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労福協 活動レポート

2018年7月23日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第55号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

先週、不肖小生が会長をしている「全中連」の会合があり、上京した。35度を超す猛暑日の最中、公共交通機関に乗り継ぐ間の熱さにはうんざりさせられた。とはいえ、室内での冷房が室外へエネルギーとなって発散し都市のヒートアイランド化を招いていることもあり、真夏の出張は体に応える。それでも、月内にはもう一度上京しなければならないようだ。熱中症が広がっているようで、読者の皆様にも是非とも自衛措置を強化して欲しい。

トランプによる「貿易戦争」、世界経済への悪影響の行方に懸念

さて、アメリカのトランプ大統領の言動が、様々なところで問題を惹起していて、世界の政治・経済に大きな影響を与え続けている。そんな中で、貿易戦争とでもいうべき関税の引き上げが、世界経済に暗雲を投げかけ始めようとしている。双日研究所の吉崎達彦所長が出しておられる『溜池通信』7月20日号によれば、7月16日にIMFが発信したWEO(世界経済見通し)で、今後の世界経済は拡大基調から悪くなる国・地域が出始めたと報じている。ユーロ圏と日本、そしてインドとブラジルが、今年の経済成長率見通しが下方修正されている。ちなみに、日本は2018年の見通しが0.2ポイント下がり1.0%になると見ている。恐らく、これからの世界経済の拡大基調はそう長く続かないと判断したようだ。

肝腎のアメリカだが、好調な経済は失業率が4%前後まで低下しているのに、賃金も物価も上がらないという「適温経済」が続いている。成長率も3%前後の成長が続いている中で、FRBは今年3月と6月に利上げを実施し、今後の市場の利上げ見通しは、これまで多かった「年3回説」から「年4回説」が増え始めている。金利は、やがて3%近くにまで引き上げられると見ていいのだろう。さらに、FRBのバランスシートも量的緩和から量的引き締めに向かい始めており、日銀の金融政策とは好対照になりつつある。これが本来の正常な金融政策であるべきだ。

FRBの金融政策への言及、やってはいけないトランプ大統領

ところがトランプ大統領は、自らが任命したパウエルFRB議長の金融政策に対して「横やり」を入れ、金利をもっと下げ、ドル安政策にするようテレビのインタビューなどで発言している。金融政策への大統領の介入は望ましくない事は明確であり、アメリカ国内だけでなく海外の批判も出ているのは当然の事だろう。安倍総理も2012年の総選挙で、次の総理大臣が確実に予想される中で、日銀の金融政策に大きく介入する発言を繰り広げてきたが、さすがに首相就任後は露骨な口先介入は無くなったものの、人事を通じてリフレ政策を展開してきている。

トランプ氏が発言したテレビインタビューの中で、「我々の通貨は上昇している。それはわれわれを不利な状況に置いている」と最近のドル高に不満を述べ、ツイッターでも「中国や欧州や他の国が通貨と金利を低く誘導している」と批判を展開している。もちろん、日本の異次元の金融緩和政策にも疑いの目を向けていることは、日本の当局も周知のことだろう。

この発言が金融の不安定さをもたらし、世界経済にブレーキをかけ始めることは十分に予測されるわけで、トランプ発言への内外からの批判が高まってきている。

IMFの「貿易戦争」サーベイランス、投資に対するリスク増大が最大の懸念、結局はアメリカ国民が最大の被害者に

こうした状況で進められている米国と中国を中心にした貿易戦争は、世界の経済大国1位と2位との激突であり、かつて日本とアメリカが衝突した際にはWTOへの提訴程度だった。ところが、今回は双方の追加関税という激しい「正面衝突」となっているわけで、その影響がどうなるのか、IMFが今月20~22日にブエノスアイレスで開催されるG20に向けた参考資料として「貿易戦争によるグローバルなインパクト」と題するサーべイランスを公表している。

先ほどの「溜池通信」から内容の一部を引用させてもらおう。以下、4つのシナリオであり、過去とこれからの関税引き上げの動きを知るのには便利である。

「1.Adopted Tariffs(既に実行済みの関税)→鉄鋼(25%)+アルミ(10%),対中追加関税500億ドル(25%),中国からの報復関税(25%)など
2.Additional Tariff(今後追加される関税)→対中輸入2000億ドル(10%)、中国による同規模の報復関税
3.Car Tariff(自動車輸入関税)→米国が全自動車輸入に25%+各国の報復 関税
4.Confidens Shock(信用危機)→貿易戦争がグローバルなショックを与え、投資に対するリスクプレミアムを引き上げてしまうというシナリオ」(4ページより)

この、サーベイランスの内、最後の金融危機の世界経済に与える影響が大きいが、関税の引き下げ事態はそれほどでもなく、実はアメリカが最大の被害を受けることになると見ている。果たして、これが迷走するトランプの仕掛ける貿易戦争にどのような効果があるのか疑問だが、一つの試算として頭に入れておくべきだろう。

今月末の日米通商協議、既に安倍総理は防衛費増額で交渉済み(?!)

問題は、今月末にも予定されている日米通商協議ことFFR (Free/Fair/Reciprocal)の行方である。日米の貿易収支だけを見ると、日本の対米輸出は2017年実績で15.1兆円であり、アメリカからの輸入は8.1兆円で、差し引き約7兆円の黒字である。だが、問題が大きい車の場合、アメリカ現地で生産される日本製の輸入額も大きく、そうした日系企業からの輸入額は約8.3兆円で、日米貿易は米国側の黒字と言えない事もないわけだ。

そうした事実関係の問題以上に、自由貿易の重要性を強く主張して行くべき立場なのだが、どうもそれが怪しそうだ。

というのも、先月6月7日、ホワイトハウスで急遽会談した安倍総理は、トランプ氏側からの何十億ドルもの防衛装備品の購入を約束させられたのではないか、と噂されている。その見返りとして、自動車に対する関税適用を免れるという交渉があったのでは、というものである。真偽のほどは解らないのだが、来年度の予算編成で、その他の予算に対する厳しいシーリングをよそに、防衛予算増強だけは増え続けている事が何よりの証左なのだろう。

今後、安倍総理の下で「中期防」や防衛費の行方に注目すべきだ

すでに、安倍総理の実質的な特使として甘利元経産大臣が密かに訪米した(経団連のメンバーを率いて)との話も伝わってきており、今月末の日米通商協議(日本側は茂木内閣府特命担当大臣とアメリカ側からはライトハウザーUSTR代表)の行方に注目したい。さらに、今秋には「中期防」の策定も公表されるわけで、トランプがNATO各国に要求しているGDP比2%までの防衛予算の増強が、日本に対しても同じように強く求められてくる可能性が大きい。トランプ政権の下での日米同盟の今後はどうなっていくのか、これまた目を離す事の出来ない大問題になりそうだ。

横路元衆議院議長の北海道新聞連載中のインタビュー記事、「沖縄密約」問題について

そうした今現在の日米関係の動きから大きく遡る話だが、興味深い連載記事が私の住んでいる北海道新聞の夕刊に「私のなかの歴史」欄で掲載され続けている。横路孝弘元衆議院議長の「民主リベラルの旗の下で」で、未だ連載は継続中である。私自身、社会党から民主党へと同じ政党を歩んできた方であり、最初の選挙以来多くのご支援をいただいてきた。それだけに、この連載には注目もしてきた。

西山記者から拒まれた資料が、ある日突然入手へ、誰から?何故?

その中で、7月19日(木)の夕刊に「沖縄密約 電文を入手 政府に衝撃」と題して、歴史的に有名な「沖縄密約問題」を述べておられる。これまであまり話したことが無い、と断りを入れられているだけに、多くの方々にとっても注目の歴史証言と言えよう。時は1971年、毎日新聞の西山太吉記者がスクープした記事を読まれ、西山記者に会い資料は渡されることなく口頭で話を聞き、それを基に12月7日衆議院の沖縄返還協定連合審査会で初めて密約を取り上げ質問された。だが、「事実はない」と否定され、残念ながら追求しきれない。ところが「72年3月、ある人が『自由に使ってください』と極秘電報のコピーを持ってきてくれ・・・」社会党内に設置されていた「沖縄問題プロジェクトチーム」(横路氏のほか、楢崎弥之助、田英男、上原康助、上田哲)に報告し、楢崎議員の下で扱いを検討するもなかなか結論が出なかったが、質問する事になったようだ。以下の経過は、歴史的に重要なので、原文をそのまま引用したい。

3月27日の衆院予算委でコピーを手に質問すると、佐藤首相。福田外相の顔色が変わりました。終了後、吉野文六外務省アメリカ局長が『コピーを見せて欲しい』と駆け寄ってきますが断ります。その夜、チームで協議し『資料が本物だと明らかにし、佐藤内閣を打倒しよう』と全員で決断。翌28日にコピーを公表すると、『記録もメモもない』と強弁していた政府が初めて電文の存在を認めたのです。
ところが数日後、外務省の女性事務官が情報を流したと名乗り出て、びっくりします。情報源が女性とは思ってもみませんでした。4月4日、女性と西山さんが国家公務員法違反容疑で逮捕されました。私にもメンバーらも非常に残念なことで、結果責任を感じています。同時に権力の怖さを痛感しました。(以下略)」(ゴチックは引用者)

横路元議長は、結果責任を新聞紙上で明確にされたわけで、政治家としてまことに潔い事だと言えよう。この「密約」は、やがて吉野文六氏もその存在を認め、アメリカの国立公文書館から資料が出て、存在が明確になっている事も言及されている。

西山記者や外務省女性事務官逮捕に責任を痛感、権力の怖さも言及

ただ、1972年3月「自由に使ってください」と極秘電文のコピーを手渡してくれた方が誰なのか、何の目的で持ち込まれたのかも,ここでは明確にされていない。西山太吉記者に、それを公開する事の是非についても確かめられたかどうかも指摘されていない。「権力の怖さ」を痛感されたとだけあり、コピーが権力側によってもたらされた可能性があったのだろうか。一番知りたいところが、この記事でも明確になっていないのは残念である。

もっとも、そのことを今の段階で明確にするには、関係者に迷惑がかかるからだろうか。歴史の真実を語るには、まだ早すぎると判断されているのかもしれない。また、別の機会にお聞きしてみたい点ではある。


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