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2018年4月9日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第41号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

今回は、最近読んだ本の中から印象的だった新井紀子教授(国立情報学研究所)の書かれた『AIvs教科書が読めない子供たち』の読書ノートを掲載する事にしたい。書評にしては、少し長いので読書ノートとした。

読書ノート 新井紀子著『AIvs教科書が読めない子供たち』(東洋経済新報社2018年2月刊)

AI=人工知能ブームだが、計算(論理、確率、統計)しかできない
著者新井教授は、人類の領域を超えないし、人類を滅ぼさないし、シンギュラリティに達することは無い、と断言

AIすなわち「人工知能」に関する様々な情報が、日本はもとより世界的に大流行している。とくに将棋や囲碁の世界では、ポナンザとかアルファ碁といった人工知能を組み込んだソフトが、世界最高峰のプロ棋士たちを打ち負かしたことによって一躍その存在感を高め、今や囲碁の世界ではプロの棋士が3子置かないと勝てないとすら言われるほどにまで高度化している。また、スマホやタブレットなどでは人が音声で尋ねると、音声で応答したりするわけで、このまま進めば人工的に人間のあらゆる領域を超える存在に達するのではないか、といつた事を指摘する向きがある。

そうしたAI=人工知能は、人間の領域を超えて神の領域に達するのではないか、人類を滅ぼすのではないか、あるいはシンギュラリティ(技術的特異点)と言われる領域に達するのではないか、について、著者である新井教授は「AIは神にならない、AIは人類を滅ぼすことはない、シンギュラリティは到来しない」と明言する。というのも、AIは機械であり、コンピューターに過ぎないわけで、計算しかできない。ソフトが計算を動かすので、人間の知的活動が全て数式で表現できなければ、AIが人間に取って代わることは無いわけだ。数式を扱えるのは数学であり、過去人類の4000年近い歴史の中で、論理的に言えることと確率、さらには統計で表現できる事しか扱えないのだと整理される。われわれ人間の知能の営みは、全てこの3つ(論理・確率・統計)に置き換え可能ではなく、例えば言葉の意味をどう解釈して行くのか、AIは一番苦手な分野なのだ。ましてや、人の心の感情をどのように表現して行けるのか、とても困難な領域であることを指摘する。

遅くなったが、著者である新井紀子氏は国立情報学研究所教授であり、その研究所で社会共有研究センター長を務めておられる。専門は数理論理学とのことだが、もともとは一橋大学の法学部に入り、イリノイ大学に移られ帰国後再び一橋を卒業し、最終的にはイリノイ大学大学院数学科を終了し理学博士を取得された異色の経歴の持ち主である。この本に出会ったのは『東洋経済』誌上で佐藤優氏と新井紀子教授の対談記事を読み、関心を持ったことに始まる。その後、佐藤氏はこの著書についての解説を東洋経済誌上で展開されている。是非とも、そちらの解説も参考にして欲しい。ちなみに、この本の印税は2018年度からRST(基礎的読解力調査)を提供する社団法人「教育のための科学研究所」に全額寄付され、一人でも多くの中学1年生が無償でテストを受けられるようにするために使われるとの事である。社会への貢献という考えと行動に、深く共鳴させられる。

AIの得意分野の進展は凄い、ただし「意味」の理解は苦手、知能レベルは偏差値57.1で限界、数学は東大医学部合格レベルへ

とはいえ、AIが得意とするルールの数値化し得る分野での進展はめざましい。そうしたAI技術は、囲碁や将棋の分野のようにルール化が明確で、数値化できる分野では人間の力量を凌駕できているし、そうした分野での進展は今後とも進むことは間違いない。では、どんな分野がAIにとっては苦手としているのか、それは何よりも意味を理解することや、人間であれば「常識」となっているものが不得手であるという。学校の授業で言えば、国語や英語がそうだ、と著者は自ら作り上げたAIロボット「東ロボくん」の実践から指摘する。
「東ロボくん」とは、2011年にたちあげた「ロボットは東大に入れるか」というプロジェクトであり、最新の2016年6月での知能レベルは偏差値57.1で(2013年は45)、これ以上間進展は難しいと判断して打ち切られている。特に、数学と世界史の記述式模試に挑戦したところ、世界史の偏差値は61.8、数学は76.2で全受験者のトップ1%に入るレベルまで到達したとされている。数学だけであれば、超難関の東大医学部に入れる高さだそうだ。

偏差値57.1は、明治・青山・立教・中央・法政入学可能レベルへ
新井教授は、イノベーションによる労働者の分断を2001年に予測

この平均偏差値57.1は、俗にMARCHと呼ばれる明治・青山・立教・中央・法政といった大学に入学できるレベルに到達したとされている。関西では関関同立レベルで、かなりの高さに到達できている事に注目して欲しい。というのも、新井教授が「東ロボくん」プロジェクトを立ち上げた目的は、AIはどこまででき、何ができないのか、AIに仕事を奪われないためには何をすればよいのか、AIと共存できる社会はどう作ればよいのか、その材料を提供したいという目的から出発している。

そうした観点から、著者が引用しているオックスフォード大学の研究チームが「雇用の未来——コンピューター化に影響されやすい仕事」という論文を2013年に発表、AI化によって「10年から20年後に残る仕事、なくなる仕事」が例示されている。注目すべきは、ホワイトカラーの事務系の仕事が多いこと、全体の職業の約半数が消滅し、全雇用労働者の47%が職を失う危険性があるとしている。新井教授はこの点に、景気が良く内部留保も最高なのに賃金の中央値が下がり続けているのは何故かと問い、結論として「これはイノベーションによる労働者の分断なのです。イノベーションに代替可能なタイプの人の労働価値が急速に下がっているのです」(75~76頁)と指摘し、こうした予測を世界で初めてうち出したのが新井教授の2010年に出版した『コンピューターが仕事を奪う』(日本経済新聞社刊)だったが、当時は世界で誰からも相手にされなかったという。だから、「東ロボくん」プロジェクトを始めたのだと述懐されている。

始めたプロジェクト「東ロボ君」の読解力の常識の壁への挑戦

それから始められた「東ロボくん」の「読解力の常識の壁」への挑戦は読む者にとって気が遠くなるような努力が進められ、例えば中学生程度がそなえている常識をAIやロボットに教えるために、例文や単語を150億文覚えさせても「東ロボくん」は正解にたどり着けなかったという。つまりディープラーニングの限界に突き当たったのだ。SIRIと呼ばれる音声認識応答システムがあり、われわれがスマホやタブレットに呼びかけると日本語で応答してくれる音声認識技術と情報検索技術について、論理をあきらめ統計と確率手法をAIに学習させているが、精度は100%に到達できないようだ。翻訳についても劇的に向上しているが、それは「正確さ」ではなく「英語らしさ」の向上で、画像認識でもカメラやマイクが性能向上すると、それを使った「教師データ」のつくり直し作業が必要になるなど、様々な困難さに直面している。

ここで、新井教授はノーベル賞受賞者である朝永振一郎氏の言葉を借りて科学についての見方を提示する。それは、

「言語化し数値化し測定し数理モデル化するということは、つまり『無理に片づける』ことなのです。片づける腕力を持つのと同時に、そこで豊かさが失われる事の痛みを知っている人だけが、一流の科学者や技術者たりうるのだと思います」(157頁)

さらに、もう一つ科学者として肝に銘ずることとして、

「それは、科学を過信せず、科学の限界に謙虚であること」(158頁)であり、ひまわり8号という最新鋭の衛星が誕生しても、未だに正確に津波の予報が出来ていない現実をみて、そうした謙虚さの重要性を指摘されている。やはり人間でしかできない出番がまだまだ沢山あるわけで、それは目出度いことでもあると強調される。おそらくクリスチャンである新井教授の、強調されたい事の重要な視点の一つなのだろうか。

注目したい「全国読解力調査」の結果、多くの子供が教科書を読めない驚くべき現実

問題は、第3章以下の「全国読解力調査」の物語る現実であり、多くの子供たちが教科書を読めない現実についての問題指摘だろう。

新井教授は最大の問題は読解力を基盤とするコミュニケーション能力や理解力であり、日本の中高生の読解力は危機的と言ってよい状況にあり、多くは中学校の教科書の記述を正確に読み取っていない。それは、中高生だけでなく日本人の多くも同じような問題を抱えている事が、全国25,000人が参加して実施された「基礎的読解力調査(Reading Skill Test)」(略称RST)によって明らかにされる。この調査は新井教授が独自に開発されたもので、題材は教科書と新聞から採択され、「係り受け解析」「照応解決」「同義文判定」「推論」「イメージ同定」「具体的同定」を判定する項目としている。特に3項目以降はAIが最も苦手としているものを取り入れている。(詳しくは、184頁以下を参照して欲しい)

私自身も、本の中に出題されている問題に挑戦してみたが、しっかりとよく理解しないと正答にはならず、恥ずかしながら読解力の大切さに思いを新たにした一人である。何と、この調査結果については本邦初公開だとのことである。

読解力こそ、人生を左右する問題でAIに仕事を奪われる危機

「読解力」こそは、人生を左右する問題と指摘する新井教授の指摘は、その通りなのだと思う。大学に入ったものの、問題文の意味が分からない現実こそ解決しなければ、AIのレベルが上がり始めているだけにAIに仕事を奪われかねない危機に陥ろうとしている。
この基礎的読解力と偏差値は相当高い相関関係にあると指摘する。どうしたら読解力をつけられるのか、読書好きか否か、学習習慣のあるなし、得意科目の有無など全く何の関係もないことが解ったという。スマホを使いすぎるとやや低下するぐらいが指摘できるようだ。先進的に埼玉県戸田市では、先生たちが「きちんと教科書が読めるためにはどうしたらよいか」を研究し実践した結果、飛躍的に学力が上昇した事を述べておられる。地味で、ベーシックな事の重要性を指摘する。

数学者の藤原正彦氏が述べた言葉として「一に国語、二に国語、三、四がなくて、五に算数」をあげ、新井教授は「一に読解、二に読解、三、四は遊びで、五に算数」と述べ、「遊び」とは日本の学校が誇る給食当番や掃除当番などの班活動を上げている。

注目すべきは、貧困と読解力の能力値の強いマイナス関係だ

注目すべきは、就学補助率と読解力の能力値との強いマイナスの関係があることであり、結論として「貧困は読解能力値にマイナスの影響を与えて」いる事である。やはり貧困の解消こそが、最も重要な解決すべき課題として指摘されている事を強調しておこう。

ちなみに、読解力テストでよく解かったことを以下9点(既に指摘したことも含まれている)に整理されている。

①中学校を卒業する段階で、約3割が(内容理解を伴わない)表層的な読解も出来ない
②学力中位の高校でも、半数以上が内容理解を要する読解は出来ない
③進学率100%の進学校でも、内容理解を要する読解問題の正答率は50%強程度である。
④読解能力値と進学できる高校の偏差値との相関は極めて高い
⑤読解能力値は中学生の間は平均的には向上する
⑥読解能力値は高校では向上していない
⑦読解能力値と家庭の経済状況には負の相関がある
⑧通塾の有無と読解能力値は無関係
⑨読書の好き嫌い、科目の得意不得意、一日のスマートフォンの利用時間や学習時間などの自己申告結果と基礎的読解力には相関は無い

読解力向上には、精読・深読にヒントがあると示唆されている

かくしてAIと共存していけるためには、中学校を卒業するまでに教科書を読めるようにすることだ、と強調される。求められるのは意味を理解する人材なのであり、アクティブラーニングなんてものは絵に描いた餅でしかない。その為の処方箋は簡単ではないが、新井教授は多読ではなく、精読・深読にヒントがあるのではないか、と予感されている。

企業・社会から求められる人材の質が変化、どこの大学卒ではなくITやAIで代替できない人材へ

次に、経済社会の中でどんなことが起きているのか、注目されている。最初に指摘されるのがAIによってホワイトカラーが分断されている事だ。かつては、どこの大学を卒業したのか、ということが人材獲得の基本だったが、いまでは「もっと使える人材を育成しろ」という企業の声が強くなっている。つまり、ITやAIでは代替できない人材、意味が分かりフレームにとらわれないような柔軟性があり、自ら考えて価値を生み出せるような人材こそが求められている時代なのだ。このような人材には、当然高い報酬が支払われるだろうが、日本では最も知的で、観察眼と才能と忍耐と誠実さが求められる仕事でありながら、現状では十分な対価が支払われていない。理由は、女性だからという例が多いと厳しくジェンダーギャップを批判されている。AIが広がれば、おのずとそのことが明らかになってくると見ておられる。単純労働を中心にした分野は、AIによって代替されていく事は間違いない。まさに、ホワイトカラーが分断されていると診断されている。

AIによって企業存続の危機が多発へ、ブラック化したり僅かな問題が命取りに

さらに、AIによって企業の存亡にも火が付き始めている事を指摘する。経済法則として「一物一価」「情報の非対称性」「需給一致で価格決定」の三つがスピードアップされ、ほんの僅かの無駄なコストが企業にとって命取りになったり、情報の非対称性によって利益を得ていた営業職などが必要性を失うこととなる。そうした中で、人間を酷使したり品質管理を疎かにすることでAIに対抗しようとしてブラック企業化したり、不祥事を起こす企業が多発する。無理して突き進むと日本企業の利潤率は低下し続け、非正規雇用は増え格差は拡大し世帯当たり収入の中央値は下がり続ける。日本を代表する企業が消えて行く。まさに、今の日本経済が直面している事を見事に指摘しているのだ。

新しいマーケット像として、糸井重里氏の「ほぼ日」に光明!?

ただ、こうしたAIが登場した社会でも光明がある、と指摘されるのが糸井重里氏が提起している「ほぼ日」で、「需要が供給を微妙に上回っていて、同じものが他に存在しないである種独占」が起きているというマーケットを想定しておられる。今の社会は、”何の仕事とは言えないが、人間らしい仕事”とのことだが、生活の中で不便なこと、困っている事への対応をすべき時代なのであり、それらは女性に有利に作用すると示唆されている。なかなか微妙なものがあり、まだまだ抽象的な域を出ていないが、ベーシックインカムに対して否定的に見ておられる事は間違いない。その意味では、実に好感が持てる展望ではあるが、今一つ経済・社会の展開は、未だ良く見えないというところだろうか。

ディープラーニングの民主主義に対する危険性を喚起へ

最後に、AIが進めて行く事の中で、ディープラーニングという点について、必ず「教師データ」という基準を人間が作る必要があり、その作り方一つで民主主義に敵対的にもなり得るわけで、私が知らない誰かが勝手に決めている世界であることに強く警戒をしておられる。民主主義にとって、どのようにAIをコントロールして行けるのか、政治の世界にとっても実に大きな課題が待ち受けている事を教えてくれる。

実に多くの事を教えてくれる良著であり、一読をお勧めしたい。


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