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労福協 活動レポート

2021年10月18日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第214号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

引退した大島理森衆議院議長、「衆参ねじれ」という難問を提起

岸田内閣は14日に解散・総選挙に打って出た。公示が19日、31日が投開票日という慌ただしさ、選挙対策上自民党に有利だと判断しているからだろう。21日が衆議院議員の任期満了だったわけで、珍しく4年間の任期を全うしたわけだ。

今国会で引退する政治家のインタビュー記事が、日本経済新聞10日付「引退議員に聞く」に掲載されていた。取り上げられていたのは歴代最長の衆議院議長だった自民党の大島理森氏である。青森2区選出、当選12回、まだ75歳という後期高齢者になったばかりの県会議員出身の党人派で、リベラルな考え方をお持ちであった。県議の前は。毎日新聞の記者だったとか。

小沢代表の「大連立」提起、急遽上京の時に大島・安住氏と同席

大島議長とは、一度だけ東北新幹線でお話したことがある。2007年の秋、参議院選挙で自民党が大敗し安倍内閣から福田内閣へと変わって1か月ぐらいたった時、民主党の代表小沢一郎氏が、突然自民党との大連立政権を進めるということで、急遽両院議員総会が開催されることになった。私は、当日函館から青森に向けて知人に会いに行くところに電話が入り、そのまま新幹線で上京する時だった。同じ車両に、安住衆議院議員(現立憲民主党国会対策委員長)も途中から同乗し、3人となったところでいろいろと話が進んだことを覚えているが、何を議論したのかは記憶が定かではない。ただ。大島理森議員はリベラルな方で、気さくで話しやすい人だと感じたことだけは記憶している。

その大島議長が引退するにあたって述べておられることの中で、その時の小沢大連立構想との関係があり、大変重要な論点が指摘されている。つまり、衆参での「ねじれ国会」という問題をどう解消していけるのか、という点である。大島氏は次のように述べておられる。

「07年に衆参で多数派が異なる『ねじれ』が生じた。日銀の総裁の人事など野党の徹底的な抵抗は当時の国会対策委員長として本当に悔しかった。自民党は09年の衆院選挙で負けた。国会同意人事を巡り。衆参で違う意見を持った時の対応は今の制度のままでよいだろうか。立法府として結論を出すため、国会改革の中で議論していただければよい。」

繰り返す衆参ねじれ国会、参議院選挙での与党敗北がもたらす現実

まさに、大島理森国対委員長時代に苦労された「ねじれ」問題解消に向けた大連立政権問題で急遽上京するときにお会いしたわけで、同乗したのが安住現国対委員長だったのも、何やら因縁めいている。結果的に、民主党内で大連立は賛成論をぶつものは誰一人いなくて否決され、小沢代表は、一度は辞任するものの翻意して再び代表にとどまり、以降は与野党対決路線へと突き進んで09年の政権交代へと結果する。その1年後の参議院選挙で菅直人総理の下敗北し、攻守所を変えて衆参ねじれが現実化する。

同じ引退議員に対するインタビュー記事は毎日新聞(14日付)にも掲載され、やはり大島氏は衆参「ねじれ国会」の苦い経験に触れられ、どう解決していくべきなのか、後輩の政治家たちに問題提起されている。今後再び、同じ問題に与野党が直面する可能性は大いにあるわけで、大変重要な問題提起だと言えよう。

問題は参議院の権限が強すぎにある、権限を弱める合意が可能か

私のこの問題での考えは、参議院の権限を弱めることで合意ができるかどうかにかかっていると思う。つまり、参議院の権限が強すぎるのだ。総理大臣の指名、予算の議決、条約の承認には衆議院の優先規定があるし、一般法案でも参議院で否決されれば衆議院で3分の2の賛成があれば可決できる。福田内閣時代には自民・公明両党で衆議院3分の2以上の議席を確保できていたわけで、時間は多少かかるが法案まではなんとか可決できたのだが、民主党政権時代のねじれは、衆議院での与党勢力が3分の2を確保できていないため、文字通り何も決めることができなかった。ただし、国会同意人事の承認は衆参で対等であるため、福田政権時代の日銀総裁が決まらなかったという大森前議長の苦い経験があったわけだ。リーマンショック直後の金融混乱の時だっただけに、日銀総裁が任命されなかったことのもたらした衝撃はとても大きかった。

「両院協議会」で改革難航、大連立で与野党合意の道か、改憲か

では、どうしたらよいのか、憲法には両院協議会の規定があり、私自身も加わった与野党の協議の場で、それを工夫することで難局を乗り越える努力をしたことがあるが、なかなか名案は出なかった。やはり、憲法改正にまで行き着く必要があるわけだが、そうなると9条を含めて大問題になり一筋縄ではいかない。

できれば、大連立政権が出来上がる時に、国難ともいえるGDPの2.5倍にも達する巨額の財政赤字問題とともに、統治機構の要である二院制の問題も含めて参議院の権限を弱めることを提案することだが、肝心の参議院議員がそれで満足するかどうかにかかってくる。衆議院と違って解散されることなく3年ごとの半数改選で選出されるわけで、衆議院とほぼ同等の権限を持つことが許されるのかどうか、参議院として大島議長の問題提起をじっくり考えるべき時ではないだろうか。

伊吹文明元議長も引退、財政赤字の齎している弊害への適切な指摘

同じく今回の引退議員の中には、伊吹文明元衆議院議長もおられる。毎日新聞紙上で保守は「自分は間違う」ことがありうるという趣旨の保守政党の矜持を語っておられるのだが、財務省出身でもあっただけに、昨今の財政赤字問題に言及される。

「我々は間違えるという、保守の立場からも後身の選択権を奪う国債残高増加は問題だ。今でも予算の20%強は国債費だ。これは、私たちが納めている税金の使い道の20%強を、今に生きている者の意思で決められないことを意味する。これは世代間の在り方として良くない。だから自民党の綱領には『国債残高の減額に努める』と書いてある」

さすがの指摘ではあるが、もう一つ私が付け加えたいのは、国債費の多くは富裕層の方達に利息付きで必ず優先的に返されるわけで(そうでなければデフォルトとなる)、時には『増税なき財政再建』の名の下で、社会保障費や教育費の削減にまで直結することも指摘しておくべきだろう。つまり、逆累進性を持つことになるのだ。与野党ともバラマキと言われる財政支出を赤字国債発行で進めようとしているわけだが、こうした問題をどれだけ意識しているのだろうか。学者・専門家の方達の中にも、こうした点を自覚しておられないのではないかと思える時がある。

赤松副議長、民主党の消費税率引き下げに警告、90年消費税選挙で初当選という歴史の重みか

伊吹元議長まで言及した以上、野党出身の赤松副議長の発言にも触れておきたい。それは、「立憲民主党が主張している消費税の引き下げはやるべきではない」という主張である。1990年の総選挙で初当選して以来、社会党、民主党、そして今の立憲民主党と政治の世界を遍歴されたわけで、消費税の重要性に強い思いを持たれているからだろう。赤松前副議長のこの言葉がやけに頭に残っている。

それにしても、今の立憲民主党の今回の総選挙の公約の中で、消費税率の引き下げと並んで1000万円以下の所得税を実質免除となる減税を実施するという点は、どうにも理解できない。今の労働者の所得の平均値は400万円前後でしかなく、扶養家族の如何では大部分の労働者には減税のメリットはない。かなり裕福な所得の方達にはメリットはあることは確かだが、それが本当に今の経済を活性化するのに役立つのかどうか、大いに疑問だろう。とても賛成はできない。

今年もノーベル経済学賞に日本人が選ばれなかったことについて

今年のノーベル賞受賞者が、11日の経済学賞を最後にして6つの賞すべてが確定した。日本人の受賞者も、物理学賞で真鍋叔郎プリンストン大学上席気象研究員が選ばれたが、日本の大学からアメリカに移られてコンピューターを自由に駆使して、地球の温暖化問題についての研究で大きな功績が評価されている。日本にいてはとても成果が上げられなかったことは、真鍋さんの受賞の時の言葉として印象に残っている。日本人として、なんだか嬉しいような情けないような複雑な気持ちにさせられた。

それでも、ノーベル賞6部門の内、日本人が未だに受賞できていないのが経済学賞である。今年も、残念ながらプリンストン大学の清滝信宏教授がノミネートされていたそうだが受賞には至らなかった。なぜノーベル経済学賞の受賞が難しいのか、毎日新聞10月13日付の記事で「ノーベル経済学賞 米の壁」「英語圏が研究の主戦場」という見出しがつけられ、アメリカが世界経済の中心になっているだけに、「資本主義のほかの国々、特に米国を中心とする英語圏の研究者が関心を持ちにくいテーマだと、なかなか取り合ってもらえない」ためだと堀雅博一橋大教授の言葉を引用する。この記事を書いた松倉祐輔記者は「ノーベル経済学賞の厚い壁はいつか破られる日が来るのか、その日は間違いなく、日本の経済学にとって大きな転機になるはずだ」と結んでいる。

ノーベル経済学賞は何故1969年に設定されたのか、その意図は

はてさて、ノーベル賞なるものは、アルフレッド・ノーベルが生前に設けた中には経済学賞は入っていなかった。設立されたのは1969年からで、設立名称は「アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞」である。その設立の背景には、スウェーデンではアメリカなどで経済学の主流となっている新古典派の経済学ではなく、ミュルダールなどが主導し福祉国家を作り上げたケインズ経済学の流れが大きな影響力を持っていたために、世界の経済学の主流はスウェーデン国内では非主流だが、新古典派の流れをくむ供給サイド重視の経済学なのだ、ということをスウェーデン経済界の人たちは国内向に宣伝する意味が強かったのだと言われてきた。

そのこともあり、ノーベル家の子孫たちはノーベル賞の対象から経済学賞を外すよう再三にわたって抗議してきた歴史がある。受賞者の歴史を紐解いてみるとき、ハイエクやフリードマン、更にはルーカスなど市場原理主義的な経済学者が多く名を連ねているのは、それこそが世界の経済学の主流なのだということを世界に向けて発信してきたわけだ。もちろん、アマ―ティア・セン氏やスティグリッツ氏など、主流派とは異なった学者も時に受賞することがあるが、順風満帆の経済ではなく深刻な経済に陥った時に非主流派の経済学者が受賞することがたまにある程度だ。

今年受賞者3人の業績、最低賃金引き上げの有効性はタイムリーだ

今年の受賞者は米カリフォルニア大学バークリー校のデービッド・カード教授ら3人が選ばれたわけだが、最低賃金の引き上げが雇用に悪影響を与えるという俗説を論破されたもので、格差社会における低賃金の引き上げにとって大きな影響力を与えたことは間違いないし、タイミングの良い受賞となっている。日本人から受賞が出ることは嬉しいことなのかもしれないが、その由来や受賞者の顔ぶれから見たとき、必ずしも心から喜んでいいノーベル賞とは限らないことを自覚しておくべきだろう。


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