ホーム > 労福協 活動レポート

労福協 活動レポート

2022年6月20日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第247号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

22日からの参議院選挙、野党共闘不在で岸田政権は安定化か?

国会は先週15日に150日間の会期を終え、今週22日公示、7月10日投開票となる参議院選挙に突入する。今のところ各種世論調査にみる岸田内閣の支持率は高く、与党である自民・公明両党は安定した過半数の維持に必要な議席の確保は実現できる見通しに立っているようだ。それには、32ある1人区の野党側の結束が実現できず、大半の自公共闘の与党統一候補に勝てないことが前提とされているし、政党支持率を反映する比例代表区でも、自民・公明両党の支持率はコロナ禍の落ち着きもあり、今なお堅調さを維持し、順調に議席を確保する見込みとのことだ。もちろんこれから投票日までの間、何が起きても不思議はないわけで、各党の激しい選挙戦が展開されていくことは間違いない。

直近の毎日新聞6月18日世論調査では、岸田内閣支持率が48%と5月に比べ5ポイント下がって5割を割りこみ、不支持率も44%と7ポイント急上昇している。物価問題が大きく影響しているようで、円安と並んで政局の焦点に物価が浮上しつつあるようだ。

「安定化」した岸田政権、結局はアベノミクスへと舞い戻るだけ

岸田政権は、衆参ともに過半数を確保できたら、何をどのように実現していくのか、本来であれば選挙前に明らかにすべきだろう。「新しい資本主義」というスローガンを前面に出しているが、昨年秋の総裁選挙時にはアベノミクスに対抗するものとばかり思ってきたのに、アベノミクスの象徴ともいえる「三本の矢」をそのまま「骨太の方針2022」の中に取り込むなど、何をこれからやりたいのかさっぱり分からなくなっている(この点について東洋経済の野村明弘コラムニストの「岸田政権の骨太方針に『アベノミクス復活』の奇怪」(東洋経済オンライン6月14日 https://toyokeizai.net/articles/-/596608)を参照して欲しい)。世界的に進むインフレの下で、一人日本だけが金融緩和を継続する中での円安の進展、この間の新自由主義的政策による格差社会の矛盾拡大、人口減少が続く中での全世代型社会保障を実現するために必要とされる制度改革や肝心要の財源の裏打ちナシ等、様々な課題に対する与野党の本格的論戦こそ国民が期待しているのではないだろうか。

多くの国民は可処分所得が増えても預貯金増やして生活防衛へ

こうした選挙戦を前にして、日本経済新聞の6月17日の記事「日本の家計、緩まぬ財布、エネルギー除き物価上昇0%台」を読んでいて気になった。総務省調査によれば、2人以上の勤労者世帯の可処分所得は2021年の平均月額49万円強で、10年前に比較して約7万円増加している。だが、この10年間消費支出は月額31万円でほとんど増えておらず、増えた収入の大半が貯蓄(5万円から15万円)へと回っている。政府がきちんと経済社会へのビジョンを示し国民を納得させなければ安心してお金を使うことはできないとのべ、参議院選挙での与野党の政策の在り方を問うている。選挙では与党側が成長戦略(この点については後で触れていく)を前面に出していることが目立つのだが、先に触れたように財源の裏付け無き財政投入が目立つ。その点ではやはり無責任だと言わざるを得ないし、選挙後に大判振る舞いに向けて走り出す危険性を指摘しておくべきだろう。

社会保障目的の消費税5%への削減を持ち出す一部野党勢力の堕落

他方、より深刻なのは野党側である。私が一番問題にしたいのは、バラマキ色の濃い公約が目立つことであり、特に立憲民主党、共産党、社民党、れいわ新選組の4党が消費税率の5%への引き下げを共通公約の一つとして打ち出している事だろう。何のために消費税減税をするのだろうか。物価が上昇しているからであり、国民の消費を減らさないためには可処分所得の引き上げにつながる消費税減税が一番効果的だからだ、という主張のようだ。先にみたように、国民が預貯金を増やして消費支出を増やしていないのは、医療や介護、更には子育てや老後の生活といったリスクに対して、今の社会保障制度では不十分でしかないからではないだろうか。結婚をし、子供を産み育てていこうとする若者にとって、今の日本の現実はあまりにも厳しい実態にあることにこそ政治家は目を向けるべき時ではないだろうか。

おそらく、消費税を引き下げた分は、一部の低所得層は別にして多くの国民は、そのまま預貯金に振り向けられると想定されるわけで、むしろ多くの人たちが求めている社会保障の充実に向けて、国民がいざという時に備えている預貯金を社会保障財源として負担してもらうことこそ求めるべきであり、社会保障充実を求めるべき野党(?)として消費税の削減は無責任ではないだろうか。削減の代償として社会保障費の差削減に求めることは火を見るよりも明らかではないか。もちろん将来負担を増やす際には、低所得で困窮している低所得層への別途の手厚い配慮が必要になることは言うまでもない。

全世代社会保障構築会議で進む改革案作り、財源問題こそが鍵だ

消費税は、この通信で何度も繰り返して恐縮だが、民主党政権時代に自民・公明3党で社会保障財源として年金・医療・介護、それに子育てを加えた4分野に支出することを決めてきた実に重たい歴史がある。これから、岸田内閣になって進めてきた全世代型社会保障制度構築会議において、子供を産み育てていくことができるような制度の充実や、働いている人たち(フリーランスやギグエコノミーに従事している人も)全てが国民皆保険制度のもとに包摂されるべき課題をはじめ、これからますます社会保障分野の充実が待ったなしで迫ってきていることを「中間報告」として取りまとめている。必要とする財源規模の試算もこれからの課題であるが、かなり充実したものにしていくためには財源問題がカギを握る。

消費税は年金・医療・介護・子育てという4経費に充当していくこと決まっており、これからの少子化対策に向けた本格的な財源づくりには各保険からの拠出金で賄うべきとの有力な意見も出始めている。だが社会保障4経費の目的税として位置づけた財源である消費税を半減させるという暴挙には、どうにもならない怒りを感じて仕方がない。政権を目指そうとする野党であれば、財源問題でこれほど無責任極まりない公約を提起することは、中長期的には間違いなく国民からの批判を受けることは必至であり、民主党政権の無責任な財源問題の反省はどこへ行ったのか、と厳しく問わざるを得ないのだ。日本における政権交代可能な民主主義が実現できないのは、目先の選挙での実現可能性や持続可能性のない「甘い公約」に固執し続ける「無責任な野党」の存在にも原因があることを指摘せざるを得ない。

与党の経済成長重視路線、先ず今までの成長政策の厳しい総括を

さて、与党側の経済政策についても問題を指摘しておく必要がある。それは、これまでの主として自民党政権の下で法人税の引き下げや雇用の規制緩和など主として企業(供給)サイドに立ちながら進めてきたわけだが、経済がデフレから脱却し、一定程度安定化したにもかかわらず、その成果は一部の株主や経営者といった富裕層にほとんど分配され、働く労働者や地域社会などへの分配は極めて不十分でしかなかったことを指摘せざるを得ない。つまり、かつて「上げ潮派」の主張として、トリクルダウン理論なるものがあったわけだが、それを踏襲したアベノミクスも含めて、豊かになった富裕層からのおこぼれは低所得層に全く滴り落ちず、実現しなかったわけだ。

今岸田政権のもとでも、再び成長を優先して重視する政策がとられようとしている事の問題を指摘しておく必要があると考える。また、呼び水政策としての財政支出は一時的には効果が出たとしても、中長期的には成長をリードするのはイノベーションだけであり、そのイノベーションはどうしたらできるのか誰も解らないのだ。政府が様々な成長戦略を提案したとしても、そのほとんどは成果を上げることなく終わってしまっている事実を忘れてはなるまい。

成長には呼び水としての財政支出でなく、イノベーションが必要だ

イノベーションを起こすうえで必要な基礎的な研究・開発分野への財政支出は、国はもちろん企業レベルでも極めて削減され続けているわけで、それ一つとっても、日本の成長に向けた基盤づくりに向けた真剣な努力は進んでいないと言えよう。経済産業省などが音頭を取って進めようとしている成長戦略は、費用対効果で見てどのように成果を上げ、成長力の強化をもたらしてきたのか、是非とも国会の場で明らかにして欲しいものだ。岸田政権の「分配」の重視が、いつの間にか「成長と分配の好循環」となり、結果として「成長」の重視へと改ざんされていったことを見失うことはできない。今のままではアベノミクスの再来でしかなく、この政権にもあまり期待できないのかもしれない。


活動レポート一覧»

ろうふくエール基金



連合北海道 (日本労働組合総連合会 北海道連合会)
北海道ろうきん
全労済
北海道住宅生協
北海道医療生活協同組合
中央労福協
中央労福協
北海道労働資料センター(雇用労政課)
北海道労働者福祉協議会道南ブロック