2018年5月28日
独言居士の戯言(第48号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
混迷する米朝首脳会談の行方、核廃棄問題がデッドロックか?!
米朝関係の動きが水面下も含め激しく展開していて、何がどのように動いているのかよく解からない、というのが偽らざるところである。6月12日、シンガポールでの史上初の米朝首脳会談の中止をトランプ陣営が発表したのが5月24日、その数時間前には北朝鮮の核開発実験場の爆破が実施された直後であった。それでも、トランプ大統領は引き続き金正恩委員長との会談を求め続けていたり、他方北朝鮮側も引き続いての会談を望んでいる旨の談話を発表するなど、再び12日のシンガポール階段を開催する可能性すら浮かび上がっているようだ。
とは言え、一度「延期」を表明した事の重大性は大きく、今後の米朝関係だけでなく、北東アジアの安全保障環境がどのように変化して行くのか、注意深く見て行く以外になさそうだ。そう考えていた26日午後、予告なしに文大統領と金委員長が板門店での首脳会談を行うなど、慌ただしい動きが相次いでいる。中国も巻き込んでの、北朝鮮お得意の「崖っぷち外交」が実践されているのかもしれない。ただ、米朝首脳会談中止となれば、北朝鮮にとっても相当苦しい立場に追い込まれるだけに、金正恩委員長にとっては正念場と見ているのだろう。トランプ大統領も商売人として駆け引きに長けていると言われるだけに、まだまだ6月12日に向けて、最終場面には色々と動きがありそうだ。
それにしても、何が原因で米朝首脳会談が「延期」されるようになったのだろうか。色々と巷にあふれている情報を読み込んでみると、結局のところ「核」の問題に行き着くようだ。アメリカの要求する「完全かつ検証可能、不可逆的な非核化」について、すぐにそれを同意するわけにはいかない北朝鮮側の事情があるようで、リビアのカダフィ大佐同様に、金体制が崩壊させられる危険性も考慮したのかもしれない。もっとも、この会談が中止される事で、今後の北朝鮮とアメリカの軍事的衝突も懸念されるわけで、北朝鮮としても米朝対話の道を閉ざすことは得策とは見ていないのかもしれない。
拉致問題も打開できず、安倍外交は見るべき成果に乏しい
何はともあれ、この間の米朝関係の動きに「蚊帳の外状態」だった安倍総理にとって、「そんなに簡単にはうまく事は進まないはずだ」と滞在先のモスクワでほくそ笑んでいたのかもしれない。拉致問題が一向に解決に向けて動けないだけに、安倍外交も手詰まりにあることは間違いないし、今滞在しているロシアとの関係も、北方領土問題返還の展望が良く見えないまま時間ばかりが経過する日々が空しく続いている。関係者の方々は、どんな思いでおられるのだろうか。外交においてもなかなか展望の開けない安倍政権には、そろそろ国民から飽きが出始めているようだ。いや、森友・加計問題など、自らが抱え込んだ大失態によって、政権喪失の危機が一段と浮かび上がっている。
安倍総理、国会での虚偽答弁は明白、もはや退陣しか道は無い
その国内に目を向けてみると、相変わらずも森友・加計問題など次から次へと事態が進展し、どうみても「安倍総理が嘘をついているのではないか」と思われる事実が、関係する地方自治体の資料から浮かび上がってきている。中村愛媛県知事側から、参議院の予算委員会の求めに応じて提出した官邸での柳瀬元総理秘書官の発言記録を読む限り、2015年2月15日には安倍総理が加計理事長と会って、獣医学部新設に向けた話し合いをしたことは間違いなく、2017年1月20日の国家戦略特区で決定するまでは全く知らなかった、という発言は嘘だったと国民誰しもが思い始めている。
なによりも、総理との会談をした官邸への入出記録は破棄されているから確認しようがない、という事しか弁明できないでいる。周知のように、官邸にはマスコミ関係者が知らないで入れる抜け道もあるわけで、いくら「会った記録が無い、記憶が無い」と言っても信用されるはずがない。もともと愛媛県関係者が作った出張の復命書に、わざわざ嘘を書く必要性が全くないわけで、安倍総理の虚偽発言は100%間違いないと見ていい。報道によれば、管今治市長も安倍総理と加計学園理事長との会談があつたことに言及されたが、中村知事とは異なり、何とも歯切れが悪い受け答えしかしていないようだ。
ところが、26日になって加計学園側は、当時の担当者の記憶によれば県や市に間違った情報を与えてしまったというコメントを公表し、総理と加計孝太郎理事長との会談を否定し始めている。こうなると、言った・言わないの水掛け論に持ち込もうとしているのだろうが、余りにも姑息なやり方で乗り切ろうとしていることは明らかだろう。
ここは、国会での参考人として加計理事長だけでなく、中村愛媛県知事にも出席していただき、真相を明らかにして欲しい。
加計問題と森友問題、政権を揺るがし始めた現実は隠せない
さらに、森友学園の財務省内に残っていた交渉記録が公表され、明恵夫人付きの谷秘書官が、財務省側との間で森友学園側の立場に立った「要請」をしている事実が出ている。膨大な交渉記録から更に何が出てくるのか、関係者の参考人招致を求め、国会での真相解明と政治的責任を求めて行く必要がある。時あたかも、籠池夫妻が10か月間の勾留が解かれ保釈され、モノが言える立場になったわけで、森友問題の真相解明も同時並行的に進められるべきことは言うまでもない。
もはや、安倍総理の退陣はどう見ても避けられそうになく、今年の秋の自民党総裁選挙での3選は有りえない、と見ている。万が一3選になったとしたら、来年の統一自治体選挙や参議院選挙での敗退は十分にあり得るわけで、政局の潮目が変わることになるだろう。肝心なのは内閣支持率と自民党支持率の動きであり、総理の嘘つき発言が覆らない限り落ち込んでいくに違いない。一刻も早い安倍総理の退陣こそが、今求められていることだと思う。個人的には、自民党が大きく変わるためには、思い切って小泉進次郎筆頭副幹事長あたりが中心になって政権を担えば面白くなるのではないか、と思ったりする。それは、未だ「白日夢」なのかもしれない。
高齢社会に向け、公的年金への的確な指摘をする記事が増えてきた
最近、将来の公的年金に関する正しい考え方が、マスコミによって広く啓蒙され始めてきている。かつては、公的年金に入っても掛金よりも需給総額の方が少なく損をするとか、逆に基礎年金7万円を全額税方式で明日にでも実現できる、といった間違った暴論がマスコミによって拡散されていた時代からすれば、実にうれしい限りではある。
その具体的な報道が日本経済新聞27日の2面に「公的年金少しでも増やす」「厚生年金加入や需給繰り下げ」「『人生100年』備え広がる」と言った見出しを付けて大きく取り上げられている。一つは、パート労働者など短時間労働者の厚生年金加入の促進で、2年前の法改正で週30時間以上勤務から20時間以上勤務で厚生年金に加入できるようになつた。当初の予想では25万人ぐらいと予想されていたのだが、蓋を開けてみると1.5倍の37万人が加入の道を選択した。それだけ、将来の年金に対する国民の関心が高く、厚生年金に加入したい短時間労働者が多くいる事を示している。当初は企業側が、保険料負担が増えるため抵抗するのではないか、と思われていたが、従業員を確保するためにも必要だと判断しているようだ。それだけ人手不足が深刻な事もあるのだろうか。
短時間労働者の厚生年金への転換が増えることの重要性
国民年金から厚生年金に転換する事によって、転換した人は将来受け取る年金額が確実に増大する。方働き専業主婦(夫)世帯というかつての高度成長時代モデルから、共稼ぎ世帯へと大きく転換した今日にはこうした選択は当然の事だろう。まして、将来の年金がマクロ経済スライドによって、国民年金が3割減にまで低下する事が組み込まれているだけに、厚生年金の報酬比例部分が加わることによる年金水準の引き上げは、老後生活の安定にとって極めて大きい役割を果たす。この紙面では十分指摘されていなかったが、国民年金から厚生年金に転換する事によって、国民年金の保有している積立金(約11兆円)を、少なくなった年金受給者で分配するため、国民年金支給水準を3割まで下げなくて済むと言う効果も出てくるのだ。実にすばらしい改革が進められつつあることを、もっと積極的にアッピールして欲しいものだ。
70歳までの繰下げ受給の奨励、75歳までの繰下げ可能へ改正を
さらに、最近では65歳から年金を受給するのではなく、もっと受給開始年齢を繰り下げて70歳から受給すれば、1か月0.7%、1年で8.4%、5年間で42%増加する事を利用して70歳までの繰り下げ受給を奨励するコラムが増えてきている。65歳から70歳までの雇用延長があればよいのだが、私的年金を65歳から70歳まで活用するアイディアも提唱されていたりする。さらに、70歳ではなく75歳まで繰り下げ受給を選択できる道を求める意見すら出始めている。是非とも実現して欲しいものだ。
言うまでもなく公的年金は、65歳からではなく60歳から受給できるし、繰り上げ受給する人の方が繰り下げ受給する人より多いのが現実だ。だが繰り上げすれば減額されてしまうだけに、よくこの制度の現実を理解して繰り下げを選択する人が増えることを期待したい。そのために、例えば日経紙が指摘しているIDECOといつた税制上有利な個人資産形成にも、力を入れて行く必要があろう。
要は、年金制度への信頼を高め、若い世代に公的年金の重要性を訴えていく事が不可欠であり、高齢社会を乗り切るための制度改革を強化して欲しい。
株式譲渡益が増えている現実、もっと税率を引き上げるべきでは
年金から税へと話は変わるのだが、財務省の2017年分所得税の内、株式譲渡益課税額の情報が報道されていた。昨年1年間、株式市場が日経平均で昨年2割近く上昇したことを受け、譲渡益が3兆5732億円にも達し前年比36.7%も増加したようだ。本来総合課税であれば、地方税も含めて55%の最高税率に達する人たちが多くいたはずだが、一律20%の分離課税であり、かなり高額所得者優遇税制になっている事は間違いない。アベノミクスで一番ご利益を受けたのがこの方たちだったわけで、分離課税にするなら、20%ではなく、30%にしてもおかしくない。
現に、所得1億円程度の実効税率が30%弱程度でピークに達し、それ以上の所得があっても株式譲渡益所得が増えるため20%に収斂するように実効税率が低下しているのだ。汗水たらした労働所得よりも、濡れ手に粟と言ってよい株式譲渡益所得の方が有利になるのはどう見ても不公平であり、少なくとも、実効税率が30%程度で横ばいになっても当然だと思われる。ましてや、日銀によるETFの買い入れや、公的年金積立金による株式買い入れも増額されており、そうした介入による株価の買い支えの御利益という側面もあることを忘れてはなるまい。
仮想通貨の売却益、1億円超(通称おくりびと)が331人もいた現実
さらに、今回ビットコインに代表される仮想通貨の売買によって、1億円以上の利益があった通称「億利人(おくりびと)」と言われる方は331人いたようだ。この方たちは、雑所得なので株の譲渡益ほど税制上のメリットはないが、それでも大変な金額ではある。異次元の金融緩和による「バブル」にちかい金融所得への課税の強化は、しっかりと進めて行くべき課題だと思う。