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労福協 活動レポート

2018年12月24日独言居士の戯言

独言居士の戯言(第75号)

北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹

歴史に残る感動的な記者会見、平成天皇誕生日の国民へのお言葉

12月22日、85歳の誕生日を前に平成天皇最後の記者会見をされた記事が、23日の朝刊各紙に掲載されていた。時に涙声になられながらの心のこもった会見だったようで、その全文を記事で読む者にも、改めて平成天皇と共に平成という時代が終わろうとしている事の意味を噛みしめさせていただいた。平成天皇は、新憲法の「象徴天皇」のあり方を最後まで問い続け、しっかりと国民の思いに寄り添われ、心の底から世界平和と国民の幸福に思いを致されてきたことが良く解かる内容だった。最も現憲法の民主主義を身を以て体現された方だと思う。最後に美智子皇后さまへの感謝とねぎらいの言葉に、思わず涙腺を緩めながら、仲良き天皇ご夫妻の姿に一礼をし、改めて、30年間のお勤めにご苦労様でした、と御礼の言葉を述べたくなった自分がいた。本当に、歴史に残る感動的な記者会見内容だったと思う。

白川方明前日銀総裁の大著『中央銀行』を読み始めて思う事

こうした平成の時代を振り返る時、国会という政治や経済の生きた世界で仕事をさせていただいた者にとって、バブルの絶頂期から破綻、金融危機、「デフレ」と金融緩和、放漫財政といった経済の動きに大きな関心を持ち続けてきた。そうした中で、白川方明前日銀総裁の書かれた『中央銀行』(東洋経済新報社2018年刊)を読み始めている。なにしろ、700ページを超す長大な大作であり、第1部は日銀入行から総裁就任前まで、セントラルバンカーとしてのバックボーンを形成した時期、第2部は総裁就任後、経済・金融面で生じた重要事件に対する決定と背後にあった判断、真の論点、自身の思いの分析、第3部は、中央銀行のあり方を中心に、望ましい通貨管理制度をグローバルな視点で考察されている、と同著のカバー紙に記載されている。既に1万部を超す売り上げを記録したとのことだ。驚くべき数字と見ていい。

平成経済史の貴重な証言であり、日本経済への問題提起の書では

私自身、未だ第2部の半分までしか読み終えていないのであるが、間違いなく平成の経済史についての貴重な証言録であり、平成時代に日本の指導者たちが何に直面し、どんな政策を背景にある経済思想まで含めて決定してきたのか、それをどう評価したら良いのか、素晴らしい著作であることを痛感する。一つ一つの章、小見出しごとの記述は専門的な問題を扱っていながら、難しい数式を開陳することなく、実に分かりやすく、かつ、ご自身がどんな考え方を持って対処されたのか、生々しい。多くの現場で呻吟する人たちに、是非とも読んでほしいものだ。

日本だけでなく、世界に向け発信される白川前総裁の意欲に敬意

小生の議員時代と同じ時期に、国会の場で悩んできた問題について、白川さんがどう考えて来られたのか、あらためて優れたセントラルバンカーの存在が、日本にとっていかに貴重なものだったかを知ることになる。この著書を書かれた目的には、ひとつには日本だけではなく、諸外国の日銀の金融政策の誤解があることに対して、是非とも正しい理解をして欲しいという事にあると述べておられる。それ故、英語版の発刊も手がけられるとのことだ。

われわれが知らないし、マスコミも全く報道していない事実として、白川氏は「第10章 日本経済の真の課題」の最後で次のように書かれている。

「私の退任後の事だが、ジャクソンホール・コンファレンスで人口問題に関する日本銀行のリサーチや講演の先見性を評価する海外の学者の論文が発表された事を知り、当時の努力は決して無駄ではなかったと感じた」
 「その反面、日本が真っ先に経験していながら、この問題に関するリサーチをリードするのが日本の学界ではなく海外の学会であることを、残念に思う気持ちもある」(いずれも349頁)

白川さんとは、2010年プサンで開催されたG20の財務相・中央銀行総裁会議でご一緒する機会があったが、実に誠実で真面目なセントラルバンカーという印象であったが、在任中、自分の信念を貫き通す事の困難性を持たれ続けたわけで、その後いろいろと厳しい批判にさらされながらの努力が、こうして世界で評価されてきたことに心の底から喜んでおられるに違いない。

城山三郎さん健在なら、小説『白川日銀総裁』を書けたのでは

読み始めて直ぐに感じたことは、この著作を読んで作家であった故城山三郎氏であれば、直ぐに経済小説にしたのではないか、と思ってしまった。行間の中に滲み出る白川さんの思いが、手に取るように解るわけで、経済学のきちんとした素養のある城山さんなら、見事な「白川日銀総裁」論を作り上げたに違いない。それは、平成経済史を語るには、白川さんの『日本銀行』を読まずして語れないからだと思う。

平成最後の予算、100兆円を超す大盤振る舞い、赤字国債の累増も

さて、こうした清々しい思いとは裏腹の事態が、政治の現場では進行している。

平成最後の予算編成が終わり、予想通り一般会計だけで100兆円の大台を突破する平成31年度予算が、21日閣議決定された。消費税の引き上げを来年10月に控え、わざわざ臨時の閣議を開いて「予定通り引き上げる」と記者会見を開くなど、法治国家では法律に則って引き上げるのは当然だろうと思われるのだが、景気対策と称して予算の中で増税分以上の減税対策を展開している。その金額は、なんと2兆円を遥かに超す。さすがに財政や経済に詳しい専門家の多くは、景気対策としてやり過ぎだと批判する声が多い。

消費税増税対策以上に、来年予定されている統一自治体選挙と参議院選挙、否、場合によっては衆参同時選挙すら企てられようとしているわけで、予算措置の面でもなりふり構わず大盤振る舞いになっている。こんなやり方は、持続可能性があるわけがなく、何時かはその付けを国民全体が被らざるを得なくなるわけだ。

無責任な政治家の背後で画策した経産・財務両省官僚の動き

そうした、政治家の無責任な政権運営の背後で、前にも指摘したわけだが、予算の前提となる今回の増税対策を主導したのが通産官僚で、本来財政規律を重視するべき財務省がチェックするどころか、放漫財政を容認する側にまわってしまっている事が、次々と各種メディアによって明らかになっている。

12月22日付朝日新聞(朝刊)には、「増税対策 主導した2局長」と題して、この間の舞台裏を取材している。その主役は、経産省の経済産業局長新原浩朗氏で、もう一人は財務省主計局長大田充氏である。新原局長は石田優国土交通省住宅局長に対して「どんな増税対策を考えているのか。一か月でまとめてほしい」と他省庁に指示を出している。もちろん、越権行為も甚だしいわけだが、いまの中央省庁の力関係を示しているのだろう。新原局長は、太田主計局長との関係について「私は仲がいい。困ったことがあれば相談してほしい」とも語ったという。もちろん、新原局長の後ろには総理秘書官で安倍側近中の側近である今井尚哉氏がいることは言うまでもない。人事権を握った官邸の、影の主役の一人であることは言うまでもない。

財務・厚労両省連携から経産主導・財務従属へ転換したのか、官邸

かくして、「新原さんが情報を独占し、太田さんと話をつけてくる。2人の間でどんな議論があったのか誰にもわからない」と経産省内で囁かれている事にも言及している。どうやら昨年の総選挙に向けて、安倍が打ち出した「消費税の使途拡大による幼児教育の無償化」も二人の合作だと報道している。それ以来、財務省のトップ官僚たちは「消費税10%への引き上げの為には、何でも受け入れる」方針へと転換したのだろう。社会保障・税一体改革で財務省と厚労省連合軍ができたと思いきや、いまや最強の経産省と財務省連合へと力関係が転換したことをしめしている、と見るがどうだろう。

もはや消費税率10%以上に上げる政治力が残されているのか、日本

もちろん、今回の消費税増税対策と称する施策の中で最悪のポイント還元策の還元率を、2%から5%へと安倍総理が固執し、最後は押し切った事にも触れているが、大きな流れはすでに出来上がってしまっている。こんな状況の下で、少子高齢化や格差拡大が進む日本において、財政再建の確立と並行した社会保障の拡充に向け、国民のさらなる負担増が勝ち取れるのだろうか。残念ながら、10%の消費税率を15~20%にまで引き上げて行く力が日本の政治の現場には残っていないのではないか、と思えてならない。

自民党内では、かつては財政再建派の方たちが存在し、なんとか消費税の引上げに向けてリーダーシップを発揮してこれらたが、いまではそういう勢力がどれだけ存在しているのだろうか。若手の中に、新しい目が芽生えて欲しいものだ。

野田元総理、立憲会派入りによって消費税引き上げはどう考えているのですか???

他方、野党側では第1党である立憲民主党は消費税の引き上げに反対しているわけで、あの3党合意は何だったのか、誠に残念な状態にある。最近の動きとして無所属会派に所属していた岡田克也氏を始め、あの野田総理も立憲民主党と会派を同じくされるやに聞く。文字通り全身全霊をかけて民主党内をまとめ上げて来られたことを知るだけに、「野田元総理よ、お前もか」と言いたくなる。もっとも、消費税引き上げ問題について、今どんな考え方を持っておられるのか、直接お聞きしていないだけに独断的な言い方はすべきではない事は言うまでもない。

色々な動きを知るにつけ、1月から始まる通常国会での本格的な予算論議が余り実りあるものになりそうにないのが残念である。

特に野党側は、安倍政権に対して骨太の論戦を挑んでほしいものだ。


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