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2015年8月19日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第3号)

元参議院議員 峰崎 直樹

数字だけ見ると、あのギリシアよりも酷い日本の財政なのだが

アベノミクスの第二の矢は、機動的な財政政策とされている。いま日本の直面する最大の財政問題は、毎年40兆円を超す巨額な財政赤字であり、その累積額は現時点では国(中央・地方含め)全体で1千兆円を超え、毎年の生産高であるGDP約500兆円の2倍を超すほどの巨額なものになっている。GDPの2倍を超す水準は、太平洋戦争末期のそれすら上回る規模となっており、このまま財政赤字を垂れ流し続けていけば、財政破綻は確実に我々国民生活を破壊し、奈落の底に陥れることは確実である。もっとも、累積債務はグロスの数値であり、日本国の持つ資産を引き去る必要があり、実質の純債務残高は1,000兆円を下回ることは指摘しておこう。それでも、日本の抱えている累積債務残高は、GDP比でみて、あのギリシア(約170%)よりも大きなものとなっている現実は見ておく必要があろう。

財政破綻の危険性はあるが、今のところ蓋然性の低い日本財政

ところが、その財政破綻については、これまでも多くの学者や専門家からその蓋然性を指摘されて来たのであるが、幸いなことと言うべきか、今のところ財政破綻が起こることなく今日に至っている。昔よく聞いたセリフとして「オオカミが来るぞ」と言い続けてきたために、本当にオオカミが来たにもかかわらず誰も助けに行かなかった「オオカミ少年」の類と思われる向きもあるかもしれない。特に、財政を所管している財務省などは、大蔵省時代から「財政破綻の危機」を宣伝し続けてきたため、今では誰も財務省の言い分に耳を貸さなくなっているのが現実である。

なぜ、これほどにまで累積赤字が拡大していながら、財政破綻が現実のものになっていないのか、そのカギの一つは貯蓄水準にある。財政赤字ということは、毎年の予算を税収でもって賄う事が出来ず、国債を発行して不足分を国(中央政府と地方政府も含む)は国民からの貯蓄によって賄ってもらっているのだ。つまり、日本の財政の不足分は、全て内国債として国内で消化されており、外国人の所有は10%を切っている。

いま、国内の資金循環から見たとき、そのあたりはどうなっているのだろうか。(以下、少し古いデータであるが、図7図6参照)

日本国内での資金勘定を見ると、政府部門は当然のことながら毎年赤字を記録しており、資金不足となっている。これに対して、民間の法人部門は、1997年を境に赤字部門から黒字部門に転換しており、今では個人勘定を抜いて大きく黒字を記録している。個人部門では黒字ではあるものの、高齢化の進展に伴い年年黒字の比率が低下しつつあり、かつては個人の貯蓄で以て企業の旺盛な設備投資や国の赤字を支えてきたことが嘘のような低下ぶりである。
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日本経済は、1997年を境に大きく構造転換したのではないか

この数値は、まことに重要なことを教えてくれている。それは、民間の法人部門こそが設備投資を進めることによって経済の成長を高めていかなければならないにもかかわらず、いまではその設備投資の水準が低下するとともに、減価償却や利益の範囲内で賄われており、民間部門としての黒字は政府部門の赤字を大きく支える側に回っていることを示している。1997年を境として、日本経済の構造が大きく転換したことをこの第7図は示していると言えよう。

もし、民間企業部門で設備投資が拡大し、黒字部門から赤字部門に転換すれば、政府部門の赤字を支えきれなくなるわけで、残る個人部門の貯蓄率の低下と相まって日本経済にとって大きな問題を惹起しかねない事実を突きつけている。

日本経済は若々しい通商国家から成熟した投資国家へと変貌

もう一つ注目しなければならせない数値として、日本経済の国際的な競争力の問題である。貿易収支だけでなく、所得収支も含めた経常収支が赤字になっているのかどうか、と言う点である。(第6図参照)日本経済は、かつては貿易立国として輸出が輸入よりも大きく伸び、日本経済の成長を牽引してきたことは間違いない。この点における転換点は、2011年3月11日である。東日本大震災による東京電力福島原子力発電所の過酷事故に伴う運転停止により、石炭や石油・ガスと言った化石燃料への依存が高まり、それらの輸入による貿易収支の黒字から赤字へと転換している。最近の原油安による緩和はあるものの、今後の貿易収支の黒字はなかなか難しくなりつつある。そのぶん、所得収支の黒字が拡大しており、経常収支では大きく黒字を維持できている。最近の民間企業部門の中では、海外での投資に力を入れ始めており、所得収支はますます拡大していく可能性が高い。若々しい通商国家から、成熟期に入り始めた投資国家へと変わり始めており、当分の間、国内の財政赤字は国内余剰で持って賄うことは可能になっているようだ。

問題は、何時まで持つのか、という事であり、今後の財政再建の行方にこそ最大限の注意を払っていく必要がある。

以下次号にて、それらの点について引き続き検討して行きたい。(8月19日)

(続く)


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