2024年11月5日
独言居士の戯言(第363号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
総選挙が終わり、石破自公政権継続へ国民民主党と部分連合へ
総選挙が終わり、与党自民・公明両党合わせて過半数割れという大敗北により、政局は今後どう展開していくのか。短期的には国民民主党との間での政策連携で少数与党を乗り切るのだろうが、こうした不安定な状況は長続きをするとは思えない。やがて自民・公明両党に加えてもう一つの政党が連立に加わることになるのか、それとも安定政権を目指して再び解散・総選挙に向かうのか、なかなか先が読めない。今までの「1強多弱」から、今の選挙制度が予定する「2つの大政党を中心に中小政党が併存する【穏健な多党制】」に向かうのかどうか、立憲民主党が安定的に小選挙区で自民党に勝負できることができるかどうかにかかっており、まだ確定しつつあるとは言えないようだ。
自民敗北の要因は「政治とカネ」問題だが、背後に国民生活の窮状
何が自民党の敗北の要因になったのか、当然のことながら「政治とカネ」の問題で「裏金」問題が主として安倍派議員の間で蔓延し、国民の信頼を失ったことは間違いない。その政治家とカネの問題では、選挙戦の終盤になって明らかになった「裏金」問題で非公認となった候補にまで活動費「2000万円」が支出されるに及んで、もはや自民党に政治資金の改革を求めることは不可能であり、多くの支持政党を持たない有権者はもちろん、自民党支持者の中においてすら「ほとほと愛想をつかした」というのが、こうした敗北を招いた要因だっただろう。
とはいえ、ここまで敗北した背景には、多くの国民が抱えている生活苦という現実が拡がってくる。とりわけ、非正規労働者の割合が実に雇用労働者数全体の4割にも達する現実、しかも正規労働者と非正規労働者の賃金格差が極めて大きく、若者や女性を中心にした非正規労働者の生活苦にあえぐ現実を考えたとき、何百万円や何千万円という「裏金」が政治家の懐に入り込んでいることは、許されない大問題として怒りが顕在化したとみていいのだろう。さらに非正規労働者における女性の割合が極めて高く、ジェンダーギャップの問題からも見逃すことはできないわけだ。こうした非正規労働者の存在は、正規労働者の長期雇用を維持するためには不可欠なものとして日本の企業社会に構造化されているわけで、その格差是正をどう図ることができるのか、喫緊の課題となって日本社会を覆っている。
非正規で生活苦に呻吟する若者たちの支持を広げた?国民民主党
今回の選挙で、国民民主党が20代30代の若者の支持を大きく伸ばすことができた背景には、「若者の手取り収入を増やす」政策を打ち出したことが挙げられているが(打ち出した政策は極めて問題があり、別途触れていきたい)、こうした日本社会で生活苦に呻吟する若者たちの現状に響くモノがあったのだろう。同じように若者向けのスタンスを明確にした「れいわ新選組」も30代以下の層からの支持を大きく伸ばしており、同じ文脈の中で見ることが可能だ。
立憲民主党、議席拡大だが比較第1党は自民、政局を転換できず
立憲民主党が98議席から148議席へと50議席も議席増を勝ち取った背景には、自民党の政治とカネの問題に焦点を当てて鋭く追及してきた野田代表の戦術の一貫性が寄与したことは間違いない。小選挙区での競い合いに勝利した半面、比例区での得票数はほとんど伸びておらず、立憲民主党が比較第1党の座を勝ち得なかった背景には、小選挙区(289議席)での候補者数(206人)の少なさと並んで、比例区での伸び悩みがあったことを指摘しておく必要がありそうだ。野田代表は、野党結集を提起はしていたものの、解散・総選挙が早められたことで時間的余裕もなく、結果として与野党逆転はできたけれど、政権交代に向けて主導的役割は果たせなかったようだ。
細川連立政権樹立の状況に類似、だが動きの見えない小沢一郎
思い出すのは、1993年の細川連立政権の樹立であり、自民党が初めて政権の座を明け渡した際に示した野党結集という経験である。小沢一郎氏がそのシナリオを描き現実に政権交代させたわけだが、何故か今回は何事もなく、自民党による国民民主党との部分連立という抱き込みが功を奏しつつあるようだ。11月11日に予定されている特別国会での首班指名は、あまり波乱なく石破総理が再選されるのだろうが、政権交代を求めた国民の意識との乖離が気にかかる。11日まであと10日足らず、その間にどんなドラマが演出できるのか、これからの野田代表を中心にした新しい動きができるのかどうか、いくばくかの期待を持って見てみたい。
国民民主党、一躍主役を演ずる絶好のポジションへ、だが政策は?!
さて、過半数を割った石破自公連立政権にとって、国民民主党が主役となってあたかも救世主のような立ち居振る舞いが続いている。連立まではいかないにしても、政策ごとの部分連合という形で石破第二次政権が再スタートを切ることとなる。今後特別国会召集日である11日に向けて、政策面での国民新党が提起してきた「若者の手取り収入を増やす」政策についての協議に入ることが合意された。その中心テーマの一つとして、国民民主党側は所得税の103万円の壁を打破するべく70万円近い控除額の引き上げを要求している。「年収の壁」と称されているものには地方税でいえば100万円もあり、何よりも社会保険料まで含めると130万円の壁など、いろいろと出てくる。どこまで対象範囲を広げるのか、こうした所得控除額の拡大や保険料の引き下げは、高額所得者ほど手取り収入が増えるという逆進性と、税収減として所得税・住民税だけで8.5兆円という巨額になることを林官房長官が指摘していたが、それにガソリン税の引き下げも加われば極めて巨額の税収減となるだけに、与党内で問題になることは必至だ。
「イマだけ、カネだけ、自分だけ」に迎合するポピュリズムの蔓延
国民の玉木代表は、鼻息荒く「受け入れてくれないなら予算に反対するだけだ」と突き放しているが、今後冷静な論議が進み始めたとき、どこまで国民の支持が得られるのか、「イマだけ、カネだけ、自分だけ」という極めて近視眼的で刹那的なポピュリズムに迎合しているのではないか、という点が問題視されるに違いない。所得税における配偶者控除の問題など、男性片働き方社会という古い時代の税制の構造的問題なのであり、男女共に働き続ける社会を前提に考えていかなければならない時代におよそマッチしない論議でしかない。ガソリン税の引き下げは、環境問題という大きな課題に逆行するわけで、とても今の日本が直面している課題に真正面から答えるものとなっていない。社会保険料の引き下げなども論外である
1年前、国民民主党と岸田政権との連立騒動での玉木代表発言
実は、『文芸春秋』2023年9月19日付電子版で、玉木代表が政治ジャーナリスト青山和弘氏と対談風のやり取りをした記事「連立入りは『選挙区調整ができないと難しい』国民民主・玉木代表が語った自民接近の理由と生き残り戦略」という1年前の記事がある。対談日は昨年の9月14日で「青山和弘の永田町未来caf?」というオンライン番組だったようだ。そこで語られていることは、今進んでいる自民党との部分連立に至る経過とラップした実に興味深い内容を含んでいる。
電子版には次のような内容が書かれている。
「9月2日の国民民主党代表選挙で与党との連携の必要性を訴える玉木氏が勝利すると、自民党内では内閣改造に合わせた国民民主党の連立政権入りを模索する動きが急浮上した。来るべき総選挙に向けて国民民主党を支援する労働組合を取り込み、野党を分断する狙いだったが、結局今回は見送りとなった。玉木氏にその理由を質すと、選挙区調整が最大の理由だと明らかにした」とあり、玉木氏自身「自民党とは23の選挙区で候補者がダブっている」と語っていてその解消無くして連立入りはないと判断したようだ。おそらく、その時の話し合いの中で総理補佐官に国民民主党の元参議院議員矢田稚子氏が就任したことが思い出される。
1年前は、弱小政党で断念した連立政権入り、総選挙で躍進、
キャスティングボード握れた国民民主党はどうする?
つまり、玉木代表はすでに1年前にはここまで話を進めていたわけで、今回の部分連合だけではなく、自民党との連立すら視野に入れていたことが明らかになる。この中で、自分たちの政党の規模が衆参合わせて21名とあまりにも小さいためにキャスティングボードを握ることができないが、「少なくとも共産党や公明党ぐらいの基盤の政党になっておかないと、どういう形の組み合わせになったとしても中核的な役割は果たせない」と述べており、今回の総選挙での28名という躍進によって、こうした弱小政党としての悲哀からようやく一人前の政党としての存在感が発揮できるようになったわけで、今後自公政権との連立という事も十分にあり得るとみていいだろう。
一方、野党の結集についても語っており、その場合「護憲という論点」が消えないとそれは無理だと述べ、9条ではなく53条(臨時国会召集の要件)や緊急事態条項など与野党が合意できる論点での改正に踏み出すべきことを主張して野党の連立も視野に入れていることも語っている。
はてさて、これからどうなるのか、一筋縄ではいかない政界の動きにしっかりとした視座が求められているのだろう。