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労福協 活動レポート

2024年3月18日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第333号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

予想以上の賃上げ好調さが、日銀の金融政策転換の推進材料なのか

どうやら日銀の金融政策の転換が始まるようだ。13日に集中回答日だった今年の賃上げは、連合の集計によれば5.28%(定昇込み)を記録し、昨年の同時期の3.58%との比較では1.7%高くなっているとのことだ。この数値は大企業中心だが、中小企業でも4.42%となっているようで、昨年に比較して賃金が確実に物価上昇率を超える上昇基調に入ったと日銀は判断したのだろう。日経新聞などマスコミ各紙は18~19日に予定されている日銀の金融政策決定会合で、マイナス金利廃止とイールドカーブコントロール政策からの撤退、さらにはETF、REITの新規購入停止などを決定するとの観測が強まっている。果たして今回の春闘の賃上げが来年以降も持続するものなのかどうか、やや危ういものを感ずる。

マイナス金利の撤廃となれば10数年ぶりの金利引き上げとなるわけで、短期の政策金利は0.0~1.0%と日経紙は予測している。長期金利がいきなり高騰しないような措置を取るとの観測もあるが、これまでの日銀の姿勢から考えるといきなりのサプライズには至らないよう配慮するのだろう。

日銀は政策転換には慎重のうえにも慎重さに重点を置いてきた

当初は、3月ではなく4月になるのではないかと予想されていたが、今年の賃上げの勢いが予想以上強かったからだろうか、目標としていたインフレ率2%を達成できるという確信を持ったのだろう。1990年代の日銀法改正による独立性が付与されて以降、日銀の絶えず「早すぎる政策決定」がことごとくデフレからの脱却に繋がらないようになってしまったこともあり、最近の日銀の金融政策の決定では、量的緩和政策に見られたように少し決断が遅すぎるのではないかと思わせることが多かったように思う。日銀OBの門間一夫氏は、インフレ目標達成ができなかったのは「量的緩和が少なすぎたからとは、もはや誰も言えないようになった」という指摘をされていたが、黒田総裁から植田総裁に代わっても「羹に懲りて膾を吹く」ような慎重な姿勢だったように思う。それが、こうして金融政策の転換が進められようとしているわけで、今後この決定がどういう影響をもたらすのか、経済に携わる者にとって慎重に見極めていく必要があると思う。

今日銀に必要なのは「2%の物価目標達成」を柔軟なものに変えるべきではないか

果たしてこの日銀の決断は、専門家にどう理解されるのだろうか。その中で、注目したいのは「2%のインフレ目標」をもっと柔軟に捉えるべきではないかという声が日銀OBであった専門家に多いことだ。という事は、日銀が後生大事に堅持し続けている「物価上昇率2%というインフレ目標」をこれからも確実に凌駕できるという事にならない場合、再び金融緩和路線に舞い戻る可能性があるのではないか、という事を指摘されている。日本の潜在成長率が1%を切るような低いなかで、インフレ率が2%を超えることは至難の業であり、2%程度とか1.5~2.0%という幅のある柔軟な目標にすべきではないかという声が強い。日本経済の体力が弱ってきている中では2%超えはなかなかしんどいのだとおもう。

政府は、すでに安倍政権時代にデフレ状態からの脱却を認め、日銀とあれだけ厳しく協定を迫った「2%のインフレ目標」には拘泥しなくなっており、最近の国会での鈴木財務大臣答弁でも、もはやデフレではなくインフレになっていると明言している。ここは、政府と日銀の間で2013年に交わした協定の見直しを進めていくべきだと思われるがどうなのだろうか。あまりにも頑なに2%越えにこだわっていることは、金融政策を再び誤った方向へと舞い戻らせてしまうのではないかと思えてならない。

日本の労働組合闘争力は極めて脆弱、持続可能なものになるのか

懸念することは、一つは賃上げがこれからも継続して続けられていくのかどうかである。景気はアメリカ経済の好調さにけん引されている面が強く、不況が来ればまたぞろ賃金の抑制に向かうのではないか。労働組合の闘争力が極めて不十分なだけに賃金の持続的な引き上げが続き、それが日本経済の需要拡大となって好循環になるかどうか、極めて危ういと感ずるのだが、どうだろうか。

「成長なくして分配なし」ではなく「分配なくして成長なし」ではないのか

というのも、今の日本経済にとって政府・経済界は賃上げが必要だという認識をしているのは確かではあるが、その背景にある賃上げと成長との関係についての考え方(理論)を変えているのかどうか、という点に問題が残るのだ。この国では「成長無くして分配なし」と言い続けてきたが、成長して一人当たりの付加価値額でみて他の先進国並みの成果を上げていながら、労働者の賃金は停滞したままでしかなかった(「トリクルダウン」論が成り立たなかった)わけで、「分配なくして成長なし」という考え方に立脚すべき時なのだ。「需要」の拡大こそが、もともと日本経済にとって必要になっているわけで、そういう観点からして「分配」を重視してくのが当然なのだ。

岸田政権「新しい資本主義」、「分配」はあっても「再分配」は無い

さらに言えば、賃金は個々の労働者に対して「能力に応じて支払われ、必要に応じて支払われるのではない」わけで、国民の生活を保障するためには社会保障や教育などの分野での政府の財政の果たす役割が重要になる。それは、財政における再分配機能の強化が必要になるわけで、まさに政府の出番なのだ。

岸田政権の「新しい資本主義」なるものをいくら聞いていても、「分配」までは述べているが、自らが責任を持たねばならない「再分配」という言葉を聞くことは無い。また、質問をする与野党議員からもそのことを追及する声は聞こえてこない。再分配強化のためには、税や社会保険料の増加が必要になるわけで、国民にその必要性を訴える声が与野党ともに出てこないのだ。要は借金を肥大化させながらその場を糊塗し続けてきているのが現実だ。そのツケは、間違いなくこれからの世代が受け継いでいく以外にないのだ。「分配」と「再分配」の違いをしっかりと認識し、経済政策の転換を図っていくまともな政治が求められているのだ。


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