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労福協 活動レポート

2018年2月5日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第32号)

元参議院議員 峰崎 直樹

予算委員会での本格的な論戦、国の根幹をなす重要問題の論議を

国会は、補正予算の審議を終え、いよいよ先週末から来年度予算の審議に入った。与野党の対立は、多くが「モリ・カケ・スパ」と略された森友学園や加計学園問題に引き続き、スーパーコンピューター関連の補助金不正支出問題の追及などに費やされることだろう。ある意味では、安倍政権のアキレス腱とでもいうべきスキャンダルになりつつあるわけで、国民の関心も大きいだけにもっともな事ではある。

ただ、日本の国の在り方に繋がる大きな問題についてもしっかりと議論をし、安倍政権の進めようとしている政策の問題点を明らかにして欲しい。特に、財政や金融、安全保障や社会保障といった国の根幹をなす問題(憲法改正問題も)について、野党側は自分たちの政策を積極的に打ち出し、国民の前に明確にする必要があろう。特に、2012年8月に合意した「社会保障・税一体改革」による消費税の引き上げの延期や使途変更など、2020年度までに基礎的財政収支の黒字化を放棄したことは、到底許されない暴挙であり、今後の少子高齢社会の下での社会保障の在り方との関係も含めて徹底的な論戦を繰り広げて欲しい。

社会保障・税一体改革の税財源として、消費税の増税は困難か?!
宮島洋東大名誉教授の問題提起を検討したい

そうした中で、今回の通信では少しく今まで述べてきたことに対する異論について、考えてみたい。それは「社会保障・税一体改革」の中軸をなしている、社会保障財源としての消費税の引き上げという問題についてである。

実は、私の親しくして頂いている年金専門家から、昨年末に『年金制度の展望』(坪野剛司監修 年金総合研究所編 東洋経済新報社刊)という書籍を贈っていただいた。その中では、色々な専門家の方たちが執筆をされており、未だ総ての論文を読んではいないのだが、「第5章 年金制度と税制」と言う章が真っ先に眼に飛び込んできた。書いておられるのは宮島洋東京大学名誉教授であり、私自身、氏の書かれた『租税論の展開と日本の税制』(日本評論社1986年刊)以来、多くの論文や著書を学ばせていただいた信頼できる碩学の一人である。この本に先立つ1年以上前に、公益財団法人日本年金数理人会主催の平成28年度特別講演会が開催され、その講演録が公表されている。題して『税制と社会保障――年金を中心として』と内容が良く似ており、おそらくこの講演録に手を加えられたものが今度の第5章なのだろう。

講演録はこちらを参照して欲しい。

日本とEUの歴史を考える限り、社会保障を賄う基幹税の地位を消費税に求めることは難しいのか

この中で、一番の問題とすべきと感じたのは「消費税の増税」についての指摘である。第5章の年金制度と税制の冒頭の「要旨」で、いきなり次のような結論を披歴されている。

「社会保障財源の税とは、公費負担の基本財源としての税を意味するが、公費負担とは財政制度(国一般会計等)の支出(経費)にほかならない。財政健全化に向け、公費負担に見合う税収の確保が要請される所以である。今日、社会保障財源の税としては消費税に焦点が絞られているが、一般売上税の歴史やわが国消費税の現状を考察するかぎり、EUの付加価値税に匹敵する基幹税の地位を消費税の引き上げに期待するのは難しいと考えられる」(同書195頁より、ゴシック体は峰崎が強調)

もちろん、これ以外の重要な論点について触れられているし、とりわけ社会保障給付の基準となっている「所得」について、クロヨンと呼ばれる給与所得と自営業者・農家の所得との質的な違いなど不公平さが存在していること等、実に多くの問題が指摘されていて大変多くの問題があることを教えてくれている。ただ、今回はこの社会保障財源としての消費税について、論点を絞って検討してみたい。

日本の消費税率の低さこそが、引き上げの余地が大きいと考えてきたのだが????

消費税の特性について、次の3点を挙げている。①税収の安定性②経済活動に中立性③財源調達力の高さ、で裏返して見ると安定性は負担の逆進性に、中立性は高齢者負担の増を意味している。何よりも宮島教授の指摘で衝撃を受けたのは、消費税率(EUは付加価値税率)の国際比較でみた日本の低さ(EUは15%以上、日本は現状8%で10%は平成31年度へ延期、しかも使途変更へ)であり、引き上げの余地が大きいと考えている事への危うさを指摘している。私自身は、引き上げの余地が大きいことと財源調達力の高さに、消費税収こそが社会保障財源として相応しいと考えてきた一人である。そこに、宮島教授は問題を指摘されているのだ。

EU付加価値税が高くなった理由、戦時と好況と外圧の産物

では、なぜEUでは付加価値税率が高くなっているのか、その歴史を概観され、第一次、第二次世界大戦という戦時体制下での一般売上税導入、戦後高度成長という時代背景の下で所得の向上が進む中で、逆進性の負担感をあまり感じない中での引き上げ、EU加盟の条件として付加価値税の最低税率設定による外圧、があり、結果として高齢化の進むEUの社会保障を支える基幹税として存在できたと指摘される。

日本の消費税、EUと全く逆の条件下で遅れて誕生し信頼度低い!

では、EUと対比して日本の現実はどうだろうか。

第一に、消費税へと切り替えられる一般売上税が存在しなかった(戦後一時期、取引高税が導入されたが2年で廃止、シャウプ勧告で地方税に付加価値税が提起されるも実施すらなされなかった)。その後、高度経済成長が進展するも、所得税・法人税の税収増に支えられた。

第二に、導入の時期、目的、経済環境に多くの問題が存在していたこと。1989年に導入された時、財政再建が目的で、成長力も弱まった時期だし、逆進性負担や納税事務の負担増をすんなりと許容できる経済環境ではなかった。その為に、備えなければならないインボイス方式ではなく、アカウント方式(帳簿上で前段階の税額控除が非課税業者でも可能に)を採用し、それ以外にも反対する中小企業の手元には「益税」が公然と残る手だてを講じざるを得なくなり、消費税に対する国民の信頼を大きく損ねてしまった。社会保障の機能強化という増税目的に絶対的説得力が欠如してしまい、その後遺症は未だに継続していると厳しい。さらに、今後の食料品などの軽減税率採用による財源調達力の低下にも、批判を加えられている。

低税率だから引き上げの余地「大」ではなく、「小」という見解!?
労働者の支持政党が参加した大連立政権時に引き上げ実現した歴史

かくして「低税率だから税率引き上げの余地が大」ではなく、「低税率だからこそ引き上げの余地は小さい」と考えるべきだ、と指摘されている。もっとも、3%から5%へ、5%から8%を経由して何とか10%への引き上げまでは行くだろうが、それ以上の引き上げは困難だと見ておられる。

私自身は、導入時の問題は確かにあるとしても、「益税」問題の改善が進められ、3%から5%へ、さらには5%から10%へと引き上げられてきた背景に、労働者の利益代表たる政党を含む「大連立政権という政治権力」こそが消費税率の引き上げを実現するカギを握っていたと考えており、今後の政治の行方がどのように展開していくのかにかかっていると思っている。この辺りは、よくよく議論をしていく必要がある点ではないかと思う。宮島教授の問題提起は、確かに事態の本質をよくついているだけに、大きな問題提起として検討して行く必要がある。

消費税率引き上げに頼れないとすれば、どんな財源があるのか

では、消費税の引き上げが難しいとすれば、これからの日本の社会保障に必要な財源はどのようにして確保して行くべきなのか、宮島教授の考え方をフォローして行きたい。消費税以外の税目や社会保険料の引き上げを検討すべきとして、国際比較でみた時、日本に於いては消費税もさることながら個人所得税の低さに注目する。対GDP比の一般売上税(日本では消費税)の対主要国平均100に対する比率は62%と低いことは確かなのだが、個人所得税は57%とさらに低くなっている。その大きな要因として、日本と同様連邦制ではなく単一国家という政治形態をとっているスウェーデンやデンマークなどは、社会保障支出のうち現物給付を担っている地方自治体の住民税比率が平均して高く、スウェーデン32%、デンマーク33%となっているのに、日本では10%でしかないことを指摘している。

単一国家での社会保障サービス支出の主体たる地方自治体、その課税自主権による住民税引き上げより、国への依存財源に頼る日本の地方自治の現実

もっとも、日本の地方住民税(所得割)は独自に超過課税することもできるのだが、全国的に1律10%でまったく変動することは無い。足りない財源は交付税・補助金や地方消費税(徴収は国で地方は一定割合を受ける)に依拠する意識と行動が伝統的に極めて強いことも指摘する。日本の自治体は、課税自主権を発揮することが一部の例外的な税を除いて殆どないわけで、これで「自治」体と言えるのかどうか、まことに日本の民主主義の問題点の一つになっていると言えよう。(地方住民税は国税の徴収が終わった後で、所得証明書を受け取り、前年度所得に対して課税するという実態にあり、多くの問題を抱えている事にも言及されている)

かくして、消費税だけでなく所得税(住民税)の引き上げの困難性を指摘し、結論として「税制も社会保障も目標は西欧並みという考え方は実現可能性に欠ける」(211頁)と結論付け、今後の公的年金の給付水準の低下は避けられないと結論される。その上で、公的年金の不十分性を、企業年金の改革によって私的年金制度の普及・充実に努める必要がある、として具体的な改革案を提示されている。

社会保険料の引き上げ、介護保険の導入は2000年だし、昨年は子ども保険という提案が自民党の中から出た時代なのだ

消費税と所得税以外に社会保険料の引き上げという道が残されているが、論文の書かれた主題が税制であるため、社会保険制度への具体的な言及は少ないのだろう。おそらく社会保険の場合、雇う側の経営側からの負担増への反発も強く、なかなか困難だという事は変わりないのだと思う。あまり、税についての展望の無い中で、今後の高齢社会の所得補償については、私的年金制度の改革を提起されているのだが、果たしてそれで良いのだろうか。昨年、自民党内の小泉新次郎筆頭幹事長たち若手の政治家が、「子ども保険」を提起したことを考える時、まんざら社会保険制度の新設・引き上げが不可能とは思われない。可能性に賭けていく必要が十分にあると思う。

いずれにせよ、財政赤字の解消には税による負担増は不可避だ

さらに、グロスの財政赤字の累積額がGDPの240%を超える水準になっているだけでなく、毎年の税収で国債費を除く一般歳出を賄えない状態(基礎的財政収支の赤字)が続いているわけで、当面は大至急その黒字化を急ぐ必要がある。財政再建の第一歩であり、その必要財源は、国税の消費税による負担を中心に進める以外には困難だと言わざるを得ない。所得税の引き上げは、累進性を強化することだけで財政赤字を解消することは不可能であり、課税ベースを拡大すると共に課税最低限に近い中・低所得層まで含めた負担増が必要になろう。さらに宮島教授が指摘しておられるように、社会保障による現金給付も所得税の課税対象に組み入れることもあり得るのかもしれない。そう考えると、所得税の引き上げは、消費税以上に困難な問題を抱えていることを指摘しておく必要がある。

その点、私自身マイナンバー制度を入れて、所得捕捉の公平性を追求しようと考えていたこともあり、宮島教授の問題指摘はなかなか厳しいものがある。その点については、次号以降に取り上げて行きたい。


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