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労福協 活動レポート

2024年10月15日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第360号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

ノーベル平和賞に「被団協」が受賞、50年ぶりの二度目の快挙

先週は、ノーベル賞の各受賞者が決定、週明けの今日14日の「経済学賞」で最後となる。7日月曜日の物理学賞に始まり、自然科学系受賞者は欧米人で決まり、例年と同じ傾向だと思っていたら、次の文学賞で韓国人作家のハン・ガンさんが韓国初の文学賞受賞となり、ややサプライズだった。ところが金曜日の平和賞で、まさか日本の「被団協」(原水爆被爆者団体協議会)が、平和賞としては佐藤栄作元首相以来50年ぶりに受賞するという、誠にドラマティックでエキサイティングな情報に接することとなった。予想もつかなかっただけに、日本中がその喜びに浸っている姿がマスコミ各紙やテレビインタビューなどで展開され、ノーベル賞週間「最後」のクライマックスを飾る歴史的快挙が実現した。被団協の方達の粘り強いたたかいの歴史が実を結んだものであり、最近の核兵器使用の危険性が危惧される世界情勢への警告を意識しての受賞となったことは間違いない。来年は広島・長崎への原爆投下から80年という節目の年にあたっており、日本政府の核兵器禁止条約におけるアメリカ追随の後ろ向きの姿勢に対する警鐘にもなっているのだと思う。

本日、ノーベル経済学賞発表へ、日本人受賞者ゼロの背景や如何

さて、話題を今日発表される経済学賞に焦点を当ててみたい。これまで日本人の受賞はゼロであることの背景について、毎日新聞11日付電子版でノーベル賞ウオッチャーといわれている坂井豊貴慶応義塾大学教授に横山三加子記者がインタビュー風に記事(12日の夕刊では「経済学賞日本人なぜ無縁?」という見出し)を書いている。ここ数年の本命として坂井教授が挙げておられるのは、マサチューセッツ工科大学教授ダロン・アセモグル氏だとのこと、選考委員はスウェーデン人のみで構成され、その合意で決まると述べておられる。

経済学賞は1969年創設、以降今日まで受賞した93名のうちアメリカ人が50人超でアジア系ではインド系の2人だけとのことだ。日本人の受賞者がいないことについて、宇沢弘文氏や伊藤清氏、角谷静雄氏などいずれも故人となられた方の名前を挙げ、かつては候補に挙がっていたものの基礎理論に偏重し過ぎていたのかもしれないと指摘。そして今では、清滝信宏プリンストン大教授が今年は無理としても来年か再来年にノミネートされる可能性を指摘されている。

なぜ経済学賞が1969年に設定されたのか、その背景の持つ問題

実はこの記事を読んで違和感を持ったのは、何故この経済学賞が設けられたのか、よく理解されていないのではないかと思ったのだ。1969年に経済学賞が設定されたのは1895年のノーベルの遺言にはなかったわけで、設立に向けて動いたのは1968年にスウェーデン国立銀行設立300周年記念の一環としてノーベル財団に働きかけ翌年実現したものだ。何故スウェーデン経済界がノーベル経済学賞を設けたのか、同じ慶應義塾大学の権丈善一教授が書かれた『ちょっと気になる経済思想(第2版)』(勁草書房2021年刊)によれば、概要次のように述べておられる。

スウェーデンという国は有名な福祉国家である。福祉国家に対して経済界は負担を強いられるわけで、一般的に経済界が死力を尽くしてその生成や発展に抵抗するものだ。スウェーデンも例外ではなく、経済界は高福祉高負担国家に抵抗してきた。しかし、スウェーデンの労働者組織は強固であり、徐々に普及してきた社会保障諸施策への生活者たちからの強い支持のため、なかなか思い通りにならない現実に直面する。そこで経済界は、プロパガンダ運動としてノーベル経済学賞が持っている影響力を利用して、新自由主義的な見方を確立させようと経済界の持つシンクタンクなどを使って「福祉国家が経済停滞の根本原因だ」とキャンペーン等を張ったというわけだ。

ミルトン・フリードマンの「冗談話」にこそ真実があるのでは

そういう経過を持つノーベル経済学賞だという問題を持っていることの例証として、権丈教授は1976年に受賞したミルトン・フリードマン語ったとされる「冗談話」を紹介している。

「ノーベル経済学賞を調査すれば、次のような傾向があることがわかると、
・男性であること
・アメリカ国籍を持っていること
・なんらかの形で『シカゴ大学』に関係していること」(前掲書103頁)

さすがに経済学賞ができて55年も経つわけで、今ではそうした論議が経済学者の間で流布され続けているかどうかは十分に承知していないが、ノーベル賞が始まって100年後の2001年11月、ノーベルのひ孫4名が「経済学賞はノーベルの名前にふさわしくない」とその名称に異議を唱え変更して欲しいとスウェーデンの新聞スペンスカ・ダグプラッデット紙に寄稿したという報道がなされた事を紹介されている。

世界経済の大転換期、どんな経済理論が受賞していくのかに注目

そんな経過をたどって存続しているノーベル経済学賞、今年は誰が受賞されるのか、それはそれで注目の的ではある。というのも、ハイエク氏やフリードマンの流れを汲んだ新自由主義路線によって、100年に一度といわれる経済危機、「リーマンショック」が起きたわけで、経済思想の流れが大きく転換し始めている時代だからである。人類に大きく貢献した学問に贈られるノーベル賞の精神に、『経済学賞』が真に値するものになるよう心から期待したいものだ。


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