2022年6月13日
独言居士の戯言(第246号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
アメリカ・EUは8%超のインフレへ、金利引き上げへ共同歩調
アメリカやEUといった世界の先進国ではインフレが高騰し続け、主要国の中央銀行は日本を除いて金融緩和策から一転して金利の引き上げへと舵を切ってきている。一番新しい今年の5月のアメリカの消費者物価上昇率は、1年前に比較して8.6%と40年ぶりの高値を記録しているし、EUでも8.1%へと急速な値上がりが続いている。今までは日本病(デフレ)にならないために思い切った金融緩和策を取り続けてきたのだが、明らかにインフレへの対策の遅れが進み、FRBは5月から22年ぶりに0.5%という大幅な金利の引き上げを開始し、今月に予定されている連邦公開市場委員会(FOMC)でも前回に引き続き0.5%の引き上げが確実視され、7月も3回連続0.5%引き上げすると見込まれている。また、ECBも先週0.25%の金利引き上げを決定し、今後のインフレ退治に向けてアメリカやEUは足並みをそろえてきている。
なぜインフレが進行したのか、早川英男氏はFRBが後手に回った
なぜこうした高いインフレが起きているのだろうか。最新の『週刊東洋経済』(6月18日号)の「経済を見る眼」というコラム欄で、日銀OBの早川英男東京財団政策研究所主席研究員は「後手に回ったFRB、軟着陸は至難の業」と題して3つの要因を挙げておられる。第一は、供給制約の影響を過小評価したこと。特に、人手不足の深刻化が一番重要とみておられる。第二に、今回のインフレが不運にも2020年8月に、「平均インフレ率目標」を導入した直後に起きたことを挙げ、2%を超えるインフレが起きてもそれ以前のインフレ率が2%を下回っていた場合、一時的に2%超を容認する方針をFRBが発表したことを挙げておられる。つまり、物価上昇と言っても一時的で、デフレに落ち込まないようにしていくことをその時点でも優先していたことが良く判る。第3に、資産買い入れの規模縮小(テーパリング)の開始が昨年11月まで遅れたことであり、資産価格の上昇を早く手を打つべきだったのに遅れたことはFRBの明らかな失敗とみておられる。
スタグフレーションをどう防ぐか、至難の業だと早川氏は指摘
早川氏は、ここまでインフレが上昇してきたことに対して、どのようにして軟着陸させていくべきなのか、金利の引き上げによってスタグフレーションに陥らないようにすることの難しさを指摘されている。かつて自社さ政権時代の1995年に、アメリカに円高調査団の一員として1980年代のFRB議長としてスタグフレーションの抑え込みに尽力されたポール・ボルカー氏の経験談を聞く機会があったが、それこそ金利の二けたへの引き上げを巡る経済界や議会筋との攻防など凄まじい体験をされた発言を思い出す。これからインフレ退治に向けて、FRBパウエル議長らはどのような策を打ち出して行くのか、世界が注目している。
依然として金融緩和に固執する政府・日銀を襲う円安の急進展
こうした中で、日本の動向に目をやるとアメリカやEUとは異次元の世界にいるように思えてならない。日本の消費者物価も4月には2.1%とインフレ目標としてきた2%を突破したものの、海外からの輸入物価の引き上げなどコストプッシュ型のもので、内需の拡大を通じた需要主導型のものでなかったことから日銀が進めてきた金融緩和政策の転換を進めることなく、今まで通りイールドカーブコントロール政策を堅持し、長期金利0.25%の指値オペを実施してまで金利抑制を進めてきた。アメリカやEUとは真逆の政策をとることにより、金利差が拡大しドルやユーロに対して円安の進行という形で日本経済に大きな影響をもたらし始めたのだ。先週は1ドル134円を突破したことを受け、日銀と政府財務省、金融庁は「急速な円安の進行がみられ、憂慮している」と異例の声明文を公表して市場をけん制したのだが、現実の為替相場にはほとんど影響がなかったようだ。
日本の潜在的成長力の低下、もはや先進国とは言えない自覚を
前号でも述べたことだが、日本の経済の基礎的成長力は間違いなく落ち込んでいて、世界のGDPに占める割合は1997年の18%をピークに低下し続け、いまや6%にまで落ち込んでいる。アメリカは25%とあまり変化せず、EUは20%前半から15%へ落ちてはいるが、中国が2%から17%へと世界経済での存在感を高めている。つまり、もはや日本は経済大国としての存在感がなくなりつつあり、アメリカやEU、中国の動向によって世界経済が左右される時代へと落ち込んでしまったと言えないだろうか。
人口減少し始めた日本、その潜在成長率は絶えず(生産年齢)人口減少分はマイナスにカウントされるわけで、人口一人当たり成長率で見ていかなければ世界の国との正しい比較ができなくなっている。そうはいっても、やはりグロスで見たGDPの大きさがものをいう世界であり、「経済大国日本」から「中進国日本」へと転換しつつある現実を受け止め、今後の世界における立ち位置を定めていくべき時ではないだろうか。来年はG7議長国となる日本、どんな振る舞いを取るべきなのだろうか。かつての「平和的通商国家」からどんな国家像を追求しながら日本の存在感を高めて行くべきなのか、今まさに問われているのだろう。