2024年12月16日
独言居士の戯言(第369号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
国会論戦は参議院の場へ、例年以上に丁寧な議論がお茶の間に
国会は補正予算審議が衆議院を通過し、舞台は参議院に移っている。連日の予算委員会の集中審議は、民主党の安住予算委員長(NHK出身)の計らいなのだろうか、NHKテレビ入りの回数が例年以上に増え、より国民に開かれた審議がお茶の間に広がったことは間違いない。今週も参議院予算委員会での立憲や自民以外の政党の質問に移るわけで、「衆議院の二番煎じ」と揶揄されることが多いのだが、じっくりと調査を重ねて聞かせる質問も多く、石破総理とともに答弁に立つ閣僚も少数与党という立場もあるのだろうか、丁寧な答弁姿勢が繰り広げられている。委員会審議を聞いていて、日本が抱えている内外の諸問題についての理解が例年以上に深まることが多い。
石破総理は、「勉強家」であるがゆえに官僚の答弁に頼ることが殆んどないわけだが、時に法律の適用や解釈などで間違った理解などもあり、後日訂正に及ぶことも少なくない。とはいえ、自分の言葉で丁寧な姿勢での答弁それ自体は評価すべきで、引き続き政治改革や来年度の予算審議など、正しい事実認識に基づき丁寧な論戦を交えて欲しいものだ。
「103万円の壁」が焦点になるのは国民にとって良いことなのか
政治の現場では、「103万円の壁」と称する所得税の課税最低限を、国民民主党の打ち出した選挙公約による「178万円」への引き上げに向けて、自民、公明、国民民主三党による税制改革協議が13日からスタートしている。与党側は、さすがに75万円アップの178万円ではあまりにも高すぎ、減税額が国税・地方税で約8兆円近くになることで、20万円引き上げ「123万円」を提起をしたところ、国民民主党は「問題にならないと拒否」して第1回目の協議は終わったようだ。
今後どう展開していくのか、どこかで落としどころを探るのだろうが、このことによる減税の恩典は、高額所得者になるほど大きく、課税最低限以下の低所得者層には何の恩典もない。山口二郎法政大学教授が今週号の『週刊東洋経済』の「フォーカス政治」なかで、きちんと問題点を指摘しておられる。残念ながら、この問題についてマスコミの論調には批判的な視点が不十分であり、提案者側の言い分(「手取り収入を増やす」)を前提にあたかも税制上の大問題であるかのような取り上げ方をしていることが気にかかる。
「租税特別措置」が石垣のり子議員の質問に、15年前に「租特透明化法」作成した経験を思い出す!
税制といえば、先週の国会審議の中で、立憲民主党の石垣のり子参議院議員が、租税特別措置(以下「租特」と略す)を取り上げ、30分間という短い時間の半分近い時間を割いて質問しておられた。私自身、民主党政権時代に「租特」に焦点を当て、それが自民党政治家への企業献金と結びついていることを指摘し、個々の「租特」について、どこの企業がどれだけ減税の恩典に浴しているのか、その実態解明を求め「租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律」(略称「租特透明化法」)を2009年の国会に議員立法として提起し、それ自体は廃案となった。ところが、その年の9月に民主党政権が樹立したことに伴い、翌年財務副大臣在職中に「内閣法として再提案」し成立させたことを思い出した。
法人税を減税することの恩典は、企業にとってメリット大なのだ
いうまでもなく「租特」は、本来収めるべき法人税などを一定の条件を付けて減免(僅かだが増税もある)するもので、総額では毎年2~3兆円近くに達し、当時は研究開発に充てる企業歳出を法人税収から減税する「研究開発税制」が一番大きな額を占め、約1兆円近い減税額を適用していた。確か、当時一番の受益企業はトヨタ自動車で、減税額は数百億円程度(自民党への企業政治献金額はトヨタが最高額で、2023年は5.000万円と対比して欲しい)だったと記憶している。
どうにもクリアーできなかった「租税特別措置」適用企業名公開
与党になって、1年前に廃案となった「租特透明化法案」を基に、一部修正を加えて再提案するため与党(民主党)内の調整を進め、特に「租特」適用額の多い企業の上位10社を「実名」を上げて受益する金額も含めて公開することを提起していた。ところが、与党側の事前審議で思わぬ反対論が出てきたことに戸惑いを隠せなかった。経済関係省庁で「租特」に関与していた民主党所属の副大臣等から「企業名の公開に対して反対である」との意見が噴出し、提案者である私以外は反対論だけになったわけで、かなり激しく論戦をしたものの、結果的に「租特透明化法案」は企業名の公開を除いて提案・成立し、今日に至っている。この法律は修正されることなく存在しており、企業名は別にして上位10社がどれだけの税が減税されているのかが明示されることになっている(前出「法律の第5条第2項」参照)。
「政治とカネ」の焦点、租税特別措置の適用と見返りの政治資金
私がこの「租特」の透明化を進めようとした問題意識は、先に述べたことの繰り返しになるが、与党だった自民党及び自民党議員の政治資金の源泉である企業献金(もちろんパーティ券も含む)と、この企業ごとに租税特別措置の適用を受けることとが結びついているのではないかと予測していたことは言うまでもない。まさに今、政治改革の焦点となっている「政治とカネ」の問題だったのだ。この「租特」は原則2年ごとに改正されることになっており、改正時における企業の陳情と関連する「族議員」の激しい陳情合戦を横で見ながら、こうした動きの背後にある「政治とカネ」の問題を意識させられたからに他ならない。今でも与党に返り咲いた2012年以降、自民党内で年末の税制決定という時期に業界側の年中行事として永田町界隈で繰り広げられている。
石破総理、見て見ぬふりをする「族議員・業界一体の陳情活動」
そんなことを思いながら、石垣議員が政治家とカネの問題で租税特別措置との関係を追及している姿を見るにつけ、今から15年前の民主党政権時代に作成されたこの法案の中身と、それが中途半端に終わった歴史を是非とも踏まえて欲しかったと思うばかりである。特に、石破総理大臣の答弁が、毎年年末の税制改正時期に、政府税調とは関係なく自民党税制調査会で翌年度以降の租税をどうしていくのか、関係議員と関係業界が、審議する場に押しかけている資料写真を見ても、自民党税調の後で次の自民党政策調査会を通じて最終決定されるわけで、「租特(業界・企業)」と族議員と称されるただならぬ関係についてはあまり問題視されなかった。総理の立場からは、到底その事実を認めるわけにはいかなかったのかもしれないが、実態は政治の腐敗そのものだと言えよう。 いやしくも、本来支払うべき税金の金額を減額するという特別な措置を受けるという事は、形を変えた「補助金」なのであり、その補助金の支給先を公開しないというのは納税者の理解と納得は得られないと思う。
政権交代時に経験した貴重な財産の活用を、野党議員に臨むこと
石垣議員には、是非とも今存在している「租特透明化法」を読み込んでいただいて、その最後の企業名の公開と、その企業の政治家(政党)との関係についての結びつきをしっかりと追及し続けて欲しいと思う。2010年にできた法律であり、あれから15年近い年月を経ているわけで、その時に一緒に頑張った政治家はほとんどいなくなってしまっている。
だが、財務省の主税局や国税庁はこの法律を熟知しているはずであり、ましてや国会に付属している調査室には関連する資料は必ず残っている。間違いなく「六法全書」には出ている現存する法律なのだ。これから政権交代を目指して戦う立憲民主党にとって、政権交代時における様々な出来事の経験を有効に生かして欲しいと思うばかりである。