、元経産官僚の経験からその「2面性」について述べている。

すなわち、こうした文書は「公文書」になる前は、官僚にとって「宝」であり、過去の文書は参考にすべき貴重な経験が含まれたものとなる。だが、一度「公文書」となれば公開される事になるわけで、「それは、自分たちの責任を追及するために国民に与えられた『武器』となる」のだと。「公文書」は「宝」から「危険物」「毒」になるわけだ。

かくして古賀氏は次のように指摘する。

「桜を見る会の招待客名簿は、来年の作業に必須の資料であり、官僚の『宝』であつたが、それをいとも簡単に『廃棄』したのは、それが彼らの責任を追及される『毒』となったからだ」

だが、官僚の皆さんは、「公文書」としては廃棄されるが、「廃棄したことにする」という意味でしかなく、人知れず「保存」されているものだそうである。だから、安倍総理が「名簿を探せ!」と官僚に厳命すれば、明日にでも「発見」されるはずなのだそうだ。官僚たちの生態学としては興味深いが、どこまで追及で来る材料にし得るのか、一工夫入りそうだ。

片山善博元総務相の「予算の出所追求」の指摘は民主主義の前提だ

もう一人は、これまた総務官僚出身の片山善博氏であり、月刊誌『世界』の1月号の定期コラム「片山善博の『日本を診る』において、「『桜を見る会』で重要な論点—-予算を上回る経費は具体的にどこから工面したのか」、予算という議会がきちんとした統制をすることが民主主義の大前提なわけで、それがしっかりと追及していかなければならない事として国会で取り上げるべきことを主張されている。予算を超過支出した財源は、どう捻出したのか、片山氏は「裏金」を作って使ったのではないか、さらには「他の予算費目からの流用」や「予備費」等にも疑いの目を向けられているが、是非とも予算委員会でしっかりと究明させなければならない点であることは間違いない。政府はこの超過した経費を「内閣府一般共通経費」で賄ったと説明しているようだが、具体的に内閣府予算の何処からいくら適法に持ってきたのか、追及していくべきだと指摘されている。

どちらも、キャリア官僚としてそれぞれの省庁での経験は豊富なわけで、事前にしっかりとレクチャーを受け鋭く安倍政権に対峙して欲しいものだ。

野党の「合流話」、国民の期待感は乏しい、民主党政権崩壊から10年経っていないのだ

国会では、立憲民主党から国民民主党や無所属の方達、さらには社民党にも政党合流の提起が進められ、協議に入ったようだ。とはいえ、どんな合流になるのかをめぐって、党名・主な役員人事や政策などについての立憲と国民の間の溝は深いようで、どんな結果になるのかは依然として不透明だ。今週の展開がどのようなものになるのか、来年1月1日の政党交付金確定に向けた合流には間に合いそうもない。問題は、来年1月20日の国会開幕までの間にどのような結末を迎えるのか、でも躍動感や期待感には乏しく、国民の大きな支持が広がるとはとても思えない。まだまだ2009~12年の民主党政権の傷跡は、国民の脳裏に残っているのだ。

問題は、自公政権の壁を突き破れるオール野党結集の成否だ

さらに直近の世論調査で、いまや立憲民主党に次ぐ支持率にまで追い上げている「れいわ新選組」(以下、「れいわ」と略す)は、山本太郎代表が全国行脚を繰り広げ、次の総選挙に向けて100~131名の候補者を全国のブロックに立候補させていく方針を甲府市の会合で明確に宣言しており、野党共闘の条件として「消費税の5%への引き下げ」は譲れない事も明らかにしている。既に「れいわ」は、共産党とは共闘していくことでも合意しており、このままいけば左の「れいわ」・共産党それに社民党(まだ未定だが、可能性ありと見ている)、中道「左」派の旧民主党ブロック、そして中道「右」派である自民・公明ブロック(維新も加わるか)という形での三つ巴の選挙戦になるのではないかと予想している。

最大の問題は、「消費税引き下げ」を是とするか否か、政策なのだ

これまでの政党支持率の状況からすれば、自民・公明ブロックに分立して闘えば、小選挙区制度を基本とする選挙制度の下では到底過半数の壁はぶち破れないわけで、左派ブロックと中道「左」派の提携ができるのかどうかが重要になってくる。それがうまくいかなくなれば、窮地に追い込まれた安倍政権は、チャンス到来とばかりに解散・総選挙に打って出ることは、十分にあり得ると見るべきだろう。それだけに、今進められている立憲と国民、さらには社会保障を立て直す国民会議等の合流話がどうなるか、という合従連衡ばなしよりも、消費税の引き下げについてどう考えるべきなのか、という政策にこそ最大の問題があることを見るべきだろう。

MMT理論に対して、成長率が金利を上回り続ける前提は大問題だ

さらに言えば、「れいわ」が消費税の引き下げとともに訴えている格差解消に向けた社会保障の充実や奨学金の無償化等教育予算の拡充、さらには公務員数の拡大といった課題を、赤字国債発行で賄えばよいという考え方の背後にあるMMT(現代貨幣理論)について、野党側としてどんな政策的な一致点を持てるのか、という事になるのではないだろうか。事態は、それほどの時間的余裕があるようには思えないわけで、今後の与野党の動きから目が離せなくなっている。MMT理論について色々と勉強中なのだが、肝腎な事は成長率(g)と金利(r)の関係について、成長率gが金利rよりも高いという事が前提になっている。

トマピケティ氏の「r>g」こそが資本主義の歴史の示している現実

トマ・ピケティ氏が、過去400年間の世界の経済の歴史を分析した結果は、金利の方が成長率を上回り続けてきたわけで、全く逆の前提条件を置いている。どうして、ピケティの結論が無視されているのか、その説明は無いようだ。確かに、リーマンショック以降の先進国の世界経済においては、金利がゼロ、あるいはマイナスになっているわけで、1%前後の成長率でもゼロよりも高いわけで、なんとかMMT理論が成り立っているように見えることは確かである。だが、いつまでもこういう状態が続くわけではないわけで、成長率よりも金利が上回り始めれば、一挙に財政危機が顕在化しハイパー・インフレとデフォルトを起こすことは必至なのだ。MMT理論について、是非ともこの一点をしっかりと理解しておくべきだと思う。危険極まりないのだ。

アメリカの「ビジネス・ラウンドテーブル」提言について、日経新聞「経済教室」の3人の主張について

今から3カ月前9月23日付の「チャランケ通信」第289号で、アメリカを代表する大企業の経営者団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が、株主至上主義を見直すと発表した事について述べたわけだが、先週16~18日にかけて日本経済新聞の「経済教室」欄で3人の識者の方達がこの点について論文を書かれている。今頃になってこの問題を特集されているのも、コーポレート・ガバナンスがいかに重要な問題であるかを示していると言えよう。今回は、この3人の人達の論文について検討してみたい。

ジョージ・セラフェイムハーバード大教授、ESG投資の重視へ

一人は、アメリカのハーバード大学ジョージ・セラフェイム教授であり、対極的な資本主義と言われていた日本とアメリカが、アメリカが「ビジネス・ラウンドテーブル」に見られるように、株主至上主義からの脱却を目指し記事目たように、今では正反対の動きを示している事に注目している。とくに、気候変動に伴う危機や社会的な不平等の拡大に目を向けなければならなくなってきており、これからの企業も投資家もESG(環境・社会・企業統治)戦略を重視する企業の株価が上昇し、将来の収益率も向上していると見ており、株主資本主義とステークホルダー資本主義の適切なバランスを実現する国が21世紀の勝者になると見ている。

二人目は、広田真一早稲田大学教授で、世界を見ると株主利益の最大化を最優先する国は少数で、大陸欧州を中心に「株主を含むステークホルダー全体」の利益を会社の目的にする国が多いと指摘している。ただ、株主第一主義で経営した国(主としてアングロサクソンの諸国)では、その行き過ぎが問題になり英国でのコーポレートガバナンス・コードの改定やアメリカのビジネス・ラウンドテーブルの声明として、ステークホルダー重視へと転換し始めたと見ておられる。それ故、日本の企業はこうした多様性について目を向けることが重要だと指摘する。

田中亘東大教授の冷ややかな論調に違和感、今の格差社会への危機感の欠如

三人目の田中亘東大教授の論文は、前の二人とは異なり、アメリカは株主利益と長期的成長の両立に成功しており、今回のラウンド・テーブル声明に対して「実質的な変化をもたらすのか疑わし」く、「脱・株主至上主義」を安易に打ち出すことは弊害が大きいとまで指摘されている。

とくに、格差是正は国が税制や再分配で行うべきであり、企業が長期的な株主利益を犠牲にしてステークホルダーの利益を守ることに期待するのは、富の創出のための企業と投資家双方の努力に水を差し、「日本経済の低成長・低収益性をさらに長引かせかねない」とまで言及されている。

再分配による格差の指摘、だが一次分配に大きな問題があるのだ

問題は、田中教授の指摘であり、社会的な問題になっている格差の問題については税制や再分配でやればよい問題だとされている点である。付加価値を生み出した中で、一次分配がどうなされるのかが大問題なのであり、労働者の賃金が下げられ、労働分配率が大きく低下させられ続けている事の是正が先ず必要になっている。その事を是正することなく、税や社会保障などによる再分配によって是正することには限界がある。もちろん、税や社会保障などによる再分配政策を重視していくことは、当然やらなければならない事は言うまでもない。

需要が飽和化した先進国の成長率低下、投資不足ではないのでは

さらに日本経済がマクロで見た時、低成長であるかどうかについても人口一人あたりや就業者一人当たりの生産性で見る時、アメリカやEUに決して引けを取っていないわけで、成長よりも分配に問題があることを指摘しておきたい。もちろん、成長が重要ではない、と言っているわけではない。既に需要が飽和化した先進国では、なかなかイノベーションが起きにくくなっている事を知っておく必要がある。成長率の低下の問題で言えば、デビッド・アトキンソン氏が指摘するように、中小企業の占める割合が大きく、そこでの生産性の水準の低さの是正の方が大きな問題になっているとも言えよう。

気になるのは、アメリカの上場企業の自社株買いの急増について、低金利での借り入れで増えた株主への還元が、より成長の高い新興企業にまわったことを示唆するマーク・ロウハーバード大教授の論文を引用されている事だ。その事によって、アメリカの生産性が大きく高まっているのであれば理解できるわけだが、サマーズ教授が指摘するようにリーマンショック以降「低成長」に陥っている事をどのように説明できるのだろうか。自社株買いによって、富裕層やストックオプションを持つ経営者層に、膨大なキャピタルゲインを齎し続けている事をしっかりと見ておくべきだろう。

本当にアメリカのコーポレートガバナンスは変わるのか、注目だ

いずれにせよ、これからアメリカのコーポレート・ガバナンスがどのような変化をしていくのか、ダボス会議でも大きな論点になるようであり、このビジネス・ラウンドテーブルに賛同した経営者の方達の実践に注目していきたい。


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