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労福協 活動レポート

2016年2月15日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第19号)

元参議院議員 峰崎 直樹

グローバル経済は、大動乱期に突入しつつあるようだ。

1月29日、日銀がマイナス金利の導入を決めて以降、予想された円安と株価の上昇は、わずか3日間で終わり、2週間後の2月12日には、株価は1年4か月ぶりに15,000円の大台を割り14,952円へ、円は海外市場において一時110円台へと切り上がり、政府・日銀が為替介入したものと市場関係者は見ている。いずれにせよ、黒田日銀が狙ったマイナス金利による円安・株高のシナリオは完全に裏目となったことは間違いない。マイナス金利の採用は、これまでの「量的・質的金融緩和政策」の行きづまりを打開しようとしたもので、明らかに市場に対してサプライズを与えるべく、政策委員4名の反対を押し切って強行したことは間違いない。もっと言えば、アベノミクスの一番の基本が破綻したというべきだろう。

もっとも、世界経済の波乱要因となっているドル安・原油安も、直近の数値はアメリカ国債の長期金利が1,52%から1,75%へ、原油価格も1バーレル26,05$から29.66$へと反転しており、日本の株式の先行相場と見られているシカゴCME日経225先物相場は15,435円を付けており、15,000円台への反転は在り得るのだろう。だが、中国を先頭にした新興国経済の落ち込みは深刻さを増しており、EUも含めた国際的な金融不安の流れは収まりそうもない。ECBも3月には金融緩和をさらに進めることは確実視され、為替切り下げ競争が激しくなりつつある。明らかに潮目が変わり始めているのだ。

何を話し合ったのか、安倍総理・黒田日銀総裁の昼休み会議

休日明け13日金曜日、首相日程を見てみると、閣議が終わった9時35分には財務省の田中事務次官と浅川財務官が執務室に入り、日経新聞によれば続いて10時2分外務省の杉山審議官と秋葉総合政策局長が執務室に入ったとされている。外務省のメンバーと財務省のメンバーが同席したのか、それとも入れ替えだったのか定かではないが、財務官が入っているという事で、円高に対する為替介入等が話し合われたことは想像に難くない。もし外務省・財務省同席での論議になったとすれば、今年は日本がG7の議長国であり、今後のG7への対応や、今月末に上海で開催されるG20に向けての対応が話し合われたのかもしれない。

さらに、12時2分には日銀の黒田総裁が執務室に入り、何時に退出したのかは不明だが、総理執務室に別の人間が次に入室した時刻は14時13分となっている。おそらく、昼食を取りながらの会談であったと思われるが、かなり時間をかけた話し合いになったのだろうか。果たして、総理と黒田総裁の2人だけだったのか、官房長官などは同席していなかったのか、これまた定かではない。実に、あわただしい動きがあったものと見ていい。

事態は、第二次大戦へと辿った戦争の道に近づいているのか?
世界大恐慌と「100年に一度」のリーマンショックの決着

事態は、アベノミクスの行方を左右する一大事であると共に、もしかすると世界経済混迷にも繋がる深刻な問題になりつつあるのかもしれない。もっと言えば、戦前の世界大恐慌から第2次世界大戦に向かった動きに酷似しており、今後の展開如何では世界的な経済動乱から政治的危機の幕開けなのかもしれない。つまり、1929年アメリカ・ウオール街の株式相場暴落(暗黒の木曜日)から始まり、紆余曲折はあったものの1939年の第2次大戦で以て、ようやく恐慌からの脱出が可能になったことを想起すべきだ。

それから半世紀以上経過した2008年、リーマンショックに始まる大不況は「100年に1度」と言われるほどの深刻なもので、その傷跡がEUや中国をはじめとする新興国経済に色濃く残っており、超金融緩和策の終焉により、新興国からのドルの流出が止まらず、金融不安が世界を覆い始めている。そうした中で、景気回復し始めたと言われていたアメリカでも、イエレンFRB議長の議会証言が、当初計画した利上げの断念どころか、マイナス金利の採用すら予測させるほどの落ち込みなのではないか、と思わせたこともあり、世界的な株価の暴落が起きているようだ。その勢いは、日銀の新しい金融政策も吹き飛ばすほどの猛烈な落ち込みだったのだ。

ルーズベルトのニューディールから緊縮策転換とイエレンFRB議長の金融緩和から利上げへの転換

丁度、戦前のルーズベルト大統領が、少し景気回復したと見て金融引き締めや緊縮財政に転換したことを受け不況が深化してしまったことと,FRBが超金融緩和から利上げへと転換したことをきっかけに、世界経済の停滞・落ち込みがさらに深刻になったのではないか、とダブって見えて仕方がない。もちろん、預金保険制度をはじめ金融システムに対する安定化装置はそれなりに整備されてはいるものの、市場に任せておけば金融もやがては安定化に向かうはずだ、というフリードマン流の経済思想にとらわれている限り、危機は絶えず繰り返すに違いない。中国人民元が、昨年からIMFの特別引き出し権であるSDRの第5番目の通貨の一つに取り入れられ、世界から金融の自由化を迫られて苦悩している姿が象徴的である。中国経済の今後の行方も、世界経済の大きな不安材料に違いない。

今回の経済危機の実態を見てみると、世界の株価下落は昨年の5月に比べて14兆ドル(約1600兆円)にも達する巨額なもので、リーマンショックの際(2006~08年)のアメリカ一国の株価暴落が約8兆ドルであったことに匹敵する大暴落なのだ。つまり、世界経済はリーマンショックからの本格的な回復には成功できていない中でのFRBの利上げだったわけで、今後の回復をどのように進めて行くべきなのか、見通せなくなっている。G7の議長国たる安倍総理ご自慢のアベノミクスも、比較的効果があったと言われた「第一の矢、異次元金融緩和策」であったが、デフレからの脱却を目指した2%のインフレ目標達成が難しくなってきた。黒田日銀総裁も、マイナスの金利がここまで市場から手荒くしっぺ返しを食らってしまったわけで、これからどのように政策のかじ取りを進めて行くべきなのか、深刻な岐路に立たされている。多くのリフレ派のエコノミスト達は、マイナスの金利政策を当然のように支持してきたのだが、結果として市場から「ノーを突きつけられた」ことをどのように受け止めているのだろうか。そろそろ、超金融緩和策の出口論議が始まっても良いころではないか。

国会は、バブルを出し続ける市場原理主義からの脱却に向け論戦を

残念なことは、10日の国会での予算委員会の場で、日銀の黒田総裁を呼んでいながら野党側からのこの問題についての質問が無かったことである。黒田総裁に対して堂々と論戦を挑んでほしいと思ったのは、小生だけでなかったはずだ。しっかりして欲しいものだ。

特に、なぜマイナス金利が円安ではなく円高を招いたのか、国際的な金融不安がどうなっていくと見ているのか、等等国民の知りたい問題が山積していたはずである。とりわけ、金融自由化の流れが強まる中で、市場に任せておけばやがては一定のレベルに収束するはずだ、といった経済政策思想の問題についても論戦を進めて行くべき時ではないか。アメリカ大統領選挙における民主党サンダース上院議員の大健闘やイギリス労働党のコービン党首の発言が、ウオール街やシティ等の金融資本主義に対する社会民主主義の立場からの批判を繰り広げ、多くの格差にあえいでいる国民に共感を持って迎えられ始めていることにも注目すべき時だ。いまこそ、たとえば金融取引税などを通じて野放しとなっている資本規制に取り組み、国民生活の安定に寄与する制度を構築していく必要があろう。

今後の予算委員会などでの集中審議に期待をしたい。それと同時に、日銀や安倍総理を始めとする政府責任者は、今後のアベノミクスの行方に対する責任ある道筋を明らかにすべきである。

(このブログは、峰崎個人の「チャランケ通信127号」を転載したものである)

(続く)


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