2019年1月7日
独言居士の戯言(第77号)
北海道労福協政策アドバイザー(元参議院議員) 峰崎 直樹
皇居での一般参賀、15万人超す「平成」最高の参加者数を考える
平成最後の年明けを迎え、皇居での一般参賀が行われた。一般参賀への参加者数は15万4800人と平成では最多となり、天皇皇后両陛下は通常5回の御挨拶を7回に増やされて対応されていた。それだけ、平成天皇に対する国民の信頼・思い入れが強かったことの現れと言えよう。政治家や官僚、さらには経済界の不祥事など、国民にとって平成天皇だけが今の憲法の民主主義をしっかりと体現されていると見えたに違いない。国民に絶えず寄り添われ、身を以て「象徴」としての立場を実践されてきたことに感謝するとともに、国民の心の奥底に何かしら誇らしく思う気持ちが最後の一般参賀にも現れていたと思えてならない。最近にない、心からのねぎらいを以て共に喜びあえる発露の場だったのだと思う。それだけ、今の政治に対する国民の不満が強い事の現れと見るべきなのかもしれない。
作家五木寛之氏の「平成時代史」についてのインタビュー記事
平成が終わろうとしている今日、今の時代をどのように捉え、今後どのようになっていくのか、作家の五木寛之氏が1月5日の日本経済新聞文化欄のインタビュー記事で興味深い捉え方をされていた。(聞き手は編集委員 宮川匡司)
「――平成とはどんな時代だったと考えるか。
『平成の30年間には、大きな事件が繰り返しあったのに、昭和に比べると、どこか希薄な感じのする時代だった。昭和には、米ソや左右の陣営が激しく対立し、労使の対立も激化して、大きな労働争議やゼネストが時代を揺るがした。それに比べると平成には、両者の強烈な対立がなくなり、曖昧な時代になった』
――危機は遠ざかったのか。
『相対的には雪解けの時代だったが、安心はできない。近年の異常な気候変動を見ても、地球温暖化の問題は、深刻に進みつつあるし、原発の問題も長く尾を引くだろう。さらに現在73億人を超える世界の人口は、30年余りで100億人近くになるといわれている。しかも先進国では若者の人口が減って高齢層が増え続けている。瞬発的な大激動はそれほどなくても、重い長患いが続いている時代ではないか』(以下略)」
自分も昭和から平成へと生きてきたわけで、指摘されているように「平成30年」は「昭和の激動期」に比較して「希薄」であり、曖昧」な時代だったのだろう。次の時代は不安定な時代になることを五木氏は後半の件で述べておられるが、再び激しくなる対立する時代への過渡期だったのだろう。人口が減少し、高齢者が増加する社会はあまり明るいとは言えまい。それでも、われわれは、お互いに支えあいながらしっかりと生きて行かなければならない覚悟を強く持つ必要がある。五木氏はポスト平成の時代について、人口減少時代をどのように生きて行くのか、登山に例えて「如何に上手に下山するのか」「下山に楽しみを見つけるか」を指摘されている。さらに、これからの資本主義の激動を見てみたいと「老いたる胸をときめかしている」とさえ強調されている。同感する事が多いインタビューであった。
日本経済、暗転への道を暗示するのか、大発会での株価暴落
正月休みが終わり、世の中が平常に動き始めた4日、東京株式市場は日経平均株価が大きく下落し一時は700円以上も下落したが、日銀のETF買いも出動したのだろうか、終値では452円81銭安の1万9561円96銭で終わった。一方、外国為替相場も大きく変動しており、2日には1ドル104円台へと6円以上も円高になったが、4日の時点では107円台へとやや落ち着いているようだ。急速な円高・株安に驚いた政府は、急遽財務省・金融庁・日銀の三者会談を開催して対策に乗り出す演出をせざるを得なかったようだ。安全資産である円への逃避が進み始めたわけで、この流れを止められる方策が日本政府にあるようには思えないだけに、今年の安倍政権を取り巻く経済環境は逆風になるのではないだろうか。
米中経済戦争がもたらす経済混乱、どんな着地になるのか
背景には世界的な米中経済戦争の影響が徐々に出始め、アップル社が中国におけるアイフォンの売り上げが落ち込むことなどにより、18年10~12月の売上高を当初予想に比べ最大で10%減へと下方修正した事に端を発しているようだ。もっとも、依然として着地が見えない米中経済戦争とも言うべき対立だけでなく、既にリーマンショック以降10年以上にわたった世界経済の好況局面の転換点にあたっており、今後の世界経済は明らかに下降局面へと移行しつつあることを見逃すことは出来ない。特に、経済大国となった中国経済の動向が大きな影響力を持ち始めており、あきらかに経済成長率が落ち込み始めている。人口の伸びも停滞し始めており、やがて高齢社会を迎える社会インフラの不十分性もあり、どんな中国社会の将来を作り上げて行けるのか、一党独裁という民主主義とは程遠い国の行く末が、世界の将来に影を落とすのではないか。
日本経済は、もはや世界経済のメイン・プレーヤーではなくなった
日本のマネーは、国内における低金利を嫌ってアメリカの株式市場へと大量に流れていたわけで、アメリカから日本へと資金の流れが逆流し始めれば、円高をもたらし株価下落の要因になるだけに、リーマンショック後の「ゴルディロックス経済」から、再び円高・株安による「陰鬱な経済」へと転換し始めようとしている。今の金融・財政政策以上にどのような対策が打ち出せるのか、安倍政権の経済政策は世界経済の不況局面への移行に伴い、手の打ちようがない迷路に陥る可能性が極めて大きくなってきたと言えまいか。今年は、統一自治体選挙と参議院選挙が重なる「いのしし年」だけに、株価の下落・低迷は安倍政権にとって会ってはならない事だけに、絶対に避けなければならない「政権に直結する大問題」であることは確かであろう。
アメリカのニューヨーク株式市場は、先週末は一転して株価が大きく反転している。雇用統計で31万人の雇用増加となった事やパウエルFRB議長が利上げを中止することもあり得ると発言したことを受けたものだが、今後の米中経済戦争や景気循環の不況局面への移行如何によっては、金融市場の動きから目が離せない。
安倍政権、株価の下落は「政権の死活問題」に直結へ
こうした動きを受け、東京市場は週明けの7日からどんな展開を示すのか、今後円高と株安がさらに進めば、おそらく政府・日銀はさらなる市場介入へと突き進む可能性が出てくると予想される。それは、日銀による資産市場への介入で、ETFやREIT資金増額はもちろん、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も含めて株価維持の為には総動員させることも検討しているに違いない。世界的な株式市場の下落が続く中で、どのような展開を示すのか、これまたしっかりとウオッチしていく必要がある。
27年ぶりの新税「出国税」今日施行へ、「国際連帯税」へ改組を
今年は、消費税の引き上げが税制問題のメイン・イッシュウとなっている。
あまり知られていないが「出国税」という新税が、地価税以来27年ぶりに新設され、本日1月7日から適用される。「出国税」の正式名称は「国際観光旅客税」で、日本から出国する際に一人1,000円徴収される。昨年の税制改正で法案化され、今年から適用される目的税である。
政府は、訪日外国人の受け入れ環境を整備することに使うとしているが、厳密な意味での目的税ではなく、一般会計に繰り入れられる。来年のオリンピックもあり、観光施設の整備が急務となっている事も導入の理由にしているようだ。今や3,000万人を突破し4,000万人を目標とする外国人観光客や出国する日本人からも徴収するわけで、税収は平年度で500~600億円に達するものと予想されている。
国際社会の移動から徴収する税は、国際社会に還元すべきが筋
問題は、かつて民主党政権時代に「国際連帯税」の一環として「航空券連帯税」の導入を提唱した経過がある。ところが、関係業界からの反対もあり外務省もODA予算が削減されるのではないか、という疑心暗鬼もあってか消極的だったため、頓挫してしまった経過がある。こちらの方は、国際社会の抱える問題に支出するための財源であり、特にフランスから始まった制度でユニット・エイドを通じてエイズやマラリア対策などへの適用が2006年度から開始され、世界13カ国にまで拡大している。
いまも、国際連帯税を求める国会議員連盟が活動をしているのだが、一向に進まない。航空券連帯税は、国によって違いはあるものの、ファーストクラス、ビジネスクラス、エコノミークラスで税額が異なり、累進制が採用されている。ただ、国と国の間の徴税権は誰のものでもないのが現実で、国際社会が徴収すべきものとされている。それだけに、国際連帯税は導入した国が過渡的に徴税し、国際的な支援活動をしているNGO等に資金拠出しているわけだ。
今からでも遅くはない、国際連帯税への改組を提案する
今回日本で導入される「入国税」は、アイディアとしては航空券連帯税を剽窃したものになっているわけで、民主党政権時代に反対した業界団体はどんな理由でこの税を受け容れたのであろうか。大変疑問である。出来れば、この「入国税」を「国際連帯税」として改組し、途上国支援の目的税にしていくことを提唱したい。なんと、こうした税を最初に考えられたのは、昨年文化勲章を受章された金子宏東京大学名誉教授であり、「国際人道税」というものであった。それを、最初に作り上げたのがフランスの「国際連帯税」だったわけだ。今からでも遅くはない。「入国税」を「国際連帯税」へと改組していくべきだ。
さらに、今問題になっているGAFAに対するデジタル課税等も、今後国と国との間の税制として導入を検討していく必要があろう。