2022年10月17日
独言居士の戯言(第263号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
国会の空白1週間、G20財務相会合はどんな成果があったのか
野党側による憲法の規定に基づく国会開会要求がありながらそれを無視し続け、ようやく3日に開会したと思いきや、岸田首相の所信表明演説と各党の代表質問を終えただけで、肝腎の衆参の予算委員会の開催はG20の財務相・中央銀行総裁会議に鈴木財務大臣が出席のため空白となり、いよいよ今週17日から衆参4日間の開催の運びとなる。G20の会合に、わざわざ財務大臣が国会での一番大切な予算委員会を飛ばしてでも直接相対で出席しなければならない問題があったのかどうか、結果としてドル高の下で急速に進む円安に対して為替介入してきたことの言い訳を、アメリカ側に述べてきただけではないのかと揶揄したくなってしまう。
アメリカのインフレ継続、金利引き上げも継続へ、円はどうなる
ちょうどワシントンでG20開催中に、アメリカの消費者物価が8.2%と予想以上に上昇率を持続させていたことから、市場関係者は次の11月1-2日のFOMCでの大幅利上げ継続が避けられないこと、それゆえ日本の円とアメリカのドルとの利率格差がさらに拡大することが確実に見通せたことから、再び円売りドル買いとなって1ドル148円台へと突入したわけだ。今週の円ドル為替相場は、1ドル150円台を巡る攻防が予想されており、市場関係者の間では再び政府のドル売り円買いの為替介入がありうるとみる向きが多い。為替介入によって一時的には円高へと押し上げられたとしても、すぐに元の円安へと戻ってしまうわけで、貿易収支の大幅赤字だけでなく経常収支の赤字が目の前にちらつき始めた衰退国家日本にとっては、貴重な外貨であるドルを放出してしまうことの愚は避けるべきではないかと思えてならない。それ以上に、黒田日銀のかたくなな姿勢に対して「何とかならないものか」と思うばかりである。
岸田内閣支持率3割切る、政権持続の危険レベルを突破か
さて、国内政治の方に移ろう。岸田政権の支持率の落ち込みが止まらない。時事通信社の9月の世論調査によれば、岸田内閣を支持する比率は27.4%と危険水域と言われる30%を割り込み、不支持率も43.0%と先月に比較して4ポイント低下している。旧統一教会問題に対する曖昧な対応や国葬問題での強引な実施強行、さらには円安の進展とともに物価上昇の進展など、国民生活が悪化の一途をたどり始めているわけで、岸田政権は発足後1年を経過したものの、「黄金の3年間」どころか、政権の行方すら見通せなくなりつつあるわけだ。昨年8月の菅前政権の支持率29.0%をも下回っており、この臨時国会でどのように国民の評価が展開するのか、注目すべきポイントであろう。
大型補正予算で起死回生と力むが、「新しい資本主義」が見えない
岸田総理は、起死回生とばかりに30兆円を超す大型の補正予算を策定中とのことだが、まだその全体像が明らかになっていないというより、「新しい資本主義」を打ち出していながらその内容が、一度は否定的にとらえてきた「アベノミクス」へと逆流し始めており、打ち出す政策が総花的な短期的人気取り政策に終始し始めているように思えてならない。
一番国民生活を直撃している物価対策として、エネルギー価格の上昇を抑えるべく関係業界団体との打ち合わせを進めているとのこと。既にガソリン価格については、今年1月から石油元売り各社に補助金を出して価格を一定水準に抑えようとしている。その補助金の必要金額は12月までの1年間で3兆1千億円超にまで膨れ上がろうとしている。しかも、その補助金について10月7日に公表された財務省の予算執行調査で「支給された補助金の一部を販売価格抑制に反映させていないガソリンスタンドが2割超に上る」ことが明らかになっているわけで、業界団体への補助金支給による価格引き下げ方策の不透明性に国民の不信の目が強くなっている。
物価対策の象徴、ガソリンから電気、ガス・プロパンなど補助金ドミノの泥沼へ
いま議論され始めているのは電力料金であるが、ガソリンの補助金の問題もある中で、電力会社に対する補助金ではなく「全国700社の電力小売り会社と協力」することで契約者の負担軽減を図りたいとの意向が示されている。だが、電力小売り会社約700社に一斉に補助金をばらまくことは非現実的な方策でしかなく、やはり発電事業者の方に任せた方が妥当ではないかという声が強い。ところが、電力の発電・小売りを問わず電力会社の大半が赤字に陥っており、とても国からの財源を円滑に削減に回せるかどうか怪しいのだ。今、電力会社の火力発電所の燃料はLNGと石炭が中心であり、その価格がウクライナ侵攻によって世界的に高騰しているのが現実だ。価格変動分を電気料金に反映させる燃料費調整制度があるのだが、それでも電力各社は価格転嫁できないで経営困難に陥っているのだ。
さらに、ガス業界からの陳情もあり、ガスやプロパンガスに対する財源支援措置が自民・公明の間で確認されたわけで、果たしてこうしたエネルギー業界に対する財政的な支援措置が膨れ上がれば国民の財政負担はとどまるところを知らない膨大なものになるわけで、朝日新聞の見出しではないが「補助ドミノ」になりつつあるのではないだろうか。どうこの「補助ドミノ」から脱却できるのか、岸田内閣は「新しい資本主義」どころか、補助金漬けの「古い資本主義」の泥沼から脱却できないで喘ぎ始めているのではないだろうか。
政治不信の象徴として旧統一教会、国葬などの説明責任の行方
物価対策をどうするのか、といった政策問題だけでなく、予算委員会では旧統一教会と自民党との関係や国葬問題など自民党に対する国民の支持率の低下となっている諸問題についての野党側の厳しい追及が続くわけで、今週1週間の与野党の攻防から目が離せなくなりつつある。不思議なことなのだが、あれだけ角突き合わせていた立憲民主党と日本維新の会が議会内共闘に合意し動き始めている。背景には何があったのか、政治の行方は、一寸先は闇なのかもしれない。
【先週気になった新聞や雑誌などの情報】
マイナンバーカードを国民が持たせるように健康保険証として使えるようにすることが問題とされている。この制度を作った時、国民全員が番号を持つことは当然としても、カードとして保有することについて強制することはなかったわけで、デジタル担当大臣である河野太郎氏のやり方は、あまりにも強引でしかない。既に、厚労大臣は健康保険証がなくなった場合の取り扱い方などにも言及し始めており、政府としてのきちんとした進め方について原点に返って議論すべきだろう。所得や資産の補足には、預金通帳への附番が求められるわけで、そうした点を進めていくべきであり、もう一度マイナンバー作成における原点を確認する必要がある。
野党側も、社会保障・税一体改革の際にマイナンバー制度が重要であることを確認してきたはずであるが、何の音さたもない。社会保障を充実させていくためには、マイナンバー制度が不可欠なのであり、その活用をきちんとさせていくことが福祉国家の大前提なのだ。野党が何も言わないことは、本気で公平・公正な社会をつくろうと考えていないからではないのか、と疑ってしまう。政権を担う政党である以上、マイナンバーをどうしていくのか、野党側もきちんとした政策を展開して欲しい。