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労福協 活動レポート

2023年3月27日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第286号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

国際情勢の大転換期、岸田総理のウクライナ訪問と中露首脳会談

国際情勢の転換期にあたっているのだろうか、最近はロシアとウクライナの熱い戦争が1年以上も継続しても、国連も含めて停戦に向けた具体的な動きが見えてこない。5月に日本で開催されるG7広島サミットの中心的な議題は、間違いなくロシアのウクライナ侵攻問題が大きなウエイトを占めるのだろう。それだけに、G7議長国である日本の岸田総理がウクライナを訪問していないことが問題視され、インド訪問の延長として、急遽総理のウクライナ訪問が実現した。事前に公表されることなく秘密裏に行動したのだろうが、どんな成果があったのか帰国後の国会での論戦だけでは良く判らない。

それよりも、ウクライナへの援助内容や、お土産に広島近郊宮島の厳島神社の「大しゃもじ」に「必勝」と書かれていたことを批判されるなど、世界が大きく転換し始めた今日、どうこの戦闘を終わらせていくのか、G7議長国としての考え方が提起されたとは言えまい。とにかくG7広島サミットを開催する以上、その前にウクライナに出向きゼレンスキー大統領に会っておかなければ、という事だけが重視されたと見ていいのだろう。背後にいるアメリカが、ウクライナに最後まで頑張るよう激励してやってくれ、などと後押しされていたのではないだろうか。一体いつまでこんな状態を継続させるのだろうか。

習均平主席のロシア訪問、何故3月20日に早まったのか

岸田総理がウクライナに出向いたとき、ロシアでは中国の習近平国家主席がプーチン大統領との首脳会談を進めていたわけで、こちらの中ロ首脳会談の行方に関心が高まっていた。

当初、習主席の訪ロは5月か6月頃ではないかと言われていたが、3月20日北京からモスクワへと旅立ったのだ。ちょうど3月20日は、今から20年前アメリカのブッシュ大統領が、イラクに大量破壊兵器が隠されているという名目で(後にうその情報だったことが判明)イラク侵攻に踏み出した日に当たっており、アメリカがいかに国際法や国連憲章に違反してきたのかを国際社会に明らかにする意図が示されていたことは間違いないだろう。確かに、アメリカはいまだにこの問題についてのケジメはつけていない。国際社会からの信頼を失う一つの要因となっていることは確かだ。

サウジとイランの外交関係回復という「快挙」、中国主導で実現へ

さらに3月10日、北京で王毅中央政治局員仲介の下、2016年以降外交関係が断絶状態にあったイランとサウジアラビアの外交関係回復が実現したことの意義を挙げておく必要があろう。かつて中東はアメリカが大きな影響力を持ち続けてきた地域だったわけだが、イラクへの武力侵攻やアフガニスタン介入への失敗など、友好的な関係にあったサウジアラビアからもそっぽを向かれ始めるなど、最近での中東地域での存在感の落ち込みは見る影もなくなりつつある。中国の仲介によるサウジとイランの外交関係回復というアメリカにとっては衝撃的な出来事の与えたダメージをどう考えるのか、日本外交にとって一番重要なポイントではないかと思うのだが、国会での論戦ではそうした観点からのやり取りはなかったようだ。

ネオコンの論客ロバート・ケーガン氏、
ウクライナ支援は国益ではなく世界の自由主義陣営を守る大義を強調

くしくも最新号の『フォーリンアフェアーズ』(日本語版2023年No3号)で、ネオコンの論客ロバート・ケーガン氏の「国益と自由世界擁護の間――――ウクライナとアメリカの国益」と題する論文を寄稿しており、アメリカが第一次世界大戦以降、国益擁護で戦争に参加したというより世界の自由な政治体制を擁護するために闘ってきたことを主張し、過去のイラク侵攻やアフガニスタン攻撃などを正当化しているが、何故か説得力を感じさせない。

最新の報道では、ブラジルのルラ大統領が26~31日にかけて中国を訪問し習近平主席と会談するようだ。ブラジルのボルソナロ前大統領時代に中国との関係が悪化していたことの修復を図るとのことだが、BRICSと呼ばれたブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興国がアメリカを中心にした西側先進国と呼ばれる国々との対抗関係を形成してきているわけで、その中心に経済的にも軍事的にも中国が大きな存在となって君臨し始めていることは言うまでもない。

中露・グローバルサウス対アメリカ・G7へと世界は分裂固定化か!?
次の習近平主席の会談はゼレンスキーになるのか

米中の対立を軸に世界を見渡してみたとき、グローバルサウスと言われる新興国や途上国はアメリカを中心とした先進国への支持よりも、中国を軸としたBRICS諸国との関係を深めつつあるようだ。その中国が、ロシアとウクライナの戦爭状態を停戦に持ち込むこととなれば、世界の多くの新興国や途上国はますます中国に対する信頼度を引き上げていくことになるだろう。2月にはウクライナとロシアの戦争に対して「和平案」を提起し、ロシアのプーチン大統領との会談を通じて停戦に向けた支持を取り付けたようで、おそらく次に習近平国家主席が会談をする相手はゼレンスキーウクライナ大統領ではないだろうか。ウクライナの外務大臣は、中国の和平案を否定していないし、中国の停戦への介入に期待しているとの報道があり、ゼレンスキー大統領も中国の停戦への期待を持っているとのことだ。もし、中国の習近平国家主席の仲介でウクライナとロシアの戦争が停戦の合意に至れば、中国の存在感は一挙に高まるに違いない。

孤立感を深めるアメリカは次にどんな手を打つのだろうか

問題はアメリカである。そういう中国主導による「和平案」が実現されてしまえば、中国との覇権争いでも後退し、再び世界的な威信を失うことになってしまう。中国主導ではない「停戦」をどう実現していけるのか、バイデン政権は昨年の中間選挙で下院での敗北を喫したわけだが、来年の大統領選挙を前にしてどんな国際的なアクションを打ち出して行くのか、注目が集まる点ではないだろうか。

ウクライナに続く台湾問題の危険性や如何、日本は大丈夫なのか

今回のウクライナへの先進各国の支援を見た時、アメリカはウクライナが欲する兵器の調達にもすんなりとは応じておらず、ウクライナに徹底的な交戦を最後まであきらめるな、という姿勢を取ってはいるものの、その姿勢は中途半端さを感じさせる。自分たちは戦闘の中に入らず、ひたすらウクライナ国民とロシアと闘わせているわけで、何を考えているのか良く判りにくいと思うのは、外交や軍事に疎いものの浅慮だからだろうか。泥沼の第3次世界大戦にしてはならないし熱核戦争は絶対に阻止しなければならないことも確かだ。

アメリカと中国の国際外交面での対立がどう展開していくのか、ウクライナに引き続き、台湾問題という北東アジアの安全保障問題が大きな問題となって迫りつつあることへの日本外交の在り方が問われている。対中国包囲網を作り上げようとしているアメリカに、唯々諾々と従っていくことで本当に日本の外交として国益が守られるのか、よく考えてみる必要がありそうだ。まさかアメリカは、台湾有事に向けて自らは後方にいて、日本の自衛隊を第一線に立たせるようなことは考えていないと思うが、ウクライナの現実を見た時それもないとは言えないのではないかと不安がよぎる。

【お詫びと反省—「年収の壁」について】

前回の「通信」で岸田総理の子育て関係の記者会見からの引用を批判した時、私自身が「『年収の壁』を撤廃へ」、という表題をつけてしまった。もともと『壁』などは無いにもかかわらず、あるかのような誤解を招く「壁の撤廃」と表現してしまったことは、大変な誤解を呼ぶわけで、「年収の壁」を意識することなく働き、国民年金(1号もしくは3号)から厚生年金(2号)へと老後生活にとって有利な支給が保障される制度へと進んでいくべきことを声高に主張しなければならなかったと反省している。むしろ「撤廃すべきは、企業規模」の方で、長年のたたかいでようやく今年10月からは企業規模51人以上で勤務時間週20時間超であれば2号適用で厚生年金という有利な年金が保障され、50人以下であれば週30時間超が必要となっている。

こうした企業規模によって非正規労働者の社会保険制度が規制されていることをできるだけ早く無くして、働く者はすべて同じ社会保険制度でリスクから防衛される仕組みに入ることこそが極めて重要な課題だったわけだ。働いている労働者だけでなく、雇用している企業側にとっても労働者のスキルの向上などの効果があり、労働力不足時代に不可欠な対応と言えよう。

いま国民の間にはないはずの「壁」が宣伝されるために意識され、その「壁」があると思って自ら働き方を変えてしまうという「予言の自己実現」という「罠」に陥らないようにしてもらう必要があるわけで、「正確な事実に基づいた公報が重要」な課題になっている。それだけに、誤解を与えるような内容を宣伝になったことの「お詫びと反省」を記しておきたい。


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