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労福協 活動レポート

2022年10月10日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第262号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

ウクライナ情勢をどう考えたらよいのだろうか、ミヤシャイマー教授の『フォーリン・アフェアーズ・レポート』最新号より

ウクライナ情勢が混とんとしており、最近ではウクライナ軍が、ロシアが占領した地域や要衝となる都市の奪還に成功したり、2014年にロシアが奪還したクリミア半島とロシア本土を結ぶクリミア橋が爆破されるなど、一体どうなっているのかと思う出来事が多発し始めている。この状態がいつまで続くのか、これからどう展開していくのか、世界の人たちは固唾を飲んで見守っているだろうし、とりわけNATO(北大西洋条約機構)に依拠しているヨーロッパの国々の人たちや旧ソ連との関係を持つCIS(独立国家共同体)の国々にとって、国民の生活や命の危険性に直面せざるを得ない状態に置かれているわけで、改めて世界平和の問題が大きく浮かび上がっているわけだ。

ノーベル平和賞の受賞はウクライナ情勢に関与する3団体・個人へ

先週はノーベル賞受賞者の発表があり、日本でも日本人の受賞があるかどうかに関心があったようだが、残念ながら誰も受賞するには至らなかった。残された経済学賞と称するもの(10日に発表)はもともと設立者アルフレッド・ノーベルが認めた賞ではなく、アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞をノーベル経済学賞と称しているわけで、過去の受賞歴には著しいバイアスがあり、とてもノーベル賞には値しないものが多いわけで、日本人の受賞がないからと言ってそれほど気にかけることもない。

ちょっと道を外れてしまったが、平和賞に今戦闘の渦中にあるロシア、ウクライナ、ベラルーシの三カ国からロシアの人権団体「メモリアル」、ウクライナの人権団体「市民自由センター」、ベラルーシの人権活動家アレシ・ビャリャツキ氏が選ばれた。選考にあたったのはスウェーデンのお隣ノルウェーの選考委員会だが、ロシアのウクライナ侵攻が平和の問題にとっていかに深刻な問題となって迫っているのか象徴しているものと言えよう。なにせ、ロシアのメモリアルという人権団体は、今ではロシア最高裁から昨年12月に解散命令を受け、今年になって解散した組織だとのこと、プーチン政権に対して真っ向から人権尊重を訴え続けてきた(スターリン時代の犠牲者も対象にしてきた)ことへの報復であったが、タイミングよくノーベル平和集を受賞したことが世界に向かって発信された意義は大きい。

最近のウクライナ情勢、ロシアが劣勢になりプーチンの焦りが露呈

問題はこのウクライナ侵攻の行方であり、一時はドンバス地域だけでなくウクライナの東南部4州にまで拡大したロシア支配地域が最近のウクライナ軍の反撃によって奪還され始め、ロシア側は9月21日に予備役の召集を発令するに至っている。劣勢を跳ね返そうと、プーチン大統領には焦りが出始めているとの情報などが錯綜し始めている。

ミヤシャイマー教授の『文芸春秋』6月号論文の透徹した分析力

今年2月24日にウクライナ侵攻が始まった際、この問題を一番早くから鋭くその背後にある問題を指摘してきた「攻撃的現実主義」に立脚するミヤシャイマーシカゴ大学教授が、『文芸春秋』6月号で「この戦争の最大の勝者は中国だ」という論文を読み、2000年代に入って以降の旧ソ連圏の国々のNATOへの加盟が続く中で、2014年のマイダン革命による親ロシア派大統領の追放、「ミンスク合意」がありながらもクリミア併合とドンバスでの親ロシア派勢力とウクライナ軍の対立という流れが続いていた。そうした背後で動くアメリカとロシアの角逐のもたらすものが、ウクライナをめぐるアメリカの求めるNATO加盟と緩衝地帯にしておきたいロシアとの戦いへと進んだ歴史的経緯に触れ、今回のロシアのウクライナ侵攻自体は問題だが、そうさせるように仕向けた西側諸国とりわけアメリカの責任を厳しく問題にしてきた政治学者である。

ロシアが負けそうになった時に「核使用」と述べていた教授

そのミヤシャイマー教授が、この『文芸春秋』誌の掲載論文の中で「核を使えば戦争が終わる可能性」という点に言及し、もはや停戦も不可能な状況に至っているとみていて、ロシアはNATOが東方拡大の現状を変える見通しがつくまで継続しようとするはずであり、「ただ一つだけ戦争を比較的短期に終わらせるシナリオがあります。それはロシアが負けそうになった時に核兵器を使用する――という状況です」とのべ、「核抑止」ではなく「核強制」で終わる可能性に触れ、「大国」ロシアが失敗してしまうとなれば何にでも打って出る危険性(日本の第二次世界大戦の真珠湾攻撃を持ち出されている)に言及されていた。

そのミヤシャイマイヤー教授が、最新号の『フォーリン・アフェーアーズ・レポート』(日本語版10月号)に「ウクライナと核戦争リスク―三つのシナリオ」という論文を寄稿されている。さっそく読んで今ミヤシャイマー教授がどんな考え方を提起されているのか、以下紹介したい。

戦争の現状は妥協の余地なき状況、エスカレーションの高まりで第二次世界大戦を超す犠牲と破壊をもたらすと警鐘

冒頭で、米ロを中心にした戦略分析と戦況について分析し「勝利するか、間違っても負けない」という米ロの目標達成に向けた決意を考えると「意義ある妥協の余地は殆んど無い」。双方は戦場での勝利にこだわっており、妥協の余地がないためエスカレーションを取るインセンティブはともに高まっており、「その先にあるものは、第二次世界体制を超える犠牲と破壊という、まさに壊滅的な事態かも知れない」(87頁)と警鐘を鳴らし、戦況から見てこの「エスカレーション・メカニズム」が発動される3つの基本ルートに言及。

①一方、または双方が勝つためにエスカレートさせる
②一方、または双方が、敗北を避けるため意図的にエスカレートさせる
③戦闘が偶発的にエスカレートするケース

どのルートもアメリカを戦闘に巻き込むか、ロシアを核使用に向かわせるか、あるいは双方を引き起こす危険があると分析される。

プーチンが核使用を検討するかもしれない3つのシナリオ

そのうえで、プーチンが核使用を検討するかもしれない3つのシナリオとして

①アメリカとNATO同盟諸国が戦闘に参加するシナリオ
②アメリカが直接関与せず、ウクライナが独力で戦局を好転させるシナリオ
③戦争が長期的な膠着状態に陥り、外交的な解決策がなくモスクワにとって戦争コストが耐えられなくなるシナリオ

を挙げ、使用するのは小規模な軍事目標に対して戦術核を使用する可能性が高いとみておられる。

米国指導者は、破壊的エスカレーションを回避できる戦争管理ができるかどうか???

ウクライナ戦争のエスカレーションリスクを低く見てはならないと警告され、今や「ロシア、ウクライナ、そして欧米諸国は出口の見えないひどい状況に直面している。米国の指導者が破壊的なエスカレーションを回避するように戦争を管理することを願うばかりだが、数千万人もの人の命が危険にさらされていることを考えれば、これは気休めにすぎないだろう」(94頁)と悲観的な見方を強くうちだされているようだ。

これからどう戦争終結に向けて努力をしていけるのか、妥協の余地のない戦いを進めている当事者からは良い知恵が出てくるとは思えない。核戦争を阻止していくために、世界の英知の結集が今こそ求められている時はないのであろう。問題の中国であるが、ミヤシャイマー教授は中国こそがアメリカと対抗する超大国なのであり、もともとロシアとアメリカが争っている場合ではないとの見方なのであり、ウクライナ戦争停戦に向けた中国の介入には一切触れられていない。中国経済のすさまじい経済発展がこのまま継続し続けていけるのかどうか、人口の減少による成長の鈍化が始まりつつあるのではないかという見方も出始めており、世界の動きからも目が離せなくなってきているようだ。

【先週気になった新聞や雑誌などの情報について】(新設コーナー)

朝日新聞10月8日の夕刊「東京インサイド」というコーナーで,「美容師の夢日本でやっと」という記事が気になった。日本に海外からきて資格はとれるのに働けない状態が、東京都の「戦略特区」で活路が開けて美容師だけは開業できるようになったことを取り上げ、美容師以外の栄養士、保育士、ハリ師、きゅう師、柔道整復師、言語聴覚士,理容師については、資格は取れても在留資格が取れないため仕事に就けないとのことだ。

これから人口減少社会へと急速に労働人口が減ることが確実な中で、どうしてこんな理不尽なことが続いているのだろうか。早急に是正をしていく時ではないだろうか。

同じことは、日経新聞の9日の朝刊1面の「チャートは語る」欄で「進む円安 細る外国労働力」を読むことによって、日本に働きに来る外国人労働力が円安による労働条件の悪化などで魅力を無くしつつあり、ドル建ての賃金が4割も減少するなど日本のステータスの落ち込みが酷いようだ。これから必要とされる外国人労働力が落ち込んでいくことをどう阻止していけるのか、少子高齢社会に入った日本にとって、切実な問題と言えよう。

最新号(10月15日付)の『週刊東洋経済』の名物コラム「経済を見る眼」で「『非課税世帯へ5万円給付』の落とし穴」と題する佐藤主光一橋大教授の書かれたコラムには全く同感である。佐藤教授は低所得者に対する5万円の給付にあたって、低所得者=住民税非課税世帯として支給することになっているが、果たして「住民税非課税世帯」を低所得層としていいのだろうか、と疑問を提起されている。やはり、マイナンバー制度を入れているわけで、本当に困っている低所得層の把握を、正確にできるように預貯金への附番など進めていくべきではないかと指摘されている。その通りであり、マイナンバー制度導入の目的の一つはその点の改善にあったことを指摘しておきたい。

朝日新聞10月3日付「広告特集」を開いてびっくりさせられた。何と見開き全体を使って「報道機関のみなさまへお願いです」「投資と投機を区別して報道してください」と巨大な活字を使って見出しが出ている。広告主はさわかみ投信株式会社とある。政府が、貯蓄から投資へと述べている時だけに、もっと投資を増やしたいと思う証券会社の切なる願いなのだろうが、広告を出している報道機関向けに広告を打っているところがなかなか面白いところだ。

投資と投機についての説明が小さい文字で次のように書かれている。

「正直、困っています。投資は危険だという人がいます。ギャンブルと断ずる人がいるかと思えば、ずるい金儲けだと眉をひそめる人がいる。それ、投資じゃなくて投機です。投機とは、短期で売買を繰り返し、自己利益のみを追い求めること。投資とは、長い目で相手を応援すること。そして経済・社会の成長をめざし、共にリターンを分かち合うこと。意味がまるで違うのです。なのにこの国では、多くの方が混同してしまっています。東証再編から明日でちょうど半年。持続的な成長のため、市場も社会も変わりつつあります。間違ったイメージで投資の機会が奪われてはなりません。空気を換えていきませんか、どうかいっしょに。」

さて、報道機関はどう応えていくのだろうか。粉飾決算や相場操縦といった市場を悪用する企業が後を絶たないだけに、はいその通りですとはなかなかいかないのだろう。大いなる株式会社改革が求められているのではないだろうか。

それにしても、この巨大広告、相当お金をかけたものになっていることは確かで、それだけでも見た人には強い印象を与えたに違いない。


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