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労福協 活動レポート

2018年2月19日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第34号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

財政破綻リスクがマグマのように堆積する日本、支える日銀!

注目された先週の株式市場は、ニューヨークダウが連続して上昇するや世界的に反転上昇し、東京の日経平均もようやく回復し始めてきたようだ。ただ、為替の方はドル売り、円買いとなって1ドル108円から105円へとドル安・円高へと潮目が変わり始めている。その背景として指摘されているのがアメリカトランプ政権の大幅減税や公共支出拡大による財政悪化懸念であり、インフレによるドル価値の下落がドル離れを促し、円買いへと動き始めたと見られている。今後、どのように国際的なカネの流れが進んでいくのか、なかなか方向感がつかめずに一進一退を繰り返すのだろうか。

それにしても、アメリカの資本市場は財政悪化に対して正しく反応しているのに、日本の方は世界一財政赤字が累積しているにもかかわらず、日銀の異次元の金融緩和策によって市場機能を正常に働かせることができていない。債券市場や株式市場は価格機能が機能不全に陥ったままで、出口政策も見えないまま財政破綻リスクがマグマのように堆積し続けている。

日銀総裁・副総裁人事案が国会へ、しっかり問題点を質すべきだ

そうした中で、16日に日銀総裁・副総裁の人事案が国会に提示された。新聞報道通り黒田東彦総裁の再選へ、3月19日に任期の切れる2人の副総裁には日銀から雨宮正佳理事、もう一人は若田部昌澄早稲田大学教授となった。財務省、日銀、学者という布陣は変わらなかった。

この人事をどのように理解したらよいのか、いろいろと金融・経済分野の専門家の分析が出されている。何よりも黒田総裁の再選は、2%の消費者物価目標が実現されていない中で、本来であれば責任を取って交替すべきだとおもうのだが、安倍政権にとっては財政赤字をファイナンスしてくれているわけで、交替させるリスクも大きく、無難なところに落ち着いたのだろう。

ただ、黒田総裁はさすがに財務官僚出身でもあり、財政再建の必要性を認識しており、経産官僚の振り付けに踊らされてきた安倍総理も、かつての「上げ潮派」の立場から違和感を感じていることもあり、必ずしも全幅の信頼とはなっていないのだろう。おそらく、長期金利をゼロに抑えることができなくなるときや、「出口」政策への転換が迫られる時が必ずやって来る。その時、日銀と政府の利害が対立する局面に直面することになる。果たして日銀の独立性は確保されるのだろうか。もっとも、それが黒田総裁のこれからの5年間なのかどうか、経済は生き物であり、何時、何が起きるのかだれも予測は出来ない。

若田部昌澄副総裁候補は、量的緩和路線を堅持し続けられるのか

次の問題は、副総裁の若田部教授の評価だろう。前任の岩田副総裁については前号で指摘したとおり、学者としてまことに無責任極まりない5年間だったのだが、今度の若田部教授もいわゆるリフレ派で、かなり強硬な量的緩和論者として登用されたと見ていい。最新の発言としては、朝日新聞のGlobe特集『FRBと日本銀行』[Webオリジナル 中央銀行の力]において、インタビュー記事「デフレ脱却に向けて金融緩和の継続と積極財政を」と題して日銀の金融政策などを語っている。(http://globe.asahi.com/feature/side/2018020100004.html)

そこでは、黒田日銀の5年間については「デフレではない状況に持ってきたこと」や雇用面が良くなっていること等「実体経済への好影響は評価できる」が、「課題としては、2%の物価目標に達していないのは厳粛な事実で、これは謙虚に受け止めるべきだと思う」とリフレ派の率直な思いを語っている。

なぜ物価目標が達成できなかったのかについては、2016年9月の日銀総括をそのまま引用し、2014年の消費税増税と原油価格の下落に求めている。その上で、日銀総裁には2%の物価目標を達成できる人が良いとして、政府と日銀が一致協力してデフレ脱却の原点に返ること、財政についてはデフレから脱却し経済の好転による税収増もあり、国債への需要は根強く日本の財政は危機ではない、とリフレ派の考え方を強調されている。

若田部教授の出口論、2%インフレ達成を前提にするとの事だが?!

又、金融政策を正常化させる「出口」については、2%の物価目標を達成した時のバランスシートの規模や資産構成の程度によるが、「技術的な問題」と捉えていて、「出口とは2%を持続的に達成することだというイメージをもっと浸透させた方が良いと思う」と、「2%」と「イメージの浸透」を強調している。

過去の異次元と称されるほどの量的緩和を実施したにもかかわらず、2%を達成できなかったわけで、2016年1月のマイナス金利導入を経て、9月には短期金利はマイナスで、10年ものの長期国債金利ゼロというイールドカーブ目標へと、量から金利へと目標の重点を転換してきた事実にはあえて触れられていない。もう一度、量的緩和へと金融政策の重点を再転換すべきだと主張されるのだろうか。おそらく、来年に予定されている消費税率の10%への引き上げについて、インフレ目標2%が達成されていない中で、あるいは人々のインフレ期待が2改善されていないと判断されれば、反対を主張されるのだろう。日銀の政策決定における黒田総裁との考え方の一致がどのように図られるのか、前任の岩田喜久男氏と同様自説を変更されるのか、同意人事問題を審議する国会で、野党側はこうした点についての疑問をきちんと追求して欲しい所である。

政治の混迷のなかで「連合政策・制度推進フォーラム」発足へ

政治の動きの中で先週末の16日、「連合政策・制度推進フォーラム」の設立総会が開催された。民進党が分解し、立憲民主党や希望の党、さらには自由党や社民党など5党に所属する150名あまりの国会議員が集まったと報道されている。来年の統一自治体選挙・参議院選挙を前にして、野党がばらばらな状況では与党側に勝てないだけに、どのように纏まっていけるのかが大きな課題であることは確かである。特に民進党が、結果として分解していく過程では、連合の神津会長も一枚かんでいたわけで、その責任も問われていることは間違いない。

ただ、連合傘下の労働組合自体の政策的な隔たりは大きく、とりわけ原発問題については容易に一致することは難しいところに来ている。それだけに、各単産の支持政党も自治労や私鉄総連などは立憲民主党を中心にしていく方針を機関決定しており、連合として一本化することは難しいようだ。私の読みでは、おそらく連合としては複数の政党支持でまとめるしかないのではないか、と思われる。

連合組織の弱体化克服こそ、社会民主主義の基盤拡に通ずるのだが

連合自体の組織力量の低下も進み、かつては800万人余りいた組合員も、今では686万人まで低下し、組織率も昨年は17,1%にまで落ち込んでいる。何よりも、主力をなしていた民間労働組合も、金属関係や化学産業といった製造業が落ち込み、産業別の交渉力の低下も著しい。旧総評系の主力をなしていた官公労も国鉄の分割民営化を始めとした民営化が進展し、今日ではその量的・質的なウエイトの低下は歴然としている。未組織労働者の組織化もUIゼンセンなどを中心に進められてはいるものの、かつての総評時代に「野武士のようなオルグ団」と評せられた力強さの面影は、今や夢物語でしかない。

最近では、組合員の意識も大きく変化し始めており、特に政治意識は組合員とマスコミが実施する世論調査の結果はあまり違わなくなっている。若者の政党支持をみても自民党支持が増えており、かつての社会党・総評ブロックと言われた状態からは考えられない状況にある。一言で言えば、「働く者の連帯意識」の弱体化が進み始めている。そのことが、「社会民主主義」勢力の弱体化を招いているわけだが、日本の場合「企業別労働組合」という組織であるが故に、それだけ落ち込みが酷くなっているのだろう。一朝一夕ではなかなか解決できないだけに、社会民主主義の復権の困難さが身に滲みる今日この頃である。

ドイツ社会民主党の党員投票の行方、世界が注目する3月4日

そうした中で、今全世界が注目するのがドイツ社会民主党(SPD)である。昨年9月の総選挙で、メルケル大連立政権の与党であったSPDは、20%の支持しか集めることができず歴史的敗北を喫し、シュルツ党首は大連立からの離脱を表明した。その後メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CDS)と自由党・緑の党との連立交渉が頓挫し、SPD出身のシュタインマイヤー大統領の斡旋でSPDは再び大連立をすることを大会で決定し、今その方針が46万人と言われるSPD党員全体の一票投票にかけられている。

その間、責任を取るべきシュルツ党首は、大連立政権の外相に就任するという驚くべき事態に批判が強まり、外相就任は取り止めになったとはいえ、SPDに対する支持率は20%を切るところまで落ち込んでいる。3月4日に党員投票が締め切られるわけだが、もし否決されれば再選挙が濃厚になる。メルケル氏の責任も出てくるわけで、ドイツの政局は混とんとしてくる。もし仮に党員投票で信任されたとしても、大連立の結果、野党第1党はポピュリズムに依拠した排外主義的なAfD(ドイツのための選択肢)になる。そうなれば、ドイツ議会の運営は極めて困難になるだけに、大連立政権は不安定さを増すことになる。

もし、否決されて再選挙となれば、AfDは支持率を拡大し、ひょっとすればSPDを追い抜くこともあり得ると見られ始めている。EUの中核であるドイツの政局の動向が、これからのEUの行方を大きく左右するだけに、3月4日の党員投票結果に注目が集まっているのだ。かつてSPDが、政権政党へと脱皮する時、「大連立」という政権政党としての経験が大きかったことを『謀略の伝記』(伊藤光彦著1982年刊中公新書)を読んで知る者として、SPDが再び大きな力を発揮できるよう再起を祈らずにはいられない。

同じく3月4日、イタリアの総選挙にも注目したい

もう一つ、同じ3月4日にはイタリアの総選挙が実施される。ある調査によれば、今のところレンツィ首相率いる与党民主党が21,9%と振るわず、中道右派連合「フォルツォ・イタリア」が34,3%と少し頭一つ抜け出しているようで、ポピュリズム政党である「五つ星運動」は27,8%で頭打ちのようだ。ただ、どの政党も過半数を制することができそうになく、連立政権になるようで、イタリアの動向にも注目が集まっている。イタリアの場合も、移民の問題が大きな対立点の一つになっているようだ。

いずれにせよ、社会民主主義政党の躍進は見られず、どこの国も排外主義的なポピュリズム政党が台頭し始めていることに注目すべきなのだろう。背景には、民主主義を支えてきた厚みのある中間層の落ち込みがあるわけで、日本においてもポピュリズムの動きが台頭してくるのかどうか、引き続き警戒しながらウオッチしていきたい。


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