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労福協 活動レポート

2024年8月19日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第353号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

岸田総理の退陣表明、今年はやはり「選挙イヤー」になりそうだ

今年は世界的な選挙イヤーと言われ、既にイギリスでの歴史的な政権交代が実現し、アメリカ大統領選挙でもバイデン大統領の立候補辞退によってこれまた国の最高指導者が交代することとなる。わが日本でも、あたかもバイデン氏の後を追うように岸田総理が退陣を表明したことにより、新しい総理総裁が誕生することになる。事態は、3年前の菅総理の退陣から自民党総裁選挙での岸田総裁選出、岸田政権誕生から一気に解散総選挙での自民党の勝利へとつづいた出来事の後追いではないか、と思わせる動きが眼前に進む。次期総裁選挙に出馬しないと語った岸田総理退任の記者会見における言葉の中からも、次の新しい総裁を選んで総選挙での勝利を期待するかのようなニュアンスが漂っていた。明らかに「2匹目のドジョウ」狙いの総裁選からのリタイア宣言だったのだろう。

多くの自民党国会議員の心理からすれば、国民的な人気の落ち込んだ岸田氏から新しい総理・総裁を選出して「雰囲気」をがらりと変えることに望みを託したいわけで、そうした党内外の空気を読み込んだ岸田総理の決断であったことは間違いあるまい。アメリカのバイデンからハリスへと、大統領選挙戦での候補者転換と同じ効果を狙ったものなのかもしれない。岸田総理とバイデン大統領による、歴史に残る因縁の政治決断といえないだろうか。いずれにせよ、結果は年内には決まるだろう。

岸田総理の残したレガシー、宏池会出身者とは思えない右傾化

ところで岸田政権はどんな政治的なレガシーを残したのであろうか。宏池会出身の総理大臣なので「軽武装・経済重視」路線をとるのではないか、と思われたわけだが、現実には外交・防衛問題では真逆のタカ派路線を牽いてきたことに驚かされてきた。2022年末には「タカ派」だった故安倍総理ですらできなかったことを成し遂げたのだ。いわゆる「防衛3文書」と呼ばれる「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」を閣議決定し、反撃能力の保有や防衛費倍増(GDP2%)を決定するなど、まさに防衛政策の大転換が進められたのだ。と同時に、安保・防衛問題で見逃せなかったのが、今年4月に国賓待遇を受けたアメリカ議会合同演説での発言である。国内では慎重に言葉を選んだ岸田総理だが、アメリカでは「ここまで言うか」と思われるような発言が残されている。

「世界は米国のリーダーシップを当てにしていますが、米国は、助けもなく、たった一人で、国際秩序を守ることを強いられる理由はありません」

「世界中の民主主義国は、総力を挙げて取り組まなければなりません。皆様、日本はすでに、米国と肩を組んで共に立ち上がっています。米国は一人ではありません。日本は米国とともにあります」

この発言に、出席していた両院議員は大喝采だったとのことだ。

総理の前に外務大臣を長く担当してきた政治家岸田文雄氏の本音の言葉だったのかどうか、これからの日米関係がどう展開していくのか、まさに「歴史に残る発言」であり、ここまでアメリカの求めていること(求めている以上のことと見る向きもある)を述べた歴史の評価がやがて下されるのだろう。残念ながら日本の置かれている国力の衰えは隠すことができなくなっているわけで、「時代錯誤」という言葉が頭に浮かんでくる。

自民党内総裁選挙、「出るわ出るわ」二桁に膨れ上がる立候補希望者

少し、リタイアしていく2人のリーダーの事に触れすぎてしまったが、これからの総裁選挙に向けて自民党内での動きが活発化し始めている。立候補の意欲を示したと報道されている方達だけでも8名近くに達しているし、さらに二桁にまで増える可能性すらあるとのことだ。まさに大乱戦というところなのかもしれないが、1回目の投票で過半数を制する候補者が出ないと決選投票では上位2名に絞られ、国会議員票プラス地方代表は47都道府県代表となって国会議員の支持が大きく左右してくる。それだけに、エントリーするメンバーの中で誰が決選投票に残れるのか、これから始まる自民党総裁選挙の行方が大いに気になるところではある。

派閥を解消したとはいえ、それでも廃止しなかった麻生派だけでなく、廃止したはずの旧派閥が事実上復活しているわけで、一番ダメージを受けた安倍派の凋落と若手の台頭が一つの特徴になるのかもしれない。どんな日本の政治を構想しているのか、たくさんの候補者の論戦で国民の求めるリーダーが誰になるのか、その後の解散・総選挙、さらには来年6月の参議院選挙も視野に入れたリーダー選びに注目していく必要があることは言うまでもあるまい。

政権奪取に向けた立憲民主党の代表選、再びキングメーカー気取りの小沢一郎氏の暗躍に想う事

一方、野党第1党の立憲民主党の代表選挙も9月には実施される。現職の泉代表は再選に向けて動き始めているし、前代表の枝野幸男氏も立候補することを宣言している。はたして、この2人以外に誰が立候補してくるのか、今のところは明確になっていないが、党内で隠然とキングメーカーとして振舞い始めているのが小沢一郎氏であることに注目しておきたい。泉代表が選出された3年前に、小沢氏を要職ポストで処遇する約束をボイコットされた事への不満があるのだろう、泉代表に対する公然と退陣を求めての人事の工作に動いていることは周知の事実だ。泉氏と小沢氏との間でどんな約束が交わされていたのかは知る由もないが、小沢氏が依然として立憲民主党内で「辣腕」を発揮されることへの違和感が拭えないのだ。というのも、小沢一郎氏があの本格的な政権交代によって成立した民主党政権時代にどんな行動をとられてきたのか、今一度明確にしておく必要があると考える。

民主党政権交代が挫折した大きな要因、無責任なマニフェスト財源

2009年の政権交代に向けて、民主党内での人事や政策についての大きな権限を掌握していたわけで、主として政策問題に顔を出していた小生にとって「マニフェスト」選挙のなかで、一番肝心の財源(16.8兆円)をどう確保するのかという問題に対して、「財源なんてものは何とでもなる。心配するな」の一声で片づけられたことを忘れることはできない。当時、民主党税制調査会でご一緒していた藤井裕久元財務大臣に問い質してみたが、「一般会計と特別会計あわせて200兆円以上あり、その1割ぐらい削れなくてどうする」という発言など、元大蔵官僚とは思えない発言に驚いてしまったことを記憶している。結果として民主党政権は、3年3か月の短命内閣に終わってしまったわけだが、財源問題に苦慮した菅直人総理が、公約していなかった消費増税を打ち出したことによって大きく支持を落としてしまい、最後は小沢一郎氏を支持する政治家たちが分裂して政権交代を許してしまったことが忘れられない。再び立憲民主党に復帰された経過については知る由もないが、こういう政治家が裏に回って大きな権力を振り回していることへの不信感は、どうにも拭えないことだけは確かである。

多くの論戦が期待される民主党代表選、だが人材の総合力不足は否めない現実

民主党の代表選挙は、候補者選びの段階から抱える国民からの不信の構造をどうやって克服していけるのか、実に深刻な状況に直面しているのではないだろうか。泉代表と枝野前代表以外に新しい人材が出て、活発な政策論戦が戦わされる可能性はあるのだろうか。自民党の新総裁候補の人材の多様性に比較して、野党第1党という次の内閣を組閣する立場の政党の存在感が余りにも霞んでしまうのは、政党としての組織力・人材力・総合力の違いが歴然としているからなのだろうか。

こうして考えてみたとき、自由民主党と立憲民主党という政権交代を目指す政党の現実を観たとき、どうにもならない無力感を感じてしまうわけで、日本の民主主義が今一つ深まっていかない要因は何なのか、今一度立ち返って深刻に考えていく必要がありそうだ。


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