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2025年6月23日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第383号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

橋下努/金沢悠介共著『新しいリベラル』
(ちくま新書2025年6月刊—大規模調査から見えてきた「隠れ多数派」)を読んで

最近の「リベラル派」は元気がなくなっているのではないか、といった声をよく聞くようになっている。かつての「保守」対「革新」という対立軸から1990年代に「保守」対「リベラル」に変わったと言われてきたわけだが、その背景にあるソ連を中心にした社会主義の退潮は、やがて体制の転換となって世界の流れが大きく転換していく現実に直面する。その流れの中で進む日本における政治の動きを考えたとき、かつて「革新」といわれ、今では「リベラル」といわれる政治潮流をどう理解したらよいのか、なかなか理解するには骨の折れる作業が必要なのだろう。

そうした思いを持ちながら、最近出版された『新しいリベラル』という「ちくま新書」を手にとって読み始めた。著者は橋下努北大教授と金沢悠介立命館大准教授という40~50代、働き盛りの2人の大学教授である。私自身、このお二人の著作は初めてであり表題に惹かれて読み始めたわけだが、「革新」に連なる「リベラル」という言葉に対する思い入れは持ち続けていたわけで、「新しいリベラル」とは何なのだろうかという素朴な思いを抱いて読み終えてみた。以下、もっぱら金沢立命館大准教授を取り上げていくことにしたい。

金沢准教授はこの著書を書かれるために2022年の参議院選挙直後に7000人を対象とした「有権者はどんな福祉を望んでいるか」という社会調査を実施され、そこから出てきた結果を提起されている。この大規模なアンケート調査を実施されたことについて、金沢准教授は2024年2月27日付の朝日新聞デジタル版インタビュー記事に次のように答えておられる。

(質問者 塩倉裕編集委員)――――「なぜ今回、有権者がどのようなタイプの福祉国家を望んでいるかを調べたのですか」

(金沢准教授)——-「日本では給与が上がらず雇用も不安定化する中で、少子高齢化が進んでいます。失業や病気などの危機から人々を救う福祉国家への期待は依然としてありますが、財政難が深刻で福祉や社会保障の未来図が見えません。福祉国家をどうしたいのか、有権者の願望を可視化したいと思いました」

「もう一つあります。日本の政治の議論では『保守』と『リベラル』という言葉が対立的に使われていますが、何と何がどう対立しているのかは実はよく見えず、とりわけ『リベラルとは何か』はあいまいです。実態をつかみ、可能性を探りたいと思いました」

(中略)

 (塩倉編集委員)—–「社会的投資型の福祉国家とは、どういうものですか。」

金沢准教授—–「先進国で財政難が拡がって福祉国家が見直しを迫られたとき、打開策として欧州で1990年代に提案された『社会的投資国家』構想がベースです。特徴は、社会福祉サービスを『弱者への支援』ではなく、『人への投資』と捉えることです。たとえば、失業者に給付金を支給するだけではなく、職業訓練や就労支援を通じて誰もが働くための能力や機会を得られるように環境を整備します」

(中略)

(塩倉編集委員)から「調査からは、福祉へのどんな要望が見えたのですか。」という問いに対して、金沢准教授は6つのグループに分類した中で、個人の成長を支援するタイプの「社会的投資型」を望む人が全体の23%を占めていたことに注目する。

それは、「誰もが自由に生き方を選択できる社会を目指すのが本来的なリベラルだとすると、このグループはリベラルと呼びうる存在だと考えたからです。この集団を『新しいリベラル』と呼ぶことを、私は戦略的に提唱しています」と金沢准教授は述べ、何が新しいのかについては「個人の将来への投資」に力点を置き、具体的には「子育てや教育への支援」をするとのことだ。

准教授は、この『新しいリベラル』層が求めている「子育て支援に積極的な政党」は、既成の自民・維新・立憲民主・共産の4政党ではどこも力を入れておらず、『新しいリベラル』層からみると「この党なら投票したいと思える政党はまだ存在していない」と見ておられる。まさに、これが「隠れ多数派」と見ておられる理由なわけだ。

金沢准教授が「リベラル」という言葉にこだわりを持たれているのは、保守対リベラルという対抗概念を表現するのには、それ以外になかなか良いアイディアが見つからないからとされ、「リベラル」という言葉は時代や状況に応じて様々な意味合いを与えられ、彫琢されてきた柔軟な概念としてイメージを膨らませていく道筋を描いていくことを提起されている。

それにしても有権者のレベルから観て、既成政党が自分たちが求めている「子育て支援政策」に十分な注意を払っていないことを放置しているとすれば、それは何故そうなっているのか、もう少し国民的な議論が展開されてしかるべきだと考えるのだが、どうなっているのだろうか。こうした点について、今の既成政党側の内部から活発な論点の整理が求められる課題なのではないかと思えてならない。参議院選挙をまじかに控えているだけに、党内での論議が始まるとは思えないが、少なくとも政権を目指す政党として政策の対立軸となるべき論点の整理は、国民から見てわかりやすく提案すべきことではないかと思う。

さらに、ヨーロッパでは1990年代に「社会的投資国家構想」は、どんな成果が上がっていたのか、それを再び日本で展開していくことにはどんな問題があるのか、きちんと指摘し続けていく必要があると思うのだが、どうなのだろうか。


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