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労福協 活動レポート

2024年4月15日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第337号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

今年は、5年に1度の年金制度財政検証の年、年金改革議論開始へ

今年は公的年金の5年に1度の財政検証の年にあたっている。今年の夏ごろには、その論議が佳境に入るわけで、年金周りの情報誌ではそれに向けて議論がスタートしている。

既に、4月12日付『毎日新聞』で「年金減額緩和検討」「厚労省 一定給与ある高齢者」という見出しで「高齢者在職老齢年金(高在老)」について、廃止を含めて見直しの検討に入ると報じている。その他、基礎年金保険料納付期間の5年延長、マクロ経済スライドの調整期間を基礎年金と厚生年金で一致させる、厚生年金保険料算出の基礎となる月収上限(現行65万円)の引き上げなど多くの課題が検討されるとのことだ。また、『日本経済新聞』3月19日付「経済教室」において、駒村康平慶応義塾大学教授が「年金財政の展望と課題 基礎年金の水準低下を防げ」を、翌20日は日本総研の西沢和彦理事が「財政検証超えた議論の場を」を掲載している。特に、駒村教授の論文は今年の財政検証の焦点は、前回も確認された「基礎年金の給付水準の低下」にあるとされ、基礎年金のマクロ経済スライド適用期間短縮を進め、厚生年金の補完として国民年金の位置づけを変えるべきで、いまどき、自営業や農家の年金制度というのは事態を的確には表していないと問題提起される。

権丈善一教授『東洋経済オンライン』誌に3回に分けて問題提起

一番の論陣を張られているのは2004年の年金改革論議以来、私が最も信頼している権丈善一慶応義塾大学教授であり、「東洋経済オンライン」に3回にわたって「Q&Aで考える公的年金の過去と未来」と題する論文を掲載されている。1回目が「経済学者が間違い続けた年金理解は矯正可能か」(3月13日付、上)、2回目は「怖い”集団催眠”専業主婦年金3号はお得でズルイ」(3月28日付、中)、そして3回目が「5年に1度の財政検証、次の年金改革の目玉とは?」(4月1日付、下)。この3本の論文は、『週刊年金実務』という年金問題の専門誌発刊50周年記念として「年金制度のこれまでとこれから、10人に聞く」という企画に参加された権丈教授が、自ら書かれた文章を加筆し、東洋経済編集部の協力を得てQ&A方式で書かれたものである。今回は、その要点について私なりに整理して問題提起したい。

当然のことながら、これまでの年金制度の在り方についての問題が掘り下げられているわけで、今年の年金財政検証だけに問題を絞っておられないことは言うまでもない。強いて言えば、3回に分かれた論文の内(下)がこれからの年金の在り方について書かれているわけだが、重要な問題点を指摘されている(上)や(中)にも少し触れてみたい。

多くの学者・専門家が陥った「ヒューリスティック年金論」の陥穽

まず、「経済学者が間違い続けた年金理解は矯正可能か」という(上)である。日本の年金制度についての国際的な評価が高いのに、肝心の日本では依然として間違った理解をする学者や専門家、野党政治家、更にはマスコミ関係者が存在していることに触れておられる。年金についての誤解が生まれる要因には、ホモサピエンスとして「公的な再分配など直近まで考える必要なく進化してきた」がゆえに認知上のバグや近視眼バイアスを持っているからで、そうした認知バイアスがあるため間違える。権丈先生はそれをヒューリスティック年金論と批判される。(ヒューリスティックとは、直感的、簡便的に物事を判断すること)どうすればそういうことから免れるのか、”制度や歴史を軽視する経済学には無理だ”と喝破されている。要はしっかりと制度や歴史を理解することであり、よく学ぶことなのだ。こうした間違いやすい年金制度についての「公的年金シミュレーター」を利用して、事業主に労働者に対するコミュニケーションを義務付けることを提唱されている。けだし、その通りであろう。

85年の雇用均等法と同時改正の年金制度、どんな雇用形態でも対応可能、ようやく社会が年金に追いついた

次いで、(中)の「怖い”集団催眠”専業主婦年金3号はお得でズルイ」では、1941年に成立した現行公的年金制度の変遷の中で、1985年単身者の定額部分を半分にし、一人当たり賃金が同じなら負担と給付は同じになる原理を徹底=「3号被保険者制度」を確立させ、2004年の厚生年金保険料に共同負担規定が入り、夫と妻の年金権が確立し離婚時の3号分割が実現されている。

こうした大きな変化に不勉強なために、3号制度に対する根強い誤解が生じていることに言及。公的年金では「応能負担、必要給付」原則が実現、それに対して私的保険の原則である「給付、反対給付均等の原則」になっていないと批判する向きに対して、私的保険では男女死亡率の違いや育児休業中の保険料免除も出来ないわけで、まさに公的年金ならではの「応能負担、必要給付」が貫かれていることを強調される。

世の中では、専業主婦=3号被保険制度は自分で保険料を納めないで年金がもらえるのはズルイといった素朴な思い込みがあるようだが、そこは1985年の男女雇用均等法の制定と同時に、しっかりとした均等法の理念に合致させられた3号制度が確立していることを自覚させられる。と同時に、04年の改定による離婚時の三号分割で、直ちに半分の年金権が確立するわけで、退職後配偶者からの離婚の恐怖に怯えないようにと世の男性族にも忠告をされている。

日本社会が大きく変わり、共働きや単身者が増えても大丈夫であり、「3号はお得」は大きな誤解であり、2号を選択した方が年金は充実するようにできているわけで、社会の変化がようやく年金制度に追いついたのだ。

一番問題なのが「国民年金保険」制度、国民皆年金とは言うが

一番の問題は国民年金制度であり、所得捕捉の正確性において皆年金に馴染みにくい農家や自営業者などを無理やり公的年金に加入させ、国民皆年金を打ち出し社会党に対抗しようとした自由民主党の無理筋が通って1961年から実現させたものだった。結果として、社会保険とは似て非なる制度となっていて、年金専門家から批判されやすい問題を持っていることに言及。つまり、「定額負担、定額給付」という「応益負担」制度となっていて、公的年金にとって不可欠な「応能負担、必要給付」となっていない。産業構造の転換によって国民年金制度だけでは持続可能性が持てなくなり、被用者とそれ以外の人たちとの間で財政調整が求められ、「基礎年金」と呼び厚生年金の定額部分と同じものへと組み込まれていく。その理屈は、国民年金に加入している年老いた親たちを、厚生年金加入の子どもたちが支えていくべきではないかというものだったわけだ。

この点は、今では農家や自営業というよりも中小企業従業員や非正規労働者などが大きく増えてきており、むしろそうした国民年金から厚生年金へと、どう転換させていくべきなのかを正面から実現させていくことを求める必要がある。この点は、次の(下)「5年に一度の財政検証、次の年金改革の目玉とは?」で詳述されている。

今年の財政検証の課題、勤労者皆保険実現が最優先、長く働けるように制度をアジャストすべき

今年の財政検証でぜひとも実現すべき課題を提起されている。勤労者皆保険の実現を最優先させつつ、「Work Longer」という目標に向けて公的年金制度をアジャストしていくべきだと主張される。具体的には、

・基礎年金の拠出期間延長(40年から45年へ)
・高在老の縮小・撤廃(現在は年金受給と賃金収入が合算して47万円を超すと年金が減額へ)
・加給年金の廃止、遺族年金の有期化・ジェンダー平等化
・マクロ経済スライドのフル適用(名目減額はしないことの是正が必要)
・年金課税の強化

をあげておられる。

勤労者皆保険制度により事業主負担の義務化の徹底へ、「厚生年金ハーフ」の提案も

特に、「勤労者皆保険の実現」に関して次の指摘は是非とも考えて欲しい点だと思う。

「日本の公的年金は、事業主負担を避けようとするレントシーカーとの戦いであった。強いレントシーカーを前に、日本の公的年金改革は他国では例を見ることがない、非正規を生む原因として存在し続けてきたのである。そのことを多くの人たちが十分理解しておかなければ、これまでの歴史を繰り返すだけである」

社会保障の柱となるべき年金制度が、不安定な雇用を生み出す制度的要因になっているわけで、どうしても改正が求められるべき重要な問題である。人を雇う側の責任をしっかりと追及していくべきである。

権丈先生は、この勤労者皆保険が今年の財政検証時に最大の山場を迎えるとみておられ、「厚生年金ハーフ」を入れることを提唱される。つまり、低賃金労働者の1号保険者を無くしていくためには、厚生年金保険料を納めることすらためらう労働者に対して、保険料は免除しつつ雇用主からの事業主負担分だけは維持し、厚生年金ハーフという制度を導入してでも勤労者皆保険を実現することなのだ。ドイツのミニジョブ制度の扱いに似た制度化を図るべきことを提唱されている。ぜひとも実現させていきたいものだ。

年金税制改革の重要性、社会保障全般の負担基準にまで影響へ

私自身が税制に携わったことを考えたとき、特に年金税制の改革の必要性を痛感させられる。それは、支払い能力に応じた負担面での不公平さをもたらしていることであり、年金だけでなく医療、介護、子育て支援金制度にまで影響を与えているのだ。それだけに、公的年金課税に際して公的年金控除の在り方についての公平性を求める改革が求められていると思う。だが、直ちに税制改正が実現できる状況からは程遠い。選挙を前にして高齢者の公的年金控除額の縮減を提起する政治家はいないし、これから高齢者が更に増えるだけにその不公平さにメスを入れなければと思うのだが、政治家の誰も問題を前面に打ち出すことがない。所得税制全体を包含する大改革があるとしたら、その時に改正することができるかどうかという事だろうか。

働くことが重要になるのに罰を与える「高在老」の撤廃が重要

そのほか、年金を受給しながら働き続けている高年齢者在職老齢年金制度(高在労)は、まことに歪な制度であり当然見直しをしていく必要があるわけだが、高額所得者の優遇になるのではないかという分配面での批判が出てくる。ここは、高額所得者からの保険料上限の引き上げや年金税制からの対応と並行しながら進めていくべきことと提起されているが、納得的である。

また、基礎年金の問題では、40年から45年へと保険料拠出期間を延長することには、半額が税であるため税制改革が求められるという難問をどう乗り越えられるのか、更には基礎年金の引き上げは高額所得者の基礎年金も当然増加するわけで、ここでも高在労と同じような課題が出てくることへの対応が求められるわけだ。

いろいろと問題が多く出ている年金の制度改正は今後の大きな課題であり高齢社会の安定したインフラとしてきちんと整備していく必要があることは間違いない。一部関係者の狭い利害に立脚した見方ではなく、視野の広い公平な論議が展開されることを願うばかりである。

(注)東洋経済オンラインでの権丈先生の論文のリンク
「経済学者が間違い続けた年金理解は矯正可能か」「Q&Aで考える『公的年金保険の過去と未来』(上)」
「怖い”集団催眠”専業主婦年金3号はお得でズルイ」(中)
「5年に1度の財政検証、次の年金改革の目玉とは?」(下)


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