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労福協 活動レポート

2020年2月24日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第134号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

トヨタ自工労組、今年の「春闘」での決起集会を実施しない方向へ

日本の労働者の賃金水準が上がらなくなって久しい。「春闘」という言葉も俳句の季語だったことが懐かしく思われる今日この頃である。

2月20日付共同通信は、トヨタ自動車労働組合が2020年春闘で組合員の団結を呼びかける大規模集会を取りやめる方向で調整している事を報じている。報道によれば、例年3月初旬に経営側との対決姿勢を鮮明にする従来の手法を見直し、労使で議論を深める必要があると判断しているとのことだ。昨年は、賃上げ要求額や妥結額の公表を取りやめたことに引き続き、組合側は「働き方や企業風土と言った課題も幅広く話し合う場に変化してきたことを重視」しているとのことだ。このことは、後述する経団連のスタンスを労働組合としても是としているからだろうか。

今「春闘」での賃金引上げは、残念ながら期待できそうにない

いまや製造業で数少ない国際競争力を持っている自動車産業で、トップ企業であるトヨタ自動車の賃上げが日本の労働者の賃上げに大きな影響力を持つだけに、こうした変化が「春闘」終焉を強く印象付けることは間違いない。一体全体、どうしたら日本の労働者の賃金を引き上げて行けるのか、問題は深刻である。残念ながら、トヨタ労組がこのような姿勢となれば、今年の春闘での労働者の賃金引き上げは、大きな成果を上げることは難しいと見て良いのだろう。労働界に生きてきたものにとって、トヨタ労組に限らず最近の低迷ぶりには、何ともやりきれない思いが募る。

人口減少による労働力不足、賃金の引き上げに結び付かない現実

今の日本経済は人口減少社会に突入していることも在り、結果として労働力不足になっている。ところが、一向に賃金が上がらない。その事が、日本の経済の内需を低下させ、経済成長率を低下させていると指摘する専門家が多い。賃金が上がらない要因として、日本のGDPの伸び、即ち(付加価値)生産性が上がらなくなったことを上げる専門家が多いのだが、その生産性をどうしたら上げて行けるのか、それ自体が大きな問題になってくる。その点については、別途検討するとして、賃金決定における当事者たる労働組合の闘争力(組織力)の低下があげねばなるまい。先ず、その点につい取り上げてみたい。

企業別労組という弱点を抱えて出発した「春闘」の成果=「連合」へ

そもそも日本における賃金決定は、1955年の「8単産共闘」以来、民間大企業の労働組合が主導してベースアップの闘いが展開されてきた。春闘そのものは、太田・岩井主導の下で総評の民間労働組合と中立労連傘下の電機労連などが春闘共闘として組織され、その後同盟系の労働組合も「春季賃金闘争」として春に一斉に賃上げを要求し戦いを進めてきた。1960年代半ば以降、IMF・JCという金属共闘会議の存在も無視する事は出来ない。企業別労働組合という弱点を抱えながらも、高度成長の中で順調に闘いは展開され、未組織労働者も含めた日本の賃金水準を引き上げる大きな力になってきたことは間違いない。それが、社会保障給付の単価の引き上げとなって国民生活を大きく支えてきたことも指摘しておくべきだろう。

高度成長が鉄鋼や自動車、電機や化学といった重化学工業がめざましく成長する中で、賃金決定をリードしてきたのもそれらの労働組合(主要単産)であった。1960年代から70年代には世界の鋼材供給基地とまで言われた鉄鋼産業がリードし、80年代以降はジャパンアズナンバーワンをリードした電機や自動車へと賃金決定の主導権が交替したものの、民間単産主導の賃金共闘は労働戦線の統一、すなわち「連合」の結成にまで漕ぎ着けたわけだ。時あたかもバブル経済の絶頂期だった。

日経連「新時代の『日本的経営』」による非正規労働の急増=組織力・闘争力の減退へ=賃金水準の低下という現実

残念ながら、連合結成には進んだものの、バブルの崩壊以降の日本経済は深刻な不況が続き、リストラの嵐が吹き荒れる中、日経連が1995年に提唱した『新時代の「日本的経営」』で打ち出した雇用政策の大転換で、労働組合に組織化されていない非正規労働者(「雇用柔軟型グループ」と名打っていた)が激増し、労働者の賃上げは殆んど進まなくなってしまった。今日の正規・非正規格差の始まりである。このことによる非正規低賃金労働者の増大は、労働者全体の賃金水準を徐々に引き下げ続け、それから20年以上経過するものの、未だにその時の平均賃金水準は回復する事が出来ていない国税庁統計によれば、1997年の年収は467万円、2018年は441万円でしかない。。OECDの調査によれば、1997~2018年までの残業代込1時間当たり賃金額の伸びは、イギリス+93%、アメリカ+82%、フランス+69%、ドイツ+59%の伸びなのに、日本だけ-8%落ち込んでいる。お隣の韓国では、何と167%も伸びている。

製造業の国際競争力低下へ、鉄鋼・造船から電機産業まで衰退へ

この間の春闘では、本工労働者の雇用を維持することに主眼が置かれ、本工労働者の賃金水準は現状維持がやっと(年功序列型賃金による定期昇給制度で1%程度の定昇額はあるものの、賃金ベースの引き上げではない)という状況であった。マスコミからは「春闘の終焉」と揶揄されても、現実にストライキをかけてでも賃上げを勝ち取る状況からほど遠い状況だったわけだ。バブル崩壊後の労働争議件数や、争議による労働損出日数は激減している。すでにバブルの傷跡が無くなった2000年代後半には、リーマンショックに打ちのめされ、円高デフレ下の下で製造業大企業は国内での設備投資を避け、海外へと資本進出を進め、製造業の国際競争力はどんどん落ち込む。例えば、かつて世界の電機産業をリードしてきた国内電機産業では、韓国・台湾。中国の後塵を拝しているのが現状である。電機産業以前には、造船業や鉄鋼業なども国際競争力を既に低下させていた事は周知のことだろう。

2020春闘に向け、経団連は日本的雇用の見直しを提言へ

こうしたなかで、今年の春闘も既に火ぶたは切られている。経団連は、例年春闘の開始に先立って1月21日、春季労使交渉・協議における経営側のスタンスを示した2020年版『経営労働政策特別委員会報告』を発表した。その中で、経団連は「日本型雇用システムの見直し」を正面から取り上げている点に注目が集まっている。これまでの大企業の正規労働者が「メンバーシップ型社員」が中心だったものを「ジョブ型社員」も活躍できるものへと「複線型制度を構築・拡充していく」と宣言している。「メンバーシップ型」とはこれまで同様経営の中枢部まで担う人材については、終身雇用で職務を限定せず年功型賃金を維持する雇用形態で、ジョブ型とは欧米のように職務が特定され、それを遂行できる人材の補充や公募で採用していく雇用形態とされている。果たして、1995年の雇用政策の転換でも同じように「高度専門能力活用型グループ」の職務を増やすといわれていたのが、ほとんど進まなかったわけで、本当に日本型の雇用制度を大転換する意思があるのかどうか、極めて疑わしい。

果たして、ジョブ型雇用を導入できる制度的基盤が日本にあるのか

というより、こうした「ジョブ型」の雇用に転換できる条件が日本の社会にあるのかどうか、極めて疑わしいのだ。ジョブ型の雇用であれば、ジョブ=職務を職務分析できちんと定義し、その職務に応じた賃金を決定していかなければならない。そこには、職務遂行能力の良し悪しは判断されることは無く、人の評価ではなく職務の評価が前提となる。つまり、「職務給」制度を導入できるのかどうか、という事にかかってくる。しかも、その職務評価は企業内ではなく、社会的に横断したものでなければ他企業からの転入(交替)は難しい。戦後日本において1960年代に民間で職務給制度の導入が企てられても実現できなかったのは、こうした職務分析、職務評価、職務給が実現できる条件を欠いていたからなのであり、いま経団連が求めている「ジョブ型」雇用については、そうした背景を持たない中での提言でしかないように思われる。

働き方改革による「同一労働・同一賃金」は日本の現状では困難だ

働き方改革によって「同一労働・同一賃金」が導入されようとしているのだが、その内容が極めてあいまいなものになってしまったことの背景には、こうした日本の「職務」なるものの曖昧さや、「職務遂行能力」という極めて企業の主観的な人事評価が入り込んでくることがあったといえよう。

冒頭のトヨタ労働組合が「働き方や企業風土」といった事を春季賃金「闘争」において経営側と議論していくという事は、こういった問題についてどうやってつじつまを合わせるのか、という事にあると見ている。残念ながら、日本において、ヨーロッパの先進的な労使交渉の中で確立できている「同一労働・同一賃金」という考え方は、そんなに簡単には実現できる条件を日本では欠いてしまっている。それは、労働組合が「職種別社会的横断賃率」を確立できている産業別労働組合だから「同一労働・同一賃金」が実現できるわけで、そこへの転換は、一朝一夕には不可能である。企業ごとに賃金が分断され、福利厚生制度においても企業に依存してきた。住宅一つとっても、社宅制度を持ってきた大企業とそれがない中小企業があるわけで、高齢者の年金医療介護を除く現役世代に対する社会保障制度のお粗末さが、「同一労働・同一賃金」の不十分性となって働く者を苦しめているわけだ。

今の産別労組の賃金交渉に任せていては賃金・権利の向上はムリ、
最低賃金の底上げや、政労使参加の下での意思決定が必要では

われわれは、こうした日本の現実を見る限り、今の産業別(実は企業別の寄せ集め)の賃金交渉だけに任せておけば、何時まで経っても労働者の労働条件や権利の引き上げは不十分極まりないものにしかならないわけで、何らかの対策を考えるべき時に来ているように思えてならない。

一つは、デビッド・アトキンソン氏が主張しているように最低賃金の引き上げであり、直ちに時間当たり1,000円以上、出来る限り早く1,500円へと引き上げるべきだと主張したい。おそらく、中小企業や国際競争力を失いつつある産業・企業では抵抗が大きいことだろう。今や、人口が減少し始めてきた日本にとって、労働力は貴重な資源である。その貴重な人的資源に対して人間的な生活の出来る賃金を支払えない企業には、退出願う必要がある。こうして、企業が生産性を向上させるために努力しなければならないインセンティブを組み込むことで、生産性の向上へと結び付けていくべきなのだと思う。

その際、企業倒産が出てくるわけで、そこから排出される労働者の失業手当や新しい職業への転換に向けた職業訓練など、「積極的労働市場政策」とセットで実施していく必要があることは言うまでもない。

と同時に、一番肝心なことは、こうした労使の問題を個別資本の枠を超えてマクロの公共政策として解決しなければならないわけで、そこで必要なのが政・労・使の会合による意思決定だろう。経済財政諮問会議をはじめかなりの政府の審議会の場で、労働組合の代表が入らないでマクロ経済政策が議論され決定されている。これを大きく変えてILOの原則に則り、政労使三者構成とすべきである。連合も経団連も、一体となってその実現に向け努力すべき時ではなかろうか。


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