2018年3月12日
独言居士の戯言(第37号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
3月11日、東日本大震災から7年が経つ、未だに7万人以上の方たちが避難し続けていることに胸が詰まる。東北の方たちの心のケアも含めて、万全の対応が引き続き求められている。
森友学園問題での佐川長官辞任は、安倍政権瓦解の序曲になるのか
それにしても先週は、国内外で実に大きな出来事が多数発生したものだ。
国内の問題では、森友学園問題での佐川国税庁長官の辞任であろう。時あたかも確定申告の最中、近畿財務局の国有財産売却を担当していた職員が自殺したニュースも飛び込むなど、相当ひどい混乱状態にあるようだ。肝腎の文書の書き換え疑惑についても、財務省として12日には事実として認める方向だと多くのマスコミが報じている。当然のことながら、野党側は政治家の責任を追及することは間違いなく、麻生財務大臣だけでなく、安倍総理にまで波及しかねない可能性も出てきている。政界は一寸先は闇、とはよく言ったものだ。
これに関して、ネット上では元大阪地検特捜部主任検事の前田恒彦氏が「つらい話ですが特捜部では『自殺者が出る事件は本物だ』言われています」とツイッターでつぶやいたという。さらに10日、文部科学省の前川前事務次官は「行政的に無理なことは、役人は自発的にやるはずがない。どうしても何らかの政治の力が働いているからこういうことが起こる。どういう政治の力どう働いているかに問題の本質はある」と記者団に語ったと報道されている。まさに、その通りだろう。
内閣人事局による政治家の官僚人事コントロールこそ諸悪の根源
問題は、政治との関係であり、国会での真相究明が求められている。と同時に、こうした政治の働きかけに対して、官僚の側が「忖度」せざるを得ない背景には、内閣人事局による政治家が審議官以上の官僚人事を差配できるようになっている事があるわけで、その点の改革が求められていることも併せて追及して行くべきポイントだと思う。政権交代が日常的に起こる政治であればいざ知らず、今の与野党の力関係からすれば役所が中立性を保ち続けることは無理なだけに、改革すべき問題点だ。
米朝首脳会談が5月開催へ合意、安倍総理は蚊帳の外に危機感か
他方、国際社会では、5日の朝鮮半島の分断国家である韓国と北朝鮮の南北会談に始まり、8日にはアメリカのトランプ大統領と韓国の鄭義溶国家保安室長との会談で、トランプ大統領が北朝鮮の金正恩労働党委員長との会談要請を受け入れ、5月までに会談することが発表された。北朝鮮側は体制の維持を求め、非核化への意思を表明し、核・ミサイル実験凍結を約束したとのことである。これまでも北朝鮮側との間で何度か核放棄の約束をさせてきたのだが、何れも守られることなく今日に至っており、果たして今回はどのように進展するのだろうか。両首脳の直接会談が実現すれば史上初めての事であり、朝鮮半島の非核化が進めば北東アジアの平和と安定にとって望ましいことは間違いない。
何故、北朝鮮は今回米朝の首脳会談を呼びかけることになったのか、国際的な北朝鮮に対する制裁措置が一定のダメージを与えことによる効果があったのか、それとも核兵器保有国としての地位を築き上げたことにより、アメリカと対等の立場で交渉に当たれると判断したことによるのだろうか。これからの米朝間の動きに注目して行く必要があるが、中国が全人代の開催の最中であり、北朝鮮との関係が冷却した状態にあることを感じさせてくれる。
日本はアメリカの属国という北朝鮮の立場は変化していないようだ
小生は、1999年秋に北朝鮮に一度だけ訪問したことがあり、当時の朝鮮対外文化協会の幹部の方と話をする機会があった。その時、北朝鮮はアメリカとの交渉をすることが重要であり、日本などはアメリカの属国でありまともに交渉する相手としては見ていない、等と公言していたことを思いだす。朝鮮戦争の停戦協定は、国連軍としてのアメリカとの間で締結したわけであり、北側からすればアメリカとの間で和平を実現することを求めているわけだ。おそらく、北朝鮮が核兵器の開発に向けて進んでいった背景には、核保有国としてアメリカと対等に渡り合える力を持つことではなかったかと思うだけに、今回の米朝首脳会談実現は、北朝鮮にとっては潮時と見たのだろう。そういえば北朝鮮は昨年11月、核抑止力が完成したという「勝利声明」を出していたことが思い出される。
それにしても、10日付の朝日新聞のオピニオン欄で、薮中元外務事務次官が1994年の北朝鮮とアメリカの米朝直接交渉の際、日本側は交渉のテーブルに着くことができず、ホテルの一室で交渉結果の報告を受けるだけで、その時には軽水炉建設費用を日本側が負担することの通告を受けた経緯を明らかにしている。まさに、アメリカの属国としてしか遇されていなかったわけだ。安倍政権は、アメリカが突然米朝首脳会談に応じたことに驚いているようで、直ちにトランプ大統領との電話会談を行い5月の米朝首脳会談前の4月に日米首脳会談を持つことにしたようだが、米韓の対北朝鮮外交交渉の表舞台からは蚊帳の外に立たされていたわけだ。
トランプ大統領のガバナンス、全く機能していない現実に愕然
トランプ大統領の北朝鮮外交の戦略方針がどのように進もうとしているのか十分に掴み切れておらず、振り回されつつあるのかもしれない。というのも、トランプ政権の下で、国務省の朝鮮外交専門家が辞任しその後任も決まっていないうえ、駐韓アメリカ大使が依然として未定であるなど、対北朝鮮外交を進める体制が整っていない事も気になる事ではある。
振り回されているのは北朝鮮との外交だけではない。経済外交でも自由貿易の原則から逸脱し保護貿易に逆戻りする方針を打ち出してきた。鉄鋼とアルミニウムに対する輸入関税をそれぞれ25%、10%とする事を表明し、大統領令に署名した。それに対して、EUや中国は対抗措置を取ることを明らかにしており、戦後アメリカが中心になって作り上げてきた自由貿易体制が、大きく崩れ始めようとしている。これに関連して、コーンNEC委員長が辞任をし、トランプ政権のなかにも大きな亀裂が拡大しつつある。トランプ政権の中枢部の人事は安定せず、多くの重要な政府人事が未確定なまま政権が漂流し続けている。
トランプ政権にとって、すべての政策の当面の目標は今年11月の中間選挙に向けられているのだろうが、あまりにも政権中枢部の人事がぐらついており、大統領の政権統治能力が国民の信頼を勝ち得られなくなりつつあるのではなかろうか。当面ペンシルベニア州の共和党の牙城とされてきた下院議員補欠選挙がどうなるのか、注目されているようだ。
人口が減少する日本社会の危機、どう対応すべきなのか
話題を変えて、日本が直面する大きな課題について考えてみたい。2010年をピークに、日本は人口減少社会に突入した。20~64歳までの生産労働人口だけを見ると、1997年がピークになっており、今では労働力不足が多くの産業・地域で訴えられており、中には労働力が集められないために廃業や規模縮小を余儀なくされる企業が後を絶たない。私は、いま「全国中小企業連合会」略称「全中連」という組織の責任者を仰せつかっているが、傘下中小企業の人手不足の深刻さは募るばかりであり、傘下組織の中には外国人技能実習制度によって労働力不足を解消せざるを得ない状況が現実化している。だが、その外国人の方たちにとって、日本が必ずしも魅力ある労働現場ではない事が顕在化し始めているのだ。
外国人労働力への依存と移民は同じこと、安倍総理の詭弁を嗤う
1週間前の事だが、朝日新聞3月4日の「日曜に想う」というコラムで、大野博人編集委員が「美しき誤解 惨憺たる理解」と題して、日本の人口動態問題について論じておられる。ちなみに表題の意味は、文芸評論家故亀井勝一郎氏の書かれた「愛の無情」と題する小論のなかで、恋愛とは「美しき誤解」で、結婚とはその「惨憺たる理解」だ、という件から取り上げている。
その中で、日本の人口減と高齢化する社会を、外国人無しにやっていけるという「美しき誤解」とは無縁の世界がますます拡大・蔓延しており、国が総合的な指針や法律を定め、予算措置を付けなければならなくなっている現実を指摘する。安倍政権は「移民政策は採らない」と繰り返すのだが、その一方で「外国人労働者」の受け入れは急ぐ方針だ。何ということは無い、諸外国での理解では「移民は入れないが、移民は増やす」と言っている事にほかならず、相矛盾していると批判する。このまま「美しき誤解」を続ければ続けるほど、その先に待つ「惨憺たる理解」のショックは大きくなる」と警鐘を乱打しておられる。けだし、当然の批判ではある。
もはや日本は魅力ある移民労働先とは見られていない現実
この問題指摘以上に現実に起きていることを鋭く指摘しているのが、少し前の記事になるが、日経新聞3月1日付の<特集記事>『ポスト平成の未来学』第5部「少子化の進路 隣はみんな外国人」という桜井祐介記者のコラムで、次のように問題を指摘している。
「安倍信三首相は2月、外国人労働者の受け入れ拡大に向けた制度改正の方針を今夏までにまとめると表明した。ただ、従来どおり移民政策はとらず、受け入れる外国人の在留期間に上限を設け、家族の帯同も認めない考えだ。来日しようとする外国人に条件を付けられるほど、いつまでも魅力的な国でいられるだろうか」(太字は引用者)
そうなのだ。現実に海外から技能実習生を扱っておられる関係者から聞く限り、もはや日本の賃金水準はお隣の韓国や台湾、香港や上海といった国や地域に比べて比較優位を失いつつあるという。しかも、日本語という壁もあり、外国人労働者にとって決して魅力ある国にはならなくなっている現実がある。やがて、巨大な経済大国になりつつある中国では、人口減少・高齢化社会へと転換していくわけで、外国人労働者は完全に売り手市場となり、条件の厳しい日本に魅力を感ずる労働者が激減するのではないか、という事態が進み始めようとしているのだ。
今こそ、真剣に正式な論議をすべき時に来ている移民問題
今こそ日本は、外国人労働者を移民として受け入れて行く方針を定め、外国人と共生して行ける社会へと転換させていく必要がある。正式に移民を受け入れることを早急に決断し、移民労働者も含めた労働者の賃金や労働時間・労働環境の充実を図ることが、これからますます深刻化する労働力不足の解決への第一歩だと思う。もちろん、受け入れに当たって考えるべき問題点をしっかりと論議をし、日本社会の受け入れ態勢を整備する必要があることは言うまでもない。既に、日本の各地に外国人と共生している町や地域が出てきており、なし崩し的に拡散し始めようとしているのだ。
もちろん、移民だけにすべて依存できるわけはないのであり、女性や高齢でもまだ元気に活躍できる方達など、働くことができる人たちが皆で力を合わせて、この難局を乗り越えて行く必要があることは言うまでもない。