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労福協 活動レポート

2023年7月31日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第303号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

混迷するマイナンバー問題を考える—-その3

過去2回にわたってマイナンバー制度の問題について考えてきた。先週の水曜日には、参議院特別委員会の閉会中審査が実施され、主として健康保険証を1年後に廃止しマイナンバーカードで代替することの是非を巡って論議が集中したようだ。岸田総理も、国民の声をよく聞いて今後の判断に生かしていきたいと答弁し、今後の健康保険証の廃止問題についての扱いを柔軟に考えている趣旨の答弁をしていたとのことだ。与党自民党の議員の中からもマイナ保険証への移行への不満が出始めている背景には、内閣の支持率が急落し、不支持率が過半数を超え始めてきたことへの危機感が出ていたからであろう。未だに健康保険証をマイナカードに変えていない人が8000万人近くいるとのこと、今後の動向が気になるところである。

最近のトラブルをどう考えたらよいのか、榎並利博氏の分析より

さて、前号でも触れさせていただいた榎並利博氏が書かれたJBPRESSの論文の中で、最後に書かれた「マイナンバー番外編(5)」は「マイナンバー紐づけミス狂騒曲、初期トラブルか、基本方針の歪みか」と題して、最近問題となっている3つの問題を取り上げておられる。一つは、住民票の誤交付、2つは公金受取口座の誤登録問題、最後は健康保険証情報の誤登録である。一つ目の住民票誤交付は紐づけ問題ではなく転勤シーズンが集中したことへの対応ができなかったプログラムミスで、システム開発に関わったベンターの責任と断定。

問題は、受取口座の誤登録は紐づけミスの問題で、登録作業を行った利用者側のミスだが、利用者が不慣れなためログアウトを忘れたために起きたもので、そのためにはマイナポータル上でログイン中に自分の名前が表示されるように変える必要性を指摘されている。

背景にある「住基ネット最高裁合憲判決」の条件の厳しさ

最後の他人の保険証情報の誤登録もやはり紐づけの問題で、本来はマイナンバーを取得する際は厳格な本人確認(身元確認と番号確認)が必須なのに、厚労省は「住基ネットへの照会により番号を取得する」ということで厳格な取り扱いをしていなかったことを問題視されている。特に、氏名や生年月日で本人を特定することの危険性が明らかなのに、問題を生じさせていると指摘。

こうした紐づけミスが出てくる背景には、前号でも指摘されていた「住基ネット訴訟における合憲判決の理由」の一つが大きく影響しているとみている。それは、「行政事務で取り扱う個人情報を一元管理できる主体が存在しないこと」が求められているがゆえに、「情報提供ネットワークシステムにおいて個人情報が連携されると、このネットワークシステムを管理している総務省が個人情報を一元的に管理しているとみなされる」と解釈されてしまったことが影響しているのだ。

もう一度マイナンバー制度全体を見直してみるべきではないか

マイナンバー制度導入から10年、利用が開始されて7年経過し、利用方法が拡張され、管理体制などが変化するとともに当初の原則が崩れている(今回の誤登録に関してマイナポータルで情報を確認するよう呼び掛けているが、そもそもマイナポータルに氏名など個人を特定する情報は流さず、収入や税額など個人情報の中身だけ流すはずだった)こともあり、そろそろ再構築のための検討を開始すべき時ではないかと問題提起されている。特に、医療の番号の扱いについては診療行為には番号の利用の在り方決まっていないだけに、その紐づけの在り方に細心の注意を払って欲しいと結んでおられる。

住基ネット最高裁判決は現段階でどう解釈していくべきなのか

私自身、自分が内閣官房参与として参画していた「政府・与党社会保障改革検討本部」が、2011年6月30日に公表した『社会保障・税番号大綱』を改めて読み直してみた。その中の「第2 基本的な考え方」の「4.安心できる番号制度の構築」の中で「(3)住民基本台帳ネットワークシステム最高裁判決との関係」を特に注意深く読んでみて、そこには実に利用しづらい仕組みにせざるを得ない条件が存在していることを改めて確認することができた。10年以上前に民主党政権だった自分たちが作った原則ではあるが、実際に実行に移し始めた時に遭遇する様々な問題を考えたとき、どこまでこれらの原則に拘泥させられるのだろうか、という思いが募る。ことは、最高裁の判決で指摘されていることだけに、もう一度その判決についての現段階での司法の判断を求めていくべき時に来ていないのかどうか、検討して欲しいものだ。マイナンバーカードではなくマイナンバーを直接使っていくべきだという榎並氏の主張も、住基ネット最高裁判決の見直し無くして実現できないと思うだけに、ここは勝負どころではないだろうか。

榎並利博氏のJBPRESS最新号での問題提起にも注目を

と思っていた時、榎並氏が投稿されたJBPRESS(7月29日)の最新論文「マイナンバーの紐付け騒動を巡る場外乱闘、その混乱の原因はどこにあるのか? 元凶は『身元確認と当人認証の一体化』、番号を秘密にせず、堂々と使うべきだ」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/76277)を送っていただいた。結構長い論文なので、関心の向きには是非とも直接論文を読んでいただきたいのだが、結論として、デジタル後進国だった日本が早く追いつくべく「身元確認と当人認証を一枚のマイナンバーの中に取り込んだ」ことに問題の根源があり、もう一度それを区別したシンプルな設計にしたうえで「この個人情報は私のマイナンバーがついているから私のものだ」と堂々と言える仕組みにすべきことを提言されている。

われわれがマイナンバーカードを取得した際に4種類のパスワードを求められたが、何のためにそれが必要なのか理解した国民はほとんどいなかったのではないだろうか。それは、リアル空間とデジタル空間でも本人確認をできるようにするためなのだ。特に、90年代以降一般国民がパソコンやインターネットを使い始めると、オンラインで行政手続きをしたり行政が保有する自分の情報を確認したい、といったニーズに対応するために当人認証の機能が必要になり、そのためにマイナンバーカードにICを組み込んだわけだ。
ここにおいても、思い出すのは「自己情報コントロール権」という考え方が情報漏洩を危惧する方達から強く求められ、それを実現させるためにマイナンバーカードへのICカード化させる要因になったのではないか、ということなのだろう

デジタル化のインフラたるマイナンバー制度、より良いものへ

ここまで来たマイナンバー問題は、政府の総点検結果や個人情報保護委員会の調査結果がやがて出てくるわけで、その時に抜本的な見直しを提起する時に来ているのではないだろうか。ここは与野党ともに真剣に問題の基本に立ち返って大いに議論をし、より良いデジタル社会のインフラを創るために汗をかいて欲しいものだ。


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