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労福協 活動レポート

2025年1月20日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第371号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

「独言居士の戯言」再開にあたって、当面、不定期刊へのご容赦を

健康状態の検査は未だ継続中であり、この通信ももう少し時間を頂いて発信すべきだと思うのだが、1か月近いブランクの存在に不安が募ってしまい、ついつい焦ってキーボードに向かうこととなった次第である。

これからも、体調を見計らいながら再開し始めていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。もちろん、不定期でしか発信できないと思いますが、できる限り現実に起きていることへの自分なりの思いを述べていくことにしたいと思うばかりです。

日経新聞「経済教室」の新春シリーズ「荒波をこえて」を読んで

新年を迎えて読んだ日本経済新聞の『経済教室』、「荒波をこえて」は1月6日の岩井克人神奈川大学特別招聘教授「日本の世界史的使命は何か」から始まり、翌週にまたがり第6回目は今井むつみ慶応義塾大学教授の「AI時代に学ぶ『達人の技』」まで続いた。

それほど注目すべき論点が提起されていたとは言えないものの、気になったのは4回目に登場された北尾早霧政策研究大学院大学教授の「時代遅れの政策 転換が必要」と題された問題提起だ。冒頭、成長の停滞が続くことに触れられ「個人や企業の成長意欲を妨げる障害を取り除き、人的資本の投資とスキル底上げの加速が必要だ」と述べ、教育水準の底上げなどを提起されている。

北尾早霧教授「時代遅れの政策転換が必要」という問題提起だが

何について問題と感じたのか、一つは「所得再分配を過度に強化すれば、人材の海外流出やスキル投資意欲の低下を招く」と述べていたことだ。小論文なのでその論証は十分に提起されていないのも無理はないのかもしれないが、次の低所得層に向けた支援策についての在り方への対応という点である。住民税非課税世帯ではなく生活保護世帯などに絞るべきで、それがうまく機能しないなら必要な困窮者を把握する必要性があるが、コロナ禍における一律配分(国民一人当たり10万円)以降何の改善もなされていないことの問題点に触れておられる。ここでは、マイナンバー制度が導入されたものの、それと国民一人一人の収入・資産との結びつきがなされていないことの問題にこそ触れて欲しいところではあるが、その点には直接は言及されていない。

年金の支給開始年齢が65歳という誤解、60歳から75歳までの受給開始可能な制度が既に可能に

何よりも気になったのは、高齢化した日本における年金の支給開始年齢について、「平均年齢が20年延びたが支給開始年齢は65歳のままだ」という指摘である。1985年の年金改正で、支給開始は65歳からではなく60歳から70歳までいつでも受給開始できることになり、そり後の改正によって今では75歳からでも受給できることになっているのだ。60歳受給では65歳支給額の70%が、70では65歳支給額の1.42倍、75歳では1.84倍支給できるようになったわけで、65歳支給開始ではなく60歳から75歳までの何時からでも受給開始ができる制度になっていることの無理解が述べられているのだ。年金制度の改革は時代遅れになっているのではなく、時代の先取りを進めてきたことを是非とも専門家として理解して欲しいと思う。

この念頭を飾る「経済教室」でのもう一人の日本人女性である今井むつみ教授の「AI時代に学ぶ『達人の技』」は、AIにできる限界を指摘されており、達人を目指す人間の努力こそが時代を切り開いていけることになるわけで、AI万能と捉えることの問題を知ることができた。これからも女性活躍社会を目指すうえで、多くの有能な女性の経済論文が引き続き日経紙などを賑わすことを求めたいものである。

経済論壇、溢れる日銀『金融政策の多角的レビュー』への論及

少し個別論者の論文についての問題に焦点を当て過ぎたが、今年に入って経済論壇を賑わせているのは、昨年12月に公表された日銀の「金融政策の多角的レビュー」である。過去25年間の日銀の金融政策についての総括的文書であり、植田総裁時代になって進められてきたものだ。25年前といえば2000年頃からのレビューであり、バブル崩壊から一挙にデフレ経済へと突入して以降がカバーされ、98年の日銀法改正以降の政府からの独立性を著しく高めて以降をカバーしているが、特に後半の安倍総理に任命された黒田東彦前総裁時代(2013年から2期10年)の異次元の金融緩和政策の評価などが注目される。

こうしたレビューが実現した事自体、評価すべきものであり、行政府のそれぞれの省庁や立法府のこれまで実践してきた様々なレビューがもっと活発に進められることを求めたいと思う。国会での東日本大震災の事故調査委員会が設置され報告書が出されているが、黒川委員長はこうした立法府独自の調査機能の強化を訴えられていたことを思い出す。与野党が逆転している衆議院など、もう少し調査機能の強化(特に調査人材)などを進めるべきだし、今後の活動に注目したいものだ。

吉川洋東大名誉教授、「すべてが間違い」という一刀両断に感服

さて、日銀の「金融政策の多角的レビュー」であるが、いろいろな専門家・識者が評価しておられるわけで、それらを網羅することはとてもできない。私が特に印象深く感じたのが吉川洋東大名誉教授で、朝日新聞の連載記事(インタビュー形式)の最後に登場された「大規模緩和『すべてが間違い』」である。吉川教授はこの多角的レビューを講評された一人でもあるが、まさに一刀両断「根こそぎ間違っている」と3つの問題点を指摘されている。一つは、日本経済が直面していたデフレの認識の問題であり、マイルドなマイナス0.5%程度のデフレを問題視しすぎたこと、第二にデフレが貨幣的な現象と称して市中にマネーを増やせば改善できるという主張の誤り、最後にマネーの量を増やして人々の期待に働きかけるという考え方の誤りを指摘されている。特に、2%の物価上昇率を2年以内に実現するとして、異次元の金融緩和を実施したが、まったく成果がなかったことに厳しく批判されている。

ルーカスらの「合理的期待形成学派」の間違いはリーマンショックで確定していたのでは?

吉川教授は日本を代表するケインジャンであり、70年代までマクロ経済政策をけん引してきたケインズ理論を真っ向から批判してきたアメリカのジョージ・ルーカスたちの「合理的期待形成学派」に依拠してきた時代の日銀の金融政策には我慢がならなかったに違いない。既に、世界的にはリーマンショックで「合理的期待形成学派」の理論は粉砕されているわけで、日銀のレビューでのその点での指摘が余りにも生ぬるいことへのいら立ちが、このインタビュー記事には色濃く出ているようだ。

日銀にとっては、自分たちの過去の政策についてそれなりに誤りを指摘しているわけで、ここまで書き込むだけでも大変な努力が必要になったに違いない。そうしたことも踏まえて、今後の金融政策決定における独立した立場からの政策決定がしっかりと継続されることを切に望みたいものだ。


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