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労福協 活動レポート

2018年1月22日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第30号)

元参議院議員 峰崎 直樹

書評 スベン・スタインモ『政治経済の生態学』
(山田由希子訳 2017年岩波書店刊)

スタインモ教授についての略歴と日本について

著者スタインモ氏は1953年アメリカのミネソタで生まれ、カリフォルニア大学バークレー校で政治学・公衆衛生学などを学び、現在はコロラド大学ボルダー校の教授である。活躍はアメリカに留まらず、欧州大学院大学公共政策・政治経済学部講座教授など、世界的に活躍されている。21世紀の初頭には、東京大学に2年刊滞在され、今回の著書の中にその間の研究成果の一端が分析されている。専門は、政治学であるが、税制を中心に社会保障や経済の分野にも造詣が深く、日本でも神野直彦東京大学名誉教授やその門下生である井手英策慶応義塾大学教授など、多くの日本人研究者とのつながりが深く、「日本語版への序言」の中にも多くの日本人研究者の名前が出ている。

なぜスタインモ教授のこの本を取り上げたのか

私自身がスタインモ教授について関心を持つようになったのも、神野直彦教授とのお付き合いからである。1992年に参議院議員に当選した直後から、日本の政治は政権交代の時代を迎える。翌93年、まさかの解散総選挙で自民党政権から細川連立政権へと転換し、社会党のメンバーの一員として初めて与党の立場で税制改正作業に参加する。国民福祉税騒動で一時連立から離脱するも、94年6月、自社さ政権が誕生し、総理大臣は村山富市社会党委員長になる。ここでは、税制調査会のインナーと称する最終決定メンバーの中に入る事となる。そこで、神野直彦先生との出会いが始まったのだ。消費税の引き上げ2%の内、1%を地方消費税新設という問題が浮上し、嫌がる財務省と新設を主張する自治省との激しい鍔迫り合いの中で、神野先生は地方消費税の必要性を諄々と説かれたことを記憶する。そうした論議の合間に、先生からスウェーデン社会のなかで、社会保障・税財政が如何に大きな役割を果たしているのか、スタインモ教授のお名前をお聞きしたわけだ。それだけに、最初スタインモ教授はスウェーデン人なのか、と思っていた時もあったくらいである。

井手英策慶応義塾大学教授の「All for All」との関係は?!

その後、民主党時代にも神野先生からは門下生である井手英策教授と関口智立教大学教授のお二人の紹介を受け、政権交代時には新しい税制調査会の専門家委員会のメンバーに入っていただき、神野先生中心に税制改革のリーダーシップを取ってもらった次第である。

とくに井手英策先生とのお付き合いは続き、先生がコロラド大学に留学されることになり、スタインモ教授の下で研鑽をつまれる事となったわけである。おそらく、井手先生はスタインモ教授との間で日本の税制や社会保障、さらには政治の分野も含めて論議をされたに違いない。その成果が社会保障の「普遍主義」こそ極めて重要な改革であることを主張されることになる。政権交代後の民進党の中で、前原調査会の下で「All For All」という考え方を提起され、国民全員が税の負担をして、皆んなに社会保障として再分配することを打ち出されることになる。井手先生が留学から日本に帰られて、最初に伺った時のお話が脳裏に刻み込まれている。「アメリカ社会は、中間層と富裕層の利害が結びついて貧困層と切り離されている。逆に、スウェーデンは中間層と貧困層の利害が結びつくようになっている。日本は、スウェーデンの道を取る必要がある」と言った趣旨のお話だったと記憶している。

私が、今回このスタインモ教授のこの本の書評を書きたいと思ったのは、こうした神野先生や井手先生と言った専門家の皆さん方に大きな影響を与えた見解を、自ら学んでみて、是非とも多くの皆さんに紹介したい、と思ったからに他ならない。

何故か、ドイツが分析から外されたようだ

ちょっと前段が長くなってしまったが、内容に即して重要と思われる点に絞って紹介したい。

この著書は、スウェーデン、日本、アメリカの3か国の資本主義的な民主主義国家のありようについて、専門である税制と政治・経済の関係について、それぞれの国の歴史と抱えている問題点について、制度派的な視点と進化論的な捉え方をもとに分析されたものである。そのポイントとして、国際的市場競争の圧力と人口動態の変化への対応にむけて、国家(建国の理念や国の成り立ちの特質、戦争責任の反省など)や制度(政治や労使関係、社会保障の特質など)がどのように進化してきたのか、歴史的な分析がなされ抱えている問題点の指摘が打ちだされている。

当初は、ドイツも含めた4カ国の分析を目指されていたのだが、最終的にはドイツは外されている。その理由はそれほど明確ではないものの、ユーロ市場の中でのドイツの特殊性を意識されたのであろうか。ビスマルク以来の社会保険制度や第二次大戦の敗戦国の劇的な転換、東西ドイツ分断と統一など、興味深い問題へのスタインモ氏の分析を知りたかったところではある。

スウェーデンについて、第2章「マルハナバチの進化」

以下、スウェーデン、日本、アメリカの順にスタインモ教授の分析を、私なりに重要と思われる点を要約して行きたい。

先ず、スウェーデンだが、北欧の最貧国であったスウェーデンが今日先進国の中でも格段に優れた国民生活を実現させてきたことに、誰しもが注目するところである。本書の中で38頁に「表2-1スウェーデン:社会経済的データと世界ランク」を是非とも見て欲しい。いかにスウェーデンが、経済的社会的パフォーマンスに優れた福祉国家をつくりあげているかが示されている。

このスウェーデンを扱った第2章の表題が「マルハナバチの進化」とあるのは、丸々と太ったマルハナバチ(大きな政府の象徴か)が、飛び立てないのでは、という危惧が、この表を観れば杞憂に過ぎないことを証明している。

スウェーデンは見事に制度を進化させ、社会民主を実現している

結論から言えば、スタインモ教授はスウェーデンの進めてきた政治・経済・社会保障・税制・労使関係等についての制度の進化を分析し、国際的な市場競争や人口動態圧力(当初は、他国へ移民送り出し、やがて労働力不足は女性の活用、やがて移民の受け入れ)にたいして、スウェーデンモデルとしての労使の協調・妥協による「国民の家」を作り上げることに成功する。さらに経済成長と財政規律の確保、普遍主義的な福祉国家をつくりあげ、世紀末の産業構造の工業化からサービス経済化への転換も、「学びの国」を目指した教育立国による人材育成で見事に切り抜けられようとしている。1930年代から政権政党として永く支配してきた社会民主労働党は、連立政権による妥協の政治を繰り返しながらも社会民主主義の理念を保ち続け、いまはブルジョア連立政権になっているが、「社会民主」の理念から逸脱することは考えられなくなっている。

こうしたスウェーデン国家の歴史を考える時、置かれた地理的な優位性、自然資源の豊富さと均質な人口、さらには第一次、第二次世界大戦では中立国といった有利さを、海外市場を目指した輸出主導の大企業と労働組合の集中による連帯意識を背景にした福祉国家づくり、さらにはコーポラティズムによる安定した階級間の融和が可能になった。国際的な競争が激しくなり、また権力が集中し過ぎるという批判にも、憲法の改正まで実施して国民の声が組み入れやすくするなど、民主主義の改革を進めてきた。

税制への捉え方は進みすぎていないだろうか、福祉国家は保険機能を持つことへの指摘には納得

税制の面で、大企業には税負担を少なくして経済成長を促進させ、生産性の劣る中小企業などは淘汰させる方策を、社会民主労働党や労働組合が認めて行くあたりは、日本では考えられない経済合理性を追求している。また、所得税の限界税率の高いことにたいして、高い限界税率から逃れようとする動きが高まり、多くの不満が高まり結果として否定的なものへと変わっている。それゆえ、今日では、税について所得再分配のために使われるべきだ、という考え方は放棄されたとみている。

果たして、このような考え方が今日の日本を含む先進国で一般化し得るだろうか。やや疑問が残るところであり、法人税の負担の問題についてスタインモ教授は、日本の法人税が他の先進国より平均的に高いことを問題視している。

ただ、福祉国家が実質的にはリスクヘッジ機能を持った「保険の機能」をもつわけで、分配効果のある税と保険は、コインの裏表だとスタインモ教授は指摘している。あのリーマンショックを見事に乗り切れたのは福祉国家だったからであり、過去何十年にわたって社会保険を購入し続けたからだ、との指摘には納得できる。

日本、最大の問題は政治制度にあり

さて、日本である。第3章「新旧遺伝子の交配種」の冒頭、日本の制度は実に理解しづらいことを指摘。その原因は、政治制度に在り、組織政党が経済問題や再分配をめぐっての論争と対立の無い政治システムにあると見ている。自民党について、地域利害を代表し、個々の政治家は驚くほど自律的な政治企業家の連合体と見ているが、最近の自民党は少し変わりつつあるのかもしれない。

経済成長優先、企業と女性に依存した日本型福祉国家へ

日本株式会社と揶揄されたように、企業と中央省庁の間で露骨な協調・協力システムだとみている。国家が経済問題には露骨に介入するが、社会問題については著しく弱い二面性を持ち、農業や中小企業を近代化するのではなく、それを保護する二重構造という問題を指摘する。不況期には、それを救済すべく公共事業を拡大する「土建国家」でもある。国家が熱心ではない福祉については、企業(ただし大企業)がゆりかごから墓場までの福祉を支え、女性の労働力を家庭内の子育てや老親の介護まで実施させるという、安易な日本的仕組みに支えられてきた。そうした中で経済成長が落ち込んだり、女性が自立志向を高め始めれば、一気にその矛盾が露呈し始める。少子化社会は、その端的な現れと言っても間違いない。にもかかわらず、均衡財政を維持しながら首尾一貫した福祉国家をつくりあげる方向に進まず、誰しもが問題だと思っていながら政治的リーダーシップは取られていない。

経済成長の停滞の下、新自由主義に舵を、格差の拡大と政治不信増大へ、人口減少への無策という惨状へ

バブルが崩壊した後、経済の停滞の下で自信を失ったリーダーたちは、新自由主義に舵を切ったのだが、雇用が不安定化し、格差が大きく拡大する中で、解決の方向が実現できないまま政治不信を高めつつ今日に至っていることを厳しく分析している。特に、人口動態で言えば、少子高齢社会に突入するのだが、女性が労働市場で露骨な差別を受けており、税制もそれを助長しつづけている。その改革も出来ないまま、移民の受け入れもすることなく、今日の危機的状況を迎えている。こうした日本の抱えている深刻な課題を、日本は自分たちの頭で何をしていくべきなのか、改革の道を安易な模倣ではなく考えて行かなければならないと指摘している。

アメリカ、「特異な進化を遂げた『強い国、弱い国家』」

最後はアメリカである。世界一豊かで影響力のある国アメリカだが、ここでも政治制度に大きな問題が存在している。オバマの登場によっても改革は進まず、トランプになっても、恐らくスタインモ教授は厳しい見方をされているに違いない。

アメリカは租税支出も歳出と見れば、かなり広範囲な福祉国家、ただ《隠れた福祉国家》で、ロビイストが暗躍して税の減免へ

さて、アメリカは福祉国家としては日本よりも低福祉の国だと理解していたのだが、スタインモ教授によれば次のような捉え方になる。すなわち、「実際には米国は極めて広範囲に及ぶ社会福祉国家であり、民間経済に対する詳細な政府の規制や意外なほど介入主義的税制を有しているのだ」(170頁)と。それは、租税支出、日本で言えば租税特別措置という隠れた政府支出が増大し、個々の業界や派閥、様々な階層の人々が、自分たちの仕事や生活に関わる税制上の減免を連邦議会の議員、とりわけそれぞれの議会の委員会を主催する委員長へのロビー活動を展開する。法律は、議員しか作れない中で、何を議題として取り上げ。どんな条項を盛り込むのか、委員長の権限は絶大である。

上下両院議会の委員長権限は絶大、今では上院の60%以上の支持なくして法案は通らない現実、分権化の行き過ぎへ

26,000人にも及ぶワシントンのロビイストは、それぞれの業界などの利害を連邦の上下両院の議院。とりわけ委員長に陳情し、租税特別措置として実現させる。今では、委員会の下に小委員会も設置され、ますます分権化が進み、いくら国民の要求が強くても、ロビイストと結託した委員長の手で国民の要求を退けることができる。大統領と言えども、議会の賛成無くして法案は通らない。都合の悪いことに、今では下院議員の過半数だけでなく、上院の60%以上の支持なくして法案は通らなくなってしまったのだ、世界を見渡してみて、60%以上の賛成がなければ法案が通らないという民主主義制度が罷り通る国はアメリカ以外にはないのではないか。

これほどまでに問題が大きくなったアメリカではあるが、そうなる背景には政治権力を独占的に行使させないで、3権分立制度を強固に張り巡らしてしまったことの結果でもあるのだ。こうした非効率極まりない制度の進展について、国民は政府不信を招いており、どのように解決していけるのか、展望は出ていない。レーガン政権以降、新自由主義による格差の拡大も大きな問題ではあるが、こうした政治権力の行き過ぎをもたらす制度を改革できない限り、どうしようもないのが現実なのだ。


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