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労福協 活動レポート

2023年9月19日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第310号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

アメリカ労働組合の闘いの進展、民主主義にとって不可欠な存在

このところアメリカでの労働組合の戦いがマスコミ紙上を賑わすことが多くなっている。現時点でも、UAW(全米自動車労組15万人)がストライキに入るとのことだが、ストを打つ目標は賃上げであり4年間で46%の賃上げ、週32時間労働で40時間分の賃金など日本では考えられないような高めの要求になっている。背景には人手不足と業績回復(今年前半だけでビッグスリーは約210億ドルの利益計上)があり、スト権支持率は97%に達し意気盛んとのこと。世論のストへの支持率も高いようだし、何よりもバイデン大統領が「米史上最も労組よりの大統領」と自負しており、経済格差の是正に向け組合員の組織化などを後押しする方針を、何と行政側が打ち出しているとのことだ。民主主義という観点から、労働組合という対抗パワーの存在が資本主義にとって不可欠であることを示しているのではないかと思う。

日本とアメリカ、どうして労組がこんなに違った対応になるのか

先月末には約33万人の組合員がいる物流大手UPS労組が、正社員・パートの時給(7.5ドルへ)を引き上げるなど待遇改善で合意、ハリウッド俳優の人たちのストライキが話題になり、製造業だけでなく幅広い業種にまで拡大していることにも注目せざるを得ない。日本では、ゼンセン同盟傘下の西武百貨店の労働組合が何十年ぶりのストライキに突入したことが報道され、死語になりかけていた「ストライキ」が一時的に脚光を浴びたこととはまるで別世界のようだ。

背景に挙げられている人手不足に関していえば、日本でも生産年齢人口の減少が続く中で「人手不足の深刻化」はアメリカ以上に進んでおり、本来であれば日本の労働組合も、もっともっとアグレッシブな賃上げを戦ってしかるべきなのだが、今年の春闘で3.56%の賃上げ(定昇分約2%込み)で「大幅」賃上げを勝ち取ったと評価されていた。まだ残っている年功序列型の賃金カーブを維持するための定昇分約2%を除けば。賃金ベースの引き上げは1.5%台でしかなく、物価が3%以上アップする中で、実質賃金は前年よりもマイナスが2年近く続いている。労働分配率では企業側の利益配分の方が高くなっているのだ。これで大幅賃上げとはチャンチャラおかしい話で、労働者の生活は確実に落ち込んでいる。

企業別労組という構造的弱点を持つ労働組合、果たして組合か?

なぜこんな恥ずかしいお粗末な状態になっているのか、日本の労働組合が企業別に組織されていることが一般的で、企業あっての労働組合という意識が根強く定着し、デフレに陥った平成金融不況下での賃上げ自粛を継続させた歴史を未だに引きずっているのだ。岸田内閣の下に置かれた8月31日に開催された「第21回新しい資本主義実現会議」の中で、政権側からは今年の賃上げを高く評価する意見が出ていたし、連合の芳野会長の発言内容のメモを見ても、この程度の賃上げでは労働者の生活は苦しくなっていることの追及は、いまいち迫力不足の感が拭えないものだった。「ストライキをかけてゼネストも辞さない」という力はないわけで、当然と言えば当然のことなのだろう。とはいえ、実際に闘うのは連合本部ではなく産業別労組なのであり、もっと言えばその産業別労組の中では、組織の中核をなす大企業の労働組合(最大のトヨタ労連は32万6千人の組織を誇る)なのだ。

産別連帯のない戦いは不利だし、グローバル化ではますます不利

その企業別労働組合が労働者として連帯し、本気で賃金を上げていく闘いを展開しなければ、賃上げは実現することはない。一社だけが突出して賃上げを進めれば、同一産業内での競争が不利になりどうしても横並びとなって経営側に屈することが多くなる。さらに、国際的な競争に直面している産業側にとって、簡単なことでは労働者側の要求に応えてはいられないのが現実なのだろう。

デフレ下の下で賃上げが進まなかった背景にはこうした企業間競争がある中での賃上げに向けた「労働者の連帯」よりも「自分たちの企業業績」優先となって賃上げが停滞してきた歴史があるのだ。浜口桂一郎JILPT所長の言葉でいえば、「ジョブ型」雇用ではなく、「メンバーシップ型」雇用がまだ多くの企業の雇用形態を左右していることや、例え「ジョブ型」雇用に転換したとしても、そのジョブは経営側主導による企業内だけに限定されたものでしかなく、社会的横断的なジョブとは程遠く、同じジョブでの産業別の連帯意識に裏打ちされたものからは程遠いのが現実なのだ。

果たして、日本の企業別労働組合とは本当に「労働組合」と言えるのかどうか、それすら疑われても仕方がない現実にあると見ていいだろう。アメリカはもちろん、ヨーロッパにおける労働組合の中には労働者階級としての連帯する意識が脈々として継続し、堂々と資本の側と戦い抜いてきた歴史があるのだ。

岸田内閣の組閣、矢田稚子総理秘書官の任命が意味するもの

そうした中で、今回の岸田内閣の組閣において、元参議院議員だった矢田稚子さんを総理大臣補佐官として抜擢した意味はどこにあるのだろうか。矢田さんが、元国民民主党に所属していたことから、自民党との連立に向けた動きが始まったとみる向きもあるだろうが、それ以上に日本の労働戦線への楔が撃ち込まれたとみるべきではないかと思う。ただでさえ、連合内では民間4単産であるゼンセン、自動車総連、電機労連、電力総連などが国民民主党支持で、立憲民主党支持の単産と政党支持が異なっている。旧総評・同盟といった労働戦線の違いは政党支持による違いが大きかったわけで、これからの動き次第では再び労働戦線の分裂へと進む可能性すら出かねなくなっているのではないだろうか。

毎日新聞の8月24日付の報道によれば遠藤前総務会長が次のように発言したとのことだ。

「自民の遠藤利明総務会長は7月26日、東京都内での講演で、国民民主や労組との関係をあけすけに語った。司会者から代表選について問われると、2022年7月の前回参院選でのエピソードを持ち出した。『自民が勝った一番大きな理由は、国民民主との選挙協力だ』。遠藤氏は当時、自民の選対委員長だった。『選挙協力』というような明確な協力関係があったわけではない。しかし、遠藤氏は、国民民主を支援する産業別労働組合(産別)の一部が、複数の選挙区で『自民支援ないしは中立という形で動いてくれた』と語った」

こうした背景を持っているだけに、今後の政権与党と連合傘下の民間単産との繋がりは、今回の矢田稚子総理補佐官の誕生でますます連携が深まっていくのではないかと思う。

岸田政権を労働組合(員)はどう見ているのだろうか

私自身、今の岸田総理の打ち出す少子化対策をはじめとする社会保障や労働者への賃上げへの努力といった点については、歴代自民党総裁の中ではかなり力を入れているように思うだけに、労働組合の中から自民党の総理とはいえ、シンパシーを持つこともありうるし、何よりもこうした産業別労組はもとより、その中核をなす大企業労組のリーダーの意識には、どの政党を支持するのかは多様化し始めているように思えてならない。バイデン大統領とまではいかないまでも、岸田総理の下で労働組合に対する本格的なアプローチが始まったのではないかと思えてならない。かつて、立憲民主党を立ち上げた時に当時の枝野代表が語った言葉で今でも脳裏に残っているのが「一番自分が近いのは自民党の宏池会だ」という発言だった。立憲民主党の立ち位置が、こうした自民党政権側の動きに絡んでどうなっていくのか、注目しながら見ていきたいと思う。

どうなる、「リベラル」と「保守」二大陣営への政治勢力の結集

今の選挙制度の下で、リベラルと保守という二大政治勢力へとどう収斂していけるのか、過渡期の悩みが続いているのだろう。最近の野党側、特に立憲民主党の立ち位置の曖昧さが支持率の低迷を招いているように思えてならない。立憲民主党支持の比較的高い層が高齢層に偏っており、10代後半哉20代、30代ではほとんど支持されていない現実はそのことを物語っているのかもしれない。日本には、社会民主主義政党を支持する職場レベルからの労働者階級意識が極めて希薄になっているだけに、政治勢力としての保守とリベラルの二大政治勢力がどう結集できるのか、まだまだ時間がかかりそうではある。


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