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労福協 活動レポート

2024年10月7日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第359号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

石破新総理の船出、「順風満帆」とは程遠い嵐の中の孤独な船長か

自民党総裁選挙が終わり、党三役を始めとした人事が進み、1日国会開会と新総理大臣指名・組閣、4日には石破総理大臣初の所信表明演説が実施された。総裁選挙から10日近く過ぎたのだが、石破新総理・総裁にとってはあっという間の10日間だったに違いない。だが、その船出は必ずしも順風満帆とは言えまい。

既にマスコミ各社実施の石破新内閣に対する支持率が出始め、いずれも50%前後の支持で、ご祝儀相場が期待された割には低い。毎日新聞社だけは、総裁選挙直後の27~28日と組閣直後の10月3~4日、2回にわたって調査が実施され、新総裁及び新内閣の支持率はそれぞれ52%と46%、僅か1週間足らずの調査にもかかわらず石破総理への支持率が5%以上落ち込んでいる。これから解散・総選挙に向けてさらに世論調査が実施されるだろうが、石破ブームが起きて地滑り的な勝利になることは望むべくもない。下手をすれば過半数に達しない程の「敗北」まで予想する評論家すら出る始末である。それでも「岸田政権末期の支持率よりは高い」と石破総理以外の自民党執行部は見ているのかもしれない。

党内基盤の弱い石破新総理、その強みを生かそうとしない古い体質

こうした発足時の低い内閣支持率の一つの要因は、これまで石破氏が総裁選挙時や、それ以前の主張から見て、明らかに逸脱(変質)していることにもある。新総裁就任直後、国会日程を1日から9日までと限定し、予算委員会を開催することなく解散・総選挙に持ち込もうとしているわけで、国民の信任を受ける前に国会での予算委員会での審議は当然のこと、と石破総理が発言していたことに真っ向から反する。これには立憲民主党の野田新代表や他の野党も、「約束違反」だと厳しく批判するのは当然だろう。「正論」を吐く石破新総理の持ち味を、どうして生かそうとしなかったのだろうか。

さらに、9日解散、27日投開票の衆議院選挙日程に向けて、いわゆる「裏金議員」の公認問題についても、総裁選挙中の石破氏の発言と新総裁になって以降の発言は、明らかに大きく後退し始めていた。当初は解散・総選挙がまじかに迫っていることを理由に、地方県連からの公認申請を「本人の誓約書」を付ければ認める方向と報じられたが、さすがに世論の反発を受けて厳しく対応する方向になるようだ。その行方は党内亀裂を深めることになるだけに、しっかりとその行方に注目したい。

これからも続く石破総理の過去発言との乖離、持続可能なのか

こういった流れになるのは、石破新総理の党内支持基盤の弱さに起因することは間違いない。総裁になって最初に党三役人事に着手する際、自分がもっとも信頼で来る人材を幹事長として任命し、そのうえで党内人事や組閣に向けた人事をすべきことは言うまでもない。その肝心の幹事長には党内運営に長けた森山裕総務会長に委ねるしか方法がなかったようで、森山新幹事長の下で国会日程などが事前に予定されていた早期解散路線へと収斂され、石破新総裁自身のこれまでの主張への賛同が得られなかったとのことだ。

あまりにも石破新総裁を補佐する体制が脆弱であったことが、初っ端の段階から目算が狂い始め、政治とカネの問題の一番の焦点となっていた「裏金議員」の公認問題も、一時はうやむやの内に全員を公認するという事になろうとしたわけだ。そうした流れを断ち切って、「自らの主張を貫くことの責任」こそが問われているのだ。党内の亀裂を恐れてはならないと思うのだが、どうなるのか注目していきたい。

有権者たる国民は、選挙で問題を洗い流すやり方に「ノー」を!

一方、その背後に蠢いている伝統的な自民党の政治手法に長じた党の長老議員達にとって、こうしたやり方を石破新総裁に強引に押し付けるやり方が、有権者である国民にとってどう受け止められるのか、やがて民意となって選挙結果に出てくるはずである。それほど国民を舐めたやり方が通用するとは思えないわけで、せっかく「国民的人気の高い政治家、総理大臣石破茂」を使い捨てにさせてはならないと思うのだがどうなるのだろうか。

官邸人事、経産省の影響を遮断したことは評価だが、機能するか

閣僚人事でいえば、内閣の要となる官房長官には林芳正氏が留任となり、石破政権誕生に大きな力を発揮した旧岸田派ヘの配慮があったと言われている。確かに、石破色が現れているのは村上誠一郎氏の総務大臣、仲間であった防衛大臣経験者を外務・防衛の閣僚に登用しただけでなく小野寺五典元防衛大臣を党政調会長にも任命するなど、防衛族の登用が目立つ。官邸人事の面でも、防衛庁出身者が筆頭補佐官に就任するなど、これまで安倍政権以降の経産省出身者から転換している。このことは、アベノミクス以来の新自由主義的な政策からの脱却が進められるのではないかと期待したい。果たしてうまく官邸が機能するのか、注目すべき点だろう。

期待外れの所信表明演説、すべては総選挙の結果次第、大乱世も

ところが、4日の所信表明演説では自身の持論である「アジア版NATO構想」や「日米地位協定」の片務性解消に向けた改正問題などは一切触れておらず、外交・防衛問題には踏み込んだ形跡がない。経済政策については、岸田内閣の政策を踏襲するとしているわけで、わずかに地方創生予算の倍増や防災庁の新設の方向を打ち出していることに石破色が垣間見えるわけだが、政策で国民の胸に迫るようなものは十分に展開出来ているとは言えない。国家財政の中で最大のウエイトを占める社会保障についても殆んどめぼしい言及はなく、「税・社会保障一体改革」の際にその財源として「消費税」の引き上げが進められたわけだが、今回は何も触れていない。また、金融所得課税の強化や法人税率の引き上げなどは総裁選挙の際には触れていたが、今回の所信表明には取り入れられていない。期待された分配(再分配)政策の強化は後景に退いている。

すべては総選挙の結果次第であり、大きく敗北すれば党内の反対勢力が台頭してくることによる内部対立の激化すら予想されるわけで、文字通り背水の陣であることは間違いない。これに対抗する立憲民主党をはじめとする野党側には、小選挙区での候補者一本化の道が不透明であり、裏金議員の選挙区でもその調整はできにくくなっている。この野党側の結束の不十分性が、自民党の傲慢な政治姿勢となって石破総理の正論を打ち砕いているわけで、今の選挙制度の下での野党結集の在り方が問われ続けるに違いない。自民党の「派閥」が麻生派を除いて形式的には無くなったことや、裏金問題を抱える議員の公認問題などで党内の亀裂が入り始めたが、総選挙での結果どうなっていくのか、政界全体の流動化の行方に注目したい。大乱世が始まるのかもしれない。


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