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労福協 活動レポート

2022年10月24日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第264号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

急速に進む円安、覆面介入した財務省、効果は一時的で期待できず

円安の動きが止まらない。先週末には1ドル151円台にまで進んだところで財務省による「覆面介入」に入ったことは確実のようで、一時140円台半ばまで円高に戻したものの、再び円安へと戻り始めたようだ。円安の直接的な要因は、アメリカFRBのインフレ抑制に向けた金利の大幅引き上げにもかかわらず、日銀の金融緩和政策の継続により日米金利差が拡大したことにある。アメリカのインフレ率が、この間の大幅な金利引き上げの継続にもかかわらず思ったようには落ち込まなかったわけで、今年2回あるFRBのFOMCでの大幅利上げが更に進められると予測されるだけに、円安が150円台突入し日本政府が「介入」したとしても、大きな効果が期待できないことは言うまでもない。

10月末には財務省から「覆面介入」に費やしたドル資金の総額が公表されることになっているが、あまり効果のない投機筋に向けた「こけおどし」程度でしかなかったのではなかろうか。為替介入の効果があるのは相手政府との協調介入がある時だと言われており、今回もまたアメリカのドル売り円買い介入は実施されず、効果が乏しいことは言うまでもあるまい。G20の財務相・中央銀行総裁会議に、国会開会中の鈴木財務大臣がわざわざ訪米したのも、この介入に対するアメリカ政府の支持を取り付けに出向いたのではないかと予測したのだが、真相はもちろん藪の中である。

投機を狙い撃ちには「トービン税」をG20・G7で導入に向け議論を

政府は「投資」と「投機」を区別して、投機筋の介入に対して防衛することを介入の目的の一つに挙げているが、コストの割には効果が乏しいようだ。専門家の中には、かつて「トービン税」と呼ばれる国際的な金融取引に課税する考え方を取るべきではとの提言があったが、今のところこうした議論が展開されてはいない。グローバル化した今日、国際的な課税については少なくとも世界の先進国で同時に展開される必要があるわけで、日本1国だけでは実現性に乏しいのかもしれない。ただ、世界のG7やG20の場などで「国際金融取引税」というアイディアを日本から問題提起したとは聞いていない。グローバル化した今日の世界において、投資目的ではない投機目的で何度も取引を繰り返すことへのダメージを狙える「国際金融取引税」というアイディアを、先進国では論議すべき課題として提案するべきではないだろうか。先週の総理出席の衆参予算委員会での国会論議の中で、こうしたダイナミックな政策論争が展開されていなかったわけで、是非とも考慮すべき点として考えて欲しいものだ。

円安の背景にある「日本経済の落ち込み」にこそ目を向けるべき時

それにしても、これだけの円安水準は日本経済の実力が低下していることを反映しているのではないか、ということを指摘する専門家が多くなっている。唐鎌大輔(みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)氏は、最新号の10月22日付『東洋経済オンライン』で「半分になった円の価値、もっと深刻な『実質価値』~『安い日本』は円安になる前から続いてきた問題」と題して、名目での円安以上に深刻なのが実質での下落で、その背景には『安い日本』という現実があり、1ドルが140円や150円といった名目値が安くなったという議論よりも、「日本経済が長年患っている相対的ディスインフレ状況、端的に言えば『上がらない賃金』などがテーマになる」わけで、日本のインフレ率が低下し続けていることを問題視していくべきと主張される。

また、本来は円安になれば、輸出増大により黒字が増え、為替相場も円安から円高へと転換していくのだが、今日の日本の経済において海外へと資本輸出が増えたことにより円安でも輸出が増えなくなっているわけで、日本経済の国際的競争力の落ち込みが円安から円高へと転換していくことができなくなっている現実を指摘される。残された円安を利用したインバウンドによる黒字の増大の道も、閉鎖的な日本のイメージが広がっていて今後どう拡大できるのか、予断を許さなくなっていると指摘されている。

黒田日銀の頑なな金融政策、任期中は変化なしの国会答弁に困惑

それにしても、黒田日銀の頑なな「イールドカーブコントロール」政策の持続により、10年国債をゼロ金利に維持していく政策をどうしたら転換できるのか、今週27~28日に予定されている日銀政策決定会合では全く期待できなくなっている。黒田総裁自身が国会答弁において任期中の政策転換を否定してきた。さらに、黒田氏以外の政策委員の方達も安倍政権時代の審議委員選考においてアベノミクス志向の「リフレ派」と称する人たちばかりを選出してきたわけで、異議を唱える向きはいないのだ。

かつて安倍政権以前において、こうした重要な問題を扱う日銀政策委員や公正取引委員会委員、NHK経営委員といった国会承認による選出において、国会全体の同意や最低でも野党第1党の了解を得るのが暗黙の慣例だったとのことだ。それが、与党側の一方的な意思で独断的に選出されてきたのが安倍政権時代のやり方であり、その弊害が日銀の政策決定の場でも出ていると言えないだろうか。

今年の「ノーベル経済学賞」でバーナンキ元FRB議長受賞に想う

少しタイミングとして遅くなった話題であるが、今年のノーベル賞受賞者はすべて確定した。最後の経済学賞をノーベル賞として認めるのかどうか、ノーベルの遺族からノーベル賞の対象から外すよう求められ、その人選における偏りがかねてより指摘されてきた「曰く付きのノーベル賞」であることは間違いない。それだけに、カッコつきだがとりあえず「ノーベル賞」の範疇に入れておくとして、今年の受賞者は3名、そのうちの一人がベン・バーナンキ元米連邦準備理事会(FRB)議長であった。受賞理由は、銀行破綻が1930年代の世界恐慌に与えた影響の大きさを解明したこととされている。残りの2人はダグラス・ダイヤモンド・シカゴ大学教授とフィリップ・デイビッグ・セントルイス・ワシントン大学教授で、二人の理論は「ダイヤモンド・ディビッグモデル」として銀行システムの在り方を解明する銀行理論発展の礎を築いたとされている。特にバーナンキ氏の場合、2006年から14年にかけてFRB議長としてリーマンショックという金融危機に直面し、その「難局を乗り切った」と言われているが、その評価についてはいろいろと論評されている。

白川元日銀総裁のバーナンキ氏受賞についての日経紙でコメント

この受賞について、バーナンキ氏と同じ時期に日銀総裁を務めリーマンショックに対処してこられた白川方明青山学院大学特別招聘教授が、日本経済新聞にコメントを書かれていたことに注目した。白川氏は、今回受賞対象となったバーナンキ氏の大恐慌研究者としての業績については高く評価されている。特に「最大の功績は大恐慌の発生に際し、貨幣数量説的な貨幣の減少ではなく、銀行行動の分析に基づく信用の減少が決定的な影響をもたらしたことを明らかにした点だと思う」と述べ、リーマンショック時の対応にバーナンキ氏が責任者として当たられたことの幸運に言及されている。

他方で、「そもそもリーマンの破綻をなぜ米国当局者が許容したのかという根源的な疑問は残る」と問題視し、さらに、バーナンキ氏が2002年シカゴ大学で開催されたフリードマン生誕90周年記念の講演で、フリードマンを持ち上げている点について、白川氏はリーマン破綻のもたらした危機を考えるとそうした評価には微妙だと異論を述べておられる。

量的緩和政策についての評価にはやや否定的な白川元総裁、対する高橋洋一氏はアベノミクスの理論的背景と評価へ

最後に、金融政策の面でFRB時代に2つの事を行い、一つは量的緩和の推進でその効果は限定的で評価は分かれるが、もう一つの2%の物価安定目標の導入で、「ニューケインジャン経済学に基づく金融政策の枠組みが一応の完成を見た」とみておられる。ただし、この点についても白川氏はECB元総裁のマービン・キング氏とともに、バーナンキ氏の考えている「専ら均衡経路の周りの確率的な変動に焦点を当て、しかも金融という要因が欠落した金融政策ストラテジー」に根源的な疑問を持たれていたようで、いま世界が直面しているグローバル金融危機と今回の高インフレという2回の大きな経済変動を経験したことを考えると、「金融政策ストラテジーの議論は進まなければならないと思うし、実際に進むだろう」と強く主張しておられるのが印象的であった。

バーナンキ氏の受賞に対して、経済評論家の高橋洋一氏はアベノミクスの理論的な背景にバーナンキ理論があったと評価されていたのが気になる。三本の矢の第一に量的な金融緩和が挙げられるわけだが、そこから未だに脱却できていないし、デフレ基調からの脱却が本当にできたのかどうか疑問であり、大きな成果を上げていないことには目を瞑っておられることに簡単には同意するわけにはいくまい。

【先週気になった新聞や雑誌などの情報】

10月21日の毎日新聞夕刊(東京版)の1面を見て驚いた。「労組パワハラ認識ズレ」「自治労山梨元幹部に支払い命令」とあり、元委員長側は「古き良き叱咤激励」とのべ、原告側は「どう喝、威圧的」と捉えているとのことだ。この記事は、7面にも続きの記事が掲載されており、実に大きく取り上げられている。この記事のリード文として次のように担当した2名の記者は書いている。

「自治体職員らが加入する労働組合の専従職員が、上司である労組幹部からパワハラを受けたと訴えていた訴訟で、幹部に対して慰謝料の支払いを命じる判決が9月、甲府地裁で言い渡された。原告は書記(職員)だった50代女性。労組の委員長、書記次長だった男性から『何も働かない。休めていいね』といった言葉をかけられ、怒鳴られたと訴えていた。労働者の権利を守るための、それも公務員による労組で何が起きていたのか。原告、被告双方への取材や訴訟資料からは『パワハラ』への認識が立場によって大きく異なる実情が浮かび上がる」

また、7面に掲載された内容の見出しは『パワハラ相談筒抜け』「労働環境改善する組織なのに」とある。中身を読んで、元自治労の県(道)本部に勤務していた経験があるだけに、残念な事実が大きく取り上げられている。自治労本部としてこのような判決に対してきちんとした態度を明らかにしているのかどうか、寡聞にしてよく知らないのであるが、内容を読んでみる限り、山梨県本部の幹部の発言や態度は、まことに問題であり遺憾である。もちろん、当事者には言い分もあるのだろうが、司法の判決の持つ意義は重いと思う。


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