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労福協 活動レポート

2021年6月21日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第198号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

東芝の株主総会はどうなるのか、経産大臣の無責任さは目に余る

今週25日は、注目の東芝株主総会が開催される。先週号で報じた臨時の株主総会の議決に基づく外部の弁護士による「調査報告書」がマスコミなどで大きく取り上げられたことを受け、予定していた取締役の人選で13名の候補中2名を除くという異例の措置を東芝側がとるものの、主として海外株主の反発が持続しており、株主総会でどのようになるのか予断を許さないようだ。なにせ、東芝の海外株主の比率は60%超えていると言われており、その多くはアクティビスト「物言う株主」とのことだが、どんな株主構成なのかは知られておらず、定かではない。

一方、梶山経産大臣のこの問題に対する発言には、当事者としての責任が全く感ぜられない。調査報告書によれば、東芝は昨年の株主総会において、アクティビスト(物言う株主)対応について経産省に支援を要請し、両者は一体となって対応したし、経産省は物言う株主側に対し、改正外為法に基づく措置が取られる可能性を示唆したり、当時の経産省参与が接触したことを明らかにしている。つまりこの調査報告書で、東芝側は経産省と一体になって株主提案権や議決連行使を妨げようと画策したと認め、株主総会が公正に運営されなかったと問題指摘したわけだ。

経済産業省、きちんとした調査を実施し国会に報告すべきである

この調査報告書が出される前の5月、衆議院の経済産業委員会で通産省の商務情報政策局長が「経産省から(元参与に)個別投資家の議決権行使に対する働きかけを依頼したことはない」と答弁しており、その答弁と全く逆の「介入した」とする会社法に基づいた調査報告書が出されたわけで、経産省としてもその食い違いを調査し株主・国民に明らかにしていく義務がある。にもかかわらず梶山経産大臣は18日になって、海外株主の情報を東芝側に渡していたことを認めたものの、広く配られた機密性のない文書だったとして、情報提供した経産省元参与の国家公務員法の守秘義務違反には当たらないとしている。

本当にそうだったのかどうか、経産省としての調査をすることもなく、問題はないと強弁し続けているわけで、日本のコーポレートガバナンスの在り方に対して大きなダメージを与えていることの大問題を指摘しておく必要がある。菅総理についても、昨年の株主総会当時は官房長官時代であったが、東芝問題についての発言が疑われると調査報告書にはあるわけで、一国の最高責任者の問題としても事実の解明を求めていく必要がある。

金融緩和が継続している今日、アクティビストの暗躍は目に余る

残念ながら、16日で国会は閉幕し、今のままではオリンピック・パラリンピックを強行開催後に解散・総選挙が実施されることになりそうで、事実の解明は総選挙後にならざるを得ない。この種の問題について、喉元過ぎれば熱さを忘れてしまうことが多かったわけだが、日本の企業社会にはアクティビスト(物言う株主)たちが、規制らしい規制が殆んど無い中で、ただひたすらカネの臭いを嗅ぎつけて自由気ままに動き回り続けている。東芝においても、前社長だった車谷氏もイギリスの投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズの出身であり、そのCVCから東芝の上場廃止を提案されて混乱を起こし、車谷氏の退任になったわけでアクティビストたち相互の暗躍が目立つ。こうした株式取引による利益獲得の動きが活発化しており、とりわけ、日銀による金融緩和が続けられる中、村上ファンドやホリエモンらが暗躍した2000年代初頭時よりもその規模を拡大させており、結果として一部富裕層(どこの国のものか不明)の利益を拡大させているわけだ。

国会での真相解明と会社法の改正問題に着手すべきではないのか

東芝は、しゃにむに進めた6000億円の緊急増資によって、そうしたアクティビストたちの食い物にされているわけだが、日本における会社法の在り方を改正することによって、こうしたアクティビストがワガモノ顔で暗躍している弊害を正しく排除できるよう、経済産業省は金融庁(財務省)や法務省などと提携して金融資本主義社会における会社法改革を急ぐべき時ではないのか。このままであれば、世界のアクティビストたちが日本の株式会社めがけて総攻勢をかけて食い物にしてしまいかねないわけで、手を拱いている余裕はない。

政治の世界でも、こうした問題を厳しく問うていく必要があるのだが、野党側の厳しい批判が聞こえてきていないのが誠に残念である。

経産省が東芝にここまで介入しているのは原発問題があるからか?!

経産省がここまで東芝の問題に介入している背景に、東芝が原子力発電にかかわっているからではないか、とみる必要がありそうだ。3.11福島原子力発電所の事故以降、新規に発電所を建設する動きは出ていないが、これまで稼働していた原発の再稼働に向けて原子力規制委員会の審査が実施され、少しずつ再稼働が進められてきている。そのメインテナンスだけでなく、廃炉の問題も含めて今後とも原発問題は東芝も含めて重要な仕事として継続していく必要があることは間違いない。脱CO2に向けてその切り札と思っている経産省として、原発の再稼働は当然のことだと思っているのだろう。原発について、その再稼働を従来より厳しく審査しているとは言うものの、本当に大丈夫なのだろうか。

樋口英明元福井地裁裁判長の『私が原発を止めた理由』を読んで

そんな思いを持ちながら、元福井地方裁判所裁判長で2014年5月福井県にある関西電力大飯原子力発電所運転差し止め訴訟において、「運転差し止め判決」を出した樋口英明氏が書かれた『私が原発を止めた理由』(2021年4月旬報社刊)を読んで衝撃を受けた。樋口元裁判長は、この本の「はじめに」の中で原発の運転が許されない理由が書いてあり、それは次のように極めてシンプルなものである。

「第一 原発事故のもたらす被害は極めて甚大。
第二 それ故に原発には高度の安全性が求められる。
第三 地震大国日本において原発に高度の安全性があるということは、原発に高度の耐震性があるということにほかならない。
第四 我が国の原発の耐震性は極めて低い。
第五 よって、原発の運転は許されない。」

樋口さんがタブーを破ってまで書いた理由、耐震性に問題あり

本来裁判官だったものは、自分がかかわった事件については論評することはほとんどと言ってよいほど無いのに、なぜ自分がそうした伝統を破ってまで原発について話をしなければならないかと問う。その点について、「専門家でもない私の目から見ても、原発の危険性があまりにも明らかだから」と述べておられる。この本を読むのにも高校生の知識で十分理解できるものになっている、とも述べておられる。実際、3時間足らずの短い時間で一気に読み終えることができたし、樋口元裁判長が指摘されている事実を読む限り、日本の原子力発電所の耐震レベルの余りの低さに驚かされる。

地震の大きさや強度を示すのに、マグニチュードがあり最高はマグニチュード10で東日本大震災はマグニチュード9の巨大地震だった。もう一つは、地震の揺れの強さを示す震度で最高は震度7だとされている。福島第一原発を襲った時は震度6とされている。もう一つ震度のほかにガルという加速度を表す単位があり、震度7は1500ガル以上に対応している。ただし、3000ガルも震度7だし、5000ガルも震度7である。このガルという単位は原発の耐震設計基準に用いられている単位で、地震観測においても震度以上に重要な単位だとされている。

日本全国の耐震調査ネット網は1995年の阪神淡路大震災以降整備

マグニチュードや震度数、更にガル数が日本全国で広く計測され始めたのは1995年の阪神淡路大震災以降のことで、2000年以降が全国的に計測ネット網が張られることになったわけで、以下に述べる数値も2000年以降のものであることに注意してほしい。

日本の原発耐震性、震度6程度でガル数は基準以下という酷い実態

そのガルで見て、過去日本で起きた地震の最高のガル数は、2008年の岩手・宮城内陸地震でM7.2、4022ガル、2011年3月の東日本大震災で2933ガルでM9、2004年新潟県中越地震の2515ガルでM6.8と2000ガルを超えるものが3つあり、1000ガルを超える地震は17回、700ガルを超えるものは30回記録されている。

なぜこのような数値を明らかにしているのかと言えば、日本の原発の建設当時の耐震基準は静岡県の浜岡原発の600ガルが最高で、3.11事故当時は新潟の柏崎刈羽1-4号機の2300ガルだが、他の原発は1000ガル以下でしかなく、2018年3月段階では浜岡原発の1200-2000ガルと柏崎・刈羽6-7号機の1209ガルそれに茨城県の東海第2の1009ガル以外は1000ガル以下でしかない。

この程度のガル数は震度でいえば6強で830-1500ガル程度、震度6弱で520-830ガル程度で原発の耐震基準を上回るわけで、何も巨大地震だけが日本の原発にとって脅威なのではなく、震度6程度の毎年のように襲ってくる普通の強い地震でも原発の耐震基準を上回ってしまう事実をしてくされる。

耐震基準を絶えず引き上げた家屋の基準ガル数の高さに驚かされる

さらに、耐震基準でいえば、日本の家屋の耐震基準は毎年のように引き上げられ、今では三井ホームの耐震基準が5115ガル、住友林業は3406ガルとなっていて、日本の原発は家屋の耐震基準にも満たない脆い基盤の上に出来上がっているのだ。こんな危ない耐震基準を前提に原発の再稼働がまかり通り始めているわけで、それを見過ごすことは絶対にできないのだと断言されている。

より詳しい説明や、震度数とガル数の関係などはぜひ本書を手に取って読んでほしいのだが、こうしたあまりにもひどい耐震基準で安全だと再稼働させる原子力規制委員会・経産省に対して、本当にそれで国民の安心・安全は守られるのですか、と厳しく問いただしたいと思う。

総選挙を前に、すべての国民に是非とも一読して欲しいものだ

それにしても、樋口英明元福井地裁裁判長の勇気のあるこの出版に対して、心から敬意を表すとともに、すべての国民にこの本を読んでいただきたいと思う。


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