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労福協 活動レポート

2018年1月29日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第31号)

元参議院議員 峰崎 直樹

国会は、いよいよ予算委員会へ、与党の質問時間増は非常識だ

22日から始まった第196通常国会は、総理大臣の所信表明演説を中心に与野党の代表質問が衆参両院の本会議で行われ、今週からは予算委員会の審議に入る。先ずは総額2,7兆円にも及ぶ平成27年度の補正予算案の審議から進め、それを経て約98兆円になる来年度予算案の審議に移ることになるわけだ。全国会に引き続き、またぞろ与野党の予算委員会での審議時間の配分について紛糾し、自民党側は質疑時間増を求めたわけだが、結果的にかつての与党2対野党8から、3対7へと一応の妥結に至ったようだ。与党側の質問は、臨時国会を見る限り、余りにも政府を翼賛する立場のものが多く、国民の立場からの問題点の指摘からは程遠いものでしかなかった。やはり、国会での質疑は、基本的には野党側が厳しく政権側を追及すべき場になるべきだと言えよう。

それにしても、毎年のように巨額の補正予算が打ち出されるのだが、本当に補正予算が必要になるのかどうか、もう一度しっかりと吟味する必要がある。ただでさえ日本の財政が膨大な赤字だというのに、当初予算ではシーリングをはじめ多くの厳しい査定があるわけだが、補正予算であれば比較的財源を確保しやすいという事が余りにも多すぎる。要求官庁の中には、予め本予算の段階で「補正回し」という事業があり、査定側の財務省も阿吽の呼吸で応じているようだが、国会の場でそういった安易な財政支出にもしっかりと予算審議をして欲しい。

沖縄の心を踏み躙る恥ずかしいヤジ、野中さんの訃報で怒り倍化へ

さて、本会議での代表質問の過程で、共産党の志位委員長が沖縄米軍のヘリコプター関連の事故に触れた時、松本内閣府副大臣が「それで何人死んだんだ」などというヤジが飛び出てきた。辺野古を抱える名護市の市長選挙を直前に控えているだけに、さすがに自民党側も無視することができなかったのだろう、副大臣辞任にまで至ったのだ。事実上の更迭である。権力側の驕りや慢心を示したものであり、いまの自民党政権の、沖縄問題に対する認識の程度の低さを如実に現したものと言えよう。

そんな中で、自民党の野中広務元幹事長が92歳で亡くなられたという訃報に接した。野中さんは戦争体験者として平和の問題にとても敏感であったし、沖縄についての真摯な姿勢が野党側にも信頼されていただけに、余計に松本発言の異様さが浮き彫りになったと言えよう。村山内閣の自治大臣時代には、自社さ政権の与党の一員としてご一緒していた時期もあり、野中広務さんのご冥福を心から祈りたい。

心配な憲法改正論議、公明党代表質問に出ない事の意味は何?

こうした戦争体験者がいなくなることで、戦争というものへの嫌悪感が政治家全体に弱くなっていくわけで、安倍総理の持つ憲法改正への危険性もまた浮き彫りにしていく必要がある。枝野立憲民主党代表と安倍総理の憲法論戦は、総理の元気の無さと同時に、何だか噛み合わない論議になったようで、これからどのように進んでいくのか不透明さが残る。なによりも与党である公明党が、衆参の代表質問で憲法改正問題にまったく触れなかったことが気になるところである。いくら、憲法改正問題は立法府の問題だから政府には質問をしなかったと、いう事にはなるまい。やはり、同じ与党内でも憲法改正問題については、自民党との違いが出始めているのだろう。今後の動きを注目したいポイントの一つである。

世界経済は順調そうに見えるが、リーマンショック時に近似!

世界的な経済の動きはなかなか好調のようで、アメリカの昨年10~12月期のGDP伸び率は2.5%で、トランプ減税を歓迎したと一般的には言われているが、ニューヨークダウの株価も史上最高値を記録している。おそらく、海外からの投機的な資金も入り始めているのかもしれないが、2008年のリーマンショックに近い状況に似て来つつあるとも言われている。一時強められた金融規制も、再び緩和され始めているし、何よりも貧富の格差は再び広がってきている。FRBはイエレン議長からパウエル氏への交替はあるものの、金融政策の正常化は着実に進んでおり、これからも利上げは進められるようだが、トランプ氏の姿勢がウオール街の利益を代表する姿勢を強めているだけに、今後のFRBの動きにも注目したい。

EUも経済的には順調なようで、ECBは金融緩和の出口に向けて動き始めている。ただ、EUの盟主であるドイツの政治状況が、昨年の総選挙から既に4カ月経つというのに、未だに新政権が樹立できていない。ようやく社会民主党との大連立への方向へ踏み出したものの、社会民主党内の大連立への批判は根強いものがあり、3月に実施される全党員の投票による賛否に注目が集まっている。移民問題や医療保険と言った社会保障問題をめぐる対立は根深いものがあり、大連立の行方は前途多難なのかもしれない。

日本経済は、デフレからの脱却に進み始めたのだろうか

日本も、年明けから株式市場は活性化しており、なによりもデフレからの脱却の展望が開け始めたと見る向きが、専門家の間には多くなっている。ただ5年前、政府と日銀とのアコードでは、消費者物価指数(CPI)2%のインフレ目標実現には程遠く、昨年12月のCPIもようやく0,9%になったものの、生鮮食料費や海外依存度の高いエネルギー価格を除いた新型コア指数は0,3%の上昇でしかない。日銀の新総裁の行方もまだ確定していないが、出口戦略はFRBやECBのようにはいかないようだ。

ただ、デフレからの脱却についての政府見解は、2006年に「物価が持続的に下落する状況を脱し、再びそうした状況に戻る見込みがないこと」と定義している。実際にデフレ脱却の判断に当たっては、CPIだけでなくGDPデフレーターや需給ギャップ、ULC(ユニットレーバーコスト)といったマクロ的な物価変動要因を「総合的に判断する」というもので、今でもこの考え方は踏襲されている。政府は、デフレという言葉を2013年12月の「月例経済報告」からは削除しているが、未だ正式に「デフレからの脱却」を宣言しているわけではない。やはり、生鮮食料品やエネルギー価格の上昇を除いた新型コアで1%以上にならなければ、デフレからの脱却とは言えないようだ、とBNPパリバのチーフエコノミスト河野龍太郎氏は最新のレポートで指摘している。やはり、そのカギは働く者の賃金の動向いかんによるのではないだろうか。

さらに河野氏は、憲法改正や自民党総裁選挙が控えているだけに、アベノミクスの輝かしい勝利として「デフレからの脱却」宣言を大いに利用するのでは、という見方と共に、かえって追加財政の大義名分が失われる事も予測されるだけに、なかなか見通しにくいとも指摘している。さらに、日銀の金融緩和からの転換は、2%のインフレ目標を降ろしていないだけに、新型コアが1%を超える伸びを確認しなければ難しいともみてい。株価が堅調なだけに、今年中は、せいぜいETFの減額の可能性があるのではないか、と見ている。

日本経済の最大の問題は、無責任な財政赤字の垂れ流しだ

日本経済にとって最大の問題は、やはり財政再建をどう進めるのか、という点であろう。すでに、2020年度までにプライマリー赤字を解消することを放棄しており、新しい財政再建目標は、今年6月まで策定する方針を打ち出している。その作業は、経済財政諮問会議の場で動き始めており、今月23日に第1回の会合が開催された。当日示された中長期試算は、経済成長率を実質2%以上、名目3%以上になるシナリオの下で、プライマリーバランス黒字化の達成時期が2020年代後半になると打ち出している。問題は、そこからどう歳出改革努力をしていくのか、という事だとしている。今の日本経済の潜在成長率は、せいぜい1%程度とされているだけに、あまりにも高すぎる成長を前提にしている事の問題が当然指摘されるべきだろう。

過去2回消費税の引き上げを延期し続け、昨年の総選挙の前には消費税の使い道を勝手に変えるという暴挙を繰り返してきたことを見逃すわけにはいかない。税率を10%へ引き上げる消費税の使い道は、民主党野田政権時代に自民・公明両党との三党合意によって法定化されてきた。そうした国民に約束したことを無視して教育予算への流用が為されたわけで、法治国家として許されざる法違反が罷り通ろうとしている。もちろん教育予算の不十分性は、先進国の中で対GDP比最低でしかないわけで、その充実が必要であることは言うまでもあるまい。ただ、それを口実に三党合意を一方的に破ることは許されないのだが、残念なことに、それを追求すべき野党民主党は空中分解して分党状態に陥り、無力感が漂う昨今である。

社会保障と財政再建の抱き合わせた一体改革の不実行、政治不信の高まりへ

ただ状況をよくよく考えてみれば、税による予算措置は、税収自体が景気不景気による影響を受けることが多く、また政策の優先順位においても、時の政権の判断によって簡単に覆ってしまう事があり得るわけだ。その点、社会保険で以て運営されている年金・医療・介護・雇用などは、例えリーマンショックがあろうと着実に社会保険料収入は増えており、十分とは言えないものの、安定した保険財政を確保し得ている。それだけに、社会保障と財政再建を抱き合わせで消費税の引き上げという方針を簡単に反故にされる事への不信から、これからは財政再建と社会保障を分離して財源方針を作るべきではないのか、という厳しい意見が一部の専門家や関係者の間で出始めている。消費税という財源調達力に優れた税制の魅力を、容易には諦めることはなかなかできにくいことではあるが、日本の余りにも酷い政治の現実を見る限り、そうした意見が出てくることにも十分考慮して行くべき時に来ているのかもしれない。

財政赤字の現状は、まことに惨憺たる現実があり、金利の上昇に極めて脆弱である。今のところ、日本経済の経常収支は黒字であり海外からの財政赤字を補てんする必要はないし、家計部門や企業部門も又黒字である。それゆえ、政府部門の赤字が増え続けていても、直ちに財政破綻することはない。だからと言って、政府部門の赤字が構造的に発散し続けて良いわけではなく、少なくとも基礎的財政収支の赤字は早急に黒字化する必要がある。それを放棄して、今までの政府のように社会保障給付や教育関係費の支出を増やし続けていく事は、将来世代へのつけを回し続けていく事に他ならない。いつか間違いなく、手厳しい一撃が、われわれの生活を襲ってくるのだ。


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