2023年5月22日
独言居士の戯言(第294号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
広島サミットへゼレンスキー大統領の直接参加、注目度の高まりへ
ここ最近、日本のメディアはG7広島サミット関連でうめつくされた感があり、始まって直ぐにゼレンスキー・ウクライナ大統領の直接参加が突然発表され、国内だけでなく海外からのより一層の注目を集めるものとなったわけだ。ゼレンスキー氏の参加は本当にサプライズなのかどうか、ゼレンスキー氏本人の強い対面での参加要望だったようだが、サミットを仕掛けている演出家(誰?)のもくろみ通りのものなのかは定かではない。だが、今回の広島サミット最大の課題であるウクライナ侵攻問題でどう世界に有効な宣言が発せられるのか、ますます注目されることになった事は間違いないだろう。
被爆地広島での首脳宣言、ロシアの核使用を国際社会が許さない
最終日に予定されていたサミット宣言は、1日前倒しで発表されるというのも、ゼレンスキー氏の参加が強烈なインパクトを与えたからだと見られている。人類初の核兵器の犠牲になった広島、そこへゼレンスキー大統領が乗り込むことは、核使用をちらつかせるロシア・プーチン大統領に強烈なパンチを繰り出したことの意義は大きい。
G7各国は、これまで通りにウクライナを支援していくことに間違いはないものの、グローバルサウスの事実上の代表格であるインドのモディ首相やG20の議長国であるインドネシアのジョコ大統領などは、G7と中国やロシアとの仲介役としての役割を強調されていて、突然のウクライナ大統領の出席に対してどのような対応をG7の場で取ったのか、そちらの方が注目すべきだし、ゼレンスキー氏の方もこの機会を大いに利用したに違いない。。
国連に代わる米中平和共存の世界システムの必要性・重要性
おそらく、サミットは全体としては波乱もなく、「広島」という核兵器廃絶を求める世界の人たちのシンボリックな場所だったこともあり、「首脳宣言」を採択して終わった。気になるのは、アメリカを中心にした先進国クラブG7と中国・ロシアとの対立を抱えながらも、圧倒的に多くのグローバルサウスの国々は、それぞれが属する実に多様な国際組織の中で、自らの生き残りをかけて必死のポジション取りに向かうのだろう。だが、国際社会での中国の存在感の高まりの中で、中国とアメリカが国際社会をどう平和で安定したものにしていけるのか、機能不全に陥っている「国連」システムに替わる米中共存の新しい世界組織作りこそ、グローバルサウスからは強く求めているとみるべきだろう。
どう中国との対話を繰り広げていけるのか、G7との協調こそ重要
それだけに、岸田総理がG7の盟主であるアメリカの意図を忖度しながら、今回の広島サミットでの中国やロシアとの「対立」関係を前面に出し過ぎた印象は、本音のところでグローバルサウスの多くの国々からは歓迎されなかったと思うのだが、これから先どう展開していくのだろうか。特に、中国からは首脳宣言に対して強く抗議されているわけで、今後の対中外交の行方がどうなっていくのか、最大の問題点なのかもしれない。
双日総研吉崎達彦氏、岸田政権の6月解散説を疑問視へ
というのも、最新号の『東洋経済オンライン』誌で、”かんべい”こと双日総研の吉崎達彦氏が「岸田首相は6月に衆院を解散しないかもしれない」との表題で、意味深長な見通しを立てておられる。一般的にはGDPが3四半期プラス成長で景気が上向き始め、株価もバブル崩壊後の最高値である3万円の大台に突入し、戦後最悪と言われた日韓関係もユン大統領の大変な努力により好転しはじめ、そこへもってきて「広島サミットの成功」と重なれば、当然のごとく6月解散7月総選挙ということが政治日程に書き込まれているに違いないと誰しもが思う。既に、6月21日解散、7月11日公示、7月21日総選挙というまことしやかな政治日程がマスコミには出始めている。
こんな有利な条件が揃っているのに解散しないとは何があるのか
確かに、政治の面では内閣支持率が大きく好転し、最新のNHK世論調査(5月)では、支持が46%、不支持が31%、半年近く前の1月では支持33%、不支持45%から見れば様変わりしているわけだし、何よりも政党支持率でも自民党36.5%で他の野党がいずれも一けた台で、何よりも選挙の準備態勢が整っていないのだ。今の選挙制度では小選挙区での野党分立では勝てないことがはっきりしているのに、立憲民主党は維新と野党第1党争いに突入し、泉代表は共産党との選挙協力もやらないと明言している。どうやっても自民党が負ける要素はない。
こんなに好条件がそろっているのに、吉崎氏は次のように述べている。
「筆者は、解散のタイミングはもう少し先なのではないかと考えている。おそらく、『広島サミット成功』のあとに岸田さんが狙うのは政局ではあるまい。西側の結束を強調したあとで、対中外交に臨むことを考えているのではないか。これまでの岸田外交の経緯を振り返ってみると、周到な準備がなされているのである」
どんな「周到な準備」がなされているのか、吉崎氏が言うには、第一に「防衛3文書」を閣議決定したこと。第二に、訪米してバイデン大統領と会談、防衛政策の転換内容を説明。第三に日韓関係の改善ができたこと。第四に、懸案であったウクライナ訪問の実現。
日本外交最大の難問「中国との外交」に取り組むと観ている吉崎氏
かくしてサミットが終われば、日本外交最大の難問、中国との外交に取り組むのが自然の流れだとみている。中国も、岸田氏が進めてきた実績は無視できないだろうし、日中友好協会会長にも二階元幹事長が就任したことを取り上げ、「国会終了後に、何か動きがあるのではないかと予想している」とまで言及している。果たして、それほどのスコープとスケールで岸田外交を展開しようとしているのかどうか、眉に唾を付けたくなるのだが、ここまで述べておられるからにはそれなりの確たる情報があるに違いない。そういえば、今回の「首脳宣言」の中に、東・南シナ海で挑発的な行動をとる中国に直接懸念を伝えると明示したとのこと。それを直接伝えるのがG7議長国の岸田総理の任務なのかもしれない。テレビで習近平氏と会談する岸田氏の姿を見たことがあるが、印象としてはとても堂々として対応したとは言えないものだったと記憶する。果たして、G7議長役を対中国にむけて、臆することなく実践することになるのだろうか。あまり、日ごろの岸田総理から想像しにくい光景ではある。
サミット後の政局がどう展開していくのか、ポストサミットでの対中国を念頭に置いた岸田外交の行方と国内政局の動向を注目していきたい。