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労福協 活動レポート

2018年6月6日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第49号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

米朝首脳会談開催へ、どんな展開が待ち受けているのだろうか

ようやく米朝首脳会談が、予定通り12日シンガポールで開催されるようだ。一度は開催が危ぶまれたのだが、どういう細かい経過があったのかは知るべくもないが、トランプ大統領の最新の発言から推測するに、朝鮮半島の核廃絶に関しての時間軸が定まらないようだ。それゆえ、1回だけで合意に達することはなく、何回か継続して進めて行く事を示唆している。アメリカのトランプ大統領にとっても、北朝鮮の金正恩委員長にしても、首脳会談が実施できない事によるダメージが大きいと判断しているのだろうか。金正恩委員長とロシアのラブロフ外務大臣との会談が実施され、ロシアも中国と同じく北朝鮮の方針である段階的な核廃絶を支持することで一致したことを、5月31日明らかにしている。

こうして考える時、日本は一体どんな立ち位置を占めているのだろうか。アメリカのトランプの陰で、ひたすら「圧力」をかけ続けていく事だけを主張し、時にトランプ大統領が「中止」と言えばそれを支持し、再び会談を実施すると言えば、それを再び「支持」するわけで、何の主体性もなく米韓朝中露の進める外交の荒波を漂い続けているにすぎないようだ。12日の首脳会談の直前にも安倍総理とトランプ大統領の会談が急遽実現するようだが、トランプ大統領に対して拉致問題の解決だけを依頼するのだろうか。これからの日米の通商交渉を始め、多くの無理難題を押し付けられることになる危険性が心配ではある。

森友・加計問題で追い詰められた安倍政権にとって、外交による得点を挙げることが政権維持にとって不可欠なだけに、水面下での交渉が気になるところではある。それにしても、加計学園の事務局長の言動にはあきれてものが言えない。嘘をつき始めると、そのウソが関係者の過去の発言と一致しなくなり、再び嘘をつき続ける以外になくなるわけで、ものの見事にそれを地で行っているようだ。

人口減少社会が加速化し始めた日本、その与える影響が気になる

さて、少子高齢社会の進展が加速化し始めたことを、各種政府統計が明らかにしてくれている。日本の少子化は、2017年の合計特殊出生率が1.43と前年の1.44から僅かに減ったのだが、出生者数は94万6,060人と前年を3万人も下回り、最少を更新している。死者の数が134万0433人で、人口数は39万4,373人減少している。第二次ベビーブーマーの世代が40代後半となり、出産がピークアウトし出生者数が減少し始めるわけで、これからの日本の人口は急ピッチで減り始めることは確実だ。

出生率が一番低いのは東京都で1.21、次いで私の住んでいる北海道が第2位で1.29となっている。大都市圏での出生率が低いのは女性の就業率が高い事や、共稼ぎ世帯の劣悪な子育て環境にあること等で理解は出来るのだが、何故北海道が低いのか良く理解できないでいる。逆に南の沖縄県が最も高く1.94、次いで宮崎県の1.73となっている。このままいけば、確実に1億人の人口は維持できないわけで、経済や社会保障にも大きな影響を与えることは間違いない。

「2040年度の社会保障費予測190兆円、今年度の1.6倍」
報道を正しく論じた東洋経済オンライン野村明弘記者の記事に注目

そうした中で、5月21日政府が「2040を見据えた社会保障の将来見通し」を発表した。その中から、「2040年度の社会保障費190兆円、今年度の1.6倍」という数字が新聞各紙に大きく取り上げられていた。前回の見通しは2012年に出され、2025年度までだったわけで、2040年までの見通しを初めて明らかにした。人口減少社会は、当然のことながら高齢化率が増えて行くわけで、医療費が1.6倍に高騰も当たり前と言えば当たり前の事なのだ。ただ、新聞報道ではセンセーショナルに数値が躍っているのだが、どんな経済状態が前提になっているのか明らかにしていなければ、本当の実態は明らかにはならない。この点について、実に明快に説明してくれた解説が東洋経済オンライン6月1日に掲載されている。題して「『社会保障費が2040年に1.6倍』は本当なのか?」、執筆者は野村明弘記者である。

社会保障費将来予測は金額ではなく、GDP比で見なければダメ

今回試算のベースラインケースは、名目GDP成長率が2018~27年度までは年率1%台後半~2%台半ば、2028年度以降は年率1.3%というもので、その結果としてGDP総額は2018年度見込み564.3兆円から2040年度には790.6兆円と1.4倍になる前提になっている。つまり、私たちの所得がそのままで、社会保障費負担が1.6倍になるのではない。私たちの所得が1.4倍になる中での1.6倍なのだ。つまり、社会保障費の名目額の伸びを考えるのではなく、対GDP比での比率で比較しなければ本当の実態は示されない。

ちなみに、社会保障費の対GDP比は、2018年度は21.5%で2040年度には23.8~24%になる見通しであり、GDP比で2.3~2.5%の違いで、倍率にして1.11倍程度の増加でしかない。今後の22年間の75歳以上人口が1.37倍増える事を考えた時、医療・介護費用が急増する世代の伸びよりも低い1.11倍程度に抑えていきたいという事を示している。

これからの社会保障費の伸びは、過去15年よりマイルドだ
問題は、日本の税・社会保険料負担の低さこそ改革を

この点について、野村記者は次のように指摘する。

「単価の伸びの影響は、対GDP比では無視してよい。そのため、対GDP比の意味するところは、数量的な経済活動の規模でもある。つまり、わが国経済の数量的規模の中で社会保障の占める割合は2018年度に21.5%だったが、それが2040年度には24%程度になるという事だ。こうした対GDP比での社会保障費の推移をみると、2000~2015年度では、14.8%から21.6%と6.8%ポイントの上昇を示していた。これは倍率にして1.46倍だ。2018~2040年度の社会保障費の増加は、実は2000~2015年度よりもマイルドな見通しだということがわかる」

さらに、この対GDP比24%前後の社会保障費は、ヨーロッパの国々の2013年度の数値よりもGDP比で低いことを示しており、高齢化率が高い日本よりも社会保障費の負担増という点では欧州が先を言っており、日本が未到の領域に達しているわけではない事も指摘している。日本の税や社会保険料の対GDP比が欧州よりも低く、そのため財政赤字が山積しているわけだ。それだけに、社会保障の効率化だけでなく、税や社会保険料の負担増も検討して行く必要があること、むやみに恐怖感を持たないで冷静に数値を吟味する事を促している。実に冷静な分析であり、多くの国民にしっかりと理解して欲しい。

朝日新聞3日付、大日向寛文記者の記事は誤解を招きかねない

これとは逆に、実に残念な新聞記事が事もあろうに朝日新聞の1面と4面に大きく掲載されている。1面は4面のリード記事で、4面の大部分を使って全面展開されている。記者は大日向寛文氏である。

この記事は、「平成経済 第4部 老いる国 縮む社会」の第1回目の特集記事であり、少子高齢化が進んで人口減に転じた日本経済にとって、今後の課題は何かを探ることを目指している。その見出しだけを記載すると、「膨らむ負担 冷え込む消費」「人口減 変わる家計の姿」「消費税増税 増す重税感」とある。この見出しだけを読んだだけでも、大変グルーミーな気持ちになってしまい、日本の将来に対して絶望的になってしまいそうになる。

現に、この記事の最後には、若い世代が節約志向になって貯蓄を増やす動きを取り上げ、その一例として「富女子会」という20代中心の女性で1,000万円の貯蓄を目指す目的の会をとりあげ、会員の声として「年金はもらえないと覚悟しています」と述べて、1,000万円を貯めたら不動産投資して老後も自力で収入を得られるようにしたい、という声まで紹介している。年金をはじめとする社会保障は、社会全体で支えあっていかなければならないにもかかわらず、自助努力で以て対応して行こうとする今の風潮に対して批判的な視点が弱く、むしろ助長してしまいかねない記事になっている。

こうした問題にどのように展開されていくのか、この記事だけで批判するのは適当ではないのかもしれない。次回は1週間後の6月10日だと予告されているので、引き続きしっかりとウオッチしていきたいと思う。

1988年と2017年の2人以上勤労世帯の家計調査データで比較、
手取り収入は増えているのに、消費が減っている事実

さて、外形的な批判だけではなく、中身について少し触れておきたい。この記事の前提として、平成30年間で働く人がいる2人以上の世帯の月平均の実額(名目)を1988年と2017年で比較したもので、朝日新聞社の依頼で大和総研の是枝俊悟研究員が政府の家計調査を基本として試算されている。

先ず、1988年と2017年の税負担について、この間収入は月額5万2570円増えたのに、税負担額は7,859円しか増えていない。ただ、消費税額は月額1万9711円増えたのに、所得税や住民税は逆に月額1612円減っている。消費税の増税と共に所得税・住民税減税の効果が表れている。

税以上に負担が増えたのが、年金や医療などの社会保険料で、17年は月額5万6869円で88年よりも2万5946円(84%)増えている。社会保険料が値上げされたからだ。かくして、17年の税と社会保険料の合計は月額12万6966円、収入額53万3820円に占める割合は26%と88年に比較して5%上昇している。

問題は、手取り収入が増えていながら消費が減っていることだと指摘する。88年の消費支出28万9057円から17年の28万5439円へと実額で3,618円、それに物価上昇率が1割を考えると消費は実質的に1割強減ったことになる。

こうして「家計に負担増を強いた国も借金が増えた」のに、ただ一人企業部門だけは、現金を過去最高水準の211兆円と88年度末より4割以上増やしていることを指摘し、「法人税率が42%から23.2%に引き下げられたこともあり、平成に生まれた富が企業に流れ込む構図になっている」と指摘している。

税・社会保険料負担の伸び率、高所得層より低所得層の方が高い
所得再分配機能の低さが問題と指摘するのだが

こうした事実とともに、大日向記者は88年から17年にかけて、税と社会保険料の負担割合が年収を5分位に分けた一番高い層で3.7%しか増えていないのに、一番低い層では7.8%も増えていることを指摘し、所得税・住民税といった累進度の高い税を減税し、逆進性がある消費税の引き上げに求めてきたことに原因を求めておられる。さらに、日本の所得再分配機能はOECD32か国中29位でアメリカよりも低く、フランスの半分以下でしかない、と強調されている。

税による再分配よりも、社会保障による再分配効果が高い現実

そのこと自体は事実であるが、日本の所得再分配機能の中身を見てみると、一次分配での所得の格差は2008年度のジニ係数で0.5318だったものが、再分配後の格差は0.3758となり、再分配による改善度は29.3であった。その内訳は、「社会保障による改善度」26.6に対して、「税による改善度」3.7でしかなかったのだ。しかも、社会保障の改善度は、1996年度の15.2から2008年度の26.6へと大きく向上しているのに対して、「税による改善度」は殆ど向上していない。

社会保障の必要財源は10兆円単位、所得税よりも消費税による税収増が必要になる

何が言いたいのか、所得税の累進制による再分配機能の強化を求めるべきだ、という考え方は確かに重要な指摘だが、今、累進度を更に高めたとしても、それによる税収増は大きなものではなく、むしろ課税最低限の引き下げによる中低所得者層から所得税を引き上げなければ、社会保障に必要な10兆円単位の税収増は期待できなくなっている。消費税の引き上げは、確かに高額所得層の方達の消費性向が低所得層のそれよりも低いが故に、所得総額に対する消費税額の負担率では低くなるが、消費税額では高額負担層の方が多く負担する事は間違いない。それだけに、これから必要な社会保障の財源(この中には、国債発行によって先行して社会保障給付に充てている分も含む)は、10兆円単位の金額が必要になるわけで、それを賄えるのは社会保険料と共に税で言えば消費税しかない。われわれは、冷厳な事実としてそれを受け容れなければならないのだ。

もう一度、2012年の三党合意の考え方に戻るべきではないか

考えてみれば、必要な財源を税で以て賄おうとすれば、国民に負担増を求めるしかないし、それが社会保障や教育費となって国民のユニバーサルな給付として還元されるし、何よりも低所得階層にとっては負担以上にサービスが享受できることを、しっかりと国民に訴えて行く必要こそあるのではないだろうか。それを進めてきた「2012年の三党合意」を利用して、消費税率の引き上げを延期したり、別の道に流用して国民の支持を獲得してきた安倍政権のやり方に、厳しく対峙していく事こそ今必要になっているのだと思う。

今回の朝日の大日向記者の指摘には、所得税の累進制による再分配効果の発揮への期待が強く出過ぎるとともに、消費税の税収を社会保障支出に振り向けることによる再分配効果をしっかりと見ていないわけで、やや一面的な指摘になっているようだ。次の記事を期待したい。


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