2018年8月16日
独言居士の戯言(第58号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
8月に入って、北海道の札幌はようやく暑さの峠を越えたようだ。例年、お盆が過ぎると、やや肌寒くなり秋が近付いてきたと感ぜられるようになるのだが、最近は季節感が少しずつ変化しているようだ。地球温暖化がどのように進み始めているのか、とにかく異変が起きやすくなっている事は確かだろう。まだまだ猛暑に見舞われている本州の皆様には、やはり「暑さ寒さも彼岸まで」という感覚だろうか。
「ふるさと納税」による減収自治体、大都市からの流出が増加
さて、今日からお盆に入り、夏休みに入ったこともあり、故郷で多くの日本人が墓参りに出向いておられる事だろう。そうした中で、気になるのが「ふるさと納税」である。北海道新聞8月10日付の一面トップ記事が「ふるさと納税『赤字』」「昨年度 道と札幌など6市町村」であった。北海道内で2016年度は道と札幌市など12市町村だったが、17年度は6市町村へと減少しているが、大都市以外からも税が流出していることを道新の記事は伝えている。
北海道全体では寄付額が減収額を上回る「黒字」で、その額は全国最大の308億円だったが、個々の自治体ごとに大きな差が出ているようだ。最大の札幌市は赤字額が23億4629万円で、北海道庁も16億1845万円だが、何れもふるさと納税の返礼品競争には参加しないとの方針という。
寄附よりも「返戻品」目当ての税金転がし、金持ちほど有利に
こうした悠然(?)とした態度が取れるのも、実は減収額の75%は地方交付税交付金を増額して国から補填される仕組みになっているからであり、北海道ではすべての市町村が交付税交付団体で、減収額の4分の3は交付税で補填されているわけだ。もちろん、最終的な交付税は国民の負担する所得税や消費税など国税5税の一定割合(今年度総額約15兆円)であり、結局は国民が負担している事に変わりはない。問題は、このふるさと納税をしている所得階層の方達は、多くは高額の納税をしている方が多く、例えば10万円をふるさと納税による寄付をできる人は、2,000円だけ自己負担になるのだが、残りの9万8千円分は寄付者が住む自治体ではなく、ふるさと納税として自分が指定した自治体に納税される事になる。受け入れた自治体は、その何割かの財源分の特産品などを返礼品として、ふるさと納税をしてくれた方たちに送付する事になる。
つまり、高額所得者になればなるほど寄付額が増え、その分高額な返礼品がわずか2,000円で受け取れることになるのだ。こんなおいしい話は無いわけで、高額所得者の多くは、返礼品の魅力を確かめつつ、どの自治体に寄付をすべきなのか、インターネットの特設サイトなどを調べながら毎年その寄付総額が増え続けて今日に至っているわけだ。
こんな税の悪用を批判した役人が左遷へ、菅官房長官の逆鱗か
もちろん、このようなふるさと納税にたいして、税の在り方としておかしいではないか、という疑問は当然出てくるわけで、地方税を担当している総務省官僚から異議が唱えられたのだが、なんとその異議を唱えた官僚は左遷されてしまったという。このふるさと納税を考えて作ったのが、菅官房長官が総務大臣の時であり、政権復帰後にふるさと納税が広がる中で、内閣人事局を牛耳る菅氏の逆鱗に触れたようだ。それゆえ、総務省はこのふるさと納税の微調整として、返戻品の在り方について昨年度の「通達」で制限(返戻品の価格は寄付額の3割以下にするよう要請)するように指導したのだが、その効果はあまりなかったようで、今年も通達に3割以下にするよう通達を出しており、返戻品競争は未だに続いている。
全国の大都市から税金流出の悲鳴、ふるさと納税は廃止すべきだ
経済週刊誌である『週刊東洋経済』8月11・18日号の「ニュース深掘り」のなかで、「ふるさと納税『流出』に悲鳴」と題してコラムが掲載されている。先ほども触れたように、寄付したことによって減ってしまう自治体には交付税の75%が補填されるわけで、その補填後の実質的な住民税の流出額がどのようになっているのか、全国のベスト20位まで計算されている。
何と流出額トップには川崎市で、寄付人数6.9万人、実質流出額42.3億円、次いで東京都世田谷区の、寄付人数5.4万人、実質流出額40.8億円とつづき、ベスト20位までに東京都15区、神奈川県2市、大阪府1市、愛知県1市、千葉県1市という結果である。その多くは、地方交付税不交付団体であり、裕福な自治体と見做されてきたのだが、さすがに流出額が巨額になり始めただけに何とかして欲しいという声が強くなり始めている。昨年1年間の流出額総額は全国で3,653億円にまで達しており、もはや微調整では収まらないスケールに徹している。もう一度、寄付とは何ぞや、という原点に立ち返って、その在り方を厳しく見直す必要がある。少なくとも、高額納税者が2000円という負担で多くの高額返戻品を獲得するという、逆「再分配」政策になっている現実にしっかりと目を向けるべきであり、本来は廃止を打ち出していくべき時ではないだろうか。国会での論戦に期待したい。
盛り上がらない自民党総裁選挙、結果が見えてきたようだ
さて、政局は自民党代表選挙の行方に焦点が当たっているようだが、国会議員の大半が安倍三選を支持する方向のようで、石破元幹事長が立候補したものの大勢はほぼ決した観がある。それでも、地方票を含めてどれくらいの批判票が出てくるのか、世間の関心はそんなところにあるのだろうか。
他方で、野党側は国民民主党の代表選挙が自民党総裁選挙前に実施されるわけだが、あまり盛り上がっているようには思えない。元々国民民主党の支持率が低迷し、世論調査などでは1%前後を彷徨っているわけで、これでは関心を持てという方が無理なのかもしれない。肝腎の代表に立候補しているのは、現職の玉木衆議院議員と柚木衆議院議員の二人で、違いは政権与党に対する姿勢の問題で、玉木氏は問題解決提起重視型、柚木氏は政権与党に対する批判重視型といったところだろうか。何を論点にしようと、今の野党の分立状態では国民の支持率の回復・向上には繋がりそうもない。
連立政権の動きを分析した『生活経済研究』8月号、中北浩爾一橋大教授の分析に注目
こうした政治の現状に対して、野党側はどのようにしていくべきなのか、なかなか直ぐに解決できる良いアイディアがあるわけではない。そうした中で、連立政権の在り方についての検討が、かつての社会党・総評ブロックのシンクタンクとも言うべき「生活経済政策研究所」が発刊する月刊誌『生活経済政策』8月号、特集「連立政権—ヨーロッパと日本」で取り上げられている。この『生活経済政策』は毎号編集委員が責任編集する事になっているようで、この号は政治学者である中北浩爾一橋大学教授が編集・執筆されている。
ポピュリズム政党が躍進するヨーロッパの動き、難民・EUが焦点
とくに、連立政治の動きはヨーロッパにおいて様々な歴史を辿ってきたことが指摘され、特に最近では移民・難民問題やEUとの関係を巡って左右のポピュリズムが台頭し、これまでの連立政権の在り方に転換を求める動きとなって連立政権の大きな転換にまで進み始めてきている。すでに、昨年9月のドイツ総選挙におけるメルケル率いるCDU・CSUとSPDの大連立政権が敗北し、他方でポビュリズム政党である「ドイツのための選択肢AfD」が台頭するなど、混迷をし始めている。また今年3月の総選挙によるイタリアの政権交代の結果、左右のポピュリズム政党である五つ星運動(M5S)と同盟(Lega)による連立政権の誕生という大きな変化が生じている。さらに、あのスウェーデンですら右翼ポピュリストの民主党が、増え続ける難民受け入れに不安を抱く人々の受け皿になりつつあり、今年5月の統計局による政党支持率で18.5%(前回選挙の得票率は12.9%)を記録し、社民党28.3%、保守党22.6%に迫り始めている事に注目させられる。ひょっとすると、9月に予定されている総選挙スウェーデンでも、ポピュリスト政党民主党が第一党に躍り出るのではないか、とすら噂され始めている現実がある。
日本の自民・公明連立政権の強さと野党の弱さに迫る中北教授
こうした目まぐるしく動き始めている連立の動きとは対称的なのが日本であり、中北教授が「ポスト55年体制期の連立政権」と題して、日本の現実についての分析を行っている。副題として「自公政権は何故安定的なのか」とある。自分の国会議員として18年間、まさにポスト55年体制下の本格的な「連立政治」の歴史であり、93年の非自民8党による細川連立政権、94年の自社さによる村山政権、2000年の自自公政権、自由党の分裂後保守党が自民党に移って以降の自公連立政権、そして2009年の民主党と社民党・国民新党による鳩山連立政権へと転換し、2012年12月の総選挙での自民・公明連立政権への復帰となり今日に至っているわけだ。まさに、激動の平成政治史であり、目まぐるしく変動した政治の連続だったと言えよう。
中北教授は、こうした歴史を丁寧に整理されているので、詳しい分析は本文を読んでいただきたい。私自身が一番注目したいのが、自民党と公明党の連立がなぜうまくいっているのか、という点である。
やはり「選挙協力」の緊密さ・巧みさ、背景にはプラグマティズム
いろいろな観点から分析されているが、一番納得したのが「選挙協力が緊密に行われ、それが大きな効果を持っている」ことだと指摘されている点だろう。それに対して、野党側の選挙協力は極めて不十分であり、その差は歴然としている事の指摘は、当然のこととはいえその通りなのだろう。自民党と公明党との政策距離が比較的大きいにもかかわらず、こうした選挙協力が出来るのは「議席数の増加をプラグマティックに追及していること」を上げているが、それは何故なのか、の指摘は無い。
もう一つ、分かってはいることとはいえ、「両党の支持基盤が分厚く、票の交換が可能なこと」も挙げている。野党側は無党派層の支持に依拠する度合いが高く、選挙区での協力がそもそも困難なことは、今までの野党の選挙協力の偽らざる現実である。その他、国会制度や事前審査制についても丁寧に分析されているが、紙数の関係で省略したい。
2007年秋の自民・民主大連立騒動、公明党との了解は?!
野党側は、民主党連立政権崩壊の総括をきちんとすべき、と提唱
ただ、2007年の福田政権の時代に参議院選挙の結果、衆参ねじれが進む中、自民党と民主党との大連立の動きが出たことがある。その時の自民・公明連立政権は動揺しなかったのか、どんな協議が両党との間で進められていたのか、是非とも解明して欲しい点ではある。
最後に、野党側に対して中北教授の次の指摘をどのように受け止めているのか、立憲民主党や国民民主党、さらにはかつての民主党政権にいた方々に対して聞いてみたい。
「非自民連立政権やいわゆる民主党政権が連立与党間の対立を引き金として崩壊に向かったことを、十分に総括しているであろうか」(31頁)
かつての民主党のマニフェスト、そこで実現可能性も持続可能性もない財源論を掲げたことの総括は、寡聞にして進められてこなかった。そのことと同時に、連立政権を運営して行くべきガバナンスの在り方の反省も厳しく総括されるべきだろう。