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労福協 活動レポート

2018年8月27日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第60号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

自民党総裁選挙へ、石破元幹事長がどこまで肉薄できるのか

8月も後わずか、北海道はお盆を過ぎて少しずつ秋めいてきた今日この頃だが、本州各地では相変らず猛暑が続いているようだ。

自民党総裁選挙が9月7日から始まり、石破氏と安倍総裁との一騎打ちになりそうだ。というより、もはや勝敗の行方は決まってしまっている中で、どれくらい石破元幹事長が得票できるのかに関心が集まっているのかもしれない。石破氏は総裁選に向けて打ち出した「正直・公正」というスローガンを取り下げるとのことだが、この期に及んで誰に忖度しているのだろうか。報道によれば、石破選対の責任者に尾辻参議院議員が就任されるとのことだ。尾辻さんは元厚生労働大臣を経験され、社会保障問題に精通された方であり、私が与党時代に社会保障・税一体改革についても色々と教えていただいた。参議院の数少ない良識派の重鎮と言っていいだろう。

総裁選挙では「アベノミクス」なるものの是非について論戦を

今度の総裁選挙で是非とも議論して欲しいのは経済政策であり、アベノミクスと言われている金融緩和政策と消費税の引き上げを含めた財政政策、とりわけ社会保障・税一体改革についての論戦であろう。

今のところ石破候補は、アベノミクスの中身についての具体的な批判は打ち出してはいないようだ。本来は、野党側が厳しく論戦を挑んでほしいのだが、いま国民民主党の代表選挙に立候補している玉木議員や津村議員は、安倍政権に対して真っ向から論戦を挑んでいるとは思えない。玉木議員が打ち出した「こどもノミクス」なるモノも、3人目の子供を産んだら100万円支出するということのようだが、リアル感を持たせるような総合的な子育て支援策からは程遠い。あまりにも国民民主党の支持率が低すぎて、両候補の政策の中身については、全くと言っていいほど注目されていない。残念ではあるが、それが今の野党側の実態なのだ。

アベノミクスの経済政策の問題点、日本経済の改革を阻害へ

そこで、安倍政権の経済政策についての問題について整理してみたい。

第一番目に、金融緩和政策が5年以上経過しているにもかかわらず、目標であった2%のインフレには到達できていない。今年7月の金融政策の見直しが注目されたものの、金融緩和の継続なのか出口に向けた転換の始まりなのか、曖昧なものでしかない。日本経済は海外経済の好転もあり、景気循環的には公共局面を持続できているわけで、金融緩和からの脱却に向けて今こそ出口政策に転換すべき時である。

低金利の弊害は、銀行等金融機関の経営体力を弱めていることもあるが、長期金利ですらゼロ金利であるために、企業がゼロ金利でもやっていけることに安住し、産業構造が劣化し始めている事が挙げられよう。それは、金利が低いことによるイノベーションが出にくい環境になっているとみるべきだろう。金融緩和による効果として為替が円安に振れていることもあり、輸出競争力が円安によって一時的に加算されていることもイノベーションの力を弱めているわけで、日本経済の国際競争力劣化を招き始めている事が挙げられよう。昨今の日本を代表する製造業大手企業の不祥事などは、形はちがったとしてもその表れの一つと見ていいのではないか。

ゼロ金利政策のもう一つの弊害、財政規律の弛緩・累積債務激増

もちろん、ゼロ金利の弊害の最大のものは、天文学的に累積した財政赤字による利払い費を一時的には大きく低減させ、赤字を垂れ流し続けている安倍政権を支えている事だろう。日本経済が、民間の企業部門と家計部門の黒字によって何とか政府部門の赤字を支え切れているうちは財政危機は顕在化しないが、間違いなく臨界点に近づきつつあるだけに、一刻も早く財政赤字の垂れ流しをストップさせなければならない。そのためには金融緩和政策を転換し、正常な金利政策へ戻るべきだ。

好景気時に財政黒字が当たり前、プライマリー赤字続く日本の異常

もう一つの問題は、財政政策である。貯まりに貯まった財政赤字のグロスでの累積額は1,000兆円を軽く突破し、GDPの約240%にまで喃喃としている。もちろん、先進国で最悪の数値である。財政赤字は、毎年のプライマリーバランスでも続いている。好況時であれば税収が拡大し財政黒字にならなければおかしいわけで、昨年度の税収は確かに約60兆円に達しバブル期並みの税収だと喧伝されている。だが、その税収増があったとしても、経常経費を賄うことすらできず、国債発行を余儀なくされ天文学的な借金へと累積され続けている。

確かに、民主党政権から安倍政権になって以降、ゼロ金利政策によって支払い金利は激減し、財政赤字の対GDP比は僅かながら低減したことは事実である。それは、日銀が人為的・高圧的にゼロ金利政策を取ったからに他ならないわけで、本来であればGDPの伸び率以上に金利が上昇するのが資本主義経済なのであり、このような状態が持続可能ではない事は言うまでもない。

好況でも財政赤字を拡大、何時になれば財政再建に舵を切るのか

もう一つ考えなければならないのは、景気が良い中で赤字国債を発行すれば景気をますます刺激しているという事実だろう。景気が悪くなれば、政府が内需を拡大すべく公共事業を始めとする景気刺激政策を取るわけだが、景気が良くなれば、先に述べたように税収が増え過去の赤字分を補填することで財政は中立に保てるわけだ。ところが日本の場合、景気が良いのに赤字国債を出し続けているため、景気は良く税収も増えているとはいえ、財政黒字を出すまでに至っていない。これでは、何時まで経っても財政が改善されることは無く、日本の財政は持続可能性を失い続け、破滅への道を辿ろうとしているわけだ。

そのような背景には、景気が悪くなれば減税や国債を増発して景気刺激を実施するが、景気が良くなっても増税はしないし財政赤字を削減しようとしない為である。これは、与党だけでなく、野党であった社会党や民主党も同根であり、日本政治の抱える大問題なのだ。

今求められる経済政策の二つの原則、持続可能性と実現可能性

今、問われるべきなのは、こうした日本の経済政策を巡る大問題に真正面からの批判を展開することであり、これからの日本が持続可能性と実現可能性の二つの原則へと立ち返ることができるかどうか、問われているのだ。

是非とも、自民党総裁選挙における経済政策の論戦が、こうした根本的な論点にまで踏み込んで進められていくことを大いに期待したい。

野党に対しても、国民民主党の代表選挙でこうした骨太な論戦を大いに論議して欲しい。立憲民主党の枝野代表は、介護士や看護士等の賃金を上げることなど、富裕層よりも中低所得層の所得を増やすことを提起しているようだが、その財源をどのように賄うのか、所得再分配機能を強化する為に税や保険料の引き上げを真正面から提起できなければ、かつての無責任な民主党マニフェスト財源の二の舞になることは必至だ。野党にとっても、サステナビリティとフィージビリティを踏まえた経済政策を打ち出すよう、強く求めたい。

河野外務大臣の「国際連帯税」への積極姿勢、大いに注目したい

先週21日、日本経済新聞の政治欄を見て河野外務大臣が「国際連帯税」を提起した事の記事に注目した。7月に都内で開催された国際連帯税に関するシンポジウムに出席し、「国の予算に依存せず、必要な資金ギャップを埋めるやり方として国際連帯税は有力な方法の一つだ」と語り、「先進国は『援助疲れ』している」とも述べ、縮小するODAの代替策の必要性を指摘したようだ。

最初のアイディアは、金子宏東大名誉教授の「国際人道税」、
それを実践したシラク大統領、フランスが「航空券連帯税」導入へ

この税について、おそらく世界で最初の問題提起をしたのは、税法の権威である金子宏東大名誉教授の「国際人道税」の提唱だろう。1997年の事だった。それを受けて、2006年にフランスでの航空券連帯税が出来上がるわけだ。私自身がこの流れを知った野党民主党時代の2008年、フランスのストラスブールでEU議会との日本の国会議員交流で訪仏した際、フランス外務省を訪問してフランスから始まった航空券連帯税について調査をしたことに始まる。税収の使い道として、ユニットエイドを通じて感染症対策などに支出されていたと記憶する。

この後、日本に帰り、当時自民党税制調査会長を務めておられた津島雄二衆議院議員の部屋を訪ね、超党派の「国際連帯税議連」の設立と津島議員に会長の就任を要請したことから具体化が進む。私自身も副会長として参加し、外務省や財務省などに働きかけたが、肝腎の外務省自身が及び腰で、なかなか前に進まなかったことを記憶する。もちろん、経済界は反対であったし、何よりも航空業界は「航空券連帯税」には真っ向から反対してきたことは言うまでもない。

動き始めたのは、2009年の政権交代から、G20の場でも発言へ

やはり動き始めたのは2009年の政権交代からであり、翌2010年には政府税制調査会の下に「国際課税小委員会」を設置して具体的検討に入ったことが日経紙にも記載されている。政権が再び自民党・公明党に交代して以降も、細々と議連の活動が続くのだが、河野外務大臣時代になって、ようやくこの問題が正面から取り上げられるようになって来たわけで、それだけに感慨深いものがある。

ただ、今年5月に開催されたG20外相会合の場で国際連帯税の呼びかけを進めたようだが、実は2010年6月初旬、韓国プサンで開催されたG20財務大臣会合の場で、菅財務大臣の代理出席した副大臣の私は、国際連帯税の提案と法人税の引き下げ競争を止めるべきだ、という発言をしたことを思い出す。当時は、リーマンショック後の世界的金融危機とギリシア危機に始まった途上国の問題などがメインで、税についてはあまり関心を呼ぶことは無かった。だが、財務副大臣として最後の国際会議の場となるわけで、この問題に絞って問題提起をした。財務省からの振り付けではない発言だっただけに、やや緊張したことを思い出す。

成立した「出国税」を「国際連帯税」へと転換させてはどうか、
さらに為替取引への課税など、世界で大いに論議を進めるべきだ

河野外務大臣は、来年日本で開催されるG20の会合でも議題として取り上げるようだが、その前に来年度の税制改正の場でしっかりとした議論をするよう求めるべきだ。航空券連帯税によく似た「出国税」が今年4月成立し、来年1月7日以降日本から出国する2歳以上の総ての人対象に、一人1,000円税として徴収することとなる。航空と船舶が対象だが、これは航空券連帯税とどう違うのか、国際貢献に使うか、それとも国内の観光インフラに使うかの違いだろうが、桁はせいぜい100億円オーダーであり、国際連帯税として支出する方がベターであろう。出国税は観光関連の目的税にする意向のようだが、使い方の監視が緩く成り易いことに警戒すべきだろう。できれば、この「出国税」を「国際連帯税」として改組すべきではないか、と考えるがどうだろう。

今回河野大臣の提起には、外国為替取引などにも課税対象にしているようだが、色々と課税対象も考えて行くべきだろう。それにしても、従来の外務省の姿勢とは質的に異なる画期的な動きとして今後の動きを注目しておきたい。


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