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労福協 活動レポート

2024年8月12日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第352号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

東京株式市場のブラックマンデー以上の乱高下、これからどうなる

東京株式市場の乱高下が止まらない。7月11日に日経平均で42.224円という史上最高値を記録したと思いきや、先週から今週にかけて1万円近く暴落、特に8月5日には1日の下落幅としては史上最高の4.451円安とブラックマンデー越えとなった事には驚かされた。ところが翌6日は一気に3.217円の値上がりとなったわけで、まるで制御不能となった高速ジェットコースターに乗っているような「悪酔い」感が漂い始めている。

日本の超金融緩和を利用した「円キャリートレード」の存在

岸田内閣にとって、唯一といっても良かった株式市場の好調さに水をかけられる結果となり、日本経済の先行きがどうなるのか暗雲が漂い始めたのかもしれない。どうやら直接的な根源はアメリカの景気の先行き不安にあるようだが、日本市場の方が大きく反応している背景には、日本の株式市場を絶好の利益の場にしている海外ファンドの動きがあるようだ。この点は、「円キャリートレード」といわれるもので、金利の低い日本円を借りて日本以外の高金利商品を購入して利ザヤを稼いできたが、今回は日銀のテーパーリングと同時に進めたわずか0.1%の利上げに伴い、それが逆回転となって為替は円の急騰となってきているわけだ。

海外からの投機資金の流入、為替相場の円安から円高へと急変

ちなみに、ロイター通信によると、BIS国際決済銀行のデータを調べたところ、2021年以降国境を越えた円の借り入れは7420億ドル(約109兆円)増加したとのことだ。これだけの金額が、時にレバレッジをかけて投機的資金と化しているわけで、その巻き戻しによる円安から円高への転換は急激に進んだに違いない。それが証拠に、一時は1ドル162円台の円安から一気に1ドル140円台前半にまで円高となるなど、為替相場も乱高下が激しく、市場の反乱がおきていることを教えてくれる。グローバル化した金融資本主義をどう制御していけるのか、なかなか難しい時代なのかもしれない。

日銀の金融緩和縮小に加えて利上げへ、植田総裁のタカ派発言へ

今回の株式市場の激震の始まりは、一つにはアメリカの景気動向が雇用面で景気低下のシグナルが出始め、ニューヨーク株式市場で高値だったハイテク株中心に落ち込んだことを受けた面もあるが、やはり決定的だったのは7月30~31日に開催された日銀の金融政策決定会合で、「0~0.15%から0.25%への利上げ」という「金融政策の正常化」に向けた動きが大きく左右したことは間違いなさそうだ。

7月の政策決定会合では、既に前回の会合において予定していた「国債買い入れ額の減額」という「量的引き締め」への転換と「利上げ」の合わせ技となった事に、多くの日銀ウオッチャーにとってサプライズだったことは間違いない。植田総裁は31日政策決定会合後の総裁の記者会見で、記者からの0.25%への利上げが日本経済に与える影響を懸念する質問に対して、「金利水準は非常に低く、実質金利は深いマイナスだ」として先行き追加利上げをしても日本経済のブレーキにはならないと断言、懸念を一蹴しこれまでには見られなかった「利上げに対する積極的な姿勢」を前面に出したと報道されている。

植田総裁の記者会見の「タカ派発言」、株価の大暴落から内田副総裁の函館での「ハト派発言」へ

この記者会見を受けて週末から株価の方も下落しはじめ、8月2日には日経平均で1500円以上も下落し、さらに週明けの5日は先述したように史上最大の下落額4451円となって市場を直撃する。この流れを断ち切るべく7日函館市の会合で、日銀の内田副総裁が「金融市場が不安定な状況で、利上げすることはない」「当面、現在の水準で金融緩和をしっかりと続ける」と述べ、植田総裁の「タカ派発言」から一転して内田副総裁による「ハト派発言」へと転換させていったわけだ。

おそらく、日銀と政府関係者にとって5日の株価の史上最大の下落という事態に直面し、直ちに市場への発信が必要と判断したのだろう。その後も株式市場では連日高値と安値の差が1000円台に達する荒い値動きが進みつつ、東京株式市場はようやく一定の落ち着きを示し始めているようだ。それにしても、総裁の発言を副総裁が180度異なる発言で否定するとは、あまりにも急激な金融市場の波乱の展開に関係者の狼狽ぶりが目に浮かんでくる。必要なら、総裁自身が自分の見通しの間違いを訂正する記者会見を開くべきではなかったか、今後に禍根を残したのかもしれない。

何故総裁は利上げを急いだか、為替の円安批判を意識したのか?

これからどのように市場が進んでいくのか、予断は許さないものの、今回の東京株式市場における動揺は、日銀の予想以上の利上げに向けた動きが原因と見られているわけで、「植田ショック」と呼ばれているようだ。

それにしても植田日銀は、なぜ量的緩和と同時に0~0.15%から0.25%へとわずか0.1%とはいえ利上げに踏み切ったのだろうか。一般的にこの程度の金利水準にしたとしても実質金利は大幅なマイナスであり、「できるだけ金利を早く正常化したい」という事はあるのだろう。ただ、そうした一般論での低金利からの利上げという事だけではなく、為替相場が円安に振れてきたことに対して、円安が輸入物価の高騰となってインフレを招いてきたことに対応すべく、日米金利差を解消していきたいという思いが日銀首脳の背景にあったのではないかと思う。

政治家の日銀金融政策への口先介入、利益相反もあり禁じ手だ

日本銀行の役割は物価の安定であり、為替相場は政府・財務省の所管であると言われてきたわけだが、為替相場を規定する大きな要因としての金利差について、与党有力政治家からも金利引き上げという声が出始めていたことは間違いない。政治家が金融政策に対して発言することは珍しいことではないが、今でも金政策決定会合に財務省や金融庁の大臣・副大臣などが出席し発言することができるし、議決延長請求権が認められているわけで、金融政策についての政治的中立性の確保が保障されている。ここは長い間の知恵として「政治家と金融政策の利益相反」を防ぐ仕組みの持つ重要性を記憶しておきたい。

国際金融のトリレンマ、為替相場の安定には金融政策の制限も

経済の一部の専門家の中には,日銀のマンデートに物価の安定とともに為替の安定化も入れるべきではないかという声が出始めている。為替相場の問題は、かねてから為替介入問題として国際金融の世界では禁句として語られることが多かったわけで、露骨に為替相場の安定に向けて中央銀行のマンデートとして掲げることは了承されることは無いだろう。どだい「国際金融のトリレンマ」として対外的な通貨政策をとる時、①為替相場の安定②金融政策の独立性③自由な資本移動の総てを同時に達成することはできないとされてきたわけで、無理筋の提言であることは確かだろう。

日銀の金融政策の正常化ゴール到達には時間がかかりそうだ

ただ、実際問題として日本の「超金融緩和」政策が世界の中央銀行と大きく異なったものとなってきているわけで、2%の物価上昇を目指す日銀としてもその正常化に向けて舵取りを早めようとしたのだろうか。ただ、タイミングとして7月が早すぎたのか、それとももっと速く正常化を進めておくべきだったのか、そのあたりは専門家の間でも見解は分かれているようだ。

株式市場がこれからどうなっていくのか、連休明けのお盆以降の市場から目が離せなくなっている。


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