2018年4月30日
独言居士の戯言(第44号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
板門店での南北首脳会談、朝鮮半島非核化と朝鮮戦争の終結合意へ
4月27日、板門店で11年ぶりの南北首脳会談は、世界の人々の関心を集める中で開催され、朝鮮半島における完全な非核化とともに、朝鮮戦争の終結に向けた動きを始める事を高らかに内外に宣言した。会談は極めて友好的・融和的なムードが繰り広げられ、共同宣言の中で板門店を「分断の地から平和の地」へと転換したことを強く謳いあげた。もちろん、非核化に向けての具体策は未だ示されておらず、6月初旬にも予定されている米朝会談の行方が注目される。その主役の一人であるアメリカのトランプ大統領は、今回の南北会談を「勇気づけられた」と高く評価し、米朝会談で「非常に良いことが起きるかもしれない」と期待を示したと報ぜられている。上手く米朝合意が進展すれば、北東アジアの平和と安定に大きく前進することになる。
安倍総理、拉致問題を他人任せにせず直接交渉に臨むべきでは
日本の安倍政権には、29日午前に文在寅大統領から電話があり、金正恩委員長との会談で拉致問題にも触れたとのことだが、6月の米朝会談でも拉致問題の解決を依頼するのだろう。考えるべきは、拉致問題解決の前提として北東アジアの平和と安定が必要となるわけで、あまりにも拉致問題だけを突出して頑なな態度を取り続けて行けば、文字通り蚊帳の外に放り出されかねない。今後、自ら北朝鮮に乗り込んで解決に向けた主体的な行動を取るべきであり、他人任せで解決できるほど世界は甘くない。金委員長は、日本との話し合う事に前向きだと文大統領が語ったと言われている。
安倍政権、次から次へと不祥事続き、遂に与党片肺で審議強行
もっとも安倍総理にとっては、森友・加計問題、また防衛相の日報問題と財務省事務次官のセクハラ問題と続き、さらに林芳正文科大臣の公用車私的使用によるヨガ道場通いも発覚するなど、政権の行方に赤信号がともり始めている。そうした厳しい国民世論の不満と怒りが渦巻く中で、野党側が欠席にもかかわらず、予算委員会の集中審議や重要法案と位置づけてきた労働法制法案の本会議質疑も強行するなど、相当乱暴な国会運営に突入し始めてきている。完全に余裕を失い始めて来たようだ。大型連休に入り、それぞれの議員は地元に帰るわけで、国民の根強い安倍政権不信の声を受けて連休明け以降の国会がどのように展開するのか、大いに注目したい。
日銀黒田再任後初の政策決定会合と「展望レポート」公表、2%目標達成時期は削除へ
同じ27日には、黒田総裁が再任されて以降初めて政策決定会合が開かれ、「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」も公表された。この中で注目されたのは、5年前に異次元の金融緩和として2%の物価上昇を2年間で実現すると宣言してきた。ところが実際には6回も延期し続け、今まで「2019年頃」としてきた達成時期について、とうとう今回の「展望レポート」では2%という目標はそのままだが、達成時期は言及されず削除されたようだ。さらに、景気見通しについて「2019年以降は下振れリスクの方が大きい」とやや厳しい見方を取るようになっている。その背景には何があるのか、既に好況が長く続いていて景気循環からすればそろそろ落ち込む事だけなのか、それ以上にトランプ政権が進める保護主義的な政策の行方に懸念をしているのかもしれない。
新しく副総裁になった若田部氏がどのような発言をされたのか定かではないが、達成時期が明示されていればこれまで以上の金融緩和措置を求めるはずであり、リフレ派の今後の言動が気になるところではある。政策決定会合の議事録の公表が待たれる。
異常な金融政策による「高圧経済政策」の強行は、副作用が出始めている
それにしても、消費者物価が生鮮食料費とエネルギー価格を除くと0.5%でしかなく、物価の上昇がなかなか思い通りに行かないのは何故なのだろうか。日銀は、「展望レポート」の中で「労働需給の着実な引き締まりや高水準の企業収益に比べ、企業の賃金・価格設定スタンスはなお慎重だ」と見ている。今年の春闘の賃上げも、3%という安倍政権の目標に対して、連合だけでなく経団連の調査でも2%台半ば程度だったようだ。引き続き、景気が好調で労働市場が完全雇用であっても金融緩和を緩めない、いわゆる「高圧経済政策」を取り続けるようだが、銀行をはじめとする金融機関を中心に副作用も出始めている。そろそろ「2%」という物価目標を目指し続けることで良いのか、政府と日銀が合意した2013年1月の「共同声明」の基本精神に立ち返ってみる必要があるのではないか、という声も上がっている。というのも、2%という数字にそれほどの根拠があるとは言えなくなっているのだ。
もう一度2013年の政府・日銀の合意に立ち戻るべきではないか
それに付け加え、今度の日銀人事で副総裁に就任した雨宮氏が、3月20日の記者会見の中で「政府の財政面で弾力的な対応」を行う事に触れている。その点5年前の「共同声明」にある「政府は、日銀との連携強化にあたり、財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取り組みを着実に推進する」ことを求めていると常識的には理解すべきだと思われるのだが、どうなのだろうか。日銀のプリンスといわれる雨宮氏の発言には、黒田総裁以上に注目が集まっており、引き続き発言には注目して行きたい。
アメリカは、異常な金融緩和の狙いが円安政策になっている事を疑い始めて、
高率関税を外さなかったのでは!?
ところで、アメリカのトランプ政権が鉄鋼とアルミニウム製品の関税を引き上げた際、カナダやEUといった同盟国の多くは適用外になったにもかかわらず、日本がその中に含まれなかった事はやや驚きを以て受け止められてきた。正直、私自身も何故なのだろうか、と訝しがったものの一人である。この点について、今週号(5月1・8日合併号)の『エコノミスト』誌が「ドル沈没」という特集を組んでいる。その中で、トランプ政権のアメリカ・ファーストによる考え方の背景には、日本銀行の異次元の金融緩和という金融政策が、「デフレ脱却」という名目で、実は為替を円安にして貿易黒字を拡大している事を薄々感づき始めているのではないか、という指摘をした論者がいたが、案外そうなのかもしれない。さらに、今回の北朝鮮との和解も、アジアからの撤退の一環で、中国との間で大国同士の分担の話が出来上がっているのではないか、という指摘すら出始めている。
このように考えてくると、朝鮮半島の南北融和もトランプによる覇権国家からの撤退という世界戦略の大きな流れの一環であり、アジアは中国主導で統治が進められるようとしているのかもしれない。こうした歴史的な見方が必要になってくる時代なのかもしれない。日本の外交戦略が問われている。
ふるさと納税、大都市自治体は悲鳴を上げ始めている
話は変わるが「ふるさと納税」が始まって丁度10年になるという。今の菅官房長官が総務大臣時代に発案し実施されたもので、詳しい仕組みは別にして「納税者が住んでいる自治体以外に寄付をすると、寄付金から2千円を引いた金額が、所得税や住民税から控除される制度」である。「ふるさと」というからには自分が過去住んでいた自治体への寄附だけかと思っていたら、どこでも良いとのことだ。寄付を受けた自治体は、その返礼として、その街の特産物だけでなく、電化製品や商品券など高額な返礼品の競争になってしまい。事実上高額所得者の返礼品獲得という税運用に近いものになりつつある。
このような「ふるさと納税」に対して、総務省内で批判的な声が上がったのだが、そうした批判を展開した役人が左遷され、総務省内では誰も真正面から批判する者がいなくなってしまったようだ。
この被害を受けるのは、高額所得者が多い大都市自治体であり、とりわけ東京都の23区は悲鳴を上げ始めている。4月23日付の朝日新聞によると、23区の今年度の減収見込み額は約312億円に達する見込みという。世田谷区では約40億円、大田区が約30億円と巨額に達しており、各区長さんたちからは「税の簒奪」との声が上がるなど、焦りや怒りの色を隠せなくなっている。納税の上限額を引き下げるなど、寄付金制度の改正を求める動きとともに、背に腹は代えられないとして返戻品競争に参加する区なども出始めている。
事態は東京都下の23区や市町村だけでなく、神奈川県の都市で188億円、大阪府は151億円(いずれも17年度)と大都市部での減収が多い。だが、大半の自治体では減収額の75%が国からの財政補填されるのだが、東京23区は不交付団体の故に国の補填は無い。それだけに、23区の悩みは深刻である。
寄付金文化を広めたという評価は当たっていない、高額納税者の返礼品目当ての税運用こそ本質だ
寄付金文化を広めた、という評価をする人もいるが、どう考えても税制度の堕落に思えてならない。さすがに総務省も弊害を認め、今年も昨年に引き続き4月1日各都道府県知事あてに「ふるさと納税にかかる返礼品の送付等について」と題する通達を発している。そこでは、返礼品の送付について「責任と良識のある対応」をお願いする、としているものの、どうやら守らない自治体が多く存在しているようだ。特に、返礼品が寄付額の3割を超すものを出さないよう要請しているが、罰則があるわけでもなく、その徹底はかなり困難なものになっているようだ。菅官房長官の睨みが効いている限り、この制度の弊害は無くならないのだろうか、実に困ったものだ。