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2020年12月21日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第173号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

アメリカ大統領にバイデン氏、順調な船出を阻むかトランプ陣営

アメリカ大統領選挙の結果がどうやら確定したようだ。バイデン氏は78歳という高齢で、議会の経歴が長くあまり派手なパフォーマンスは得意でなさそうだ。温厚な人柄には定評があるようだが、待ち受けている情勢はなかなか険しいものがある。

何よりもトランプ氏が次の大統領選挙への立候補を、1月20日バイデン氏の就任式を欠席してフロリダで表明するとの報道もあるようだ。7,400万票獲得した熱烈なトランプ支持者の存在は、なかなか冷めそうにはない。彼らの多くは、長い間に進んだグローバル化やデジタル化の流れに取り残された労働者が多いといわれ、本来であれば民主党の伝統的な支持者であったはずの労働者層に属する人たちだ。5大湖周辺のラストベルト地帯がその典型で、石炭、鉄鋼、自動車といった重化学工業に従事していたが、グローバル化の下で途上国の追い上げによって産業が衰退し、ともすれば忘れ去られがちな人たちであることに胸が痛む。デジタル化の進展は、こうした人たちを飛び越えてそれに対応できたものだけが高所得にありつける。だが、そういう恵まれたものは極めて少ない富裕層だけでしかない。民主主義を支えていた中間層がやせ細り、世界的なポピュリズムの広がりが誰の目にも明らかになってきた。

当面最大の焦点、ジョージア州の上院議員選挙2議席の行方だ

問題は、これから4年間、激しい選挙戦の対立の余韻はまだまだ残っているし、三権分立のはっきりしているアメリカにとって、大統領の権限も議会上下両院との関係でなかなか思うように発揮できにくくなっている。政局を左右することになる一大イベントが、就任式直前の1月6日に投開票されるジョージア州で、欠員となっている2名の上院議員選挙である。今年の大統領選挙と同時に闘われた上下両院の議員選挙で、当初の世論調査では民主党の躍進が予想されていたものの、ふたを開けてみると下院でも共和党が議席を伸ばし、上院では共和党50議席、民主党48議席で、下院では辛うじて民主党多数は維持できたものの、上院ではジョージア州の2名がどちらに転ぶのかによって、議会運営の行方が決まってくる。仮に2人とも民主党が勝って50対50になれば、可否同数案件は副大統領が1票を投じて決着するわけで、それだけにジョージア州の2議席は今後の議会運営にとって値千金なのだ。

どちらの政党が議席を獲得できるのか、まことに重大な影響を持つ結果となることは間違いない。もっとも、アメリカの連邦議会では、政党による党議拘束が日本ほど厳しくないとも言われており、それだけに、重要法案や人事案件などにおいて、様々な駆け引きが展開されていくことだろう。時には、共和党から閣僚を任命することすらあり得ない話ではなくなると言われている。

バイデン政権4年間は難問山積、トランプよりましという事か

こうした議会内のせめぎあいで、バイデン政権は立ち往生することも予想されるわけだが、肝心の民主党内でのサンダースやウォーレンといった左派との路線対立の火種も残っているだけに、これから4年間の大統領としての手腕が注目されるところである。もっとも、国内的な要因だけでなく、対中国やロシアをはじめとする諸外国との関係改善でも、それほど大きな期待は持てる条件はなさそうで、見通しは厳しそうである。なんとも、バイデン政権の船出は難問山積のようだが、トランプがさらに4年も続くよりはましだ、というところなのだろうか。

アメリカ経済・社会が抱える課題の行方はどうなるのだろうか

そうした中で、バイデン政権となったら「株主第一」という考え方が転換されるのではないか、とみられている。既に、2019年夏日本でいえば経団連に相当するビジネス・ラウンドテーブルが、株式会社は「株主第一主義」から「ステークホールダ―第一主義」へと転換を宣言していたわけだし、バイデン氏自身、桁外れの貧富の格差と分断を生んだ株主第一主義を問題視してきており、「公平な経済」「中低所得層の賃上げ」を公約として掲げてきた。どのようにしてアメリカの資本主義の体質を変えていけるのか、考えてみたい。

1980年以降、アメリカ社会の貧富の格差が拡大し続けてきた

いまアメリカの問題と言えば、巨大な多国籍企業であるGAFAと呼ばれる巨大テック企業の問題であろう。これら巨大な多国籍企業CEOの巨額の報酬・資産が膨れ上がり、少数の超富裕層と大部分の中産階級・労働者との巨大な格差が問題視されている。エマニュエル・サエズ氏とザブリエル・ザックマン氏の共著『つくられた格差』(2020年光文社刊)によれば、1978年から2018年までの富裕層である上位所得1%と労働者層(下位50%の中低所得層)の国民所得に占める比率の推移をみると、1978年には富裕層は10%そこそこで労働者層は20%だった。それが40年後の2018年には逆転して富裕層が20%を超すのに中低所得層は10%そこそこでしかない。このわずか40年間で極めて巨大な格差社会が出現したことをこの数字は物語っている。

サエズとザックマンはもっと細かく所得階層の上位400人と労働者層である下位50%の支払っている所得に対する税金(この中には連邦・州・地方自治体の税や日本でいえば社会保険料が含まれる)の比率の推移を図示し、何とわずか400人の大富豪が納める税率のほうが、国民の半分の労働者階層が納める税率よりも低くなっている。こうした貧富の格差の拡大は、間違いなく1980年代になってから、もっと明確に言えばレーガンが大統領になって以降急速に進み、リーマンショックを経ても大きく変わることなく格差は拡大し続けていったわけだ。

レーガンによる税制改悪、所得税の最高税率を28%へ、資産性所得は税率を軽減。新自由主義路線の全面展開へ

どうしてそんなに格差が拡大したのだろうか。それはレーガン政権以降の政策思想の大転換が繰り広げられ、「政府が何をするのかが問題ではなく、政府そのものが問題だ」として小さな政府路線による民営化、規制緩和、市場原理主義の嵐が吹き荒れていく。その中で、税制の世界では所得税の累進課税で最高税率が70%台から1986年には何と28%へと急速に引き下げられていく。それだけでなく、法人税率もグローバル化の下で世界各国の引き下げ競争に巻き込まれ、タックスヘイブンや法人税率の低い国に本社を移転する動きも加速する。さらに、所得の内でも株式配当やキャピタルゲイン、利息収入といった資産性所得は勤労所得よりも低い税率で課税されるなど、税負担は富裕層に軽く、働く労働者階層には重く課税されて今日に至っているのだ。

日本でも追随した税負担の流れ、労働者層に重く富裕層に軽く

この傾向は、残念ながら日本も例外ではないし先進国にほぼ共通している。しかも、税を如何に支払わないで済むようにできるのか、世界に君臨する4大会計事務所を中心に租税回避産業が富裕層や企業に食い込んでいるのだ。レーガン大統領時代には、「租税回避する人は悪人ではなく、善人だ」「課税こそ窃盗だ」とまで喧伝される状況だったという。

こうした税制を根本的に改革することなくして桁外れの貧富の格差を解消することはできないわけで、サエズ・ザックマン両氏は所得税の累進性の回復と同時に最高限界税率を75%にまで引き上げを提唱する。さらに、フローの所得だけでなくストックの資産に対する課税の強化も主張している。

問題は新自由主義的な経済政策思想の転換の必要性なのだが

問題は、このような税による所得・資産格差の拡大をもたらしたのが、経済思想でいえば新自由主義的な経済思想が広がったことにあるわけで、所得税の累進性の回復や資産課税の強化を進めていくためには、経済政策の思想の転換がなされなければなるまい。レーガン革命とまで言われたサプライサイドの経済学から、もう一度需要サイドの経済学へと経済政策思想の大転換が求められていると言えないだろうか。

バイデン大統領が、レーガン大統領によって大転換させられた経済政策思想を、もう一度元に戻すだけの迫力を持っているのか、サンダースならいざ知らずバイデン大統領には残念ながら多くを期待はできない。おそらく、富裕層に対する所得税率の僅かばかりの引き上げ程度でお茶を濁されるのが関の山と予想される。

GAFA時代における独占禁止法(FTC)の適用が進み始めたアメリカ

他方で、GAFAに対する米連邦取引委員会(FTC)の反トラスト法違反の疑いによる提訴が始まっている。20世紀初頭、スタンダード石油の分割といった独占の弊害に対する厳しい姿勢は健在のようで、「違法な独占」の定義を次のように拡大する方針を明確にしたとフィナンシャルタイムズのラナ・フォルーハーコラムニストが「フェイスブック提訴の意味」(日経新聞18日)述べている。

「消費者の幸福は物価の低下だとする新自由主義的な発想を超えて、利用者の『時間や関心、個人データ』が統合され不公正に販売されている事態を問題視している」

グローバル化、デジタル化の下で拡大する不平等も阻止すべき時だ

だとすれば、20世紀の初頭に累進所得税の導入を憲法改正してまで実現した歴史を思い起こすべきではないだろうか。累進所得税の導入の1913年には最高税率は7%からスタートし4年後の1917年には67%へと引き上げている。背景には戦時経済への対応だけでなく、不平等化阻止という理念がしっかりと埋め込まれていたのだ。今、アメリカ社会で起きていることで驚くべきことは、平均余命年数が低下し始めているとのことだ。先進国で戦時以外に平均余命年数が低下した事例は、ソ連邦が崩壊した1990年代のロシアで見られた以外にはないとのことだ。背景にはアメリカ特有の医療保険制度の不備もあるのだろうが、何よりも貧富の格差が大きく左右していることは間違いない。

翻ってわが日本を思うとき、アメリカ社会を追随し続けてきたことのつけが出始めているように思えてならない。今一度、歴史に学んでみる必要があると思う。

今年の通信は、この351号までで1回おやすみとします。来年もまたよろしくお願いいたします。


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