2018年1月5日
独言居士の戯言(第27号)
元参議院議員 峰崎 直樹
2018年、今年も政治と経済の動きをウオッチしていきたい
新年、あけましておめでとうございます。今年も、どうぞよろしくお願いいたします。
内閣官房参与を辞めて丁度5年、第2期安倍政権が3回の総選挙と2回の参議院選挙を連続して勝ち抜き、安倍1強といわれる政治状況を作り上げるとは。正直いって予想すらしていなかった現実が、目の前に高く立ちはだかる。確かに2012年の総選挙では党分裂もあり、民主党は間違いなく敗北するとしても、次の総選挙では立ち直れるのではないか、と予想していたのだが、政治の現実はそんな甘いものではなかった。
あの民主党政権3年3か月が国民に与えたマイナスイメージは、1回ぐらいのお灸で終わるような生易しいものではなく、致命的と言っても良いほど深刻なものだったわけだ。それが、先年秋の民進党分裂につながったと見ている。勢いがある立憲民主党にしても、どこまで民主党の負の遺産を解消できたのか、これからが問われることになるだろう。各種の世論調査では、今の10代、20代といった若い方たちの自民党支持率の高さには、率直に言って驚きである。だが、今の野党の体たらくを見る時、やはり一番安心していられるのは、現に政権を運営している政党なのかもしれない。それほど、民主党及び継承した民進党の受けた傷は深かったのだろう。
民主主義国家にとって、絶えず政権交代が実現し得る状況こそが、制度を健全に維持していくうえで不可欠なわけで、今後の日本の政党政治、とりわけ野党(対抗政党)の動きに注目して行きたいと思う。諦めるわけにはいかないのだ。バラバラに散逸してしまったままの野党勢力、どのようにして小選挙区中心の選挙で対抗していけるのか、政治の技が問われる年になりそうだ。
誰が見ても異次元の金融緩和は失敗、「出口」戦略の行方は?!
さらに、異次元の金融緩和が継続して、これまた5年が経過しようとしている。2013年1月、日銀は安倍政権とのアコードを締結し、2%のインフレターゲットを目標に掲げた。その後白川総裁から黒田総裁へと交替し、2年以内にインフレ目標2%の達成に向けて、異次元の金融緩和政策を取ったにもかかわらず、6回も目標達成時期を変更することを余儀なくされた。この間、量的緩和の拡大だけでなく、マイナス金利政策やイールドカーブにおける短期金利マイナス・長期金利ゼロへと、再び量だけでなく金利へと政策を大きく転換するなど、金融政策の行き詰まりが誰の目にも明らかになってきた。
今年は黒田日銀総裁が改選期を迎えるわけだが、誰が総裁になろうと安倍政権の下、今までの日銀の金融政策が大きく転換する事は考えられない。それだけに異次元の金融緩和のもたらす弊害に、引き続きしっかりと目を凝らしていく必要がある。すでに、地銀だけでなくメガバンクですら厳しい経営環境が問題になり始めており、金余りから生ずるバブルの動きやビットコイン(ブロックチェーン)等、これからのイノベーションの展開なども加わり、金融の動きからも目が離せない。
安定した安倍政権だが、消費増税・子ども保険導入は夢物語か
さらに財政政策の動きにも、しっかりとした視座を据えて安倍政権の暴走をチェックして行きたい。
2020年の目標であったプライマリーバランスの黒字化が、いとも簡単に放棄され、今年半ばごろには新しい財政再建目標が設定されるとのこと。果たしてどの程度の責任と覚悟を持った財政再建策が打ち出されてくるのか、過去の安倍総理の言動や取り巻きのブレーンと称する方たちの発言などを鑑みる時、極めて怪しいと想定せざるをえない。もともと安倍総理は「上げ潮派」と称する方たちの支援を受けており、高い経済成長を前提にした税収増を当てにした財政再建策を再び打ち出す可能性が高い。潜在成長率が1%を切るような日本経済の実態を無視した、無謀な目標を打ち出す事への厳しい批判が求められる。安倍政権が国民から与えられた盤石な政治基盤を考える時、消費税の引き上げや子ども保険導入といった、国民に負担増を求める政策が打ち出される事が望ましいのだが、それは夢のまた夢でしかないのだろう。
消費税収を教育財源への流用、法治国家では法改正が不可欠だ
実は、昨年の総選挙に於いて、安倍総理は消費税の引き上げ2%分のうち、社会保障中心に予定していた2兆円の一部を教育費に充てることを提起し、高校授業料実質無償化や大学に対する財政的な支援を予算化してきた。もちろん、それ自体を取り上げれば、間違った方向とは言えまい。ただ、これから国会での本会議や予算委員会などで論議が開始される事だが、消費税の引き上げの充当先は、予算総則だけでなく、法律で以て年金・医療・介護・子育ての4経費に充てることを決めてきた。自民党麻生政権時代の2009年度税制改正法案「附則104条」に明記されてきたし、その後の民主党野田政権時代には自民・公明も加わった「三党合意」でも、そのことは継承されている。
そうであれば、消費税を教育予算に流用するためには、その根拠となる法律を改正しなければ法治国家とは言えないわけで、余りにもご都合主義的に財政を扱っているとしか思えない。こんな法治国家にあるまじきやり方に怒りを覚えるのは、社会保障・税一体改革に携わっただけに人一倍強いモノがある。野党議員には、是非ともこの点を厳しく追及して欲しいものだ。
脱原発・脱化石燃料へ大転換を、環境・エネルギー問題の行方
さて、新しい年を迎えるにあたって、是非ともエネルギー・環境問題に触れておく必要があることを痛感している。気候変動に伴う大災害の頻発に、危機感を持たざるを得ないからだ。
昨年12月19日号の『週刊エコノミスト』誌に掲載された、未来学者ジェフリー・リフキン氏のインタビュー記事には驚ろかされた。表題は「消費主義から持続可能性へ 限界費用ゼロで変わる経済」で、4ページにも及ぶやや長い記事だった。そのなかで地球が6度目の大量絶滅期に直面している事や、未来学者らしく今起きているインターネットを通じた大きな革命的転換が、限界費用を低減させ、経済社会に大きな変革をもたらすことなどを強調していた。
私が注目したのは、特にエネルギー問題だ。原発や化石燃料に依存した電力が直面している、危機的な問題を指摘している。すなわち、「化石燃料と原子力の時代は終わった」として、最新のドイツにおけるエネルギーコストについて指摘している。ドイツは、電力の35%を再生エネルギーで賄っており、2040年には100%になるだろうと予想する。
太陽光・風力発電コストの劇的な低下が進展しているようだ
その太陽光と風力発電のコストが、ここ20年間、等比級数的なカーブでもって劇的に低下し、太陽光電力は、1978年には1Kw時当たり78ドルだったものが、いまや55セントへと低下していると指摘する。アメリカ政府の研究機関(どこの研究機関かは指摘していない)では、風力が1Kw時当たり2,8セント、太陽光が3,5セントまで下がっていると指摘する。これらの数値については、しっかりと再確認する必要があるが、かなり低くなっていることは間違いなさそうだ。
そうなれば、既存の化石燃料への依存は必要が無くなり、シティバンクの調査では化石燃料業界には100兆ドル(日本円換算で約1,2京円)もの「座礁資産(キャッシュを生まない資産)」が生ずるし、原子力産業も同様に巨額の座礁資産を抱えることになる。リフキン氏は、このような事実を、ほとんど知られていない「不都合な真実」だと断言している。リフキン氏は、ドイツのメルケル首相だけでなく、中国政府にも李克強首相らのアドバイザーとして助言しているという。もっとも、中国は原子力発電にも大きく依存しようとしており、今後どのように進んで行くのかは、このインタビュー記事だけではよく解からない。
日本の進める原発再開・石炭火力輸出という時代錯誤から脱却を
こうした事実が正しいとすれば、今、日本で進んでいることは、とんでもない時代錯誤の道ではないかと思われてならない。停止してきた原子力発電の再開や、石炭火力発電所の増強・輸出強化など、いくら安全性やエネルギーコスト効率が向上したとは言え、コスト面から見てももはや過去の遺物になりつつあることを知らなければなるまい。一刻も早く、脱原発・脱化石燃料依存社会を作り上げて行くべき時だと思うだけに、こうした将来を見据えつつ一刻も早い政策転換を推進していく必要がある。そのことが、これからの日本社会の大きなイノベーションに繋がる可能性を秘めているのかもしれない。
問題は、それを推進していける経済界の決断だが、残念ながら今の日本の経済界のリーダーたちにはそうした考え方には程遠いのが現実だ。