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労福協 活動レポート

2024年3月25日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第334号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

植田日銀、金融政策の転換により「普通の金融政策」へ

3月18~19日、日銀の金融政策決定会合で金融政策の転換が決まった。予想された通り短期金利のマイナスを解除し0~0.1%へ17年ぶりの利上げとなり、長期金利を1%程度に拘束していたイールドカーブコントロール政策も廃止され、ETFやREITの買い上げも中止されるに至った。新しい日銀の金融政策について植田総裁は「普通の金融政策」に戻っただけだと発言されている。

日銀と安倍第二次政権との間で締結されたアコードでは、恒常的に2%のインフレ目標が到達できるまで金融緩和政策が実施されることになっていた。最近の物価上昇率は2年近く2%を超えていることは確かだが、海外からの輸入インフレの影響が大きく、内需の拡大に伴うインフレとは見ていなかった。ところが、今年の5%を超す賃上げが実現できたことから賃上げとインフレの好循環が展望できると判断したようだ。

見直すべきは「2%の物価上昇目標」という政府とのアコードでは

もっとも政府のインフレ率に関する見通しでは、2024年度は2%を超えるものの25年度は2%を切るというのが公式予測であり、そうした中で本当に2%のインフレ達成が見通せるのかどうか、専門家の間でも疑問の声が起きていることは確かである。むしろ、政府とのアコードである2%のインフレ達成目標を、もっと柔軟なもの、たとえば1~2%といった幅のあるものにしていく方が先にやるべきことではないのか、といった声が強い。日本経済の潜在成長力の低下の下では、2%というインフレ目標の達成自体が難しいとみているわけだ。

もっとも、最近の労働力不足が賃上げに結び付き、インフレを恒常的に引き上げ続けていくこともあるわけで、2%という目標は必ずしも達成不可能な数値ではないことも確かであろう。そうしたことも考えながら、これから日銀の金融政策が「普通の金融政策」として順調に進めていけるのかどうか、経済の動きから目が離せない。

金融政策の転換のもたらしたものは、円安と株価上昇だけなのか

こうした金融政策の転換を機に、日本経済で今おきているのは「円安」の進展であり、株価の上昇である。1ドルが150円台にまで円安が進展しており、輸入物価の上昇によるインフレが進んでいる。また、株価の方も過去最高の水準(38,915円)である1989年末のバブル期を超えて4万円台(22日40,888円)に突入しており、海外からの投資(機)資金が日本企業の好業績の下で割安となった円によって一気に流れ込んでいるのだろう。これから先何処までこうした循環が続いていけるのか、注目していきたい。

金融緩和政策は効果があったのか、新自由主義政策の失敗では

それにしても、植田新総裁になって1年が経過しようとしているわけだが、今回の金融政策の転換についてどう評価すべきなのか、経済界の反応が興味深い。十倉経団連会長や新浪経済同友会代表幹事らは、金融政策によって日本経済の成長が左右されることは無いといった趣旨のコメントを発しておられる。インフレを抑制することはできても、デフレからの脱却にはなかなか機能できなかったことは確かであり、ましてやリフレ派の言うように貨幣をジャブジャブにすればインフレは起こせることは無かったわけで、この間の日銀の金融政策はどんな効果があったのか、今年8月頃に出る日銀のレビューが出ることになってはいるが、自分たちの進めてきた政策だけに、「忖度」とまではいかないにしてもバイアスのかかった評価になることは否めないだろう。1980年頃から始まった新自由主義政策は、小さい政府(財政)にして金融政策で舵取りをしようとしたわけで、その終焉が今目の前で進行しつつあるのだと思う。

「異次元緩和」をする必要があったのか、小幡績慶応大教授の批判

いろいろと今回の金融政策の転換についての評価が出始めているが、一番辛口の評価だと思うのは小幡績慶応義塾大学教授が東洋経済オンライン(3月23日)における「いったい『異次元緩和』をする必要はあったのか?」というコラムである。副題として「『壮大な実験』の失敗ではっきりしたことは何か」とあるように、元々必要がなかったのではないかという事を述べておられる。異次元金融緩和のメリットやデメリットをいろいろと挙げられたうえで、さらに突っ込んでリフレ派の貨幣数量説が間違っていた事だけではなく、「正統なマクロ経済学者」の認識も間違っていたことを指摘する。すなわち、

「中央銀行がインフレターゲットにコミット(実現に向けて約束する)すれば、市場参加者(金融市場、実体経済の市場とともに、すべての経済主体を含む)の期待が動き、期待インフレ率が上昇し、それに基づき経済主体が経済活動をすることで、実際のインフレ率も上昇し、ターゲットのインフレ率が達成されるというのは、ただの幻想であったことがはっきりしたのだ。期待は実現しない」

と述べ、日本だけではなくアメリカにおいても実際に期待に働きかけてインフレ率を動かすことはできなかったと強調している。このあたりはルーカスを先頭とする「合理的期待学派」に対する批判と見ていいのだろう。

さらに、インフレが高まったのは、金融政策によってではなく、コロナ禍とロシアのウクライナ侵略で起きたサプライショック、それと構造的な人手不足によるものとみて金融政策によって起きたとは到底言えないと「異次元緩和」を批判される。大筋、指摘されることには尤もだと思う点が多い。

リフレ派の岩田元副総裁「どうして日銀は焦って決めた」と批判へ

最後になるが、異次元の金融緩和の旗振り役として2013年から5年間日銀副総裁だった岩田規久男学習院大学名誉教授も、3月22日の東洋経済オンラインのインタビュー記事で「どうして日銀は焦って決めた?」と今回の日銀の決定を批判されている。相変わらず、自分たちの進めた貨幣数量説が現実に機能しなかった事への真摯な反省は見られず、消費税の引き上げを逆風と見立て、それを跳ね返して雇用環境の改善などで優れた効果を上げ、デフレマインドも解消させたと述べておられる。今回の日銀の金融政策の転換がこれからどう評価されていくのか、やがて今年の夏ごろ出てくる「日銀のレビュー」とともに注目していく必要がある。


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